LGBTとも呼ばれる、性的マイノリティの差別に関する議論が深まる昨今。いまや「バイセクシャル」という言葉を聞いたことがない人は、少ないのではないでしょうか。
なんとなく「バイセクシャルは、男性・女性の両方を好きになる人たちのこと」と知っている人も多いと思います。この認識は間違いではありませんが、これだけでは誤解も生まれがちです。
そこでこの記事ではバイセクシャルについて解説すると同時に、性的マイノリティ全般への理解も深めていきます。バイセクシャルと似た言葉や、バイセクシャルの割合、バイセクシャルになる原因、診断方法などもご紹介します。
バイセクシャル(バイセクシュアル・両性愛)とは
バイセクシャルとは、男性・女性の両性に対して恋愛感情を抱き、性的にも惹かれるセクシャリティ、または、そのセクシャリティの人々のことをさす言葉で日本語では「両性愛(者)」と言うこともあります。
バイセクシャルはLGBTのBであり、セクシャルマイノリティ(性的少数者)にあたるセクシャリティです。
バイセクシャルの特徴
よくセクシャリティについて説明すると、「そのセクシャリティの人はどんな特徴なの?」と聞かれることがあります。セクシャリティに限らず、新しく触れる人やモノについて「特徴」を知りたくなる気持ちは湧くものです。
しかし、バイセクシャルはあくまでも性のあり方の一つで、自認する人は無数にいます。一人ひとりに着目すると、それぞれ異なった性格・嗜好をもっています。ですから筆者は、特定のセクシャリティの「特徴」について述べるのは無意味であり、さらに無理やり特徴を見出すことは危険なことであると考えています。
バイセクシャルと似た言葉
では次に、バイセクシャルと似ている言葉について説明します。ここでは、パンセクシャルとポリセクシャルの2つを取り上げます。なんとなく知っているけど、混同してしまうという方も、ここでもう一度整理しておきましょう。
※なおこの章以降ではより簡潔に説明するため、「恋愛感情を抱き、性的に惹かれる」ことを「好きになる」と表現します。
パンセクシャルとの違い
パンセクシャルとは、セクシャリティを問わず全ての人を好きになり得るセクシャリティです。バイセクシャルとの定義上の違いは、以下のように説明できます。
- バイセクシャルの人は、男性・女性のどちらかが対象になるのに対し、パンセクシャルの人はXジェンダーやクエスチョニングといったその他の性も対象になる
- バイセクシャルの人は、人を好きになるときに相手のセクシャリティにも着目するが、パンセクシャルの人は相手のセクシャリティには着目しない
パンセクシャルは、日本語で「全性愛」と言われることもあります。好きになる相手について、セクシャリティ/性別という概念に囚われないとも言えますね。
ポリセクシャルとの違い
一方、ポリセクシャルの人は、複数のセクシャリティの人のことを好きになります。しかし、全てのセクシャリティを好きになるわけではありません。対象とならないセクシャリティがあるという点がポイントです。
バイセクシャルの人が男性・女性の両方を好きになるのに対し、ポリセクシャルの人は、例えば「男性やXジェンダー、クエスチョニングの人は好きになるけど、女性を好きになることはない」という人などがいます。
バイロマンティックとの違い
日本ではまだあまり広まっていない分類で、バイロマンティックというセクシャリティもあります。バイロマンティックとは、男女両性に恋愛感情を抱くセクシャリティのことです。
バイセクシャルとの違いは、性的な魅力を感じるかどうかが定義されていない点です。
そもそも「○○ロマンティック」とは、恋愛感情のみに着目した分類で、性的魅力と恋愛的魅力を分けて考えるSAMモデルで採用されます。
では、このSAMモデルとは一体何なのでしょうか。
そもそもセクシャリティとは
バイセクシャルに触れたところで、そもそもセクシャリティとはどのような概念なのか簡単に説明します。
セクシャリティとは何か、一言で言うと「性のあり方」となります。セクシャリティについて理解を深めるうえで、以下の4つは知っておきたい観点です。
- 生物学的な性(セックス・Sex)
出生時に医学的に判別される性別。身体的な特徴をもって、男性・女性のどちらかに分類されます。 - 性役割(ジェンダー・Gender)
性別ごとに、社会から求められる役割・振舞いのこと。「男/女らしさ」、「男/女の仕事」など。 - 性自認(ジェンダーアイデンティティ・Gender Identity・GI)
自らが認識している性。男性・女性にかぎらず、クエスチョニング(不明・模索中)や、Xジェンダー(男女どちらでもない)などもある。 - 性的指向(セクシャルオリエンテーション・Sexual Orientation・SO)
恋愛感情・性的魅力を感じる相手。男/女のどちらか一方、両方、そもそも他者に性的魅力を抱かないなど、様々なありかたがある。
何のための分類?
「性のあり方は人それぞれ」と言われるように、セクシャリティの分類は多岐にわたります。特にこれまで自らの性のあり方に悩んだことの無い方にとっては、複雑すぎる、ともすると厄介であるように感じてしまうことも、少なくないのではないでしょうか。しかしセクシャリティを分類することには、意味があります。
セクシャリティを分類することは、当事者が自らのセクシャリティを認識しやすくし、当事者同士のつながりを作りやすくする効果があります。また、セクシャルマイノリティへの理解を深める際や、学術的な研究をする際にも、分類が助けとなるのです。
セクシャリティの分類方法は2種類ある
少し複雑な話になってしまいますが、セクシャリティの分類方法には下記2つのモデルがあります。
- 性的魅力と恋愛的魅力を分けて考えるモデル(SAM※)
- 性的魅力と恋愛的魅力を合わせて考えるモデル(non-SAM)
SAMの考え方では、バイロマンティックとバイセクシャル(ここでのバイセクシャルは、男女両性に性的に惹かれることを表す)は別個のものです。つまりSAMのバイロマンティックは、バイセクシャルと両立し得ます。
一方non-SAMの考え方では、恋愛感情(ロマンティック)と性的欲求(セクシャル)は繋がっているものと考えますので、「バイセクシャル」といえば男女両性に恋愛感情と性的欲求を抱くセクシャリティを表すことになります。
現状、日本ではnon-SAMの考え方で「バイセクシャル」という人が多く、SAMの考え方を採用する人はまだ少ないと言えます。つまり「バイセクシャル」といえば、男女両性に対して恋愛感情・性的魅力を感じることを表すことが多いということです。SAMの考え方はより複雑にはなりますが、自身のアイデンティティをより明確に示すことができるという利点もあります。
難しい話でしたが、要点としては「バイセクシャル」と一言に言っても、恋愛感情の有無を含む場合と含まない場合があるということです。シーンによって文脈から判断するか、判断が難しく知る必要性がある場合は、直接尋ねることが必要な場合もあるでしょう。
※SAM…スプリット・アトラクション・モデルの略
セクシャリティは本人の意思の尊重が重要
ここまで説明した、バイセクシャル、パンセクシャル、ポリセクシャル、バイロマンティックについて表にまとめてみました。
ここで留意しておきたいのが、セクシャリティは他人が強要することではなく、本人が一番心地の良いと感じるものを自認するものであることです。
特にパンセクシャルやポリセクシャルは、バイセクシャルに比べると知名度が低いといえます。そのため、定義上はパンセクシャルやポリセクシャルにあたるようにも思えるが、バイセクシャルを自認している人もいます。他人がそれを訂正するのではなく、本人の意思を尊重することが大切です。
また、これらのセクシャリティの分類においては「自らの生物学的な性別や性自認」は関係しないことを抑えておきたいポイントです。
【関連記事】LGBTQとは?日本の現状と問題点、SDGsとの関係・取り組み事例を解説
バイセクシャルの割合は?
国内で行われた調査結果※によると、日本の人口におけるバイセクシャルの割合は、1.4~2.9%程度、もしくはそれ以上であると考えられます。なお日本以外の国に目を向けると、国ごとに割合が大きく異なります。これは、人間のセクシャリティ自認・形成が出自だけでなく、成長・生活環境や社会の価値観なども関わるからです。
※東京都総務局人権部「性自認及び性的指向に関する調査 」、株式会社LGBT総合研究所「LGBT意識行動調査2019」、株式会社電通「LGBTQ+調査2020」、「大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート」
バイセクシャルになる原因はある?
バイセクシャルに限らず、性的マイノリティがなぜそのセクシャリティになった原因を知りたいという方は、多くいらっしゃいます。当事者の他、当事者の家族が「なぜ自分の子どもが性的マイノリティに…?」と考え、検索する方も多いようです。
人がバイセクシャルになる原因は、現時点で科学的に解明されていないというのが主流な考え方です。
アメリカのマサチューセッツ総合病院、オーストラリアのクイーンズ大学などの合同研究チームは2019年、「ほかの多くの人間の行動と同じく、性的指向も、遺伝的な要因と環境的な要因が複雑に結び付いて起きていることが改めて示唆された」としており、何か一つの要因を特定するのは困難であることが分かります。
ここで筆者がお伝えしたいのは、「自分や家族・知人が性的マイノリティになった原因を探っても、良いことはない」ということです。当人が現時点で自認しているセクシャリティを個性として受け入れ、自分らしく過ごすことが、重視されるべきと言えます。
バイセクシャルにはどんな悩みがある?
ではバイセクシャルの方には、どのような悩みがあるのでしょうか。
まず性的マイノリティ全般によく見られる悩みとして、自らのセクシャリティを隠して生きざるを得ない人が多くいるということがあります。社会の理解が進んできたとはいえ、まだまだ性的マイノリティへの偏見は残っています。「カミングアウトして今までの関係性が崩れたらどうしよう」という想いから、自らのセクシャリティを隠して暮らしている人も少なくないのです。自らのセクシャリティを隠して暮らすということは、他者との会話の際に嘘をつく必要が出てくるということ。ゲイである筆者も経験がありますが、親しい友人や家族との会話で嘘を重ねることは、心理的に非常につらいことです。
またバイセクシャル特有の悩みとしては、以下のようなものがあります。
- 異性にも同性にも恋することができて楽しそうと言われる
- (ゲイ・レズビアンから)異性と結婚できて羨ましい と言われる
- (家族・友人から)異性と結婚すれば良いと片づけられる
- 異性パートナーへのカミングアウトの問題
- 浮気性・性に奔放だと誤解をされる
これら多くの悩みは、他者による「バイセクシャルってこうだよね」という想像・偏見から生まれるものです。当事者でない方は、日頃根拠のない想像をしていないか、一度確かめてみてみましょう。
バイセクシャルの診断方法は?
「自分がバイセクシャルなのかハッキリ知りたい」そんな想いから、バイセクシャルの診断方法を知りたくなる人は少なくありません。
はじめにお伝えしたいのが、性的指向や恋愛指向について医学の観点から診断することは、一般的ではないということです。自分のこれまでの経験や感覚を元に、自らのセクシャリティを「自認」することが基本的な考え方です。また、誰かに強制されるものでもありません。自分のセクシャリティを決めるのは、あなた自身です。
これを前提として、バイセクシャルかどうかを診断するために一般的に使われる質問項目は、以下の3問です。
- これまでに同性・異性の両方を好きになった事がある
→この質問の回答が「いいえ」の場合は、バイセクシャルである可能性は低いと言えます。ただし現時点で一つの性しか好きになった事がなくても、今後もう一方の性を好きになる可能性はあります。
- これまでに好きになった人は、「男性」と「女性」である
→この質問の回答が「いいえ」の場合、つまりXジェンダーやクエスチョニングの人も好きになった事がある場合、パンセクシャルである可能性があります。
- これまでに好きになった人の、男性的な面や女性的な面に魅力を感じた
→この質問の回答が「いいえ」の場合、つまり好きになった相手のジェンダーに関連する面に魅力を感じたわけではない場合、パンセクシャルであるという考え方もあります。
なお、セクシャリティは流動的なものです。以前は自身の事をバイセクシャルと自認していた方が、パンセクシャルを自認するようになることもよくあることです。
また上記の質問項目では「これまでに好きになった人は」という表記にしましたが、今までに男性・女性両方を好きになった経験があったとしても、現時点の感覚で片方の性を好きになる感覚がない場合は、必ずしもバイセクシャルを名乗る必要はありません。
自分が一番「しっくりくる」「居心地の良い」セクシャリティを探してみましょう。
バイセクシャルを公表している芸能人
続いては、バイセクシャルを公表している芸能人を何名かご紹介します。
カズレーザー
2015年にヒットしたお笑いコンビ「メイプル超合金」のメンバーである、カズレーザーさん。赤い服と金髪がトレードマークで、現在もクイズ番組などに多数出演しており、芸能人に詳しくない方でも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
そんなカズレーザーさんは、バイセクシャルであることを公表して活動しています。webメディアのインタビューやテレビ番組でタイプの男性・女性を語るなど、多くの人がバイセクシャルを身近に感じるきっかけともなっています。
レディ・ガガ
今や世界的なスターの一人ともいえる、レディ・ガガ。自身がバイセクシャルであることを公表しており、デビュー当初から性的マイノリティ差別撤廃やジェンダー平等に関する活動を支援し、注目を集める発言もしています。
また2011年にリリースした楽曲「Born This Way」では、以下のように歌っています。
No matter gay, straight, or bi’, lesbian, transgender life
I’m on the right track, baby, I was born to survive
(ゲイでも、ストレートでも、バイセクシャルでも、レズビアンでも、トランスジェンダーでも、関係ない。
正しい道を歩いている、生き抜くために生まれてきた 筆者訳)
Lady Gaga;Born This Way
補足
web上には他にも、バイセクシャルの芸能人として紹介されている人が多くいます。
ここまでで解説してきたように、セクシャリティは自分自身が決めるものです。加えて、
- これまでに男性・女性との交際経験があるからといって、バイセクシャルとは限らない
- セクシャリティは流動的で、変化することもある
- 本人が公表していない限り、「アウティング」行為に当たる可能性がある
これらの観点から、今回はバイセクシャルであると公表していることが確認できた方のみ、ご紹介しました。
「噂になっている○○さんは、バイセクシャルなのかな?」と好奇心が湧く気持ちは、筆者もよく理解できます。ですが著名人であろうと、自らのセクシャリティは公表する権利・公表しない権利があります。セクシャリティに囚われず、その人の個性や活動そのものを応援することが大切なのではないでしょうか。
バイセクシャルとSDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」との関連
最後に、バイセクシャルとSDGsの関係について解説します。
SDGsの17の目標のうち、バイセクシャルと最も関連のあるのは目標5「ジェンダー平等を実現しよう」です。
ただしSDGsはこの目標5も含めて、セクシャルマイノリティに関する記述はありません。これは、SDGsが国連加盟国の中にはセクシャルマイノリティの権利確保に否定的なスタンスをとる国もあることが理由です。そのため目標5では、主に女性や少女といった社会的弱者の権利拡大がうたわれています。
とはいえ、SDGs全体の理念として「誰ひとり取り残さない」というキーワードがあります。バイセクシャルも含めて、セクシャルマイノリティの人もそうでない人も、全ての人々の平等を実現することが、目標5達成の鍵と言えます。
【関連記事】SDGs5 「ジェンダー平等を実現しよう」の現状と問題点|企業の取り組みを解説
まとめ
この記事では、バイセクシャルについての基本的な解説から、その他のセクシャリティとの比較、当事者の悩み、また割合や原因、診断方法といった少し深堀りした内容まで解説しました。
バイセクシャルや、その他の性的マイノリティの人は、あなたの周りにも必ずいます。より多様性のある社会を目指すため、様々なマイノリティの人について知識をアップデートすることは大切です。ぜひこの記事で得た知識を周りの方にシェアしてみてくださいね。
参考
特定非営利活動法人にじいろ学校
株式会社 LGBT 総合研究所「LGBT意識行動調査2019」
「働き方と暮らしの多様性と共生」研究チーム 編「大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート 報告書」
株式会社 電通 ニュースリリース「電通、「LGBTQ+調査2020」を実施」
東京都総務局人権部「性自認及び性的指向に関する調査」
NHK「“同性愛遺伝子”存在せず 国際的なグループが発表」