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Xジェンダーとは?特徴や診断方法・恋愛対象・勘違いされて困ることを紹介

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セクシャルマイノリティへの理解が進む昨今、「Xジェンダー」というワードを耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。ではこのXジェンダーとは何を指すのか、そして当事者の方々はどんな困難に直面しているのか、ご存知ですか?

この記事ではXジェンダーの基本的な知識から、当事者が生活で感じる悩みなどを解説します。また、Xジェンダーに関してよくある疑問についてまで、丁寧に解説します。

Xジェンダーとは

Xジェンダーとは、一言で説明すると、自らの性自認が男性・女性どちらにも当てはまらないと自認する人をさします。

といっても、これだけの説明でピンと来る方は多くはないのではないでしょうか。まず、セクシャルマイノリティについて知るうえで抑えておきたい、身体的性・性自認・性表現・性的指向の概念について簡単に解説します。

身体的性・性自認・性表現・性的指向から考えるセクシャリティ

人間の性は、身体的性、性自認、性表現、性的指向という4つの視点から捉えることができます。以下に整理しましたので、まず確認してみてください。

  • 身体的性
    出生時に身体構造(外性器など)によって判断される性。性分化疾患※などの限られた場合を除き、男性・女性のいずれか。「法律上の性」と類似。日本では法律上の性は、性別適合手術をするなどいくつかの条件を満たすことにより、変更することができる
  • 性自認
    自分自身が認識している性。男性・女性のほかにXジェンダー(男性女性のいずれにも属さない)やクエスチョニング(定まっていない・定めていない)などもある。「性同一性」や「心の性」と言うこともある。
  • 性表現
    自身がどの性の服装・髪型・振舞いなどをするかどうか。社会には長い歴史で構築されたジェンダーロールがあり、「男らしい性表現」「女らしい性表現」が存在している。ただし身体的性と同じ性表現を望むとは限らない。自身の身体的性とは反対の性表現を好む人もいれば、男らしい・女らしいどちらにも当てはまらない性表現を好む人もいる。
  • 性的指向
    どの性別の人に対して、恋愛感情や性的欲望を感じるか。性的指向は男性・女性だけではなく、また恋愛感情と性的欲望は必ずしも一致するというわけでもない。

Xジェンダーはこのうち、性自認の点で「男性・女性のどちらにも当てはまらない」と自認するセクシャリティです。その他の視点(身体的性・性表現・性的指向)については、Xジェンダーの中でも捉え方は人それぞれです。

※性分化疾患

胎児期に何らかの異常が発生し、出生時の性別が男女に定まらない、生まれつきの疾患。

XジェンダーはLGBTQの中に含まれている?

LGBTQはそれぞれレズビアン(Lesbian)、ゲイ(Gay)、バイセクシャル(Bisexual)、トランスジェンダー(Trans-gender)、クエスチョニング(Questioning)の頭文字です。Qはクエスチョニングだけでなく、セクシャルマイノリティを包括的に指す「クィア(Queer)」も含むとすることもあります。

LGBTQというワードは、セクシャルマイノリティ全般を示すことばとして使われることが一般的です。そのため、XジェンダーはLGBTQに含まれます。「LGBTQ」でなく、「LGBT」「LGBTQ+」など類似の言葉でも同様です。

Xジェンダーとノンバイナリーとの違い

Xジェンダーと近いセクシャリティとして「ノンバイナリー」があります。Xジェンダーは、性自認の点において男女のどちらにも当てはまらないとするセクシャリティです。一方でノンバイナリーは、性自認と性表現の二点において、男女のどちらにも当てはまらないとします。

まとめると、次のようになります。

  • Xジェンダー…性自認が男女どちらにも当てはまらない
  • ノンバイナリー…性自認・性表現がどちらにも当てはまらない

ただし、Xジェンダーは日本で生まれた言葉であり、国により使われていなかったり、定義が異なることもあります。そのため、Xジェンダーやノンバイナリーを自認している人でも、その定義がここで紹介したものと完全に一致するとは限らないことに、留意する必要があります。

ジェンダーとの違い

ジェンダーとは、社会的・文化的に構築された性別の概念のことを言います。相対する言葉は、生物学的な性(セックス)です。そしてXジェンダーは、このジェンダーが男性と女性のどちらでもないことを自認するセクシャリティです。

ここまでXジェンダーの定義を「性自認が男女のどちらにも当てはまらない」としてきました。この「性自認」とは「ジェンダーの視点で自身の性別をどう認識するか」と言うこともできます。

Xジェンダーの種類

Xジェンダーの当事者の認識は人それぞれで、単にXジェンダーといっても、自身の性別の捉え方は様々です。多くの場合、Xジェンダーの中には「中性・両性・無性・不定性」の4つのアイデンティティがあると言われています。ここではその4種類の説明に加えて、その他の分類の仕方や、性自認についての考え方もご紹介します。

①中性

中性は「男性と女性の中間」というアイデンティティです。

なお日常会話において、人の外見やふるまいなどを「中性的」だと形容することがありますが、その言葉とここでの中性は意図する内容が異なります。

②両性

両性は「男性と女性、両方の要素を兼ね備えている」というアイデンティティです。

人によってバランスは異なり、男性の要素が多い人、女性の要素が多い人、また男女半々という認識の人もいます。

③無性

無性は「男性・女性の要素どちらも持っていない」というアイデンティティです。

中性・両性の人は自身のアイデンティティが「男性・女性」という2つの要素を元に構成されますが、無性の人はそれらの要素はありません。

④不定性

不定性は「自身の性自認が固定的でなく、不定的・流動的である」というアイデンティティです。性自認がどのジェンダー間で揺れ動くかは人それぞれで、具体例として男性、女性、Xジェンダーの中性、両性、無性などが挙げられます。

4つのどれかに当てはまるとは限らない

ここで紹介した「中性・両性・無性・不定性」は、現在日本で最も広く認識されている、Xジェンダーに内包されるアイデンティティです。

ただし性自認は人間の内面に関わる事情ですから、必ずこの4つのどれかに当てはまるとは限りません。Xジェンダーではあるものの、この4つのどれにもしっくりこないという人も、当然存在します。この4つの分類は、当事者自身や周りの人が当事者のアイデンティティを理解するための「道しるべ」として知っておくと良いと言えます。

MtX/FtXの分類

Xジェンダーを分類する視点として、MtX/FtXという分類の仕方があります。これは、出生時の性(性別移行等をしていない場合は身体的性と同じ)を考慮した分類で、以下のとおりです。

  • MtX…出生時の性が男性のXジェンダー
  • MtF…出生時の性が女性のXジェンダー

また稀ではありますが、疾患が原因で出生時に男性・女性の分類ができないケースがあります。そのような人がXジェンダーを自認する場合は、XtXと表現します。

Xジェンダーが生活の中で感じる悩み

Xジェンダー当事者が生活の中で感じる悩みは、多岐にわたります。ここでは、その原因となっている現象別に、具体的な悩みを見ていきましょう。

1.男女で区別する機会の多さ

社会生活では、男女で区別される機会が多くあります。性自認が「男女」のどちらかでないXジェンダーの人にとって、これが理由となって発生する困難が少なくありません。

自分が着たいと思えるファッションが見つけづらい

市販されている洋服は多くの場合、男女(身体的性)それぞれの体型に合わせた縫製やデザインによって、メンズとレディースで分けられています。ファッション雑誌なども、女性誌と男性誌に分かれており、自分が違和感なく着られるファッションを見つけられずに困っている人は多いようです。

また関連して、日本では「スーツ」の着用が求められる場面が多くあります。スーツは基本的に、男性用と女性用に明確に分けられています。最近はユニセックスのスーツも開発されており、これを着用することによってこの悩みを解決できる当事者は少なくないでしょう。ただしユニセックスのスーツを着る人は少数派であるため、それを着ることで「浮いてしまう」という悩みが生まれてしまうことも考えられます。

男性的・女性的な名前に違和感を覚える

人の名前には、男性的・女性的な響きのものや、ジェンダーを感じとれる漢字を使うことが一般的です。自分の性別はXジェンダーで中性なのに、名前は女性的(または男性的)なもので違和感を感じている…という当事者の声もあります。

身体的性などに基づいた性役割を求められる

性役割とは、社会で性別ごとに求められている行動や役割のことです。例えば、男性は力仕事をすることやリーダーシップなどが求められ、女性はサポート役や細かな作業が求められるといったものが挙げられます。また、男らしさ・女らしさといった考え方もこれにあたります。

Xジェンダーの人の性自認は男性・女性のどちらでもありませんが、身体的性などに基づいた性役割を求められ、違和感・不快感を感じることがあります。

トイレや風呂といったプライバシー空間での困難

トイレや公衆浴場(温泉・銭湯)などは、基本的に男女別で設置されています。当事者は身体的性や、外見に合わせた方を利用するなどしています。しかし、自認している性別とは異なる性別の施設を利用することになるため、心理的困難が生じます。

例えば、中性MtX(出生時男性のXジェンダー中性)の人が男子トイレを使うとします。このとき周囲の人から見たら違和感はないでしょう。ただし当事者は、自分のジェンダー(Xジェンダー中性)とは異なるトイレを利用していることになりますから、居心地の悪さや不安感を覚えることになります。

2.Xジェンダーに対する社会の理解・知識不足

Xジェンダーや、より根本的な「個々人の性のあり方」について、社会の理解は未だ十分とは言えない状況です。これが、以下のような困難を誘発します。

就職活動・就労環境での困難

Xジェンダーをはじめ、セクシャルマイノリティの人は就職活動や就労において困難を覚えることが多くあります。

近年は、人材採用や就労環境において「LGBTに配慮」していることを掲げる企業が増えています。これはよい変化ではありますが、全社員がセクシャルマイノリティについて理解できている企業はまだまだ少ないのが現実です。特にXジェンダーは、伝統的な性別の枠組みである二元論(男性・女性)では捉えきれない考え方なので、セクシャルマイノリティのなかでも非当事者による理解の難易度は高いと言えます。

自らのジェンダーに自信が持てない

理解・知識が追いついていない環境では、家族や親しい友人にカミングアウトをしたとしても、当事者が期待したとおりの返事が返ってこないこともあります。これは他のセクシャルマイノリティにも見られる現象です。「思春期の一時的なものだ」と言われたり、過度に珍しがられたりすると、Xジェンダーという自分のジェンダーに自信が持てなくなり、精神的に不安定になってしまう人もいます。

3.その他

上記以外にも生活で感じる悩みが、性的指向の説明が難しいということです。

性的指向の説明が難しい

性的指向とは先述のとおり、「どの性別の人に対して、恋愛感情や性的欲望を感じるか」という方向性を表す言葉です。同性愛のゲイやレズビアン、異性愛のヘテロセクシャルなどがその一例です。性的指向のカテゴリ分けは、当事者のアイデンティティ確立、仲間づくりや、非当事者への説明に有用です。

そして、ここであげた性的指向はいずれも、自分の性自認が男性か女性かのどちらかであることを前提として、対象となる性別ごとに区分しています。性自認が男性でも女性でもないXジェンダーの人にとって、自分の性的指向を人に説明したり、自身のアイデンティティとして確立したりすることが、Xジェンダーでない人と比べて困難となりやすいと言えます。

Xジェンダーに関してよくある疑問

続いてXジェンダーについてよく感じられる疑問を取り上げ、解説します。

診断方法はある?

Xジェンダーであるかどうか、診断方法があるのかどうかという疑問です。「診断」といっても、医学的知見における診断と、それ以外の診断に分類されます。

まず医学的な診断についてですが、Xジェンダーをはじめセクシャルマイノリティは基本的に「病気」ではありません※。そのため医師がXジェンダーかどうかを診断することはありません

心理士やカウンセラーなどが、当事者の話や様子から総合的に判断し、Xジェンダーであることを選択肢として提示することはありえます。ただしセクシャリティを決めるのは、当事者自身であるというのが基本的な考え方です。人から「診断」という形で決められるのではなく、自身が一番しっくりくるセクシャリティを見つけ、それを受け入れることで、より自分のセクシャリティを受け入れやすくなるのではないでしょうか。

※トランスジェンダーの人が日本で性別適合手術を受けるため、性別違和と診断されることはあります。

思い込み・勘違いのケースもある?

一度はXジェンダーを自認したものの、その後別のセクシャリティを自認するというケースはあります。これを思い込み・勘違いという言葉で処理していいかどうかは、微妙なところです。

先に解説した通り、自分のセクシャリティは自分自身で選択・決定します。当事者は自身の経験や状況を基に、自分のセクシャリティは何なのかを模索します。そのプロセスの中で、自認するセクシャリティが変化することは、おかしいことではありません。特にジェンダーに関しては、はっきりと目に見えるものではないため、当事者自身でも判断するのが難しいことがあるのです。

恋愛対象は?恋愛できない?

ここまででも解説してきたとおり、恋愛感情については主に「性的指向」という言葉を使って考えます。Xジェンダーは「性自認・ジェンダーが男性・女性のどちらか一方に当てはまらない」ことだけを指しますから、性的指向は当事者ごとに異なります。そのため「Xジェンダー=恋愛できない」という考えは、誤りです。

Xジェンダーの中には、特定の性別(男性、女性、Xジェンダーなど)に性的指向が向く人がいれば、複数の性別に性的指向が向く人(バイセクシャルやパンセクシャル)、また他者に対して恋愛感情・性的欲求を抱かない人(アセクシャル)など、様々な性的指向の人がいます。これはXジェンダーではない人と同じことです。

公表している芸能人は?

Xジェンダーであることを公表している芸能人を知りたい方は、少なくないと思います。Xジェンダーという概念が日本で生まれたこともあり、Xジェンダーであることを自ら公表している芸能人は、筆者の調査の限りではいらっしゃいませんでした。

なおYouTuberや政治家などに範囲を広げると、Xジェンダーの公表者がいます。

なお「中性的」な振舞いや見た目をしていることなどを理由に、他者がXジェンダーであると決めつけることは不適切です。また自らのセクシャリティは著名人であろうと、公表する権利・公表しない権利があることも、抑えておきましょう。

XジェンダーとSDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」との関連

最後に、XジェンダーとSDGsの関係について解説します。

SDGsの17の目標のうち、Xジェンダーと最も関連のあるのは目標5「ジェンダー平等を実現しよう」です。

ただしSDGsはこの目標5も含めて、セクシャルマイノリティに関する記述はありません。これは、SDGsが国連加盟国の中にはセクシャルマイノリティの権利確保に否定的なスタンスをとる国もあることが理由です。そのため目標5では、主に女性や少女といった社会的弱者の権利拡大がうたわれています。

とはいえ、SDGs全体の理念として「誰ひとり取り残さない」というキーワードがあります。Xジェンダーも含めて、セクシャルマイノリティの人もそうでない人も、全ての人々の平等を実現することが、目標5達成の鍵と言えます。

【関連記事】SDGs目標5 ジェンダー平等を実現しよう|現状や問題点と企業の取り組みを解説

まとめ

この記事では、Xジェンダーについての基本的な知識から、当事者が直面する悩み、またよくある疑問への解説もご紹介しました。

Xジェンダーやその他のセクシャルマイノリティの人は、私たちとおなじ社会で暮らしています。より多様性のある社会を目指すため、様々なマイノリティの人について知識をアップデートすることは大切です。ぜひこの記事で得た知識を周りの方にシェアしてみてくださいね。

参考
X ジェンダーを生きる ─男女のいずれかというわけではない性自認をもつ人々の語りから/質的心理学研究 第18号/山田苑幹 名古屋市中央療育センター
特定非営利活動法人にじいろ学校-用語一覧
認定NPO法人 虹色ダイバーシティ-NIJI BRIDGE