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耕作放棄地とは?現状や問題とされる理由、解決策も

「一所懸命」は、鎌倉時代の武士の価値観をあらわす言葉で、文字通り一つの場所に命を懸けるという武士の生き方をあらわしています。武士たちが土地にこだわったのは、土地こそ生産手段の基本であり最も大事な財産だったからです。

しかし、現在は高齢化や後継者不足などもあり、農業をやめてしまった土地である耕作放棄地が中山間地域を中心に全国で拡大しています。耕作放棄地は周辺の農地に悪影響を与え、さらなる耕作放棄地の拡大につながっています。

本記事では耕作放棄地がなぜ発生してしまったのか、耕作放棄地がどのような悪影響を与えるのかといった疑問を起点として国や自治体の対策、ビジネスでの活用例などを紹介します。耕作放棄地について知りたい方にぜひ読んでいただきたいと思います。

耕作放棄地とは

耕作放棄地とは、農林水産省が実施している「農林業センサス」で用いられている用語で、以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付け(栽培)せず、この数年の間に再び作付け(栽培)する意思のない土地を指します。*1)

過去1年以内に実際に耕作している土地(自分の所有地も他社から借りた農地も含む)は経営耕地と呼ばれています。

遊休農地との違い

遊休農地と耕作放棄地は似た用語ですが、データのとり方に違いがあります。

耕作放棄地5年に一度の農林業センサスで用いられる用語調査票にもとづいて農家が回答する主観ベースのデータ
遊休農地毎年実施される農地の利用状況調査で使用される用語市町村や農業委員会が現地調査でわかる客観ベースのデータ

遊休農地についてもう少し詳しく見てみましょう。遊休農地は農地法で用いられる用語で農業委員会による年1回の農地の利用状況調査によって判断されます。遊休農地の要件は以下の2つです。

  • 1年以上耕作されておらず、かつ、今後も耕作される意味込みがない
  • 周辺地域の農地と比較して利用の程度が著しく劣っている

遊休農地とみなされた農地については、農地の所有者に「利用動向調査」が行われ、自分で耕作するか、農地中間管理事業を利用するか、誰かに貸し付けるかといった農地利用の意思を尋ねます。

農地中間管理事業

都道府県知事が指定した農地中間管理機構(都道府県ごとで異なる)が農地を貸したい人から農地を借り受け、農地を借りたい人に貸し付ける制度。高齢化で農業を辞める人や相続で農地を引き継いだ人の農地を有効活用してくれる人に貸出す仕組みで、農地の有効活用を推進している。

遊休農地と耕作放棄地はほぼ同じ意味合いで用いられますが、客観的なデータか主観的なデータかによる違いがあることは理解しておきましょう。

【関連記事】遊休農地とは?耕作放棄地や荒廃農地との違いと活用事例・補助金制度を解説

荒廃農地との違い

荒廃農地とは、耕地が荒れ果ててしまい、通常の農作業では作物の栽培が客観的に見て不可能な農地のことです。*2)荒廃農地はさらに2種類に区分されます。

再生利用が可能な荒廃農地抜根や整地、区画整理、客土で再生可能な耕地
再生利用が困難と見込まれる荒廃農地森林化していたり、復元しても継続利用できないと見込まれる耕地

*2)

客土

作物の生育や農作業に支障が出ている畑の土を改善したり、必要な厚さを確保したりするために他の場所から土を運ぶ工事*3)

再生利用といっても、荒廃農地を復元するのはかなり困難で、多額の費用が掛かる場合があるため、耕作放棄地が荒廃農地まで荒れ果てる前に何らかの対策を立てることが重要です。

耕作放棄地の現状

日本全国の農地について調べたデータを見てみると、耕作放棄地の現状が浮かび上がってきます。日本の耕地の推移を確認しながら、耕作放棄地の現状を探ります。

2022年時点での耕地の現状

【日本の耕地の現状】

出典:農林水産省*2)

最も新しい調査である2022年(令和4年)の耕地面積は、2号遊休農地である0.8万ヘクタールを含めて432.5万ヘクタールです。最新の統計(2023年)では耕地面積は429.7万ヘクタールに減少しました。

2号遊休農地

周辺の地域における農地の利用の程度と比較して著しく劣っている農地*4)

これに対し、荒廃農地は25.3万ヘクタールです。荒廃農地の中には比較的再生しやすいとされる1号遊休農地が9万ヘクタール含まれています。農家の申告にもとづく耕作放棄地は42.3万ヘクタールとなっています。

農地面積の推移

農地面積は1961年(昭和36年)をピークに減少の一途をたどっています。

【農地面積の推移】

出典:農林水産省*2)

農地面積が最大だった1961年には608.6万ヘクタールだった農地は2023年(令和5年)には429.7万ヘクタールまで減少しました。畑は約27%、水田は約31%減少していることがわかります。

農地が減少した理由

農地面積が減少した理由として荒廃農地の増加や非農業用への転用などがあげられます。このうち荒廃農地は毎年1.4万ヘクタール増加しています。なぜ荒廃農地が増えてしまうのでしょうか。農林水産省は以下の理由を挙げています。

  • 立地条件が悪い
  • 労働力の不足と農地の所有者の高齢化
  • 鳥獣被害

*2)

荒廃農地は、山間や谷地田といった自然条件が悪い場所で顕著に見られます。中でも中山間地域では立地条件の悪さによる農地の荒廃化が目立っています。

【荒廃農地となる理由】

出典:農林水産省*2)

中山間地域とは、山間地やその周辺の地域のことで、他の場所に比べると農業をするのに不利な地域のことです。産地の割合が高い日本では、全国の耕地の4割、全農家数の4割を占めていました。*5)しかし、もともと農業に不利な地域であるため、放棄される確率が高い地域ともいえます。

また、中山間地域で進行する高齢化も深刻な問題です。

【農業地域類型別の人口推移と将来予測】

出典:国土交通省*6)

2015年を基準としたとき、山間農業地域は1.5倍、中間農業地域は1.2倍の人口がいました。しかし、人口は年々減少し2045年には山間農業地域は2015年の半分以下、中間農業地域でも2015年の6割弱になると予想されています。*6)

加えて、農地所有者の高齢化も深刻です。

【荒廃農地となる理由(所有者)】

出典:農林水産省*2)

こうして、後を継ぐ人がいない農地は荒廃しています。

さらに近年は、鳥獣被害の深刻さも農地を放棄する要因となっています。

【荒廃農地となる理由(その他)】

出典:農林水産省*2)

中でも中山間地域での鳥獣被害は深刻です。耕作放棄をストップするにはこれらの問題を解決しなければなりません。

耕作放棄地の何が問題なのか

ここまで、耕作放棄地の中心ともいえる荒廃農地についてまとめてきました。耕作放棄地が増加するとどのような問題点が発生するのでしょうか。主な問題は以下の3点です。

  • 食糧自給率の低下
  • 病害虫の被害や鳥獣被害の拡大
  • ごみの不法投棄

それぞれの内容を見てみましょう。

食糧自給率の低下

耕作放棄地の増加は、食糧自給率の低下に直結します。食糧自給率は耕地の減少と同じように低下を続けています。

【食糧自給率の推移】

出典:農林水産省*7)

農業生産額を基準とする生産額ベースでも、食物のカロリーをもとにするカロリーベースでも食糧自給率が低下しています。国際関係が安定している状態であれば、不足する食糧を海外から購入することができます。

しかし、国際情勢が悪化して思うように外国から食糧を購入できなくなると、食糧価格が大幅に上昇するかもしれません。最悪の場合、必要な食料を確保できない可能性もあります。そうなってから耕地を回復させようとしても間に合わないかもしれません。

害虫の被害や鳥獣被害の拡大

先ほども述べたように、耕作放棄地拡大の理由の一つに鳥獣被害がありました。鳥獣被害を理由に耕地を放棄すると、その場所が野生動物の活動領域となりさらなる鳥獣被害を引き起こす原因となります。

また、人の手による耕地の整備が行われなくなると雑草が繁茂して害虫発生の温床となります。害虫は鳥獣被害と同じようにさらなる耕作放棄地拡大の要因となります。

ごみの不法投棄

人の手が入らなくなった耕作放棄地は、人目につかない場所となるため産業廃棄物などの不法投棄の絶好のスポットとなります。環境省が発表した調査結果によると、2022年に発生した不法投棄の件数は134件、不法投棄量は4,9万トンに達しています。*7)

その全てが耕作放棄地で発生しているわけではありませんが、耕地が放棄されて人目につかない場所が拡大することで、不法投棄しやすい環境が形成されるのは否めません。

耕作放棄地問題の解決に向けた取り組み

増え続ける耕作放棄地に対して国や自治体はどのような取り組みをしているのでしょうか。ここでは耕作放棄地の発生防止対策と主な補助金について解説します。

耕作放棄地の発生防止策

耕作放棄地が増加すると周辺の農地に悪影響を及ぼします。それだけではなく、いったん荒れ果ててしまった耕地を再建するには多額の費用が必要となるため、耕作放棄地そのものを増やさないことが重要です。

国や自治体は耕作放棄地を増やさないために、以下のような対策を実施しています。

地域・集落の共同活動地域の環境整備やまちおこしなどの共同活動を促進地域の活性化を図り耕作放棄地の増加を防ぐ
鳥獣害対策電柵の整備荒廃農地を野生動物との緩衝帯として再生
農地中間管理機構農地中間管理機構が荒廃農地を借り入れて農地に再生
基盤整備ほ場整備事業で農地の大区画化※ほ場は農作物を栽培する場所のこと排水対策の実施
新規就農者の確保新規就農者の呼び込み
企業の参入民間企業による新規事業を支援製品の原材料供給地として整備
農産物の高付加価値化高収益作物の導入
農福連携事業福祉施設と連携し荒廃農地を活用した事業を実施

*8)

主な補助金

また、耕作放棄地の発生を防止するため、国や自治体は補助金を交付しています。主な補助金は以下のとおりです。

  • 多面的機能支払交付金
  • 中山間地域等直接支払交付金
  • 鳥獣被害防止総合対策交付金
  • 農山漁村振興交付金
  • 自治体ごとの補助金

多面的機能支払交付金

多面的機能支払交付金の目的は、農地や水路、農道などの地域資源の質的向上をはかることです。都道府県や市町村を通じて農業者に交付される場合と市町村単位で交付される場合がありますが、いずれも地域資源の長寿命化を図るために使用されます。*9)

中山間地域等直接支払交付金

中山間地域等直接支払交付金は、農業生産で不利な条件にある中山間地域の農業活動を維持するための交付金です。集落単位で農地を維持する取り決めを締結し、農業生産活動を行う場合に、面積に応じて一定額の補助金を交付します。*10)

鳥獣被害防止総合対策交付金

農産物への被害や農山漁村での生活に影響を与える鳥獣被害防止のため、鳥獣の捕獲強化やジビエとしての活用を行うための交付金です。補助金の交付対象は、侵入防止策や焼却施設の設置、クマに対する地域ぐるみの総合的な対策の支援、捕獲した鳥獣をジビエとして加工する設備の設置などです。*11)

農山漁村振興交付金

農山漁村振興交付金は、都市と農山漁村の交流人口の増加を目的とした補助金で、仕事や暮らし、地域の活力、土地利用といった観点から農村振興政策を総合的に推進するために使用されます。

農林水産物の出荷体制・加工・販売施設の整備や地域資源を活用した新商品の開発農村宿泊型のツアー実施、古民家を活用した滞在型施設の整備、障がい者が農業生産に携わる仕組みの構築等を行います。

自治体ごとの補助金

上記の対策以外にも、自治体ごとで独自対策を行っていることもあります。秋田県では遊休農地再生利用モデル事業として、遊休農地の再生に補助金を支出しています。神奈川県では、かながわ農業サポーター事業として農業の担い手育成や耕作放棄地の再生に補助金を出しています。同様の取り組みは日本全国で実施されているので、興味のある方はぜひ調べてみてはいかがでしょうか。*13)

耕作放棄地のビジネス活用事例

近年、耕作放棄地をビジネスで活用する動きが見られるようになりました。今回取り上げるのは以下の事例です。

  • 岩手県花巻市:高松第三行政区ふるさと地域協議会
  • 福島県大玉村:農業者12名(個人)
  • 香川県土庄町:株式会社イズライフ

岩手県花巻市:高松第三行政区ふるさと地域協議会

花巻市にある高松第三行政区は少子高齢化が進行した地域で、農業の担い手不足が深刻な問題となっていました。その中で2009年から、遊休農地を活用した貸し農園や福祉農園の事業をスタートさせています。

2011年からは、里山に自生しているガマズミやナツハゼの果実をゼリーに加工して販売しています。加えて、2014年からは福祉農園の農作物を活用した高齢者向け配食サービスを実施するなど、農業と高齢化対策を両立させる施策も実施しています。*14)

福島県大玉村:農業者12名(個人)

福島県大玉町は、米どころであり高品質のコシヒカリの産地として有名です。その一方で、畑作の高収益作物の作付けが少ないという課題がある地域でした。そこで、農業委員会が営農者を募り、4名の農業者が80アールの耕作放棄地でエゴマ栽培を始めました。

現在、エゴマ栽培の会員は12名となり、1.5ヘクタールの農地でエゴマを栽培しています。これにより2.2ヘクタールの荒廃農地の解消につなげました。生産したエゴマはエゴマ油に加工され、直売場やインターネットで販売されています。*14)

香川県土庄町:株式会社イズライフ

香川県土庄町は瀬戸内海に浮かぶ小豆島にある島です。小豆島といえばオリーブの産地として有名ですが、農業者の高齢化や後継者不足、鳥獣被害といった問題で耕作放棄地が増大していました。

株式会社イズライフはオリーブの加工食品開発を行う会社で、耕作放棄地を複数の地権者から借り受けてオリーブを栽培し消費者に直販しています。*14)これにより2021年度末までに経営面積を2.7ヘクタールまで拡大しました。

耕作放棄地とSDGs

イメージ画像

耕作放棄地の問題はSDGs目標2の「飢餓をゼロに」と関わりが深いテーマです。年々増加する耕作放棄地の拡大を防ぎ、食糧自給率を上昇させることはSDGsの観点から見ても重要なテーマです。詳しい内容を見てみましょう。

SDGs目標2「飢餓をゼロに」との関わり

SDGs目標2の「飢餓をゼロに」では、2030年までに世界中の飢餓をなくすことを目標としています。

【SDGs目標2のポイント】

耕作放棄地と関連が深いのは「持続可能な農業の確立」です。自然災害に左右されず、安定して作物を供給できる農業を確立できれば、食糧不足の不安がなくなり飢餓から解消されるだけではなく、農業から得られる収益も安定します。

日本人にとって飢餓は縁遠いものと感じるかもしれませんが、ほんの数百年前までは飢餓と隣り合わせの生活を営んでいました。過去の飢餓と隣り合わせの時代に逆戻りしないためには、自国の農業生産を大切にする必要があるのです。

まとめ

今回は耕作放棄地について解説しました。国土の4分の3を山林が占める日本において、中山間地域の狭い平地であっても貴重な農地でした。しかし、食糧が外国から容易に輸入できるようになると、利便性や高齢化などの問題から多くの農地が耕作放棄地となっています。

耕作放棄地の増大は、人が住む地域と野生動物が住む地域の境界性をあいまいにし、鳥獣被害や害虫被害を拡大させる要因となっています。食糧安全保障という観点から見ても、耕作放棄地の問題は放置できないものでしょう。

かといって、かつてのように中山間地域の農村を復興させるのは困難です。農地の集約化や合理化・大規模化を進めることで優良な農地を維持し、耕作放棄地の拡大を防ぐのが現実的な対応なのではないでしょうか。

参考
*1)農林水産省「農林業センサス等に用いる用語の解説
*2)農林水産省「荒廃農地の現状と対策
*3)オホーツク総合振興局「客土 – オホーツク総合振興局産業振興部中部耕地出張所
*4)農林水産省「50 荒廃農地等利活用促進交付金
*5)農林水産省「中山間地域(ちゅうさんかんちいき)とはどんな地域ですか。
*6)国土交通省「農業集落の変容と将来予測
*7)環境省「産業廃棄物の不法投棄等の状況(令和4年度)について | 報道発表資料 | 環境省
*8)農林水産省「荒廃農地の現状と対策
*9)農林水産省「多面的機能支払交付金
*10)農林水産省「中山間地域等直接支払交付金
*11)農林水産省「鳥獣被害防止総合対策交付金
*12)農林水産省「農⼭漁村振興交付⾦フル活⽤のススメ
*13)農林水産省「都道府県独自の荒廃農地対策事業一覧(令和5年4月時点)
*14)農林水産省「荒廃農地解消の優良事例集
*15)スペースシップアース「SDGs2「飢餓をゼロに」の現状と問題点や日本の取り組み事例と私たちにできることを徹底解説 – SDGsメディア『Spaceship Earth(スペースシップ・アース)』