#インタビュー

【SDGs未来都市】愛知県安城市|ケンサチなまちづくりをベースに、地域でSDGsに取り組む仕組みづくりを

愛知県安城市

愛知県安城市 橋本 美香子さん インタビュー

安城市は昭和27年5月5日に市制を施行し、県下13番目の市として誕生しました。明治用水の豊かな水にはぐくまれ「日本デンマーク」と呼ばれるほど農業先進都市として発展してきましたが、中部経済圏の中心である名古屋市から30キロメートルという近い距離や、豊田市などの内陸工業都市や碧南市などの衣浦臨海工業都市に隣接するという地理的条件にも恵まれ、自動車関連企業をはじめとする大企業の進出、住宅団地の建設が盛んになり、急速に都市化が進んできました。また、工場や住宅がたくさんできたことによって商業も盛んになり、市制施行当時37,704人であった人口は、今では19万人ほどに成長し、農・工・商業のバランスのとれたまちとなっています。

introduction

名古屋都市圏の一角を占め、世界的な自動車メーカーを支える自動車産業都市として栄える一方で、農業先進都市でもある安城市。

2021年には市の政策を統括する企画政策課を「健幸=SDGs課」と改称し、市民や企業と共にSDGsに取り組んできました。2022年には愛知県内で8番目となる「SDGs未来都市」に選定され、さらに取り組みを加速させています。

今回は健幸=SDGs課の橋本さんに、地域でSDGsの実現に取り組む仕組みづくりについて伺いました。

健幸(ケンサチ)なまちの実現が、SDGsのゴールを目指すことにつながる

–はじめに、安城市のご紹介をお願い致します。

橋本さん:

安城市は名古屋市から電車で20分ほどのところ、愛知県の中央に位置するまちです。かつては「日本デンマーク」と謳われ、農業先進都市として栄えてきました。現在栽培されている農産物では米、ナシ、イチジクなどが有名で、市内の産直市場は週末になると新鮮な農産物を買い求める人で賑わいます。

また、自動車産業を中心とした製造業が盛んな地域としての側面もあります。雇用や所得、安定した人口規模の維持に関してはこの恩恵を強く受けていて、農・工・商のバランスの取れたまちになっています。

–2022年には「SDGs未来都市」に選定されています。こちらに応募した経緯を教えてください。

橋本さん:

安城市は「健やかと幸せを実感できる“健幸”のまち」をテーマにまちづくりを進めていますが、これを実現させることはSDGsの実現を目指すことにもつながります。本市には大きく3つの課題があり、健幸なまちを実現し、SDGsのゴールを目指すためにはそれらを解決していく必要があると考えています。

1つ目は経済面の課題です。具体的には、CASE革命(※1)やSociety5.0(※2)に代表される産業構造の大革命への対応です。安城市は自動車産業を中心とした製造業に頼っている部分が大きいので、これらの影響を受けやすく、今後の対応を考えていかないといけません。 

CASE

Connecter(自動車のIoT化)、Autonomoue(自動運転)、Shared & Services(シェア&サービス)、Electric(電動化)の頭文字を取った造語。今後の自動車産業で期待される技術革新を表す重要なキーワードで、自動車業界のみならず社会全体に変革をもたらすとされている。

Society5.0

仮想空間と現実空間が融合した社会。経済発展や社会問題の解決に向けて、テクノロジーを最大限に活用していく社会を意味する。

2つ目は社会面の課題です。安城市は他の地域に比べると緩やかではありますが、少子高齢化も進んでいますし、生産年齢人口も減少しています。また、これからは人生100年時代になっていくので、それを踏まえて「健康で幸せに暮らし続けられる都市」、まさに「健幸のまちづくり」を推進していかなければいけません。

3つ目には環境面の課題があげられます。農業が盛んな安城市は森や水の恩恵を受けて発展してきたまちで、環境都市を目指しています。ただ、さきほどお話しした通り、自動車産業を中心とした製造業に支えられている地域でもあります。カーボンニュートラルが叫ばれている今、改めて暮らしや産業、森の恩恵について考え直し、脱炭素に対する意識の醸成を図っていくことはまだまだ必要だと感じています。

これらの課題を解決する推進力となるものが公民連携の取り組みだと考えていて、それらを進めていくために「SDGs未来都市」に応募したという経緯があります。

公民連携によるウェルビーイングな脱炭素社会の実現とは?

–「SDGs未来都市」応募にあたり、提案した「安城ならではの公民連携によるウェルビーイングな脱炭素社会の実現」に向けた取り組みについて具体的に教えてください。

橋本さん:

現状、実施している取り組みとしては、中小企業者のカーボンニュートラルの推進のため、商工会議所や地元企業と連携し、カーボンニュートラルセミナーを開催しています。また、エコ工作やエコ料理など、楽しみながら環境について学ぶ環境学習拠点「エコきち」の活用や、本市の水源である長野県根羽村と連携し、森の保護育成や水資源を守るための啓発活動にも取り組んでいます。

さらに、資源やエネルギーの循環利用も促進しています。例えば、東邦ガス株式会社様と「カーボンニュートラル推進等に関する包括連携協定」を締結し、同社が安城市の廃棄物処理施設「環境クリーンセンター」などでつくられたCO2フリー電力や実質的にCO2排出ゼロとみなされる「カーボンニュートラルな都市ガス」を、市庁舎や小学校などに供給することで、年間4,700トンのCO2削減に貢献しています。これは愛知県内の自治体として初の試みです。

もう一つ、サントリーグループ様と協定を締結し、使用済みペットボトルの「ボトルtoボトルリサイクル事業」もスタートしています。これは、本市で収集した使用済みペットボトルを原料化した上でペットボトルに再利用し、何度も資源循環することができる仕組みです。

2024年1月からは、プラスチック資源の一括回収と再商品化にも取り組み始めます。これまではプラスチック製容器包装だけをリサイクルし、プラスチック製品は燃やせるごみとして焼却、または燃やせないごみとして埋め立てていました。今後はプラスチック資源を一括で回収し再商品化することで、より効率よくリサイクルできるようになります。

これらの事業は既に実施中のもの又は実施することが決まっているものですが、「2050年カーボンニュートラル」という極めて高い目標を達成するためには、今後も、視野を広く持ちあらゆる可能性を考え、公民連携のもと新たな事業・取り組みを検討していく必要があると考えています。

SDGsに取り組む企業と共に進める、持続可能なまちづくり

–今お話しいただいたような個別の取り組みとは別に、健幸=SDGs課では総合的な取り組みとして「あんじょうSDGs共創パートナー制度」を立ち上げています。こちらはどのような制度ですか?

橋本さん:

こちらは安城市に本社を置く碧海信用金庫様と連携して立ち上げた、公民連携のプラットフォームです。公民連携による地域課題の解決や、持続可能な社会をつくっていくことを目的として2021年10月に立ち上げました。SDGsの達成に向けた取り組みや活動を実施している、または今後取り組む予定がある企業や団体が登録できる制度になっています。安城市の取り組みに賛同してくださる事業者であれば、市内・市外問わずパートナーに応募できるようになっていて、2023年11月14日現在で232社の企業・団体に登録いただいています。

具体的な活動としては、安城市主催でパートナー交流会を実施しています。普段顔を合わせることが少ない異業種の方々が一堂に会して名刺交換や情報交換などができるので、横のつながりが得られる場になっています。

また、パートナーさんの取り組みなどをお知らせするメールマガジンを定期的に配信しています。内容としては市からのお知らせもありますが、パートナーさんから皆さんにお知らせしたい内容を随時募集しているので、例えば何か協力者を募りたい場合などにも活用いただけるようになっています。

さらに、パートナーになると「あんじょうSDGs共創パートナー」オリジナルロゴマークを使用することができるので、登録いただいた時点でデータをお送りして自由に使っていただいています。登録証もお送りしているので、会社の玄関などに飾ってくださる方が多く、パートナー企業だということは一目で分かるようになっています。

子どもから大人まで幅広く、SDGsの実現に向けた取り組みを発信していく

–2021年の制度立ち上げから2年ほどたちますが、企業や市民の中でSDGsへの関心が高まってきていると感じますか?

橋本さん:

企業ではSDGs達成に向けて取り組むこと自体が当たり前になってきているので、「SDGsのために何をやったらいいか分からない」という事業者は見かけなくなりました。また市民の中では、最近特に子どもたちの間にSDGsが浸透していると感じることがありますね。

安城市では、持続可能な未来を考えるきっかけとなる出前授業を小中学校で実施しています。私も付き添いで小学校に行ったところ、胸に付けているSDGsのバッチを見て、「あ!SDGsだ!知ってるよ!」とみんな反応してくれるんです。まだ小学4年生の子どもたちでしたが、SDGsにすごく興味を持っている印象でした。

–4年生でそれはすごいですね。SDGsの啓発活動として、出前授業以外にも取り組んでいることはありますか?

橋本さん:

高校生を対象に「高校生活躍応援プロジェクト」を実施しています。これは、市内の高校生が「あんじょうSDGs共創パートナー」の企業を訪問して、その取り組みについてインタビューを行う事業です。

この事業の目的は、地域で実際にSDGsがどのように取り組まれているかを知ることです。加えて、そもそも地元にどういう企業があるのかを知らない高校生が多いので、自分たちで訪問して直接話を聞くことで、就職など将来の幅も広がるのかなと思っています。高校生たちがまとめたインタビュー記事は、SDGs特設サイトに掲載しています。2023年度は16社を訪問し、現在は40件ほどのインタビュー記事が掲載されています。

参加は完全応募制で高校にチラシを置いてもらっているので、例えば担任の先生が呼びかけて学校を通して申し込まれることもありますし、掲示してあるチラシを見て自分で応募してきたというパターンもありました。定員は30名程度ですが、自分で「行きたい!」と応募してきてくれた子が私たちの想定よりも多くてびっくりしましたね。それだけ高校生たちもSDGsに関心を持ってくれているということだと思います。

インタビュー自体は夏休み期間中に行います。お友達同士で応募してくるパターンが多いので、なるべくそこは一緒になるようにチーム分けしていますが、まったく別の高校の子たちで1つのチームを組むこともあるので、高校生同士の交流も生まれています。また「友達が書いた記事」ということで、同年代の子たちが見てくれるのではないかという狙いも実はありまして、企業の取り組みを幅広く知っていただける、良い啓発活動になっているのではないかと思っています。

–取り組みを知っていただくきっかけとしてはもちろん、高校生の就職活動にもつながっていくかもしれない、いろいろな可能性があるプロジェクトですね。ほかに子どもだけでなく幅広く市民を対象に取り組んでいる啓発活動はありますか?

橋本さん:

年度末の3月に、市民のみなさんにSDGsを身近に感じていただくためのイベントを企画しています。以前開催した時は、マルシェのような形でキッチンカーや飲食店が出店したりしましたが、今回はパートナー企業に協力を募って実施しようと考えています。

今回このイベントを企画するにあたり、市民の皆さんに「SDGsをテーマとしたイベントに対してどのようなことを期待しますか?」というアンケートを取ったところ、「ワークショップ等で楽しい体験をする」という回答がすごく多かったんです。それを参考にしながら、満足していただけるようなイベントにしていきたいですね。「高校生活躍応援プロジェクト」に参加してくれた高校生たちに、インタビューについて発表してもらう機会を設けるのも良いかなと思っています。

「あんじょうSDGs共創パートナー制度」をブラッシュアップ!

–それでは最後に、今後の展望をお聞かせください。

橋本さん:

SDGs未来都市に選定されて以降、「あんじょうSDGs共創パートナー制度」の登録パートナーが目に見えて増えました。市外・県外からの登録も増加しています。やはりSDGs未来都市に選定されたことで、安城市のSDGsに関する取り組みを知っていただけているのかなという印象はあります。

その中で、「あんじょうSDGs共創パートナー制度」をブラッシュアップしていきたいと考えています。

現在、「交流会に参加してくださるパートナーさんが、いつも同じメンバーになりがち」「パートナーさんと安城市の二者間だけのやりとりが多い」ことを課題に感じています。今後はそれを変えていきたいですね。

例えばパートナーさん同士が自発的に交流して「こんなことをしてみたらいいんじゃないか?」とアイディアを出し合って連携していけるような仕組みづくりを目指していきたいです。

そして「あんじょうSDGs共創パートナー制度」は、まだまだ仲間を募集しています。パートナーに登録してくださる事業者の方が多ければ多いほど、みなさんがSDGsに取り組むきっかけが広がっていくと思うので、ぜひ登録していただきたいですね。

–パートナー同士の交流が活性化することで、安城市のSDGsの取り組みも盛り上がっていきそうですね。本日はお忙しい中ありがとうございました。