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アンビエント発電とは?未利用熱を利用する原理、メリット、今後の課題

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工場や発電所、冷暖房から排出される熱や、河川や下水、雪氷熱などはこれまで利用されないエネルギーでした。そこで、さまざまな技術を使い、これらの未利用熱を利用できるエネルギーに変換していこうというのがアンビエント発電です。

この記事では、アンビエント発電とその利用技術や仕組み、注目されている理由、メリット、デメリット・課題、取組事例、SDGsとの関係を紹介します。

アンビエント発電とは?

アンビエント発電とは、周囲の環境(アンビエント)熱を利用して発電を行う技術のことです。

工場や発電所、冷暖房から排出される熱をはじめ、河川や下水、雪氷熱などは、これまで利用されることはありませんでした。アンビエント発電は、これらの未利用熱を電力へ変える変換エネルギーテクノロジーです。

未利用エネルギーの種類

未利用熱を使った未利用エネルギーの種類には、「排熱」と「環境熱」の2つに大きく分けられます。

■未利用エネルギーの種類

【排熱】

  • 工場排熱
  • 清掃工場の排熱
  • 変電所の排熱
  • 超高圧地中送電線からの排熱
  • 地下鉄や地下街の冷暖房排熱

【環境熱】

  • 生活排水や中・下水の熱、地中熱
  • 河川水、海水の熱
  • 雪氷熱[i]

これらの未利用エネルギーは、排熱を発電に直接利用する方法と、熱をくみ取る(ヒートポンプ)、または捨てる(ヒートシンク)方式などのさまざまな利用形態があります。中でも開発が進められている主な技術について次にご紹介します。

アンビエント発電の利用技術と仕組み

未利用エネルギーを活用するためには、その特質を見極めた上で、需要と供給に合った技術を使用する必要があります。現在、さまざまなシステムが考案されていますが、その中でも代表的な4つの技術について見ていきましょう。

排熱利用技術(コージェネレーション)

コージェネの基本形態
(引用元:コジェネ財団「コージェネの基本形態」)

排熱利用技術は、工場などから排出された熱を空調用の吸収式冷凍機や熱交換器の熱源として利用する方法です。これはコージェネレーションと呼ばれ、天然ガスや石油、LPガスなどを燃料として発電した際に生じる廃熱を回収するシステムを言います。回収した廃熱は、工場の熱源や家庭・オフィス・病院などの冷暖房や給湯設備などに利用されます。[ii]

ヒートポンプ技術

(引用元:特定非営利活動法人地中熱利用促進協会「地中熱利用形態」)
(引用元:特定非営利活動法人地中熱利用促進協会「地中熱利用形態」)

ヒートポンプ技術には、主にクローズドループとオープンループの2種類のシステムがあります。クローズドループは、地中熱交換器により地中から熱を取り出し、その熱をヒートポンプで必要な温度に変換するシステムです。冷暖房や給湯を効率的に行うことができます。一方オープンループは、地下水の熱をヒートポンプで取り出す方式です。[iii]

アメリカやヨーロッパで技術開発が進められていますが、日本は世界トップレベルの高効率ヒートポンプ技術を持っています。

雪氷利用技術

雪氷利用技術は、雪や氷の冷気、溶ける際の融解熱を農作物の保冷や冷房用に利用するシステムです。北海道や東北地方、日本海沿岸部などの降雪量の多い地域で実施されています。他にも、外気を利用して自動で製氷し、春・夏・秋季の農作物を冷凍する雪氷利用システムもあります。

オフライン熱供給(搬送)技術

(引用元:三機工業株式会社「トランスヒートコンテナ(熱の宅配便)」)
(引用元:三機工業株式会社「トランスヒートコンテナ(熱の宅配便)」)

未利用熱を配管などで送り込む「オンライン」方式ではなく、自動車などを使って熱を運んで利用する技術が「オフライン熱供給(搬送)技術」です。廃棄物焼却施設や工場などから排出された熱を蓄熱タンクにためて車で運び、熱交換器を通じて病院やオフィスビルなどの給湯や空調の熱源に使います。

海水・湖水温度差利用技術

(引用元:沖縄県海洋温度差発電実証試験設備(OTEC実証設備)「海洋温度差発電のしくみ」)
(引用元:沖縄県海洋温度差発電実証試験設備(OTEC実証設備)「海洋温度差発電のしくみ」)

海水・湖水温度差利用技術とは、太陽に温められた海洋の表面温度と深層部の温度の差を利用して発電を行うシステムを言います。温度差をタービンにより電力に変換します。[iv]この発電技術は、フランスの医師・物理学者であるジャック・アルセーヌ・ダルソンバールにより1881年に発表されました。日本をはじめ、アメリカやフランス、中国などで開発が進められています。

アンビエント発電はなぜ注目されている?

アンビエント発電が注目されている理由に、日本のエネルギー事情と温室効果ガス削減努力があります。

一次エネルギーの有効活用

日本の一次エネルギーは、電力や燃料などに変換・輸送・貯蔵する過程で3~4割が熱となって失われてしまいます。さらに、最終的にエネルギーが消費される段階になると6~7割に達します。

(引用元:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合研究所「省エネルギーへのフロンティア」)
(引用元:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合研究所「省エネルギーへのフロンティア」)

日本は、石油や石炭、天然ガスなどの一次エネルギーの9割を輸出に頼っています。その半分以上を失うことは大きな損失になるため、有効に活用していくことが求められています。[v]

二酸化炭素の排出削減

政府は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体でゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを発表しています。石油や石炭などの化石燃料は、使用する際に二酸化炭素を排出します。そのため、目標の達成にはエネルギーを効率よく利用することが必要です。

アンビエント発電は、未利用熱を電力にすることで化石燃料の使用量を減らすことができます。その結果、温室効果ガスを削減できるとして期待が集まっています。

【関連記事】脱炭素とは?カーボンニュートラルとの違いや企業の取り組み、SDGsとの関係を解説

アンビエント発電のメリット

アンビエント発電には、主に3つのメリットがあります。

メリット①未利用熱を利用できる

先に述べたように、一次エネルギーの9割を輸入に頼っている日本ですが、その6~7割が未利用熱として失われています。アンビエント発電により、これまで使われずにいたこれらの熱を活用すれば、省エネルギー化を実現できます。

メリット②効率的な発電が可能になる

排熱や環境熱を利用することで、本来必要な燃料や電池の使用を抑えるほか、効率的な発電が可能になります。例えば排熱利用技術(コージェネレーション)では、火力発電による発電の総合効率が40%であるのに対して、燃料がもともと持っているエネルギーの75~80%という高効率利用できるのが魅力です。[vi]

メリット③持続的社会に貢献できる

アンビエント発電は、排熱や環境熱などの熱により発電するため、化石燃料の使用を減らすことができます。必要な電力も少ないため、省エネを実現する発電です。さらに、二酸化炭素の排出量を抑えられるので、クリーンなエネルギーとして持続可能な社会の実現に貢献できます。

アンビエント発電のデメリット・課題

アンビエント発電にはデメリットや課題もあります。それは主に、未利用エネルギーの特徴でもある次の3つの点です。

デメリット①広い範囲に分布している

排熱や環境熱エネルギーは広範囲にわたるため、効率的な回収が難しい場合があります。

デメリット②熱を利用できる時間が変動する

工場などの熱の発生地によっては熱を回収できる時間が限られているため、どのように貯蔵するのかが課題です。

デメリット③熱の発生地と需要地の距離が離れている

熱の発生地と利用する場所が離れている場合、スムーズなエネルギー輸送を行う必要があります。[vii]

いずれの特徴も、技術的な面を向上することやインフラを整備するなどの対応により解決していく必要があるでしょう。

アンビエント発電の事例

アンビエント発電を行う2つの事例を見ていきましょう。

【工場排熱利用】製菓工場(コンプレッサー排熱利用)

(引用元:特定非営利活動法人地中熱利用促進協会「地中熱利用形態」)
(引用元:矢崎エナジーシステム株式会社「工場廃熱利用 | 脱炭素事例 | カーボンニュートラル対応機器」)

ある製菓工場では、既設の電気式空調機に廃熱利用機を増設して発電を行っています。

■仕様

  • 電気式空調機:冷房出力176kW
  • 廃熱利用機:冷房出力 105kW

■システム概念図

(引用元:矢崎エナジーシステム株式会社「工場廃熱利用 | 脱炭素事例 | カーボンニュートラル対応機器」)
(引用元:矢崎エナジーシステム株式会社「工場廃熱利用 | 脱炭素事例 | カーボンニュートラル対応機器」)

廃熱利用機による未利用熱は、上図のように熱を冷却塔により冷水に変換してエネルギーにしています。

(引用元:矢崎エナジーシステム株式会社「工場廃熱利用 | 脱炭素事例 | カーボンニュートラル対応機器」)
(引用元:矢崎エナジーシステム株式会社「工場廃熱利用 | 脱炭素事例 | カーボンニュートラル対応機器」)

また、既設機のベース運転分を賄うことで、電気の使用量を約40%、二酸化炭素の排出を約67トン/年削減しました。[viii]効率的な利用と持続的社会への貢献を実現しています。

【ヒートポンプ技術】尾三消防本部 豊明消防署

(引用元:特定非営利活動法人地中熱利用促進協会「地中熱利用実績」)
(引用元:特定非営利活動法人地中熱利用促進協会「地中熱利用実績」)

愛知県豊明市にある消防署では、2基の既存熱源機のうち1基を改修して、地中熱源水冷ヒートポンプチラー(クローズドループ)を設置し、発電を行っています。

■ヒートポンプ仕様

  • 地中熱源水冷ヒートポンプチラー
  • 定格能力:冷却90.6kw、加熱99.0kw
  • 定格消費電力:冷却19.0kw、暖房26.6kw

■システム概念図

(引用元:特定非営利活動法人地中熱利用促進協会「地中熱利用実績」)
(引用元:特定非営利活動法人地中熱利用促進協会「地中熱利用実績」)

このシステムにより生み出されたエネルギーは、消防署内の事務所やホール、廊下などの空調に利用されています。

また、1年間の一次エネルギーの消費量を、ヒートポンプを取り付けていない基体と比較してみると次のような推移になりました。

(引用元:特定非営利活動法人地中熱利用促進協会「地中熱利用実績」)
(引用元:特定非営利活動法人地中熱利用促進協会「地中熱利用実績」)

緑色のグラフがヒートポンプを設置した装置です。設置していない黄色のグラフと比べて消費量が少ないことが分かります。また、二酸化炭素の削減量は年間39.6トンを達成し、削減率は53%でした。省エネ率は年間54%に上っていることから、この事例においても、効率的なエネルギー利用ができていると言えます。[ix]

アンビエント発電に取り組むGCEインスティチュート

次に、新しい発電技術の開発に取り組み、アンビエント発電の実用化を目指している株式会社GCEインスティチュートをご紹介します。同社は、温度差がなくても熱を電気に変えるアンビエント発電の実用化を目指すスタートアップ企業です。

この技術は、大掛かりな装置が必要ないほか、熱があればどこでも発電できるという特長があります。

アンビエント発電を行う熱電変換素子自体はとても小さく、場所を取りません。さらに、積み重ねたり並べて面積を広くしたりすることで、高い出力が可能です。

実用化すれば、スマートフォンやパソコンからの放熱により発電し、その電力を充電の一部に利用できます。家庭の給湯機や風呂の熱源を使って、家の電力を賄うことも可能になるでしょう。

この技術は、先端技術を活用した新製品を表彰する「第3回いばらきイノベーションアワード」にて大賞を受賞しています。[x]

【関連記事】株式会社GCEインスティチュート|未利用熱を次世代のエネルギー源にするために、新開発の発電技術の実用化を目指す

アンビエント発電とSDGsの関係

最後に、アンビエント発電とSDGsの関係について確認していきます。アンビエント発電は、目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、目標12「つくる責任つかう責任」、目標13「気候変動に具体的な対策を」に関係があります。

目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」

目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」は、2030年までに再生可能エネルギーの割合を増やすほか、エネルギー効率の向上を目指しています。

アンビエント発電は、排熱や環境熱を利用することから、二酸化炭素の排出を削減できるクリーンなエネルギーです。また、化石燃料に比べて環境の負担が少なく、エネルギー効率を上げることが可能なことから、この目標の達成に貢献しています。

目標12「つくる責任つかう責任」

目標12「つくる責任つかう責任」では、2030年までに天然資源の持続可能な管理と効率的な利用を実現するというターゲットが設定されています。

石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料は、限りある資源です。使い続ければいつかはなくなってしまうでしょう。アンビエント発電は化石燃料の使用を減らせるため、天然資源を守ることができます。

目標13「気候変動に具体的な対策を」

目標13「気候変動に具体的な対策を」では、気候変動に対して緊急に対応することを求めています。

アンビエント発電により、温室効果ガスである二酸化炭素の排出を抑えることができれば、気候変動への対策になります。利用効率が上がることで、さらに強化できるでしょう。

まとめ

アンビエント発電は、周囲の環境熱を利用して行う発電技術のことです。これまで利用されてこなかった工場や発電所、冷暖房から排出される熱をはじめ、河川や下水、雪氷熱などを、排熱利用技術やヒートポンプ技術、雪氷利用技術などにより電力へ変えます。

日本は一次エネルギーの9割を輸入に頼っていることに加え、その利用過程で6~7割が熱となって失われています。アンビエント発電が注目されているのは、この利用されないエネルギーを有効に活用できる点です。また、化石燃料の使用を抑えることができるので、二酸化炭素の排出を削減できるほか、効率的な発電ができるメリットがあります。一方で、排熱や環境熱を安定して回収・貯蔵・運搬する方法を開発することが課題です。

そしてアンビエント発電は、SDGsの目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、目標12「つくる責任つかう責任」、目標13「気候変動に具体的な対策を」の達成に貢献します。限りある天然資源を大切に使い、クリーンなエネルギーを普及していくことで気候変動への対策が期待されるのです。

新しい技術も開発されているアンビエント発電は、そのニーズに応えて今後ますます広がっていくでしょう。

<参考文献>
※[i] 国立環境研究所 環境情報メディア環境展望台「環境技術解説-未利用エネルギー」を元に作成
※[ii] コジェネ財団「コージェネの基本形態
※[iii] 特定非営利活動法人地中熱利用促進協会「地中熱利用形態
※[iv] 沖縄県海洋温度差発電実証試験設備(OTEC実証設備)「海洋温度差発電のしくみ
※[v] 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合研究所「省エネルギーへのフロンティア
※[vi]一般財団法人 コージェネレーション・エネルギー高度利用センター「コージェネの特長
※[vii] 国立環境研究所 環境情報メディア環境展望台「環境技術解説-未利用エネルギー
※[viii] 矢崎エナジーシステム株式会社「工場廃熱利用 | 脱炭素事例 | カーボンニュートラル対応機器
※[ix] 特定非営利活動法人地中熱利用促進協会「地中熱利用実績
※[x] GCE Institute「未利用熱を次世代のエネルギーに