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宇宙ゴミ(スペースデブリ)が地球に落下する?回収に取り組む会社や原因も紹介

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2021年と2022年に、中国が打ち上げたロケットの残骸が地球に落下するというニュースが流れ話題となりました。地球軌道上にある人工物を宇宙ゴミと呼びますが、落下する以外にも人工衛星に衝突して破壊・機能不全に陥らせてしまうなどの大きな問題点を抱えています。

増え続ける宇宙ゴミにどう対処するかは、世界共通の課題となっています。しかし、発生原因や宇宙ゴミの問題など、あいまいな部分も多いかもしれません。そこで、今回は宇宙ゴミの発生原因や引き起こす問題、回収のために技術開発を進めている企業を紹介し、宇宙空間の持続的な利用について考えます。

宇宙ゴミ(スペースデブリ)とは?

2002年に国際機関間スペースデブリ調整委員会が採択したガイドラインによると、宇宙ゴミとは、「機能していないすべての人工物体(その破片及び構成要素を含む)で、宇宙空間にあるっかまたは大気圏内に再突入するもの」としています。*1)

この定義に従えば、正常に動いている人工衛星や人工物ではない惑星間塵(メテオロイド)は宇宙ゴミにはあたりません。

惑星間塵(メテオロイド)

太陽系内の惑星間空間に存在する微細な粒子のこと。*2)

宇宙ゴミには「スペースデブリ」「デブリ」など様々な呼び名がありますが、この記事では「宇宙ゴミ」の呼び名で統一します。

では、こうした宇宙ゴミがどの程度存在しているのでしょうか。もう少し詳しく見てみましょう。

総数1億3千万個に達する宇宙ゴミ

1957年に旧ソ連がスプートニクを打ち上げて以来、人類は数多くのロケットや人工衛星などを宇宙に送り出してきました。2022年12月時点で軌道上に存在する人工衛星はおよそ9,800機。このうち、稼働しているものは7,100機でそれ以外の3,700機ほどが宇宙ゴミとなっています。*1)

大きな宇宙ゴミ以外にも、10cm以上のものが36,500個程度、1〜10cmのものが100万個程度、1mm〜1cmのものが1億3,000万個程度の宇宙ゴミが地球軌道上に存在していると推計されます。*1)

これらのうち、一定以上の大きさの宇宙ゴミは宇宙物体のカタログに登録(カタログ化)され、追跡調査がなされています。

【カタログ化された宇宙物体数の推移】

Total Objyectsは宇宙ゴミの総数を示していますが、右肩上がりで増加していることが読み取れます。2007年に急増しているのは中国の対衛星実験が実施されたからです。2009年の増加原因はアメリカの通信衛星とロシアの軍事衛星の衝突事故です。2021年の増加原因はロシアの対衛星実験の結果と考えられています。

対衛星(ASAT)実験

相手国の人工衛星の機能を喪失させるための対衛星兵器を開発するための実験のこと。対衛星攻撃の手段としては、地上や航空機から衛星を破壊する対衛星攻撃ミサイルや衝突やロボットアームによる捕獲で人工衛星の機能を失わせるキラー衛星、高出力レーザーを人工衛星に照射する指向性エネルギー兵器、電波妨害などがあります。*3)

なぜ宇宙ゴミが発生する?原因は?

人工物である宇宙ゴミは、宇宙開発が始まる前の1957年には存在しないものでした。では、1億3,000万個もの宇宙ゴミはどのようにして発生したのでしょうか。宇宙ゴミ発生の3つの原因について解説します。

運用が停止された人工衛星

打ち上げられた人工衛星は、燃料や電力の喪失、機材の故障、老朽化などにより運用が停止されます。停止した後は、回収されずにそのまま宇宙ゴミとなります。また、打ち上げロケットの上段部分も宇宙ゴミとなります。*4)

人工衛星打ち上げ過程で放出される物質

人工衛星の打ち上げや、人工衛星の運用中に放出される部品も宇宙ゴミとなります。たとえば、ロケットの部品ロケットの切り離しに使用される部品光学器具を保護するカバー、ロケット燃料を燃やした時に出る燃焼生成物劣化した塗料の破片なども宇宙ゴミになります。*1)

宇宙物体の破裂

地球の軌道上にある宇宙物体が、何らかの理由で破裂すると、新たな宇宙ゴミを生み出す原因となります。これらを「破片デブリ」と呼びますが、これが宇宙ゴミの半数以上を占めています。破片デブリの発生原因は以下の3点です。

使用済みロケットの推進物(燃料や酸化剤)の爆発

過去に打ち上げられたロケットで、燃料と酸化剤が分離されていないものは爆発の可能性があります。液体水素や液体酸素などを推進剤に用いていると、膨張して破裂の原因になります。それ以外では、運用が終わった人工衛星の太陽光発電システムも、過充電でバッテリーが爆発する可能性が指摘されています。*1)

宇宙ゴミの衝突

「宇宙ゴミ同士の衝突」、「稼働中の人工衛星に宇宙ゴミが衝突」などにより、あらたに破片デブリを発生させることがあります。典型的な例として、2009年のアメリカの通信衛星とロシアの運用を終えた軍事衛星の衝突が挙げられます。*1)

これは、2つの衛星の衝突により、アメリカの衛星から620個、ロシアの衛星から1,667個の破片が発生したものです。これらの破片は高度200〜1,700kmの広い範囲に分散したとされています。*1)

人工衛星などの意図的な破壊

対衛星兵器の開発のため、意図的に人工衛星を破壊した結果、宇宙ゴミが大量発生したこともあります。2007年1月に中国が行った人工衛星をミサイルで破壊する実験では、3,400個以上もの宇宙ゴミが発生しました。*1)

また、2021年11月にロシアが行った人工衛星破壊実験では、観測可能なものだけで1,500もの宇宙ゴミが発生しました。こうした実験が行われるたびに、地球軌道上の宇宙ゴミは急激に増加してきました。*1)

宇宙ゴミによる問題

では、宇宙ゴミが発生すると、どのような問題が起こるのでしょうか。ここでは宇宙空間と地上の両面から詳しく見てみましょう。

速度がはやいため、人工衛星などが破損してしまう

宇宙ゴミの移動速度は秒速7〜8kmときわめて高速です。このような高速で移動する物体が人工衛星などに衝突すると、

  • 10㎝以上の宇宙ゴミなら完全に破壊
  • 1〜10㎝の宇宙ゴミでは致命的な損傷を与える

と考えられます。もし、大きさがそれ以下であったとしても、人工衛星に何らかの損傷を与える可能性があり、非常に危険です。

高速で飛び回る宇宙ゴミは長期間にわたって、軌道上を周回します。滞留期間は高度によって異なりますが、高度600km以下で数十年間高度900km以上では数千年間とさえいわれます。そして高度36,000kmの静止軌道上では永久に軌道上にとどまり続けると考えられています。*1)

地球に落下する危険性がある

宇宙ゴミの中には地球の重力にひかれて大気圏に落下するものがあります。多くは大気圏内で燃え尽きますが、大きさや材質によっては地上に落下することもあります。地上からコントロールできる稼働中の人工衛星であればよいものの、運用終了後のものや故障したものはコントロール不能であるため、落下ポイントを制御できません。*1)

落下した事例として、1978年の旧ソ連の原子炉搭載衛星がカナダに落下した例や、1979年にアメリカの宇宙ステーションの破片がオーストラリアに落下した例、1997年にアメリカのデルタ2ロケットの燃料タンクがアメリカ国内の民家の近くに落下した例などがあります。*1)

宇宙ゴミの対策

宇宙空間では高速で飛び回り、地球に落下するときも場所をコントロールできないなど、人間の制御を離れた宇宙ゴミは大きなリスク要因となっています。現状、こうした宇宙ゴミは監視・観測しつつ、回収や衝突回避などを行い、リスクをコントロールしようとしています。

宇宙ゴミの監視・観測について

宇宙ゴミのリスクを制御するには、宇宙ゴミの現状把握をしなければなりません。現在、直接監視する方法統計的手法による分析の2つの方法を用いて宇宙ゴミの動向を監視・観測しています。

高度が比較的低い低軌道の宇宙ゴミは、地上のレーダーをつかって監視します。一方、静止軌道上の宇宙ゴミについては、レーダーで観測するには遠すぎるため、光学顕微鏡が用いられています。*1)

レーダーや光学望遠鏡での監視が難しい10㎝以下の小さな宇宙ゴミは、統計的手法によって分析します。実験用衛星を軌道上に一定期間配置し、その間に、宇宙ゴミが衛星と接触することで発生する衝突痕などから宇宙ゴミの数を推測する方法です。これらの方法を併用することで、宇宙ゴミの現状把握に努めています。*1)

回収方法について

宇宙ゴミを回収する手段は研究途上ですが、2000年代に入ってからは、各国が宇宙ゴミ対策の技術開発に積極的に取り組み始めました。たとえば、日本のJAXAは漁網メーカーと共同で宇宙ゴミ除去技術の開発を進めています。*5)

具体的には、テザーとよばれる通電素材のひもを人工衛星に取り付け、宇宙ゴミのスピードを落とし、大気圏に落下させる方法です。*6)

また、レーザーを照射し、宇宙ゴミの軌道を変えて大気圏に落下させる技術の開発も進められています。宇宙ゴミに接触せず、安全に動かせるのがメリットです。*7)

宇宙ゴミに取り組む企業

宇宙ゴミの回収・除去は新たなビジネスチャンスを生み出しています。ここでは、アストロスケール、ALE、スカパーJSTAの3社をとりあげます。

アストロスケール

同社は宇宙ゴミを回収するデブリ除去実証衛星を開発しました。2021年8月に同衛星が宇宙ゴミの捕獲に成功するなど、着々と実用化が進められています。こうした実績から、アストロスケールはJAXAの商業デブリ除去実証フェーズ1の商業パートナーに選定されました。*8)

この成功を受け、同社は2024年末に、複数の宇宙ゴミを捕獲・除去できる新たな衛星「ELSA-M」による宇宙ゴミ除去サービスの実証実験を行うとしています。*1)

ALE

ALEは先ほど紹介したテザーを利用して、運用終了後の人工衛星を軌道から外す方法を採用しています。

【テザーを使った人工衛星減速の仕組み】

運用が終わった人工衛星はテザーを伸ばし、そこに電流を流します。すると、進行方向の逆向きに働くローレンツ力が発生するため、人工衛星が減速し、大気圏に落下させることができます。*1)

スカパーJSAT

同社は理化学研究所やJAXA、名古屋大学、九州大学などと共同で世界初のレーザーによる宇宙ゴミの除去技術を開発しています。

【レーザーによる宇宙ゴミ除去の仕組み】

【レーザーによる宇宙ゴミ除去の仕組み】
出典:スカパーJSAT*10)

レーザー搭載衛星が目標にレーザーを照射し、そのエネルギーを使って宇宙ゴミの軌道を変えて大気圏に落下させる仕組みです。宇宙ゴミに接触せず、回転している宇宙ゴミでも対応できる点がメリットで、2026年からの運用を目指しています。*10)

宇宙ゴミとSDGs

これまで見てきたように、宇宙ゴミは人類による宇宙開発と表裏一体のものです。しかし、近年はロケットの打ち上げや回数が増え、地球軌道上に宇宙ゴミが蓄積・増加している状況です。宇宙空間の「持続的」な利用のために何を意識するべきでしょうか。

SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」との関わり

宇宙ゴミの回収はSDGs目標4・9・10・12・17と関わりますが、中でも目標10「人や国の不平等をなくそう」と密接にかかわります。これまで、宇宙開発は一部の国が主導し、宇宙ゴミを大量にまき散らしてしまいました。

これからは、一部の国が人工衛星を使用するのではなく、すべての国に人工衛星を含む宇宙空間使用のチャンスが与えられるべきです。宇宙ゴミを除去し、すべての国が使用できる環境を整備することで、人や国の不平等や格差を縮小させられるのではないでしょうか。

まとめ

今回は軌道上に多数存在する宇宙ゴミについてまとめました。私たちの目に見えない場所にある宇宙ゴミですが、天気予報や各種の情報収集・解析で活躍する人工衛星にとってきわめて大きな脅威となる存在であることがわかりました。それだけではなく、放置すれば地上に落下し、人的な被害を招きかねないという点でも警戒するべき存在です。

人類が宇宙開発の過程で生み出してしまった宇宙ゴミですが、近年、回収・除去の技術開発が進み、実用化に向けて動き出しています。過去の宇宙ゴミを制御することは、すべての国が宇宙開発の恩恵を受けられる第一歩となるのではないでしょうか。

<参考文献>
*1)国立国会図書館「第7章 スペースデブリに対処するための技術とルール
*2)デジタル大辞泉「惑星間塵(ワクセイカンジン)とは? 意味や使い方
*3)防衛省「コラム|<解説>宇宙空間をめぐる安全保障の動向
*4)ファン!ファン!JAXA!「宇宙ごみ(スペースデブリ)って何?
*5)日経ビジネス「スペースデブリとは? 宇宙ゴミを処理する企業の取り組みに注目する
*6)Bloomberg「JAXA、宇宙ゴミを漁網技術で掃除、伝統応用し世界初の実証実験へ – Bloomberg
*7)SKY Perfect JSAT Holdings「持続可能な宇宙環境を守るために、 レーザーで宇宙ごみを除去
*8)アストロスケール「アストロスケール、デブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」で模擬デブリの再捕獲に成功
*9)PRTIMES「株式会社ALE、宇宙デブリの拡散防止に貢献する装置の開発に着手
*10)スカパーJSAT「持続可能な宇宙環境を守るために、 レーザーで宇宙ごみを除去