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ゼロエミッションとは?推進理由や日本の取組事例、私たちにできることも紹介

ゼロエミッションとは?推進理由や日本の取組事例、私たちにできることも紹介

近年、世界中で頻繁に起こっている異常気象は、地球温暖化による気候変動が大きな原因のひとつです。この気候変動への具体的な対策の1つがゼロエミッションです。

ゼロエミッションは気候変動を緩和・抑制するために世界全体が取り組んでいますが、今後の経済成長にも重要な鍵となります。

ゼロエミッションとは、どのような取り組みなのでしょうか?ゼロエミッションの推進理由や日本企業の取組事例、私たちにできることなどもわかりやすく解説します。

目次

ゼロエミッションとは

ゼロエミッションとは、産業活動による温室効果ガスの排出や廃棄物などをできる限りゼロにして、環境への負荷を最小化することを目指すことです。ゼロエミッションという言葉は、1994年に国連大学※が提唱した「ゼロエミッション研究構想」で用いられたのが始まりです。

国連大学

国際的な研究者の集団で、日本に本部を置く大学院の教育機関。

日本政府は2020年10月の「2050年ゼロエミッション(2050年カーボンニュートラル)」宣言にともない、気候変動への対応と経済成長を両立させる「グリーン成長戦略」を掲げています。気候変動への対応を成長の機会と捉え、長期的な利益を重視した積極的な対策を行うことで、産業構造や社会経済を次なる発展と将来も持続可能な成長に繋げる取り組みです。

>>グリーン成長戦略に関してはこちら

経済産業省『2050年カーボンニュートラルに伴う グリーン成長戦略』(2021年6月)

2050年ゼロエミッションとは

2021年のCOP26(第26回 気候変動枠組条約国際会議)で、将来も地球が生き物の住み続けられる場所であるために、「世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃以下に、できれば1.5℃程度の上昇に抑えよう」という目標が提唱されました。この目標を達成するためには、2050年までに世界の温室効果ガスの排出量を、森林などによる吸収量や回収量と差し引きゼロにする必要があると言われています。

このための取り組みが「2050年ゼロエミッション」です。

ネットゼロ・カーボンニュートラルとの違い

ゼロエミッションと並んで、「ネットゼロ」「カーボンニュートラル」という言葉も近年よく使われるようになりました。これらの言葉の意味の違いは何でしょうか?

ネットゼロとは温室効果ガスの排出量を全体でゼロにすることです。カーボンニュートラルも同じような意味の言葉ですが、「net」が「正味」、「neutral」が「中立」を意味することから、

  • ネットゼロ:温室効果ガスの排出量が正味ゼロ
  • カーボンニュートラル:温室効果ガスの排出量が吸収・回収量と釣り合っている状態

という微妙なニュアンスの違いがあります。表しているものはほとんど同じことなので、一般的に同じ意味として扱われています。

つまり、ゼロエミッションはネットゼロ・カーボンニュートラルを目指すこと、という理解で良いでしょう。違いとしては、

  • ゼロエミッション:ネットゼロ・カーボンニュートラルを目指す「アクション」
  • ネットゼロ・カーボンニュートラル:ゼロエミッションが目指す「状態」

と整理できます。

ゼロエミッションについてと、関連する言葉との違いなどの整理ができたところで、次の章はゼロエミッションを推進する理由を解説します。*1)

ゼロエミッションを推進する理由

ゼロエミッションを推進する理由は、もちろん地球温暖化の大きな原因の一つである温室効果ガスの排出量を減らすためです。しかし、さらに視野を広げて見てみると、

  • 持続可能な資源利用
  • 将来も住み続けられる地球
  • より良い世界
  • 循環型経済(サーキュラーエコノミー)

などを目指すために必要な取り組みと考えることができます。しかし、日本はこれまで化石燃料に大きく依存して経済成長を遂げてきた歴史があるので、簡単な取り組みではありません。

大量生産・大量消費・大量廃棄が当たり前に行われていた時代には、多くの人々が地球の資源が尽きたり、温室効果ガスが増えすぎて地球の平均気温が急激に上昇したりするとは予想していませんでした。近年、実際に急激に暑くなり、世界の至る所で異常気象が発生するなどの経験から、地球の資源は有限で劣化するものという認識が世界中に浸透したのです。

科学的な根拠によって、地球温暖化やそれに伴う異常気象の原因が私たち人間の活動にあることが共通認識となった現在、ゼロエミッションは世界共通の目標と言えます。ゼロエミッションの推進スタイルはそれぞれの国や地域などによって取り組み方は違います。しかし、ゼロエミッションの推進は人間にとって、将来の地球も持続可能であるために国境や人種・民族・宗教などに関係なく協力して取り組まなければならない重要な使命なのです。

次の章では世界のゼロエミッションへの取り組みの現状を確認しましょう。*2)

世界のゼロエミッションの現状

世界各国のゼロエミッションの現状を、主要国の多国間政策から見ていきましょう。

【カーボンニュートラルに向けた主要国の主な多国間政策】

CNに向けた主要国の主な多国間政策①
出典:NEDO『COP27に向けたカーボンニュートラルに関する 海外主要国(米・中・EU・英・独・インドネシア・ エジプト・インド)の動向』p.13(2022年)

地球はひとつながりです。気候変動への対応は世界全体で協力して取り組まなくては効果的な対応はできません。

世界では、「カーボンニュートラル(CN)の実現」に向けたゼロエミッション政策や手法に関して、協力と競争がせめぎ合う激しい戦略競争が進んでいます。

【世界全体でのカーボンニュートラル実現に向けた国際展開の必要性】

First Movers Coalition (FMC)

First Movers Coalition(FMC)は、COP26(第26回 気候変動枠組条約国際会議)でアメリカ政府が世界経済フォーラムと協力して立ち上げました。カーボンニュートラルを達成するために必要な重要技術の市場を早期に創出するため、世界の主要企業がこれらの重要技術などを積極的に購入するプラットフォームです。

日EUグリーンアライアンス

日本とEUの間でも「日EUグリーンアライアンス」という協力を進める合意がされました。この合意は日本とEUで、グリーン成長※と2050年カーボンニュートラルを達成するため、気候中立※で生物多様性に配慮した資源循環型の経済の実現を目指します。


グリーン成長

自然資源の持続可能な利用と、経済成長・開発を促進していくこと。

気候中立

クライメート・ニュートラル(Climate neutral)のこと。カーボンニュートラルやネットゼロなど環境保護への取り組み。ゼロエミッションともほとんど同じ意味で使われる。

【日EUグリーンアライアンスの協力内容】

 「一帯一路」のグリーン発展

中国が中心となってインフラ、エネルギー、交通、産業協力、貿易、金融、テクノロジーなどの分野で「一帯一路」となってグリーン発展協力の取り組みなどについて規定したのが「一帯一路」の(共同建設による)グリーン発展です。「一帯一路グリーン発展パートナーシップイニシアティブ」には28カ国※が参加し、今後のグリーン分野での協力進展を目指します。

※一帯一路グリーン発展パートナーシップイニシアティブの28カ国

アフガニスタン、バングラデシュ、ブルネイ、カンボジア、チリ、コロンビア、フィジー、インドネシア、カザフスタン、キルギス、ラオス、マレーシア、モルディブ、モンゴル、ミャンマー、ネパール、パキスタン、フィリピン、サウジアラビア、シンガポール、ソロモン諸島、スリランカ、タジキスタン、タイ、トルクメニスタン、アラブ首長国連邦(UAE)、ウズベキスタン、ベトナムの28カ国。

アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)

【AZEC閣僚会合の様子】

2023年3月には、

  • オーストラリア
  • ブルネイ
  • カンボジア
  • インドネシア
  • 日本
  • ラオス
  • マレーシア
  • フィリピン
  • シンガポール
  • タイ
  • ベトナム

の国々により、東京でアジア・ゼロミッション共同体(AZEC)閣僚会合が開催されました。この閣僚会合では、

  • 「脱炭素」と「エネルギー安全保障」との両立を図る
  • 「経済成長」を実現しながら、「脱炭素」を進める
  • カーボンニュートラルに向けた道筋は、各国の実情に応じた「多様かつ現実的」なものであるべき

という3つの共通認識を含む共同声明が合意され、ゼロエミッション推進のため、協力して議論と行動を進めていく枠組みが立ち上がりました。

【アジア・ゼロエミッション共同体の内容】

このように、世界が次々と協力関係を結んでいることがわかります。*3)

日本のゼロエミッションの現状

世界のさまざまな国と協力関係を結び、国際的にもゼロエミッションの推進に力を入れている日本ですが、国内のゼロエミッションはどこまで進んでいるのでしょうか?具体的な取り組みの現状を確認しましょう。

水素エネルギー

日本では水素をゼロエミッションの重要な鍵と考えています。水素は、これまで化石燃料に依存してきた日本が発電・産業・運輸など広い分野で活用できる新たな資源として期待されているのです。

現在では世界各国が注目している水素のエネルギー利用ですが、化石燃料などの資源に乏しく輸入に頼らざるを得なかった日本では、古くから研究されてきました。日本は2030年の社会実装に向けて研究開発・インフラ整備・水素供給サプライチェーンの構築などを進めています。

【関連記事】水素エネルギーとは?メリットやデメリット、実用化に向けた課題と将来性、SDGsとの関係

自動車・蓄電池(バッテリー)

自動車産業では、

  • デジタル化
  • グリーン化

この両面から、日本だけでなく世界でも大変革の最中です。日本でもCO2の排出量が多いガソリン車に替えてEV※の普及を推進する一方、世界ではEV社会移行にあたっての課題(充電スポット・蓄電池の寿命・リサイクル・供給電源のCO2排出など)が顕在化しています。

このような急激な変化の中で、EVの命とも言える蓄電池(バッテリー)モーターは、鍵となる重要な技術です。特に蓄電池は世界的に激しい競争となっています。

【関連記事】蓄電池とは?仕組みやメリット・デメリット、やめたほうがいいと言われる理由・SDGsとの関係

EV

Electric Vehicleの略称で、電気自動車のこと。

【世界のEV販売比率の推移】

日本は自動車の販売台数に占めるEVの比率では出遅れていますが、現在主流の液系リチウム電池に変わる、全固体電池※の開発などに力を入れています。しかし、まだしばらくは液系リチウムイオン電池世界の主流として続く見込みなので、それまで日本のバッテリー企業生き残っていけるかが非常に大きな課題となっています。

全固体電池

これまでの液体の電解質を利用した電池とは全く違う、全て固体の材料で作られた電池。安全性・寿命・出力などで液体の電解質を使用した電池より優れている。

【関連記事】EV車のメリットとデメリット・充電の仕組み、今後電気自動車は日本で普及するのか?

カーボンリサイクル

【カーボンリサイクルの多様な利用方法】

カーボンリサイクルとは、CO2を回収して資源として有効活用する技術です。日本はCO2を原料としたコンクリートや燃料などの研究開発実証実験に取り組んでいます。

CO2吸収型コンクリートは、2030年には既存のコンクリートと同等の価格までコストダウンする予定です。カーボンリサイクル技術はコストダウン・社会実装だけでなく、海外への展開も目指しています。

【関連記事】カーボンリサイクルとは|仕組みとデメリット、日本の現状、取り組み事例を解説

ゼロエミ・チャレンジ

経済産業省が主導する「ゼロエミ・チャレンジ」は、2050年カーボンニュートラル実現に向けたイノベーションに挑戦する企業をリスト化し、投資家などが活用できる情報を提供するプロジェクトです。リストはTCFD※サミットで公表され、ゼロエミッションに取り組む企業が金融機関や投資家から資金を集められるよう支援します。

今後は年に1回ほどリストを更新しつつ、水素CCUS※・再生可能エネルギーなど投資家の注目度が高いテーマごとに企業・投資家・政策立案者などとの対話の場を設定し、イノベーションへの理解促進や民間資金の誘導する予定です。つまりゼロエミ・チャレンジは、企業がゼロエミッションに取り組むための資金調達手段「トランジション・ファイナンス」※の一種なのです。

TCFD

「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」に関する企業の効果的な情報開示や適切な取り組みについて議論を行う目的で設立された国際機関。TCFDコンソーシアムとも呼ばれる。

【関連記事】TCFDとは?注目される背景や開示するもの・日本の取り組み状況をわかりやすく解説

CCUS

主に産業活動で発生するCO2を、大気中に排出する前に回収したり、大気中から回収したりして、CO2を貯留または資源として有効利用する技術。

【関連記事】CCSとは?CCUSとの違い、デメリット・問題点、二酸化炭素回収・貯留の仕組みを解説

トランジションファイナンス

脱炭素社会の実現に向けて長期的な戦略による、着実な温室効果ガス削減の取り組みを行う企業に対し、その取り組みを支援することを目的とした新しいファイナンス(資金調達・金融)手法。

【関連記事】トランジション・ファイナンスとは?基本指針、国内事例、メリットや課題も

【「トランジション」とは】

このほかにも、

  • 洋上風力発電
  • 半導体・情報通信
  • 航空機
  • 燃料アンモニア
  • 船舶
  • 住宅・建築
  • 物流・人流
  • インフラ
  • 資源循環
  • 食料・農林水産省・森林によるCO2吸収

など、さまざまな分野でゼロエミッションは進んでいます。次の章ではここまでのおさらいも兼ねて、ゼロエミッションに取り組むメリットをまとめます。*4)

ゼロエミッションに取り組むメリット

ゼロエミッションによって、

  • カーボンニュートラルの実現
  • 資源の循環利用
  • 廃棄物による環境負荷の軽減

を目指すことには、以下のような効果やメリットがあります。

気候変動の緩和・抑制

ゼロエミッションは世界共通の課題である気候変動の緩和・抑制のための科学的根拠に基づいた具体的な対策です。ゼロエミッションの目標である「2050年カーボンニュートラル」は、温室効果ガスの排出量を削減し、地球の平均気温の上昇を産業革命以前と比較して1.5℃程度の上昇に抑えるために必要とされているものです。

持続可能な資源の利用

ゼロエミッションでは温室効果ガスの排出量削減とあわせて、リサイクルなどによる廃棄物の削減資源の循環利用にも取り組みます。有限の資源を循環させ、持続可能な利用を追求することは、将来も生き物が住み続けられる豊かな地球であるために必要です。

企業・国家の競争力に直結

これからの世界の市場では、環境に配慮しない産業良い評価を得ることが難しくなります。環境意識の高まりにより、ゼロエミッションにつながるイノベーションへの投資も増加傾向にあります。

日本のゼロエミッション関連技術は所有している特許も多く、世界での競争力の強化気候変動への効果的な対策同時に実現可能です。世界はさらなるゼロエミッション関連のイノベーションを待望しています。

これをチャンスと捉え、ゼロエミッション関連技術で日本の企業が投資先として積極的に選ばれるような市場環境を構築することが、日本の産業の将来も持続可能な成長につながります。

ゼロエミッションに取り組む主なメリットを確認したので、次の章では実際に企業が取り組むゼロエミッションの事例を紹介します。

【分野別】企業が取り組むゼロエミッションの事例

ゼロエミッションの技術では日本企業が世界の最先端をリードするものも多くあります。ここでは、建設・発電・農業の3つの分野での日本企業のゼロエミッションへの取り組み事例を見ていきましょう。

【清水建設株式会社】ZEBとゼロエミッション志向のリノベーション

日本政府が表明したゼロエミッション国際共同研究拠点の立ち上げを受け、産総研※が「ゼロエミッション国際共同研究センター」を設立しました。この研究センターを年間のエネルギー収支をゼロにする「ZEB」※に改修するにあたり、清水建設が開発したZEB評価検証ツール「ZEB Visualiezer」が活躍しました。

産総研

技術の創出と実用化で社会課題の解決に取り組む、日本最大級の研究機関。

ZEB

Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称。快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のこと。

【「ZEB Visualiezer」を用いたシミュレーションによる最適化】

「ZEB Visualiezer」を使用すれば、シミュレーションにより即座にZEBの達成具合が評価できます。これにより、設計の初期段階でZEB達成のための最適解を導き出すことができます。

ゼロエミッション志向のリノベーション

【リノベーションされたゼロエミッション国際共同研究センターの本館】

ゼロエミッション国際共同研究センターの改修にあたり清水建設は「ゼロエミッション志向」というテーマを掲げました。可能な限り廃棄物を出さないように既存の素材を活かしながら再生し、新たな価値を生み出すという取り組みです。

ゼロエミッション国際共同研究センターの本館は築45年という歴史のある建物でした。もともと良質なタイルや石材などが使われていたので、磨き直しなどでそれらの素材をできるだけ再利用しました。

このプロジェクトで、清水建設は設計と施工の連携により、ゼロエミッション志向のリノベーションを実現しました。また、デジタルをプラットフォームにして設計・施工の両面にメリットがあるものづくりをすることで、設計期間を含めて1年という短工期での改修に対応することができました。

このように、改修の時期を迎えた建物を、

  • 最新の環境性能
  • BCP性能
  • 健康・快適性

などを備えた建物にリノベーションすることで、物件価値を再び上げることができます。このような新しいビジネスが建設業界で活発化しています。

【清水建設のecoBCP】

BCP性能

企業の事業継続のために、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合に、事業資産の損害を最小限にとどめ、中核となる事業の継続や早期復旧を可能とす計画やそのようなリスクに備えた設備や建築。

【株式会社JERA】火力発電をゼロエミッションに!

【JERAの四日市火力発電所】

世界で排出される温室効果ガスの多くは、化石燃料のエネルギー利用によって発生していると言われています。その中でも火力発電による排出は多くの割合を占めています。

日本も例外ではなく、日本の電力の70%以上を火力発電でまかなっています。この火力発電のゼロエミッションに取り組んでいるのがJERAです。

JERAは、日本における火力発電の約半分を占める発電能力と、世界最大級の燃料取扱量を誇るエネルギー会社です。ゼロエミッション火力発電の開発だけでなく、トヨタ自動車と協力して再生可能エネルギーの導入を支援する大容量蓄電システムの開発なども進めています。

アンモニア・水素を利用して発電

【主要国の発電電力量に占める再エネ比率の比較】

資源エネルギー庁『日本のエネルギー 2022年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」』
出典:資源エネルギー庁『日本のエネルギー 2022年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」』

世界では太陽光発電風力発電など再生可能エネルギーの導入が進んでいます。しかし、火力発電でもゼロエミッションは可能です。

温室効果ガスを排出しない方法で製造された水素(グリーン水素)や、そのような水素から作られたアンモニアは、そのまま燃やしても温室効果ガスをほとんど排出しませんさらに、水素やアンモニアによる火力発電は、既存の火力発電の設備を利用することで導入コストを下げることができます。

JERAは、このようなゼロエミッション火力と再生可能エネルギーを組み合わせることで電力の脱炭素に挑戦しています。

【ボイラ型火力(石炭火力)におけるアンモニア混焼発電】

JERAの計画では2028年度までに燃料の50%をアンモニアに置き換えた発電、2030年代前半には燃料の50%以上をアンモニアに置き換えた発電の商用運転を目指しています。水素による発電は2025年度までに燃料の30%を水素に置き換えたガスタービン型LNG火力発電の実証実験、2030年代半ばに商用運転が計画されています。

【JERAのゼロエミッション・ロードマップ】

水素やアンモニアの燃料利用には、サプライチェーンの構築をはじめまだ多くの課題が残されていますが、ゼロエミッション火力の実現は世界の既存の火力発電にとって大きな希望です。JERAは多くのパートナー企業とともにガス田開発から、液化、輸送、貯蔵、発電という一連のバリューチェーン(フルバリューチェーン)を構築し、LNGの安定的かつ経済的な調達を実現している実績があります。

水素やアンモニアの大規模な社会実装にはもう少し時間がかかりますが、着実に実現に向かって進んでいると言えます。

【クボタ】スマート農業の実現

食糧生産は私たちが生きていく上でなくてはならないものです。しかし、農林水産分野の温室効果ガスの排出量は多く、世界全体の温室効果ガスの排出量の25%を占めると言われています。

株式会社クボタは、農業技術と先端技術を組み合わせて、農林水産省が主導する「みどりの食料システム戦略」※に関連する

  • 温室効果ガス削減
  • 化学肥料低減
  • 循環農業の推進
  • 有機農業の面積拡大
  • 農業のスマート化

などの、さまざまな技術開発を行なっています。

みどりの食料システム戦略

日本の持続可能な食料の安定供給のために、災害や温暖化に強く、生産者の減少などにも対応した農林水産を推進する戦略。

【みどりの食料システム戦略】

農業のスマート化を進める未来のトラクタ

クボタが2020年に発表したコンセプトトラクタは、

  • 完全無人の自動運転
  • AI(人工知能)による天候・育成データを基にした判断
  • 温室効果ガス排出ゼロの完全電動
  • 四輪クローラー採用による多彩な作業への対応

などによる農業の無人化・農作業の負担軽減を実現します。

【クボタの発表した未来のトラクタ】

人工光型植物工場

クボタは食糧生産の効率化のために、「人工光型植物工場」を運営する企業に出資しています。人工光型植物工場は都市部での野菜などの栽培を可能にし、輸送距離の短縮による省エネや、需要に合わせた生産計画による食品ロスの削減にも貢献します。

【人工光型植物工場の様子】

さらに、クボタは農業や水環境インフラ事業、建設機械事業で培った技術を活かして、情報処理やセンサーを駆使した上下水道施設・河川洪水の監視・管理プラットフォームを整備し、都市の災害に対するレジリエンスの向上にも貢献しています。

【上下水道施設・河川洪水の監視・管理プラットフォーム】

ゼロエミッションにはさまざまな取り組みがあることがわかりますね!この章で紹介したのは大企業の取り組み事例ですが、次の章では中小企業がゼロエミッションに取り組むための方法を考えてみましょう。*5)

中小企業がゼロエミッションに取り組むためには

中小企業ではゼロエミッションについての知識や資金、人材の不足により、大企業に比べてゼロエミッションへの取り組みが進んでいないのが現状です。しかし、中小企業でも

  • 省エネを推進する
  • 利用エネルギーを温室効果ガスの排出が少ないものに替える
  • 設備の電化を促進する

など、可能な範囲で少しづつ進めることができるゼロエミッションがあります。また、政府や地方自治体からの補助金をうまく利用することも中小企業がゼロエミッションを進める上で重要です。

中小企業がゼロエミッションに取り組むための手順

将来的なエネルギー問題を考えると、中小企業もゼロエミッションに取り組み、世界的な持続可能な社会への移行に取り残されないような事業計画が必要です。今後の化石燃料の価格変動は予測が難しい上に、カーボンプライシング※の導入が進み、環境に大きな負荷のかかる方法での事業は高くついたり資金を集めにくくなる可能性があります。

ゼロエミッションに向けた計画を策定するには

  1. 自社の長期的なエネルギー転換の方針を検討
  2. 短期・中期的な省エネ対策の洗い出し
  3. 再生可能エネルギー電力の調達を検討
  4. 必要な投資額が財務に及ぼす影響を分析
  5. ゼロエミッション計画の取りまとめ

という手順で、長期的な計画のもと、すぐに取り組むことができることから始めましょう。導入コストや人材不足といった課題がある場合は、段階的に進めるような計画を立てます。

補助金を活用する

政府や地方自治体から、ゼロエミッション推進に向けた事業転換を支援する補助金が受けられる場合があります。例えば東京都は「ゼロエミッション化に向けた省エネ設備導入・運用改善支援事業」として、年度ごとに中小企業などの幅広い省エネ対策を支援するための助成事業を行なっています。

(この助成金の2023年の申請期間は第1回が4月20日から6月20日となっています。)

近年の産業経済の変化は急速です。このような状況では、これまで当たり前にできていたことが、世界情勢などの影響によって、急に困難になる可能性もあります。

ゼロエミッションの推進は、正しい手順と判断で取り組めば、中小企業でも可能です。同時に自社を分析してリスク対策も含めた長期的な経営戦略を立てる機会になります。

次の章では私たちが個人でもできるゼロエミッションへの取り組みを紹介します。*6)

ゼロエミッションのために私たちにできること

イメージ画像

メディアで見かけるゼロエミッションの話題は、産業など国や企業レベルの新技術の開発など大きな規模の事例が目立ちますが、中小企業や個人にもできることがあります。ゼロエミッションは、

  • 2050年カーボンニュートラル
  • 廃棄物をできる限り出さない
  • 資源の循環(循環経済)

などを目指す取り組みですから、社会問題の解決について意識の高い人なら、すでに習慣にしている取り組みもあるでしょう。

エシカル消費

エシカルとは「倫理」という意味で、エシカル消費は私たちひとりひとりが社会問題の解決につながる製品やサービスを選んで購入することです。経済の流れは私たちの消費活動からも生まれています。

  • 環境に配慮した製品
  • フェアトレード認証商品
  • 地元で生産されたもの
  • 有機農産物

などを購入するようにしたり、マイバックやマイボトルを利用することでプラスチックなどの資源の利用を減らすこともゼロエミッションにつながる行動です。

【関連記事】エシカルとは?エシカル消費が重視される原因・問題点、私たちにできること・SDGsの関係

【関連記事】フェアトレードコーヒーとは?メリット・デメリットや日本の現状、認証マークの見分け方

食品ロスの削減

特に先進国の都市部では、まだ食べられるのに捨てられてしまう食べ物が多いことが問題となっています。これを「食品ロス(フードロス)」と呼び、運搬や廃棄などにコストがかかるだけでなく、その食品の生産されてから廃棄されるまでのライフサイクルで排出される温室効果ガスなどの環境への負荷もかかっています。

食べ残しを減らすだけでなく、必要以上の買いだめで食品を期限切れにしたり、本来食べられる部分を過剰に除去しないような調理をしたりすることも食品ロス削減につながります。

【関連記事】食品ロス(フードロス)とは?原因と対策、世界や日本の現状、SDGsとの関係も

省エネ設備・再生可能エネルギーの利用

私たちの普段の生活に使うものに省エネ製品を選ぶことも、私たちにできるゼロエミッションへの取り組みです。私たちが使う製品ひとつひとつが節約できるエネルギー量はわずかに感じるかもしれません。しかし、人口の多い日本などの先進国で省エネ製品を選んで使う活動が広がれば、全体で見ると大きなエネルギーの節約になります。

また、近年では家庭で使用する電力にも再生可能エネルギーを選べるようになりました。さらには、災害時への備えも兼ねて、自宅に太陽光発電エネファーム※などを導入する家庭も増加しています。

エネファーム

エネファームとは、ガスを使って発電する家庭用燃料電池。発電の際の熱も給湯などに利用できる。

【関連記事】エネファームとは?仕組みと費用・寿命・デメリットなどの基礎知識と普及しない理由

社会を持続可能なものに変えるには、社会を構成する私たちひとりひとりができる範囲で生活のスタイルを変えていくことが必要です。私たちがものを購入するという行動は応援投票のような効果もあります。

私たち消費者に選ばれる製品が競争に勝っていくので、私たち消費者が何を選ぶかは非常に重要なのです。私たちが積極的にゼロエミッションを意識した消費活動をすることによって、社会全体のゼロエミッションも進むことになります。

次の章ではゼロエミッションとSDGsの関係を考えましょう。*7)

ゼロエミッションとSDGs

【SDGs17の目標】

sdgsロゴ

ゼロエミッションがSDGsの17の目標の中で最も関係の深いのは、

  • SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」

です。ゼロエミッションはまさに気候変動への具体的な対策そのものと言えます。

しかし、世界全体で考えると、気候変動への具体的な対策を効果的に進めるために、

  • CO2吸収源である森林の不法な伐採を防ぐために現地の貧困を解決する(SDGs目標1)
  • 資源のリサイクルに配慮した製品を開発する(SDGs目標12)
  • パートナーシップで目標を達成しよう(SDGs目標17)

などへの取り組みが必要です。また、ゼロエミッションが進むことにより、

  • SDGs目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」
  • SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」

などの目標達成にも貢献します。このように、SDGs目標はそれぞれの目標が他の目標とつながりがあり、それぞれが影響しあって目標の達成に向けて進んでいきます。

まずはSDGsについての理解を深め、世界の目指している方向を知ることから始めましょう。それを知ることにより、あなたがSDGs目標達成のためにできることが見つかります。*8)

【関連記事】SDGs13「気候変動に具体的な対策を」の現状と私たちにできること、日本の取り組み事例

まとめ

ゼロエミッションは産業全体で見ると簡単な取り組みではありませんが、企業にとっては自社の競争力にも取り組みの成果が影響する重要なものと言えます。また、中小企業や私たち個人もゼロエミッションを理解し、地道な取り組みを重ねることも、社会全体のゼロエミッションに大きく貢献します。

これからの時代は「ものの豊かさではなく心の豊かさを求める時代」といわれています。私たちが求める心の豊かな生活には、豊かで多様性のある自然持続可能で健全な社会が必要です。

あなたもこの記事にとどまらず、今後もゼロエミッションやSDGsへの知識を深め、将来のより良い地球のためにできることを見つけましょう!このような行動自体、今のあなたの心の豊かさにつながります。

〈参考・引用文献〉

*1)ゼロエミッションとは
United Nation University『国連大学とは』
環境省『環境白書 1 循環型産業システムに向けての実践』
資源エネルギー庁『あらためて振り返る、「COP26」(前編)~「COP」ってそもそもどんな会議?』(2022年3月)
資源エネルギー庁『「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?』(2021年2月)
環境省『III カーボン・ニュートラルについて』
日経ESG『ネットゼロ』(2022年5月)
*2)ゼロエミッションを推進する理由
産総研『吉野彰が語る「ゼロエミッション」(Vol.1)とは?』(2022年6月)
*3)世界のゼロエミッションの現状
NEDO『COP27に向けたカーボンニュートラルに関する 海外主要国(米・中・EU・英・独・インドネシア・ エジプト・インド)の動向』p.13(2022年)
経済産業省『カーボンニュートラル実現に向けた 国際戦略』p.4(2022年3月)
経済産業省『カーボンニュートラル達成に必要な技術の初期需要創出のため、グローバル企業が購入をコミットするプラットフォーム「First Movers Coalition(FMC)」に戦略パートナー国として参画します』(2022年5月)
経済産業省『カーボンニュートラル実現に向けた 国際戦略』p.8(2022年3月)
JETRO『一帯一路関係国と交通・エネルギーなどの分野でグリーン協力を推進、新規の海外石炭火力プロジェクトは停止と明記』(2022年4月)
経済産業省『アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)閣僚会合及びAZEC官民投資フォーラムを開催しました』(2023年3月)
経済産業省『カーボンニュートラル実現に向けた 国際戦略』p.22(2022年3月)
*4)日本のゼロエミッションの現状
資源エネルギー庁『カーボンニュートラル実現に向けた鍵となる「水素」』
資源エネルギー庁『水素政策小委員会/アンモニア等脱炭素燃料政策小委員会 合同会議 中間整理(案)の概要』(2022年12月)
水素エネルギーとは?メリットやデメリット、実用化に向けた課題と将来性、SDGsとの関係
蓄電池とは?仕組みやメリット・デメリット、やめたほうがいいと言われる理由・SDGsとの関係
経済産業省『自動車分野のカーボンニュートラルに向けた 国内外の動向等について』p.5(2023年4月)
EV車のメリットとデメリット・充電の仕組み、今後電気自動車は日本で普及するのか?
資源エネルギー庁『カーボンリサイクルについて』p.3
カーボンリサイクルとは|仕組みとデメリット、日本の現状、取り組み事例を解説
経済産業省『ゼロエミ・チャレンジ』
経済産業省『トランジション・ファイナンス』
経済産業省『ゼロエミ・チャレンジ企業リストについて』
経済産業省『「ビヨンド・ゼロ」実現までのロードマップ』
*5)【分野別】企業が取り組むゼロエミッションの事例
清水建設『サステナブル・リノベーションによる『ZEB』を実現』(2021年9月)
清水建設『サステナブル・リノベーションによる『ZEB』を実現』(2021年9月)
清水建設『時代が求める ecoBCP-節電・省エネ(eco)+事業継続(BCP)-』
清水建設『経年ビルの物件価値を最大化する新サービス』(2018年3月)
清水建設『強くしなやかで人と環境にやさしいまちづくり』(2017年9月)
中小企業庁『BCP(事業継続計画)とは』
JERA『トヨタ自動車とともに考えた「蓄電システムの未来」』(2023年4月)
資源エネルギー庁『日本のエネルギー 2022年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」』
JERA『ゼロエミッション火力とは』
株式会社クボタ『みどりの食料システム戦略に関連したクボタの技術』p.1
経済産業省『「ビヨンド・ゼロ」実現までのロードマップ』
クボタ『環境ビジョン』
農林水産省『次年度以降の進め方について』(2021年3月)
資源エネルギー庁『火力発電を“ゼロ・エミッション”に!日本が開発・実施事業に取り組む最新技術を世界へ発信』(2022年8月)
*6)中小企業がゼロエミッションに取り組むためには
東京都『ゼロエミッション化に向けた省エネ設備導入・運用改善支援事業 令和5年度助成事業開始 中小企業等の幅広い省エネ対策を支援』(2023年3月)
環境省『中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック-温室効果ガス削減目標を達成するために-』
*7)ゼロエミッションのために私たちができること
エシカルとは?エシカル消費が重視される原因・問題点、私たちにできること・SDGsの関係
フェアトレードコーヒーとは?メリット・デメリットや日本の現状、認証マークの見分け方
食品ロス(フードロス)とは?原因と対策、世界や日本の現状、SDGsとの関係も
エネファームとは?仕組みと費用・寿命・デメリットなどの基礎知識と普及しない理由
*8)ゼロエミッションとSDGs
国際連合広報センター『SDGsのポスター・ロゴ・アイコンおよびガイドライン』
SDGs13「気候変動に具体的な対策を」の現状と私たちにできること、日本の取り組み事例