#インタビュー

フードシェアリングアプリTABETE|作り手の「食べて」の想いを、最後の一食まで「食べ手」に繋ぐ食品ロス削減事業

TABETE 篠田沙織さん インタビュー

篠田 沙織

小学校2年生で白血病になり、食事制限を受けた経験から、食の重要性を身をもって実感。そこから人生を「食」に捧げると決意。新卒で大手グルメサイトに入社後、飲食店営業並びにwebディレクターを経験。ビジネス側とプロダクト側の両面からサービスの運営を経験する。その後、TABETEにジョイン、その後取締役COOに就任。現在は「TABETE」の心臓として、営業企画からマーケティングまで幅広く活躍している。

introduction

TABETEは、飲食店の廃棄予定商品を消費者に繋ぐマッチングアプリです。ユーザーは登録時に「レスキュー隊員」となり、その購入活動は「レスキュー」と称されます。「レスキュー価格」となったパンやケーキ、総菜などの情報を得たユーザーは、店と商品を選び、予約時間にお店に向かいます。飲食店は、店頭値下げによるブランド価値を損なうことなく廃棄を減らせ、ユーザーは、レスキュー価格でお好みの商品を美味しく「食べて」食品ロスに貢献できるという、双方にとって「美味しい」サービスです。

今回は、同アプリの運営をする株式会社コークッキングの篠田さんに、中食産業の商品廃棄の現状や、アプリTABETEが食品ロス削減にはたす役割などを伺いました。

廃棄予定の食品の購入は「レスキュー」活動

–まずは、アプリTABETEの概要をご紹介ください。

篠田さん:

TABETEは、国内最大級の食品ロス削減サービスアプリです。契約店で売れ残りが予想されるパンやケーキ、惣菜の情報を登録ユーザーにお知らせして、売り手の「食べて」の想いを「食べ手」に届けます。TABETEを介しての商品購入は、廃棄予定の食品を救う「レスキュー」と称されます。

消費者が店に商品を取りに行くかたちの食品ロス削減アプリは弊社以外にほとんど存在せず、ユーザー登録者数は65万人に登っています。

–どのようなきっかけで、このアプリが誕生したのですか?

篠田さん:

TABETEの運営をする弊社「コークッキング」は、〈「持続可能」で「多様」な食の未来を見据えて日々の「食の選択肢」を豊かにします〉というビジョンを掲げており、もともと料理を使ったワークショップ事業を展開してきました。

また、〈つくり手・食べ手間に新たなかたちの関係性を構築し食業界の持続可能性を再定義します〉をミッションとして掲げている弊社は、「食」にかかわる会社として、食の社会課題にも取り組まねばという想いが当初からあり、食品ロス削減のボランティア・イベントも開いていたのです。

「ワールドディスコスープ」というイベントでは、東京都青山のファーマーズマーケットで、規格外の野菜や家庭であまった食材などを集めてスープをつくり、一般の方々にふるまっていました。

ただ、その時に参加してくださった人にしかメッセージは伝わりません。また、スープを飲んだ人がその時食品ロスを意識したとしても、次の日には忘れてしまうかもしれません。単発的なイベントでは、日常的に食品ロスへの意識を人々に植えつけることは難しいと気づきました。

事業という持続可能なかたちにしなければ食品ロス問題の根本は解決できない、という結論に達し、2018年4月に、TABETEのサービスアプリをリリースしたのです。

多めに作って捨てざるを得ない中食業界の商習慣を変える

–スタッフの「食」への関心が、食品ロスへの取り組みに繋がったのですね。そもそも、なぜ「食」だったのでしょう?

篠田さん:

弊社の代表は、新卒から飲食店に入社したり、和食の料理人を四年ほどやっていたり、ずっと「食」の現場を原体験としてもってきました。私自身は、白血病になったことでごはんが食べられなかった時期がありました。その体験を経て、食べられるのに捨てられてしまう「食品ロス」に課題意識をもって取り組みたいと思い、この会社に中途入社したという経緯があります。

このように、「食」に思い入れのある社員が集まっている会社なんです。

–社長や社員の皆さんの強い信念からのTABETE誕生なのですね。このアプリではパン、ケーキ、惣菜などが取り扱われていますが、その理由を教えてください。

篠田さん:

中食(弁当や惣菜、パン、ケーキなどの、持ち帰りの飲食物全般)の事業者、小売店には、「廃棄を前提とした生産」がどうしても発生しがちだからです。売上の追求のために、予想される来店客数よりも多めに品数を生産する、その結果食品ロス率が増えてしまうのです。

たとえば、「売り切れ」によってケーキの品数がそろっていないケーキ屋、陳列棚のパンの品目が少ないパン屋があったとします。そういう店に足を運ぼうとはなかなか思えないですよね。夕方にいっても好きなものが買える店のほうに客足は流れます。

中食業界は、集客のために多めに作って捨てざるを得ない状況からなかなか脱却できないのです。それが、TABETEの対象のほとんどがパン、ケーキ、惣菜となっている理由です。

企業の戦略や店の状況によって、生産予定数は変わってきます。あえて生産数を抑え、「売り切れごめん」によって商品をプレミア化する場合や、早々に商品が売り切れても採算が合う黒字店も確かにあります。

ただ、一般的には来客者数が増えるほどに売上はあがるため、「来た方全員が商品を購入できる状況」をどう作るかを考えます。そのため、予想来店客数の最大数相当の陳列量を用意することが大前提となります。

どの店でも、だいたい生産数の3~5%を廃棄の数字として見越し、その商品を毎日捨てるのが「正しい姿」とされてしまっているのです。

捨てるためのものがある、というのは恐ろしいことですが、誰かが悪いというのではなく、この商習慣を変えていく必要があると考えています。

売上を減らさず、ブランド価値を損なわずに食品ロスを削減

–「食」における、SDGsのゴール12「つくる責任つかう責任」の観点からいえば、飲食店と消費者の間にあるTABETEは、どのような役割をはたしているのでしょうか?

篠田さん:

店の「店舗側でつくったものを最後まで消費者に食べてもらえるような仕組みづくりが必要=つくる責任」と、消費者の「無駄なく消費すること=つかう責任」の間に入り、双方を繋げてサポートすることが役割です。

飲食業界の現場で一番簡単にできるのは「店頭値下げ」です。ただ、そうするとお客様の目は値下げ品に集まりますし、その時間帯を狙っての来店が多くなることもあります。その結果、定価品は選ばれづらくなり、売上は下がる傾向になるのです。また、高級店や大手チェーンなどでは、店頭に値下げ品を置くことでブランド棄損に繋がる場合もあります。

TABETEと契約いただいている店は、店頭に値下げ品を置かずに済みます。アプリでレスキュー価格にした商品を、購入したお客様の来店時にお渡しするシステムですから、店頭では定価品のみを売ることができ、ブランド価値を損なうリスクも犯さず、食品ロスだけを減らすことができるのです。

考える消費をいかに増やすか、買い方をどう変えるか

–それでは、いよいよアプリの使い方のご紹介をお願いします。実は、私もTABETEユーザーです。初めての「レスキュー」では、高級で素通りしていたベーカリーの商品をほぼ半額で味わえ、アプリの使いやすさに驚き、食品ロス削減にも参加できて感動しました。

篠田さん:

廃棄予定のものをお手頃に美味しく「レスキュー」できた!と感じていただいてこそ、購入数は増えていきます。知らなかった店やハードルが高かった店と繋がれることも、喜んでいただける点ですね。アプリは極力使いやすくして、ゲーム感覚で楽しく参加していただけるように工夫しています。

ユーザー側はアプリをダウンロードして会員登録(無料)とクレジット決済の手続きをすれば、その瞬間からご利用いただけます。土地や駅で検索して契約店の出品状況を把握し、レスキュー数、受け取り時間を決めて、あとはそのお店に取りに行くだけです。

店側は、TABETEのサイトから申込ページに入っていただき、申込シート記入、契約締結、初期費用1万円のお支払いが完了してからアカウント作成となります。弊社のサポート担当より具体的な運用方法などをご案内させていただき、ほぼ三日ほどで出品可能となります。出品価格などは店側で自由に決められますが、価格設定などのご相談も承っています。

登録ユーザーは、レスキュー数に応じて、都度レスキューパス(50円相当の値引き)が付与され、「ヒーロー」としてのレベルもアップしていきます。マイページからは、レスキューした総グラム数や、削減した総CO₂排出量も確認できます。

–購入手続きに入るボタンが「レスキューに向かう!」なんですよね。子どもたちが親と一緒にこのアプリで買い物できれば、とてもよいSDGs体験になりますね。実際に店に「レスキュー」に行って美味しく食べて、自分のCO₂削減数を見ながらヒーローにもなれます!

篠田さん:

まさに、消費者が消費のしかたを考えるきっかけとして、「レスキュー」とか「ヒーロー」といった世界観を作っています。

考える消費をいかに増やすか、買い方をどう変えるかが重要です。賞味期限内でも売れ残りなら安くて当たり前、というのではなく、店と商品をレスキューしにいくというスタンスの消費者が増えていくほど、事業者にとっても食品ロスへの取り組み意義が出てきます。

食品ロスや環境にいいこと、SDGsに取り組むことが、自社にとっても経済的に負担にならないとなれば、事業者も変ってくると思います。

契約店舗の拡大と店舗ごとへのコンサルティングを目指す

–大手チェーン店ではない個人の飲食店でも会員契約はできますか?

篠田さん:

もちろん大歓迎です。ただ、現状での弊社の取り扱いは、大手飲食チェーンが中心です。それは、一番食品ロスが大規模に発生しているのがその現場だからです。大手は生産量も店舗数も多いため、数パーセントの廃棄率がものすごい量になります。かつ、従業員が持ち帰ってはいけないという厳しいルールがあり、個人商店のように自由に食品ロス対策をとることができません。

惣菜部門ではホテルのビュッフェとの契約が多いのですが、それは、ホテルが食品ロス削減に前向きだからです。商業施設やデパ地下の惣菜店は、閉店時間間際に一斉に値下げする環境ですから、TABETEと契約した店だけが店頭値下げしないのは、無理があるようです。そのあたりは、今後の課題ですね。

–TABETEサービスにおいては、どんな指標を重要視しているのでしょうか?あったとすれば、どのような効果・影響を期待してのことでしょう。

篠田さん:

重視しているのは、実際に食品ロスの削減につながっているかどうかの数字ですね。このアプリがビジネスとして成長していくためには、出品数が重要です。現在、契約店舗が2,500店ほどなのに対して、ユーザーは65万人です。需要が多いのに供給が足りていません。そのため、現在は店舗契約の営業に力を入れています。

実のところ、立地や扱う商品、客層などで店ごとに状況は変わります。どの店舗にも、売上を増やし、食品ロスは減らすという最適な生産量があるはずです。売上とロス率のどちらかを犠牲にするというのはSDGsではないし、持続可能にもなりません。店ごとの最適化ということを重視しつつ、様々な提案などもしています。ゆくゆくは、店舗ごとにコンサルティング的な働きかけも増やしていきたいですね。

TABETEを食品業界のインフラに

–食品ロスがなくなれば、TABETEのサービスも役割を果たしたことになりますね。つまり、サービスが素晴らしい世界観を実現すればするほど、TABETEサービスは縮小していきます。この矛盾をどのように捉えますか?

篠田さん:

食品ロスがなくなり、この事業もなくなるのがよいのでしょうけれど、実際は難しいですね。完全受注生産になれば食品ロスはゼロになるかもしれません。でも、そうなれば、街のケーキ屋もパン屋も商業施設の店舗も意味がなくなる…そのような状況は現実的ではないですね。「作って並べる」というやり方はなくならないと思います。ならば、食品ロス率が減って、売上が最大化できる「最適化」がマストになるでしょう。その追求を続けるのみです。

–アプリ以外での食品ロスへの取り組みがあれば、ご紹介ください。

篠田さん:

いろいろな可能性をさぐるため、2018年3月に埼玉県東松山市、東部鉄道株式会社、JA埼玉中央、東松山生産者直売組合と連携し、直売所「いなほてらす」で売れ残った農産物を池袋駅構内で販売する実証実験「TABETEレスキュー直売所」を行いました。

この企画では、弊社が一次生産者の農家から野菜を買い取っての「一次産業の食品ロス削減」を実現できましたし、消費者の方には、都心で朝採れ野菜が買えたと、とても喜んでもらえました。ゆくゆくはTABETEアプリに繋げていきたいです。

もうひとつの取り組みは 〈日本初!商業施設・駅ナカフードロス削減サービス〉と銘打っている「TABETEレスキューデリ」事業です。こちらでは、施設内テナントで売れ残ってしまった商品を弊社が買い取り、閉店後に施設の従業員へ向けて代行販売します。アプリを通さない実販売ですが、「閉店後に従業員を対象」とすることで、従業員の「値下げ・持ち帰り禁止」というルールにもとらわれずに済み、各店舗に参加いただけて好評な取り組みとなっています。従業員や夜勤警備員の方々にも大好評で、あっという間に売り切れてしまいますね。

アプリTABETEをめぐっては、2022年現在までに約20の自治体と協働したり協定を結び、自治体の食品ロス削減への取り組みの一環として、TABETEの情報やイベントが発信されています。食品ロスへの課題意識がある住民に、自治体として啓発はできても具体的なアクションの提示は難しいようです。広報などでTABETEの情報を発信することで、住民の意識が活性化し行動に繋がることを自治体も歓迎してくれています。

–今後の展望をお聞かせください。

篠田さん:

新しいお店を開くときにTABETEを入れてもらい、食品ロスをなくしながら売上を伸ばすために使われる。TABETEが、そのように頼られるインフラ、すなわち産業活動の基盤になっていくことを目指したいですね。

そのためにも稼働領域を広げていきたいです。いまは中食業界、一部のホテルビュッフェが対象ですが、スーパーやコンビ二、もう少し上流の卸しや一次生産者に至るまで、食のサプライチェーンの全体の領域で発生する食品ロスもTABETEで削減していきたいです。

–食の発信側と消費者をむすぶ貴重な架け橋ですね。本日はありがとうございました。