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コーダ(CODA)とは?悩みや注目されるきっかけになった映画の紹介も

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近年、映画「Coda コーダ あいのうた」でコーダの存在を知った人も多いのではないでしょうか。聴覚障害者の親を幼少期から支えてきたコーダは、聴者の家庭では起こらない多くの苦悩を経験してきました。この記事を通して、彼らが育ってきた環境や抱えやすい悩みについて知り、身近にコーダがいた時に私たちが取るべき行動や、必要な支援に関して理解を深めましょう。

コーダ(CODA)とは

コーダ(CODA)とは「Children of Deaf Adults」の略で、聴力に障害のある親のもとで育った、健聴者の子どもを指します。

両親が聴覚障害者のケース、父母の一方が聴覚障害者のケースどちらも含まれ、親の聞こえの程度に合わせて手話や口話、筆談などさまざまな方法でコミュニケーションがとられています。

親が補聴器をつけても音を判別できない「ろう者」の場合、コーダは幼少期から手話を基礎とするコミュニケーションを取ることが多く、家庭内では視覚と触覚を重視したやり取りが多く見られます。

日本国内には2万2,000人のコーダがいるとも

耳が聞こえない親から生まれた子どもの約90%は聞こえる子どもであると言われています。つまり、聞こえない親から生まれる子どもは高確率でコーダになるため、珍しい存在ではありません。正確な統計は出ていないものの、日本には約2万2,000人のコーダがいると推測されています。

コーダが生活の中で抱えやすい悩み

コーダは幼少期から、聞こえない世界と聞こえる世界を行き来する生活を送っています。手話ができることに誇りを持ち、大人になって仕事に活かす人もいれば、日常的な音や情報に関する支援を担い、親を守らなければならないという強い責任感に耐えられず、独り悩み続けている人もいます。

ここでは、ろう文化と聴文化の中で生活を送るコーダが、日常で抱えやすい悩みについて解説します。

通訳の立場として重責を感じてしまう

コーダは日常生活の中で、親と聴者の通訳の役割を担うことが多くあります。通訳は、日常会話や簡単な情報伝達だけではありません。病院や銀行、生命保険の契約についてなど、子どもにとっては理解すら難しい内容を通訳しなければいけない場面にも直面します。

また、学校の三者面談では教育指導を受ける立場の子ども本人が、先生が話す内容を自ら親に通訳しなければいけないこともあり、大きな負担がのしかかります。しかしその中でも、コーダは子どもながらに、自分が親の一番の理解者になり守らなければならないと感じており、年齢にそぐわない責任を抱いて、精神的負担を背負ってしまうのです。

聴文化でのコミュニケーションに難しさを感じる

多くのコーダが、聴覚に障害のある親と手話でコミュニケーションを取ります。とはいえ、聴者の子どもが手話を習得することは容易ではありません。習得しても、聴文化との使い分けをすることを困難に感じるケースがあると言います。

具体的には、ろう文化では、聴覚に頼らず視覚・触覚に重点を置いたコミュニケーションをとります。例えば、

  • 背後から近づく車のクラクションが聞こえない親の手を強く引く
  • 相手に気づいてもらうために肩を叩く
  • 近くにある机を強めに揺らす

などがこれにあたります。これらを聴者に対して行ってしまうと、失礼と受け取られる場合があるため、コーダは聴者と聴覚障害者で接し方を変える必要があります。

他にも、手話では会話の中で主語を明確にするために指差しが使われます。「あなたが」と伝える際に相手を指差すことになるため、それを聴者に対してすると無礼だと受け取られる場合があります。

幼少期にろう文化の中で育ったコーダは、無意識にろう者の生活習慣を身につけています。成長と共に聴文化のコミュニケーションとの違いに気づき、周りとのやり取りに難しさを感じてしまうことも少なくありません。

理解者とつながる機会が少ない

コーダが置かれる境遇や悩みについて気軽に相談する相手が近くにおらず、苦悩を吐き出す場所がないため、孤立感を深めてしまう人もいます。さらに、たとえ悩みを話せる相手がいたとしても、コーダの複雑な心情や育った環境を理解してもらうのに時間がかかることがあります。これにより、「話してもきっと理解してもらえない」と考え、精神的不安につながってしまうのです。

また、親を手話通訳で支える姿を見た人からは「偉いね」「あなたがしっかり親を支えないといけないよ」などと声をかけられ、「親を守るいい子」でいなければならないとプレッシャーに感じるコーダもいます。

コーダに注目が集まった背景

ここでは、近年コーダが注目されるようになった背景を見ていきましょう。

歴史

コーダ(CODA/Children of Deaf Adults)という言葉は、1983年にアメリカのミリー・ブラザーによって作られました。彼自身も聞こえない両親を持つコーダでした。

日本では1994年に開催された「THE DEAF DAY’94」というイベントで、レスリー・グリア氏(ろう者)の講演にて、コーダが初めて紹介されたことをきっかけに広まっていきました。

しかしこれまで、コーダ自身は耳が聞こえるため、周囲が彼らの抱える苦悩や育ってきた環境はわかりにくいこともあり、多くの人が言葉の意味さえ知らない状況であったことも事実です。その中で2022年1月に公開された映画「Coda コーダ あいのうた」がアカデミー賞を受賞したことをきっかけに、コーダの存在が広く知られるようになりました。

次では、「Coda コーダ あいのうた」のあらすじを紹介します。

映画「Coda コーダ あいのうた」で広く知られるように

ルビーは、父・母・兄とともに暮らす高校生です。ルビー以外の三人は全員耳が聞こえないためコーダとして育ち、毎朝漁師の兄と父と海へ漁に出たり、病院に付き添い難しい内容の通訳を担ったりしてきました。
そんな生活を送る中、元々歌うことが好きだったルビーは、高校の合唱サークルに入部します。音楽の先生に歌声を評価され、音楽大学への進学を後押しされるも、卒業後は家業のサポートに入るつもりでいたルビーは迷いを見せます。さらに、耳が聞こえない家族にはルビーの歌声の魅力を信じてもらえず、進学を反対される始末。
しかし、父は合唱サークルの発表会で観衆がルビーの歌声に涙する姿を目の当たりにしました。そして、ルビーの喉に手を当て振動として感じる歌声の素晴らしさに気づきます。家族はルビーを試験に送り出すことを決め見事合格。近くで支え合っていた家族が初めて離れ、それぞれの夢に向かって進み始めました。

家族で唯一の聴者として役割を果たさなければならないという苦悩と、外の世界で自分の夢を追いかけたい気持ちの狭間にいるコーダの複雑な心情が描かれた作品です。

コーダに対する支援

先述したように、多くのコーダが持つ悩みとして、コーダが置かれた状況や育った環境について理解してもらいにくいと感じ、孤独感を持ってしまうことがあげられます。コーダ自身が自分の置かれた状況は珍しいわけではなく、多くの仲間が存在していると気づき、安心して経験を共有できる機会が必要です。
ここでは、コーダに対する支援に関して紹介します。

J-CODA(Japan Children of Deaf Adults)

J-CODA(Japan Children of Deaf Adults)は、1996年に発足されたコーダ同士が集まり親交を深めるためのコミュニティです。ここではコーダの定期的な交流会や、手話が苦手なコーダでも気軽に学べる手話勉強会などが開かれています。ホームページには、小・中学生のコーダ、聴覚に障害のある親など、違う立場でも活動内容が伝わるように書かれています。親子関係の問題を家庭内だけで解決するのではなく、外部に相談できるきっかけを提供しています。

WPコーダ子育て支援

WPコーダ子育て支援は、聞こえない親がコーダのためにどのような子育てをし、子どもとどのようにコミュニケーションを取ればいいのかを学べるコミュニティです。成人したコーダやコーダ研究者の方々と交流の場を設け、経験談をもとにコーダとの関わり方のヒントを得られます。聴覚障害のある親にとって、聴者である子どもとの生活は不安なことが多いでしょう。経験者からの話は多くの不安を解消し、子育てを楽しむヒントを与えてくれます。

他にもWPコーダ子育て支援は、コーダについて詳しく書かれたパンフレットの作成やブログでの情報発信など積極的に情報提供をしています。

意思疎通支援

意思疎通支援は、聴覚・言語機能・音声機能などのさまざまな障害や難病のある方に対し、手話通訳や代筆などの方法で意思疎通の支援を行う取り組みです。例えば、話し手が話す内容をパソコン等で文字に表したり、必要に応じて絵を用いて会話内容の理解を深めてくれたりします。各地方自治体が実施しており、お住まいの市区町村に相談して受けられます。

コーダに対して私たちができること

次に、コーダに対して私たちができることを考えていきましょう。

まずは知り、理解を深める

コーダに対して私たちができることは、彼らの育ってきた環境や置かれた立場に理解を示すことではないでしょうか。コーダは幼少期から手話や視覚的コミュニケーションを当たり前に使ってきました。私たちは、そのコミュニケーション方法も世の中の当たり前として捉え、一人の人として互いに理解し合う必要があります。

子どもは成長するにつれて自我が芽生え、自分の親と周りの親の違いを意識し始めます。

特に10代の子ども達は、「普通である」ことに敏感に反応してしまうため、コーダとして育ってきた過去を前向きに受け入れられない子もいます。また、家庭から出て外で手話を使うことが恥ずかしいと感じる子もいます。

コーダについて知る人がひとりでも増え、学校や地域社会で彼らの気持ちに寄り添う行動や声掛けが広まれば、少なくとも恥ずかしいと感じる子も減っていくと思います。コーダの生い立ちを一つのアイデンティティとてポジティブに受け入れ、彼らがそれを誇りに思える世の中になるよう、理解し合いましょう。

コーダとSDGs

最後に、コーダとSDGsの関係について解説します。
家庭環境の違いによってコーダの未来の選択肢が狭まることはあってはいけません。「17の目標」と「169のターゲット」で構成されているSDGsの中で、特に関係の深いものを紹介します。

SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」

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親を近くで支えなければいけないという強い責任感から、本来自分が目指したい未来や就きたい仕事を諦めてしまうコーダもいます。ライフスタイルや文化多様性を理解し、自らが進みたい未来のために学習する機会を得ることは、SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」の達成に貢献できるでしょう。

特に関連のあるターゲットは以下のとおりです。

ターゲット4.7

2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。

SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」

sdgs10

聴覚に障害のある親とコーダが置かれた立場や、今まで乗り越えてきた困難を理解し気持ちに寄り添うことが大切です。手話や口話、筆談も一つのコミュニケーションだと当たり前に受け入れ、コーダやその家族が暮らしやすい世の中にしていく必要があります。

コーダが持つ能力を誇りに思える環境を作ることは、SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」に貢献できます。

特に関連するターゲットは以下のとおりです。

ターゲット10.2

2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、全ての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する。

まとめ

コーダは聴覚に障害がある親を持ち、幼少期から聴者と親の通訳の役割を担ってきました。「聞こえる」が当たり前の外の世界と「聞こえない」親とのコミュニケーションを使い分ける生活は、さまざまな場面で子どもであるコーダに精神的負担を与えています。中には、周りに相談しても理解してもらいにくいと考え、孤独に悩み続けるコーダもいます。

コーダを支える行政の取り組みや支援団体について知り、身近にコーダがいる場合は彼らの置かれている立場を理解して接しましょう。コーダやその家族が孤立しない住みやすい社会を目指し、私たちができることを考え行動していきましょう。

<参考>
きこえない親を持つきこえる子ども CODAコーダのページ
聴覚障害の親をもつ健聴児(Children of Deaf Adults : CODA) の通訳役割の実態と関連する要因の検討
聴覚障害の親を持つ健聴の子ども(CODA)の通訳役割に関する親子の認識と変容
映画『Coda コーダ あいのうた』公式サイト
関西学院大学 手話言語研究センター コーダと手話から、多言語多文化共生社会の実現を思う
J-CODAホームページ
つたわるネット コーダ子育て支援
厚生労働省 政策について 意思疎通支援