近年、欧州を中心に人や環境に優しい宿泊施設「ビオホテル」への注目が高まっており、現在日本でも2件存在します。では、どういった点が人や環境に優しいのでしょうか。
本記事では、
- ビオホテル基準
- メリット・デメリット
- 実在するホテルの紹介
- ビオホテルで製造しているシャンプーとワックスの紹介
- SDGsとの関係性
などをまとめました。
まずは、ビオホテルとは具体的にどのようなものかを知りましょう。
ビオホテルとは
「BIO HOTEL(ビオホテル)」とは、欧州のビオホテル協会(Die BIO HOTELS)が定めた、宿泊者や環境に関する厳しい基準を満たしたホテルです。
日本以外にも、
- ドイツ
- オーストリア
- イタリア
- スイス
- フランス
- スペイン
- ギリシャ
に、ビオホテル認証を取得したホテルが存在します。
ビオホテルの「BIO」は、ドイツ語で「オーガニック」を意味しており、ホテル内で提供される食事や飲み物、コスメ(シャンプー・石けん・スキンケア用品)などは、全てオーガニック製品を採用しています。
加えて、
- タオルやベッドリネン、ホテルの内装材や建材も可能な限り自然素材を使用
- 再生可能エネルギーの積極的な活用
- 二酸化炭素の排出量削減の徹底
なども心掛けています。
日本ではBIO HOTELS JAPAN(一般社団法人日本ビオホテル協会)が認定している
日本でビオホテルを運営するためには、「BIO HOTELS JAPAN(一般社団法人ビオホテル協会)」(以下BHJ)の認定が必要です。BHJは、ヨーロッパのビオホテル協会から公認を受け、2013年に設立されました。
主に、
- ビオホテルやビオレストランの普及
- 人や自然に優しい食材・食品、生活雑貨、住空間などの提案・提供
- 自然共生型農業や伝統的なものづくりに関する活動の支援と普及
- 生産者同士や生産者と生活者間のネットワークの構築
- 地域コミュニティの形成や地域活性化・雇用の創出
などを行っており、訪れた人々が地域の文化や伝統に触れ魅力を発見し、新しい価値観や考え方を知るきっかけづくりに貢献しています。
またBHJでは下記のような、食品や製品に対する独自の厳しいガイドラインも設定・運用しています。
“・原料・加工・製造・流通過程がすべてが明らかであり、可能な限り情報の公開ができること
・安全性を第一に、製品本来の機能を十分に発揮した製品であること
・魅力的なデザイン性を備えていること
・生態系や環境への負荷に配慮した生産方法でつくられたものであること
・よりよい製品を生活者に届けるために努力をする生産者や製造者・流通者であること
・次世代に受け継がれていくべき持続性や価値を持った製品や取り組みであること
・製品の背景や製造者・流通者の理念を含めて、本当によい製品と判断できるもの
・可能な限りその近郊の(国内生産)のものであること
※日本では手に入らないものや適合つくり出そうすることで環境負荷がかかる場合は、海外まで範囲を広げ、品質や安全性の高いものを選択します。”
引用元:BHJについて|BIO HOTELS JAPAN
続いては、ビオホテルに認証されるための基準を見ていきましょう。
【関連記事】オーガニック(有機栽培)とは?目的や無農薬との違いを簡単に解説
ビオホテル認証の基準
ビオホテル認証の基準は、「フード基準」「コスメティック基準」「環境基準」の3つに分かれています。1つずつ確認します。
フード基準
フード基準は、原料・加工・製造・流通の過程が全て明らかになっていたり、可能な限り国内生産を使用したりするなど、先述したBHJガイドラインの要件を、全て満たしていることが条件に含まれています。
さらにフード基準には、「格付け」というものが存在します。
格付けは、食品や飲料品の年間仕入れコストによってリーフと呼ばれる2〜5の段階に分かれており、3〜5リーフはビオホテル認証の取得が認められ、2リーフはビオホテル認証を目指す「FOBH(フレンズオブビオホテル)」になります。
【格付け】
2リーフ | 年間仕入れコストの50%以上がBHJガイドラインに適合している |
3リーフ | 年間仕入れコストの75%以上がBHJガイドラインに適合している |
4リーフ | 年間仕入れコストの90%以上がBHJガイドラインに適合している |
5リーフ | 全ての食品、飲料品がBHJガイドラインに適合している |
コスメティック基準
コスメティック基準も、BHJガイドラインを全て満たすことが条件です。ホテル内で使用するシャンプーやスキンケア用品などのコスメは、BHJ指定のオーガニックコスメのみとなってます。どうしても指定以外のコスメを使用したい場合は、BHJに相談し許可をとる必要があります。
ほかにも、タオルやベッドリネン類、建物や施設の建築材・内装材・照明器具・家具等の設備も、可能な限り自然素材を使用することが推奨されています。
環境基準
環境基準では、二酸化炭素排出量削減のための取り組みを1つ以上行う決まりになっています。例えば、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを100%使用することや、プラスチック削減、ホテルや施設内の紙を全て再生紙にするなどが挙げられます。
また、輸送時の二酸化炭素排出量の削減につながるため、地元で生産された食材を積極的に使用することも大切なポイントです。そのためビオホテルを運営する際は、地域の生産者とのつながりを大切にすることも重要視されています。加えて、環境基準では、従業員が気持ちよく働ける環境かも評価対象になります。
ビオホテルのメリット
ビオホテルがどのようなホテルか理解したところで、続いてはビオホテルのメリットをホテル側と利用者側の2つから見ていきましょう。
【ホテル側】マイクロツーリズムによって地域活性化と雇用創出も期待
マイクロツーリズムとは、自宅から1〜2時間ほどの場所(地元)で観光を楽しむ新しい旅のスタイルで、新型コロナウイルスの流行をきっかけに広まりました。旅を楽しみながら地元の魅力を再発見でき、人が集まることによって地域経済も潤い、地域活性化や雇用の創出につながります。そのため、地域活性化や雇用創出にも力を入れているビオホテルと相性が良いのです。
またマイクロツーリズムは、「保養目的の旅行」でもあります。地域の伝統や文化に触れ、自然に癒されるマイクロツーリズムに、人や自然環境に配慮したビオホテルを組み合わせることによって、保養目的で旅行したい人の集客向上が期待できます。
【利用者側】リトリート目的で泊まりたい人にも最適な宿泊施設
リトリートとは、日常から離れた環境に身を置き、普段できない体験を楽しみながら保養を行うことです。買い物や観光ではなく、自然が多い空間でゆったりと過ごし、自分と向き合う時間をつくることが目的だと言われています。
ビオホテルは、使用する食材・建材・コスメ・リネン類などをオーガニック製品にこだわり、建築材や内装材も可能な限り自然素材を取り入れるなど、人や環境に優しいホテルです。さらに、現在日本で認証されている2つのビオホテルは、緑の多い場所に位置しているため、心身のリラックスに最適です。
【関連記事】リトリートとは|メリットや実践できるアイデア7選、おすすめ施設の紹介も
ビオホテルのデメリット・課題
一方で、ビオホテルにはデメリットや課題もあります。
【ホテル側】ビオホテル認証の維持が難しい
厳格な基準であるビオホテル認証は取得することも大変ですが、継続的にコストがかかるため、維持することは簡単ではありません。
一般的にオーガニック製品は、オーガニックではない製品より価格設定が高めになっています。また、施設に使用される建築材や内装材などもこだわっているため、通常よりも費用がかかってしまうことは否めません。再生可能エネルギーを使用する場合、装置や設置費用、メンテナンス代なども必要になります。このコスト問題が、ビオホテル認証の維持を難しくさせている場合もあります。
例えば、長野県にある「カミツレの宿 八寿恵荘」は、2015年にビオホテル認証を取得しました。しかし、コロナ禍の影響で客足が遠のいたこともあり、2022年8月31日をもってBHJを脱会することになりました。
【ホテル側】日本ではビオホテルの数が少なく認知度も低い
先述したように、日本国内でビオホテル認証を受けた宿泊施設は2つです。(2023年3月時点)
2016年と2018年に認証されていますが、その後は増えていません。
考えられる理由としては、
- 厳しいビオホテル認証の基準をクリアする宿泊施設が、なかなか現れない
- BHJを含めて発信元が3カ所しかないため、ビオホテル認証の存在が広まりづらい(2023年3月時点)
- 維持が大変な点やコスト問題などを理由に取得を諦めてしまう
などが挙げられるでしょう。
このような理由もあり、ホテル側と利用者側の両方に認知されていない可能性があります。
【利用者側】一般の宿泊施設より価格設定が高め
繰り返しになりますが、ビオホテル認証を取得しているホテルは、食や設備などにこだわり運営しています。そのため、一般の宿泊施設よりコストがかかることから、宿泊費が高めに設定されている場合もあります。そういった事情を理解せずに宿泊を希望する人は、「高い」と感じるかもしれません。
ビオホテル認証を取得しているホテル
ここからは、実際にビオホテル認証を取得した日本国内の2つのホテルと、認証されてはいないものの、人や環境に優しいホテルとして話題になっている、京都のホテルを1つ紹介します。
【北海道】Auberge erba stella
北海道にある「Auberge erba stella(オーベルジュエルバステラ)」は、
- その土地やなるべく近郊から食材を探し、そこでしか味わえない料理を提供すること
- フードマイレージなど環境への影響を考慮しながら、安全で新鮮な食材を料理に使い提供すること
を、大切にしている宿泊施設で、2018年にビオホテル認証を取得しました。
野菜ソムリエプロのご夫婦が営んでおり、客室は3部屋。1番大きいメゾネットタイプの部屋には、最大4人まで宿泊可能です。オークの無垢材を使用したフローリングやアンティーク家具、旭川の家具メーカーのベッドを使用するなど、こだわりの詰まった部屋となっています。
提供される食事は、2022年から全ての動物性食品が不使用になりました。宿泊客からは、「お肉やお魚が無くても充分満足できる」「野菜料理を楽しみに来ているから全く問題ない」と、好評のようです。
公式HP:https://www.erbastella.com/
【関連記事】フードマイレージ
【福島】おとぎの宿 米屋
福島県にある「おとぎの宿 米屋」は、2016年4月にビオホテル認証を取得した宿泊施設です。
こちらの宿の魅力の1つが、源泉かけ流しの露天風呂。傍には桜の木が植えられており、温泉に浸かりながら春は花見、夏は新緑、秋は紅葉を楽しめます。そして露天風呂の温泉水は、館内の給湯や冷暖房のエネルギーに変換するシステムを導入し、二酸化炭素排出量の削減にも力を入れています。
客室や大浴場に置いてある、シャンプーやボディソープ、スキンケア用品は、国際的なオーガニック認証のコスメや、同等の安全性をもつ製品を使用しています。
食事も、自社農園で栽培した無農薬・無肥料野菜や、近隣地域の生産者が作った有機栽培・無農薬栽培の農産物などを中心に提供。飲み物も種類ごとに、オーガニック認証されたものが用意されています。
公式HP:http://e-yoneya.com/
【京都】GOOD NATURE HOTEL
京都にある「GOOD NATURE HOTEL」は、ビオホテル認証は取得していませんが、人や環境に優しい施設として注目が高まっています。
2020年8月に、
- 環境や健康に配慮した建物のみに認定される「WELL認証」をゴールドランク
- 環境性能の高い建物(グリーンビルディング)を評価するプログラム「LEED認証」においてシルバーランク
を取得しました。ホテル版の評価基準において、WELL認証とLEED認証の同時取得は世界初となります。
またGOOD NATURE HOTELでは、2022年4月から施行された「プラスチック資源循環促進法」を受け、
- アメニティの有料販売
- 有料アメニティの販売料金を寄付・支援
- プラスチックアメニティの素材変更(シェーバーは素材検討中のためプラスチック)
などを開始しています。
販売されるアメニティは、竹製の歯ブラシや木製のヘアブラシなどを用意。さらに脱プラスチックのため、全ての客室にウォーターサーバーとホテルオリジナルのタンブラーを置いています。
公式HP:https://goodnaturehotel.jp/
ビオホテルシャンプー・ワックスについて
続いては、BHJがコンセプトとガイドラインに基づいて企画・製造を行った、ビオホテルシャンプーとワックスについて、口コミと共に紹介します。
シャンプー
ビオホテルシャンプーは、福岡県にある自社農園や近隣の生産者が育てた無農薬のハーブ類・自生植物のエキスを使用した、100%自然由来成分の製品です。肌への刺激や負担を考え、植物の天然防腐効果を利用しており、「herbal Shampoo」と「Oriental&Woody Shampoo」の2種類から選べます。
その他にも、人や環境に優しい製品にするために、下記の規格基準をもとに製造されています。
【規格基準】
- 合成着色料・合成香料・合成保存料を使用しない
- キャリーオーバー成分を含む、石油由来成分を使用しない
- 植物エキスの抽出溶媒は、使用しないか水のみ
- 表示義務のないキャリーオーバー成分※も表示する
- 原料の産地や栽培方法、収穫時期、製造の際の抽出方法などの履歴管理を行う
- 植物本来の力を最大限発揮するために、シンプルな処方を追求
(※)キャリーオーバー成分:エキスを抽出する際に使用したり、原料の安定を目的に配合されたりする成分。主に、アルコールや安定剤、防腐剤など。
口コミ
「herbal Shampoo」は、肌が弱い人でも皮膚に湿疹ができたり、刺激を感じたりすることなく使用でき、シャンプーの泡立ちも良く、長髪でもしっかり洗えるようです(肌が弱い人全員に症状がでないとは限らないため、これまで症状が出たことのある成分が入っていないか必ず確認し、注意しながら使用してください)。「Oriental&Woody Shampoo」は「herbal Shampoo」よりしっとりしており、洗いあがりもキシキシすることなくスムーズにブラシが通るようです。
- 「herbal Shampoo」は、成分、使用感、ボトルの性能ともに満足。肌が弱いためノンシリコンは当然で、出来るだけ化学成分から離れた製品を探して使っています。この商品は、ロングヘアの私でもしっかり洗えて、頭皮にぷつぷつができたり肌がピリピリすることもありませんでした。
- 「Oriental&Woody Shampoo」は、「herbal Shampoo」よりしっとりしていて、石鹸由来のシャンプーのようなキシキシする感じもなく、シャンプーだけでもスムーズにブラシが通る。
ワックス
ビオホテルのワックスは、100%自然由来成分でできたセミハードワックスです。主成分には、無農薬栽培で育てた米の「米ぬか」を使用しています。スタイリングも長時間保てるうえに、手に残ったワックスは、洗い落とさずそのままでもOK。保湿が期待できるそうです。シャンプーと同様に、厳格な規格基準のもと製造されています。
口コミ
固めのテクスチャ―ではあるものの伸びが良く、少量でもスタイリングできるうえに、ある程度のキープ力もあると感じている人が多数見受けられました。使用後は髪につやが出て、香りはすぐに消えるため香水をつける人にも使いやすい商品だという意見も見られました。リピーターも多いようです。
- 固めのテクスチャ―だが、伸びるので少量でもスタイリングできる。
- 同じメーカーのへアモイスチャーエッセンスもツヤが出て気に入っているのですが、こちらはさらにキレイなツヤが出ます。キープ力もそこそこにあり、香りもすぐに消えてフレグランスのジャマにならないので、リピートします。
ビオホテルとSDGs
最後に、ビオホテルとSDGsの関係性を見ていきます。
SDGsとは、2015年に開催された国連総会にて193の加盟国が賛同した国際目標です。世界中で起きている、環境・社会・経済の課題を解決するために、17の目標と169のターゲットが設定されています。私たちは、この目標を2030年までに達成しなければいけません。
そして現在、ビオホテルの増加がSDGsの目標達成に貢献するとして期待されており、関りのある目標は下記の通りです。
- 目標6「安全な水とトイレを世界中に」
- 目標8「働きがいも経済成長も」
- 目標11「住み続けられるまちづくりを」
- 目標12「つくる責任つかう責任」
- 目標13「気候変動に具体的な対策を」
- 目標14「海の豊かさを守ろう」
- 目標15「陸の豊かさも守ろう」
今回は、この中でもとくに関わりの深い、目標13について見ていきましょう。
目標13「気候変動に具体的な対策を」
目標13は、気候変動と気候変動の影響によって起こる課題への対策を考え、立ち向かう内容となっています。
そのため、
- 気候変動が原因で起こる災害へのレジリエンス(回復力)や適応性の強化
- 災害対策を国の政策や戦略、計画に盛り込む
- 気候変動への緩和策と適応策、影響の軽減、早期警戒に関する教育や啓発、人的能力組織の対応能力の改善
など、あらゆる方面から気候変動問題の解決を目指すターゲットが設定されています。
ビオホテルは、気候変動の原因となる「二酸化炭素排出量の削減」にも力を入れているホテルです。
- 再生可能エネルギーの100%使用
- 二酸化炭素排出量を継続的に削減していくことの義務化
- 食材の地産地消を心掛けることによって、食材を輸送する際の二酸化炭素排出量の削減
などを心掛けています。
このような理由もあり、ビオホテルが増えると二酸化炭素排出量の削減が加速し、目標13の達成に貢献すると期待されているのです。
まとめ
厳格な基準をクリアし、人や環境のことを第一に考え、宿泊した人が心身ともに安らげる場所であるビオホテル。現在、日本でビオホテル認証を取得した宿泊施設は2つのみです。認証の取得や維持が難しい、コストがかかるなど課題は残っていますが、ビオホテルが増えることによって、地域活性化につながったりSDGsの目標達成に貢献できたりと、さまざまなメリットがあります。
ビオホテルが増えるためには上記の課題解決以外にも、人や環境に優しいホテルを求める人が増えること、ビオホテルの認知度向上などが鍵となるでしょう。私たちもビオホテルについて知識を深め、実際に足を運んでみる。そして、ビオホテルの様子や感じたことをSNSで発信することによって、認知度向上につながります。
〈参考文献〉
SDGs(持続可能な開発目標)|蟹江憲史 著
THE BIOHOTELS MART
化粧品OEM用語集|幸愛化学株式会社
「日本のビオホテルの動向」のオーベルジュ エスバステラ(北海道)
星野リゾートの「マイクロツーリズム」ご近所旅行のすすめ|星野リゾート
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【新著紹介コラム】「欧州のビオホテル~エコツーリズムから地域創造へ」 滝川薫 著|株式会社イケダコーポレーション
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