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エコーチェンバー現象とは?具体例をもとに問題点や対策をわかりやすく解説!

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SNSでフォローしている人や自分のフォロワーとつながっていると、一体感を覚えてうれしい気持ちになります。しかし、フォローしているインフルエンサーやフォロワーは自分と似た意見を持っている場合が多いため、やり取りされている情報が間違っていても「正しい」と思いがちです。

この記事では、こうした人とSNS、インターネットとの関係が引き起こす「エコーチェンバー現象」を取り上げます。エコーチェンバー現象の具体例やフィルターバブルとの違い、問題点、エコーチェンバー現象による事件、対策などについて解説するので、SNSを利用するときには、ぜひ参考にしてください。

エコーチェンバー現象とは

エコーチェンバー現象とは、SNSにおいて自分と似た興味関心を持つユーザーをフォローすることで、同じような価値観や考え方の意見ばかりに触れるようになる結果、自分の考えは「正しい」「多数派だ」と信じてしまうことです。閉じた部屋で自分の意見が反響することに例えて、エコーチェンバー(反響室)現象と呼ばれています。

アメリカの法学者サンスティーンは、集団で意思決定を行う際、もともと持っていた個人の意思よりも極端になる「集団分極化」がインターネット上で起きていると指摘しています。そしてその過程では、多くの人をエコーチェンバーに閉じ込めてしまう仕組みがあるとしています。[1]エコーチェンバー現象は、過激な意見に触れる中で個人がより極端な志向になる可能性を含んでいます。そのため、ネットメディアの問題として取り上げられることの多いキーワードです。

具体例をもとにわかりやすく

エコーチェンバー現象は、どのように起きるのでしょうか。身近な具体例として、IT業の男性のケースを見ていきましょう。

2022年12月、男性はある団体の不正疑惑をX(旧Twitter)で目にします。もともとその団体の代表が自分の好きなキャラクターを批判したことに不満を抱いていた男性は、「鬼の首を取ったような気持ちだった」とそのときの心境を語っています。疑惑を摘発したのは、20万人のフォロワーを持つインフルエンサー。男性がそのインフルエンサーのYouTube動画にのめり込んでいくうちに、自らもSNSで団体を攻撃する投稿を始めました。するとインフルエンサーのフォロワーからも次々とフォローされ、一体感を覚えたと言います。 2カ月後に男性は、インフルエンサーが別の話題で的外れな批判をしていると感じて信用できなくなったことで目が覚めます。自ら批判をする投稿をしたきっかけとなった情報源についても、間違っていたのではないかと考え直しました。[2]

もともと持っていた感情が正しいと裏付ける意見やニュースが飛び込んできたとき、人は真偽を疑うことなく信じてしまう傾向があります。そして、より過激化した感情をSNSで発信すると、同じ意見を持つ人ばかりに囲まれて自分が正しいと思ってしまうのです。男性のように目が覚めるきっかけがなければさらに長く続いていたことを考えると、エコーチェンバー現象には危険な側面があると言えるでしょう。

エコーチェンバー現象とフィルターバブルとの違い

ネットメディアの問題としてエコーチェンバー現象と一緒に取り上げられるのが「フィルターバブル」です。インターネットには、検索した履歴をコンピューターが学習し、ユーザーが望むかどうかにかかわらず、その人に合った情報を優先的に表示する機能があります。検索結果やYouTube、ニュースサイトなどで最初に表示されるコンテンツが主な例です。

フィルターバブルとは、この機能によってユーザーが自分の好みに合う情報しか得られず、考え方や価値観の「バブル(泡)」に孤立することを言います。これらを踏まえて、エコーチェンバー現象とフィルターバブルの大きな違いを確認していきましょう。

■エコーチェンバー現象とフィルターバブルの違い

情報へのアクセス方法周囲とのつながり
エコーチェンバー現象自分が能動的に選ぶ他人とつながる
フィルターバブル受動的に情報を受け取る孤立する

エコーチェンバー現象が自らの意思によって人とつながるのに対して、フィルターバブルは流れてくる情報を目にするだけで、他人との関係はありません。フィルターバブルの状況では、表示されている情報がどれほど偏っているのか、もしくは真実であるのかが分かりにくくなることが問題になっています。

エコーチェンバー現象とサイバーカスケードとの違い

サンスティーンは、インターネット上で情報を収集する際、「サイバーカスケード」という現象があるとも指摘しています。サイバーカスケードとは、インターネットのサイトや掲示板などで意見交換をしているうちに、特定の意見や行動が急激に多数を占めて先鋭化することです。カスケードは階段状の滝という意味で、人が特定の意見に流されていき、最後は大きな流れになることを表しています。

サイバーカスケードが賛否両論に触れる中で、人が特定の意見を支持していくのに対して、エコーチェンバー現象は、自分の考えが正しいというのが前提にあり、その他の考え方を排除することが大きな違いです。

フィルターバブルとエコーチェンバー現象、サイバーカスケードは、インターネット上で起きる現象としてしばしば一緒に議論されています。

エコーチェンバー現象の問題点

エコーチェンバー現象には、さまざまな問題点があります。具体的に3つの問題を見ていきましょう。

いじめのような過激な行動に出てしまう

エコーチェンバー現象が起きると、いじめのような過激な言動が出てしまう場合があります。実際に起きた事例をもとに詳しく見ていきましょう。

中学3年生の男子生徒は、通っていた市立中学から貸与されたタブレット端末に、他人に見られたら恥ずかしい自身の性的な動画が共有されたことを知ります。この生徒は、中学2年のころから蹴られたり物を隠されたりする嫌がらせを受けていました。端末のチャットには、自分の名前の入った「撲滅委員会」というグループが知らぬ間に作られていたと言います。動画は個人のLINE(ライン)を通じて中学1年のクラスメートなどにも回され、この生徒は、「将来、『動画を持っているぞ』と脅されないか」と今もおびえています。

限られたメンバーで行動する子どもは特に、自分と同じような考えに触れるうちに過激な行動を起こしやすい特徴があります。SNSでつながったグループにより、こうしたいじめが起きることは大きな問題です。[3]

コロナ禍では分断を生み出す

コロナ禍の2021年4月に「ワクチン接種で不妊になる」という情報がSNSで広がった出来事は、エコーチェンバー現象であるといわれています。5月からは、医師やメディア、公的機関がそれを否定する「ワクチンで不妊になるというのは誤った情報だ」という情報を広めました。この「ワクチン接種で不妊になる」という科学的根拠のない情報がなぜ広まったのかを分析した結果があります。それによると、2つの情報はそれぞれ1つの集団を形成していて、同じ意見を持つ人の間だけで投稿をシェアしていることが分かったのです。[4]

こうして自分と同じ意見ばかりに触れた結果、間違った、もしくは不確定で曖昧な情報を信じてしまうとエコーチェンバー現象が起こります。異なる意見を持つ人に耳を傾けることなく、分断を生み出してしまうのです。

政治的なイデオロギーに分断が起きる

エコーチェンバー現象により、政治的なイデオロギーの分断が起きるのも問題の1つです。サンスティーンは2001年に、60の政治系サイトのリンク先を調べました。その結果、同意見のリンクは約6割だったのに対して、反対意見のリンクは2割に満たなかったのです。[5]

■政治系サイトのリンク先の政治的志向

(出典)キャス・サンスティーン(2001)『インターネットは民主主義の敵か』を基に作成

(引用元:総務省|令和元年版 情報通信白書|インターネット上での情報流通の特徴と言われているもの

このように、同じ主義を持つ人同士がつながり、他方の意見に目を向けることがないため、社会が分断していることが分かります。2016年のアメリカ大統領選挙中には、リベラル系と保守系がSNS上でそれぞれ同じ主義のSNSをフォローしており、同様の傾向がみらました。[6]

エコーチェンバー現象によって異なる意見に目を向けないのは、政治的にも大きな影響を与えると言えるでしょう。

エコーチェンバー現象による事件

エコーチェンバー現象による事件には、軽いデマやフェイクニュースから、有罪になる大きな犯罪までさまざまあります。そのうちアメリカと日本で起きた事件を取り上げましょう。

2020年トランプ氏の支持者によるデモ

2020年11月14日、アメリカ大統領選で民主党のバイデン氏の当選が確実と伝えられる中、現職のトランプ氏の支持者がワシントンで大規模なデモを行いました。トランプ氏は選挙に不正行為があったと主張し、敗北宣言をしていない状況での出来事でした。集まった1万人の支持者たちは選挙の不正を訴え、一部では反トランプ派との小競り合いがあったと報じられています。12日には、米連邦選挙当局が大統領選について不正な行為の証拠はないとの調査結果を発表したばかりでした。[7]

この事件は、SNSなどを通じて、自分と似た考えを持つ人々とつながるうちに、正しいと感じてしまうエコーチェンバー現象であると考えられています。デモには、白人を中心にいくつかの極右グループのメンバーも集まっていたと伝えられています。

2022年大阪コリア国際学園他の事件

2022年4月、大阪・茨木市にあるインターナショナルスクール、コリア国際学園内で段ボールに火をつけられる事件がありました。犯人は逮捕され、同年12月に判決が下されました。被告は3月にも高槻市にある立憲民主党の辻元清美氏の事務所を物色したほか、5月には創価学会の施設の窓ガラスを割る事件を起こしています。判決では、懲役3年、執行猶予5年が言い渡されました。

被告は、「立憲民主党は日本を根絶やしにする組織と考えた」「在日コリアンが悪いという独断と偏見で、何をやってもいいと考えた」「(創価)学会員は悪であると決めつけた」と被害者への手紙の中で明かし、弁護側は「ネットの情報で敵意を持ち、偏った情報の取り方だったと今は後悔している」と述べています。[8]

この事件でも「ネットから偏った情報を取る」といったエコーチェンバー現象が起きています。エコーチェンバー現象は、被害者の出る事件にまで発展する危険性のあることを心に留めておく必要があるでしょう。

それでは、エコーチェンバー現象を防ぐ対策はあるのでしょうか。次の章で確認していきましょう。

エコーチェンバー現象の対策

エコーチェンバー現象の対策には、大きく分けてインターネットの「提供側」と「ユーザー側」にできることがあります。過去に利用されていたシステムも含めて3つを紹介します。

ヤフー独自AI「コメント多様化モデル」

ヤフー株式会社は2023年4月、Yahoo!ニュースが提供する「Yahoo!ニュース コメント」の投稿に、より多様な意見が上位に表示されやすくなる独自AI「コメント多様化モデル」を導入しています。

「Yahoo!ニュース」が行った調査によると、読者はコメント欄に「新しい気付きを得られること」や「記事に対する他の視点を得られること」を求めていることが分かりました。このモデルを導入することで、コメントが多くの人にとって共感できることや、異なる視点の意見を知るきっかけになるという読者のニーズを満たすほか、エコーチェンバー現象の軽減効果も期待するとしています。[9]

情報源となるインターネットが多様な意見を優先すれば、エコーチェンバー現象が起きる要因を減らすことにつながります。今後の運用効果に注目したいところです。

X(旧Twitter)「エコーチェンバー可視化システムβ版」(2023.5.24サービス終了)

どのくらいエコーチェンバーに陥っているのかは、自分ではなかなか分からないものです。それを客観的に評価するシステムが「エコーチェンバー可視化システムβ版」です。自分のタイムラインに表示される意見が一般的であるかどうかが、エコーチェンバー度として表示されます。幅広いタイプのユーザーの投稿がタイムライン上にあれば、エコーチェンバー現象は起きていないと判断してくれるツールです。[10]

このシステムは2023年5月24日に提供を終了していますが、このようなサービスがあれば、エコーチェンバー現象を避ける有効な対策になるでしょう。今後同じようなツールがリリースされる可能性もあるかもしれません。

情報環境を自分で設定するブラウザの「シークレットモード」

インターネットを利用する私たちにもできることはあります。前提として、社会には自分の知る範囲だけにとどまらないさまざまな意見があると認識することが大切です。インフルエンサーやフォロワーだけが正しい多数派であるとは限りません。「これは正しいのか?」という疑問を常に持つようにしましょう。

その上で、検索履歴を記録しないで、偏った情報そのものを断つ方法もあります。インターネットを閲覧するためのブラウザには、「シークレットモード」や「プライベートブラウズ」といった機能があります。この機能は、ブラウザを閉じると過去の検索履歴が削除されるので、自分の興味や関心に偏った情報を表示するのを防ぐことが可能です。こうして自分がエコーチェンバー現象に陥らないような情報環境を作らないことも対策の1つになります。

エコーチェンバー現象とSDGs

最後に、エコーチェンバー現象とSDGsの関係について確認していきます。SDGsは、大きな枠組みで言う持続可能な社会の実現や、人と国の平等を目標に掲げています。これらの目標を達成するためには、エコーチェンバー現象を解消することが必要です。

今問題になっているヘイトスピーチやフェイクニュースは、偏りのある意見や情報に基づいて作られています。これらが正しいのかを見極めるためには、正確な情報を多方面から得るのはもちろん、さまざまな考え方を認めることも大切です。そして個人がSNSとの関わり方を見直していく必要もあるでしょう。SDGsに取り組む前提として、エコーチェンバー現象への対策を行うことが求められます。

まとめ

エコーチェンバー現象とは、SNSにおいて自分と似た興味関心を持つユーザーをフォローすることで、同じような価値観や考え方の意見ばかりに触れた結果、自分の考えは「正しい」「多数派だ」と信じてしまうことです。問題点としては、誤った情報でも正しいと信じてしまうことや、異なる意見を受け入れにくくなることなどがあります。そして実際、この問題により2020年にはトランプ氏の支持者によるデモ、2022年の大阪コリア国際学園他の事件が起きています。

エコーチェンバー現象を防ぐためには、インターネットの提供側と利用側が多様な意見を認めることが大切です。さらにSDGsの目標を達成する前提として、エコーチェンバー現象に陥らないように心掛ける必要があるでしょう。インターネット上にはさまざまな意見があることを認識した上で情報を収集することを忘れたくないものです。

[1] 総務省|令和元年版 情報通信白書|インターネット上での情報流通の特徴と言われているもの
[2] 「エコーチェンバー」極端思考が仲間内で加速…抜け出した男性「集団はカルト宗教のよう」 : 読売新聞
[3] 性的な動画拡散、「エコーチェンバー」でいじめ加速…「脅されないか」おびえる男子生徒 : 読売新聞
[4] 新型コロナワクチン “不妊デマ”はなぜ拡散し続けるのか? – #みんなのネット社会 – NHK みんなでプラス
[5] 総務省|令和元年版 情報通信白書|インターネット上での情報流通の特徴と言われているもの
[6] 特集:ウェブを基盤とした社会「ウェブの功罪」笹原和俊 情報の科学と技術 70巻6号,309~314(2020)
[7] BBC NEWS JAPAN「【米大統領選2020】 トランプ氏支持者が大規模デモ、バイデン氏勝利確実に抗議」、テレ朝 news「米国“分断”の根深さ『エコーチェンバー』とは」
[8] 大阪 コリア国際学園放火の罪など 執行猶予付き懲役3年判決|NHK 関西のニュースSNSで増幅「エコーチェンバー」犯罪も コリア国際学園事件判決:朝日新聞デジタル更生願い、名前で呼びかけたい…コリア学園理事長から被告への言葉:朝日新聞デジタル
[9] Yahoo!ニュース、コメント欄でより多様な意見が上位に表示されやすくなる独自AI「コメント多様化モデル」の導入を開始 – ニュース – ヤフー株式会社
[10] エコーチェンバー可視化システムβ版