オーストラリアは、世界有数の資源大国です。
日本も多くの資源をオーストラリアから輸入しており、オーストラリアからのエネルギー輸入率は1位・2位と非常に高くなっています。
日本にとっても必要不可欠なオーストラリアの資源ですが、実は資源の生産・輸出は環境に大きな影響を及ぼしているのです。
そこで今回は、オーストラリアが行う資源供給と環境保護の両立のための対策をご紹介していきます。
環境への配慮によって日本への資源供給が成り立っていることを再確認し、資源の重要性について考えてみましょう。
目次
オーストラリアは資源が豊富な国
日本の約20倍の国土を持つオーストラリアには、石炭、石油、天然ガス、ウラン、鉄鉱石、ボーキサイト、金をはじめとする多くの資源が眠っています。
オーストラリアの輸出品の実に7割が天然資源と言われており、鉄鉱石、石炭、液化天然ガスの輸出量は世界でも常に上位を記録しています。
資源供給による自然環境への影響
オーストラリアの資源は、国内のあらゆるエリアで発掘できます。
オーストラリアの西側では鉄鉱石と金、東側では石炭、北側にはボーキサイトが多く、中央部では金が豊富です。
しかし、国土全体に資源があるということは、国内の至る所でエネルギー供給施設を建設・稼働されなければならないということを意味します。
オーストラリアの資源は、海岸沿い、森、砂漠をはじめとする美しい自然の中にあります。
資源を供給するために自然を切り開く必要があることから、動植物を含む自然環境への影響も懸念されているのです。
ここでは、オーストラリアの資源供給による4つの影響をご紹介していきます。
①公害問題
エネルギー供給施設からは、酸、ガス、粒子状物質といったさまざまな物質が排出されます。
大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、悪臭をはじめとする公害が発生しやすく、環境への被害は甚大であると考えられています。
②野生動物の生息地減少
資源を供給するにあたって、大規模な敷地と設備が必要です。
多国に輸出するほどの資源量を生産するためには、東京ドーム約70個分の土地を開拓してエネルギー供給施設を建設しなければなりません。
森や砂漠を切り開くことも多く、その地に生息していた野生動物たちは移動を余技なくされています。
残っている森や砂漠の面積が広い場合、野生動物には新たな生息地を見つけるチャンスがあります。
しかし、大規模な伐採や開拓を行うと、野生動物の個体数に対して生息地の面積が足りないという問題が起こってしまうのです。
③動植物の生理機能への異常
エネルギー供給施設は、24時間稼働しているのが一般的です。
そのため、夜間には大量の照明が使用され、エネルギー供給施設を含めた辺り一面は明るくなります。
夜中も作業する上で必要不可欠な照明ですが、周辺に生息する動植物の生理機能に大きな影響を及ぼします。
本来なら暗くなるべき夜に明るいというのは、自然界ではありえない現象です。
常に太陽が出ているような状態になるため、植物の成長や開花のタイミングが狂う可能性が高くなっています。
また、一定の光を浴びたワラビーの生殖機能が低下した、カクレクマノミの卵が孵化しなくなった、鳥類のストレスレベルが上昇したといった報告もされており、照明の存在が多くの生物にとっていかに有害であるかが分かります。
④外来種の動植物が持ち込まれる
エネルギー供給施設の建設に伴い、多くの人や資材が他の地域から持ち込まれます。
植物の種・花粉が人に付着していたり、生きた動物が紛れ込んでいたりするケースも多く、流れ着いた動植物は外来種として侵略を始めてしまうのです。
外来種が増えると在来種の減少や絶滅に繋がるため、エコシステムに大きな悪影響を及ぼすと考えられています。
被害を最小限に抑えるための対策
ここでは、オーストラリアが資源供給と環境保護を両立させるために実施する対策についてお話ししていきます。
①希少な動植物の存在確認
エネルギー供給施設の建設を開始する前に、建設予定地の動植物に関する調査を行う必要があります。
絶滅危惧種の動植物が生息している場合、エネルギー供給施設を作ることで残っている個体の数が減少してしまう可能性が高いです。
エコシステムが崩壊する恐れがあるため、自然保護法(Nature Conservation Act 1992)や連邦環境保護・生物多様性保全法(Commonwealth Environment Protection and Biodiversity Conservation Act 1999)に明記されている希少な動植物の有無を資料にまとめて提出する決まりになっています。
また、野生動物の生息地減少を最小限に抑えるために、開拓規模が適切であることも示されなければいけません。
森や砂漠を切り開く範囲が広くなればなるほど、野生動物の住みかが奪われてしまいます。
野生動物たちが新たな生息地を見つけられるように、十分な自然環境を残した上で開拓を行うのが決まりです。
さらに、エネルギー供給施設の建設によって起こり得る動植物への影響についても事前に調査し、リスクが少ないと判断された場合にのみ建設がスタートします。
②公害防止対策
エネルギー供給施設の建設及び稼働にあたって、公害を未然に防ぐための対策を文書にまとめなければなりません。
どのような資源を取り扱うかによって異なるものの、主に酸、ガス、粒子状物質、放射性物質の濃度、発生源の面積、排出量などを事前に予測し、公害の可能性を数値で表します。
それらの数値を基に、エネルギー供給施設で活用する公害防止装置や技術を文書内に記載し、政府に提出するのがルールです。
公害防止装置や技術にはさまざまなものがあり、例としては「低NOx型燃焼技術」と呼ばれる窒素酸化物の発生を抑制する燃焼方法の導入などが挙げられます。
また、エネルギー供給施設で問題が起きた場合の代替案なども明記し、あらゆるシチュエーションにおける公害防止対策を文書化する決まりになっています。
③照明に関する対策
オーストラリア政府は、照明と環境の関連をまとめた公的なレポートを作成しています。
エコシステムへの影響や問題点について記載しているほか、動植物へのリスクが少ない照明の種類も紹介しています。
例えば、海辺のそばにエネルギー供給施設を建設する場合、周辺に海鳥が生息している可能性が高いです。
海鳥は、白色蛍光ランプ、ハロゲンランプ、水銀灯の光を浴びることでストレスが増幅すると言われている一方で、低圧ナトリウムランプ、高圧ナトリウムランプ、拡散反射材で処理されたLEDから受ける影響は少ないとされています。
エネルギー供給施設の立地によって生息する生物の種類は異なるものの、動植物へのリスクが低い照明を政府が明確にすることで、エネルギー供給施設が正しい照明を選ぶことに繋がっています。
④建設後のモニタリング
エネルギー供給施設が完成した後も、現地の環境をモニタリングする必要があります。
建設後に新たな外来種が増えていないか、公害は発生していないか、在来種の大幅な減少はないかといった点を確認し、問題がある場合は報告及び解決策を考えなければなりません。
エネルギー供給施設は、建設後も長期間にわたって稼働し続けます。
ずっと先の未来までより良い環境を維持するためにも、建設後も長いスパンで現地の観察を行っているのです。
⑤スタッフや作業員たちへの教育
資源供給と環境保護の両立には、スタッフや従業員への正しい教育が必要不可欠です。
外来種の持ち込みや公害発生を防ぐための資材・廃棄物の取り扱い方法などをレクチャーし、エネルギー供給施設に関わる全ての人材が環境保護を意識できる職場作りに努めています。
また、エネルギー供給施設に野生動物が紛れ込んでくることもありますが、スタッフや従業員は自分たちで野生動物の救助や対処をしないようにという教育を受けています。
野生動物を傷つけてしまう恐れがあるため、最寄りの野生動物レスキュー団体やボランティアに救助を要請するのが決まりです。
まとめ
普段、私たちが当たり前のように使っている資源。
しかし、オーストラリアから日本への資源供給は、環境保護との両立によって成り立っています。
資源を全く使わない生活をすることは難しいものの、資源を大切にすることはできます。
エコ活動の一環として、まずは限りある資源を無駄使いしないことから意識してみましょう。