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アレロパシーとは?強い植物や効果、雑草対策になる植物一覧を紹介

アレロパシーとは、植物が分泌する化学物質によりほかの植物や虫に作用を与える効果のことで、化学物質に頼らない害虫除去や雑草の抑制をするなどと、様々な場面で注目されています。

アレロパシーは植物を育てる人にとって必須の知識です。この記事では、植物の持つ見えない力の魅力をご紹介します。

アレロパシーとは?

【アレロパシーを放出するオオハンゴウソウ(特定外来生物)】

「アレロパシー」はギリシャ語の「互いに」と「あるものに降りかかるもの」という言葉を合わせて作られた合成語です。ドイツの植物学者モーリッシュによって1937年に提唱されました。

日本では「他感作用」と呼ぶ

アレロパシーとは「他感作用」とも呼ばれ、植物が放出する化学物質が影響して、他の生物に何らかの作用を及ぼすことです。この作用の効果は良い影響・悪い影響のどちらの場合もあり、ひとつの種類のアレロパシーのみでは効果が弱くても、ほかの種類の植物のアレロパシーと合わさることにより、効果が発揮される場合もあります。

アレロパシーのフィトンチッドとの違い

アレロパシーとほとんど同じ意味の言葉に「フィトンチッド」があります。フィトンチッドはロシアの植物・微生物学者トーキンによって、アレロパシーという言葉とほぼ同時期に造られました。

現在ではアレロパシーの方が一般的です。

また、アレロパシー物質の種類として

  • 抗生物質…微生物が作り微生物に作用
  • フィトンチッド…植物が作り微生物に作用
  • マラスミン…微生物が作り植物に作用
  • コリン…植物が作り植物に作用

といったように使われます。*1)

アレロパシーの効果が作用する経路

アレロパシーは何に対しても常に効果があるわけではありません。あくまで組み合わせが大切で、この特性は周囲の植物を全て枯らしてしまうといった現象ではなく、むしろアレロパシーの研究が進むことで、生物多様性を豊かにすると考えられています。

それでは、アレロパシーはどのように作用するのでしょうか?主な4つの作用経路について見ていきましょう。

①揮発性物質として放出される

葉からの呼吸など、植物の代謝の際に※揮発(きはつ)性物質を放出して作用します。例えば植物のにおいを感じた時、すでにその植物が放出した物質が揮発して分子となり、私たちの鼻に到達しています。

※揮発性物質…常温で蒸発しやすい液体の性質。

②葉から水分によって浸み出る

葉から雨などの水分によって物質が浸み出て作用します。主にその植物のすぐ下あたりの土壌や生物に影響を与えます。

③根から浸み出る

根から物質が浸み出ることによって作用します。主に地中で、その植物の根の周囲の土壌や生物に影響を与えます。

④枯れた葉などが蓄積して効果を及ぼす

落葉によって葉が積もったり、植物の残りかすが蓄積することにより作用します。特定の動植物を寄せ付けないなどの影響の他に、肥料の効果がある場合もあります。*2)

アレロパシーを識別する方法

アレロパシーが本当に存在しているか、またその効果を調べるためには様々な条件を揃えたり、アレロパシー以外の影響を排除したりと簡単ではありません。しかし研究が進み、その植物がアレロパシーを持っているかを識別する方法がいくつか確立されました。

アレロパシーの作用を調べるためには、

  • 栄養状態
  • 水の量
  • 光の当たり方
  • 空間の競合

などから植物が受ける影響を同じにして調べる必要があります。現在アレロパシーの検査にはその植物に合わせて下記のような方法があります。(少し専門的な内容になるので、読み飛ばしてしまっても問題ありません。)

置換栽培法

植物同士の影響を調べるために、植物の種類の組み合わせを変えて栽培する方法です。良い影響も悪い影響も調べることができ、主に野外の畑などで使われます。

階段栽培法

階段状に植物の鉢を並べて日当たり・栄養条件を同じにして違う種類の植物を交互に置いてお互いの影響を調べる方法です。この方法はガラス室実験で使われます。

無影日長栽培法

鉢の中央に混植した2種類の植物を仕切る不透明な板を立て、光が均一に当たるように円形回転床に乗せて回転させて栽培することにより光の当たり方と温度の影響を平等にします。階段栽培法と同様にガラス室での実験で使われる方法です。

根滲出液循環栽培法(連続的根滲出液捕集法)

樹脂などでできた管を植物の循環液(養分や水など)が流れる接続部に入れ、根から浸み出る物質による影響を調べる方法です。この方法もガラス室実験で使われます。*3)

アレロパシーの4つのメリット

では、アレロパシーにはどのようなメリットがあるのでしょうか。

アレロパシーのメリットとしては、効果の強いものから弱いもの、効果の種類、組み合わせなど多種多様で、目的と環境に合ったものを利用することで、化学肥料や農薬を使うよりも手間なく経済的に済むこともあります。また、化学物質による環境や人体への影響も抑えられることも大きなメリットです。

もう少し踏み込んで見ていきましょう。

メリット①農薬を使わず雑草を駆除

他の雑草の成長を抑制するアレロパシーの強い多年草を植えることで、雑草が生えることを防ぎます。「カバープランツ」「被覆植物」と呼ばれ、正しい品種を選ぶことにより、最も経済的かつ見た目も美しい除草対策が可能です。

【日本庭園などにも利用されるスギゴケ】

メリット②コンパニオンプランツによる効果

アレロパシーを上手く利用して、相性の良い野菜やハーブなどを一緒に植えると病気や害虫を抑制したり成長促進・収穫量増加・風味向上などの効果が期待できます。この相性の良い組み合わせをコンパニオンプランツ(共栄作物・共存作物)と呼びます。

【コーヒーと混植されているトマト】

メリット③緑肥作物による雑草の抑制

春、稲作前の田んぼにレンゲ畑が広がっている景色を見たことがありますか?これは、レンゲのようなマメ科植物の持つアレロパシーを利用して雑草を抑制しています。

このような「緑肥作物」と呼ばれるものにはレンゲの他にキク科のマリーゴールドやヒマワリ、イネ科のムギなどがあります。中には雑草の抑制だけでなく害虫・病害からの防除にも効果があるものもあります。

【緑肥の様々な効果】

メリット④安全性の高い※有機農薬の開発が期待

アレロパシーの効果を利用することで、化学物質のように人間や生物の健康を害したり、土壌を汚染したりすることのない安全な農薬の開発が期待されています。*4)

※有機農薬…科学的に合成された物質を使用しない農薬。「有機」の表示が許されるのは登録認定機関によって認定された場合のみ。

アレロパシーのデメリット

では、デメリットはあるのでしょうか。それぞれの植物のアレロパシー効果を知っておかないと上手く作物が育たなかったりなど、時には園芸・農業などの場面で障害となることもあります。また、ある植物の持つアレロパシー効果が強すぎて、周辺一帯の生態系が破壊されてしまうこともあります。

デメリット①アレロパシーで自滅?:連作障害

【連作障害が起きることで知られるアスパラガス】

「連作障害」とは、同じ場所に同じ種類または近い種類の作物を連続して植えると生育が悪くなり収穫量が低下するなどの影響が出ることです。古くから連作に弱い種類の作物などは知られていましたが、この連作障害の中にはアレロパシーが要因となっているものもあります。

デメリット②アレロパシー効果の強い外来種が在来種を駆逐

セイタカアワダチソウホテイアオイのように、他の植物の成長を抑制する強いアレロパシーを持つ外来種の植物が、元々生育していた在来種を駆逐し、在来種の築いていた生態系を破壊してしまうことが深刻な問題になっています。同様に、海外では日本由来のクズが猛威をふるっています。*5)

アレロパシーを持つ植物一覧・具体例

ここからは、実際にアレロパシーを持つ植物としてよく知られているものを紹介します。

トマト・バジル

【トマト:連作障害を回避するために水耕栽培で作られることも】

トマトとバジルを一緒に植えると良く育つことは知られていますが、これもアレロパシーの相互効果だと考えられています。トマトには特定の雑草を抑制するアレロパシーがあり、バジルには害虫を寄せ付けないアレロパシーがあります。

このような関係が先述したコンパニオンプランツ(共存作物)です。

セイタカアワダチソウ

【環境省が生態系被害防止外来種に指定:セイタカアワダチソウ】

茎は乾燥してお茶にしたりすだれの材料として利用されますが、根から周囲の植物の成長を妨げる物質を出します。セイタカアワダチソウは日本で初めてアレロパシー実験に利用され、日本で初めてアレロパシーが認められた背景があり、日本の代表的なアレロパシーを持つ植物として有名です。

ヘアリーベッチ

【ヘアリーベッチ】

ヘアリーベッチは、ナヨクサフジとも呼ばれるマメ科の植物で、欧米では牧草として利用されています。この植物は冬を越す事ができるうえ、雑草の成長を抑制する強いアレロパシーを持つため、園芸ではグランドカバーとして、農業では雑草対策や緑肥作物として利用されています。

マツ

【内陸砂丘に成立したアカマツ林:林床に植生が発達しない】

古くからマツの木陰には作物が育たないと言われてきました。これは、マツが日光を遮り光合成を妨げるからだと考えられていたのです。しかし、2000年代になってこれはマツの落葉によるアレロパシー効果が原因であることがわかりました。

ヒガンバナ

【田んぼのあぜ道のヒガンバナ】

ヒガンバナ(彼岸花)にはがあることはよく知られ、田んぼのあぜ道に植えておくとネズミやモグラが穴をあけるのを防いだり、防虫効果があると考えられてきました。このヒガンバナにも他の植物に対して有毒なアルカロイドというアレロパシー物質があります。

ホテイアオイ

【ホテイアオイ】

川や水路でよく群生している様子を見かけるようになったホテイアオイは、他の植物の生育を抑制するアレロパシーを持つ特定外来生物です。在来種の水生植物を駆逐してしまうほか、水面を覆い尽くすことにより光が遮られ、植物プランクトンやその他の水生生物の生息環境を悪化させることが大きな問題となっています。*6)

しそ

【しそ】

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栽培しやすさから、家庭菜園においても根強い人気を持つしそ。

しその香りはアレロパシーがあることで知られており、特にハーブ類の成長を阻害すると言われています。

シソ科であるバジル、ラベンダー、ローズマリーなども同様の傾向があります。

ローズマリー

【鉢植えのローズマリー】

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ローズマリーは乾燥に強く、鉢植えや庭のグランドカバーとしても人気のハーブです。

香り高さは肉料理などで重宝される一方、他の植物を育ちにくくしてしまう特徴を持ちます。

特にグランドカバー、土に直接植える際は検討が必要です。

アレロパシーを活用した農業の事例

最後に、アレロパシーを活用した農業事例を見ていきましょう。

アレロパシー効果の研究が進み、有効な利用法が次々と確立されているため、農業の利用事例は増加しています。代表的な例を紹介します。

草刈りゼロ化

特に水田稲作において、草刈り作業はとても大変で、草刈機の利用など危険も伴う作業です。この作業の省力化・省コスト化のために、他の雑草を抑制する強いアレロパシーを持つムカデ芝(センチピードグラス)で周囲の地面を覆うことで、効果的に雑草の抑制ができます。

【ムカデ芝(センチピードグラス)のために開発されたシート】

緑肥作物の利用

ヘアリーベッチというマメ科の牧草のアレロパシーを使った有機栽培農業の取り組みが推進されています。ヘアリーベッチには雑草の抑制効果・テントウムシが増えることからの害虫を寄せつけない効果の他に、作物の病害も減らすアレロパシー効果が確認されています。*7)

【ヘアリーベッチの導入と減肥がスイートコーンの収量に及ぼす効果】

まとめ:アレロパシーを知って、うまく植物と付き合おう!

【大規模大豆農家】

古くから農業に携わる人たちの間では、特定の作物の持つ不思議な力植えるとき相性の良い種類・悪い種類などは知られていました。近年アレロパシーが注目されるようになったのは、環境汚染人体への影響の問題から化学肥料農薬を減らしたり、それらを全く使わない農業への取り組みが増えてきたりしたからです。

農業や園芸をする人はもちろんのこと、例えば防虫効果のある植物をうまく利用して、家へ蚊の侵入を防ぐなど、普段の生活にも応用できるものもあります。

これからも植物のアレロパシーはどんどん解明されていくでしょう。その先には今よりずっと、化学肥料や農薬に頼らない社会が実現するかもしれません。

あなたもアレロパシーを生活に応用できる場面を探してみてください。そのような小さな取り組みも、有害な化学物質の利用を減らす第一歩となります。

〈参考・引用文献〉
*1)アレロパシーとは?言葉の意味
出典:藤井義晴(東京農工大学教授)『植物の香り物質の アレロパシーにおける役割』(2020年9月)
出典:岡山理科大学『群集生態学 アレロパシー Allelopathy』
*2)アレロパシーの作用する経路
出典:藤井義晴(東京農工大学教授)『アレロパシー研究の最前線』(2004年9月)
*3)アレロパシーを識別する方法
出典:日本土壌肥料学舎『 無影日長栽培法と階段栽培法によるトマトの他感作用の検証』
*4)アレロパシーのメリット
出典:佐久間 千恵(独立法人水資源機構水路事業部)『カバープランツを活用した水路景観向上と除草費用縮減の試み』
出典:農林水産省『緑肥利用マニュアル-土づくりと減肥を目指して-』
*5)アレロパシーのデメリット
出典:駒田 旦(農林水産省農業研究センター)『作物の連作障害(イヤ地)とは』
*6)アレロパシーを持つ植物
出典:藤井義晴(東京農工大学教授)『アレロパシー研究の最前線』(2004年9月)
出典:帯広畜産大学『マツ科樹木の産生する二次代謝物質が示す他感作用 力の検定と作物栽培への応用』(2010年1月)
出典:国土交通省『ホテイアオイの生態的特徴と対策手法』
*7)アレロパシーを活用した農業の事例
出典:農林水産省『農地畦畔における草刈り“ ゼロ化 ”管理の省力化技術の開発 』出典:農林水産省『緑肥利用マニュアル-土づくりと減肥を目指して-』