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DAC(直接空気回収技術)とは?CO2回収の仕組みや課題、企業の取り組みも

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日本をはじめ世界では、2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指しています。しかし温室効果ガスであるCO2の排出量を抑えても、目標を達成することは困難とされているのが現実です。そこでこの問題を解決する1つの技術として、DAC(直接空気回収技術)が注目されています。

この記事では、DACとは何か、CCSとの違い、仕組み、種類、注目されている理由、メリット、デメリット・課題、取り組む企業、SDGsとの関係について解説します。

DAC(直接空気回収技術)とは

DAC設備のイメージ(引用元:Direct Air Capture Technology | Carbon Engineering)

DAC(Direct Air Capture:直接空気回収技術)とは、大気中の二酸化炭素(CO2)を直接回収する技術を言います。大気中には、0.04%ほどの低濃度のCO2が含まれています。このCO2を回収することで、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を実現するのが狙いです。

回収されたCO2は地中に貯蔵されるほか、海外ではメタンの製造やジェット燃料、温室栽培などに利用されています。日本をはじめ、EUやアメリカ、フランス、ノルウェーなどで取り組みが進められ、現在は130以上のDAC計画が世界で進行中です。[i]

CCSとの違い

CCSとは、Carbon dioxide Capture and Storageの略で、CO2を回収して地中などに貯留する技術を指します。製油所や発電所、化学工場などから排出されるCO2を回収し、泥岩や砂岩などの層に貯留する技術です。つまりDACは大気中からCO2を回収する技術であるのに対し、CCSは地中に貯留する技術である点が異なります。

また、この2つを合わせた技術は、DACとCCSをつなげて「DACCS」と呼ばれています。CCSやDACCSは、技術の確立を目指して現在研究開発が進められている状況です。

【関連記事】CCSとは?カーボンニュートラルの貢献度・CCUSとの違い・問題点を解説

DAC(直接空気回収技術)の仕組みと種類

DACの仕組みは大まかに、①大気を集める②集めた大気の中からCO2を分離・回収する③CO2を貯留・利用するという流れになっています。

CO2を分離・回収する方法は、上図にある「吸着剤」「膜」「ドライアイス」のほか、「吸収液」による分離という4つ種類があります。これらは一般的に、「化学吸収法」「物理吸着法」「膜分離法」「深冷分離法」と呼ばれています。

4種類の回収方法について詳しく見ていきましょう。[ii]

化学吸収法

化学吸収法は、空気と吸収液との化学反応を利用して、CO2を分離・回収する方法です。CO2と結合しやすいアミンという化合物から作られる水溶液を利用する方法が多く取られています。

上図は、発電所や工場から発生するガスを回収する想定で作られていますが、空気の場合もほぼ同じです。空気(図では「CO2を含むガス」)は吸収搭に取り込まれ、吸収液にCO2を吸収されます。そして吸収液は再生搭にて加熱され、CO2を分離・回収するという仕組みです。

再生搭での加熱の工程には大量のエネルギーが必要であることから、コストがかかるという課題があります。また、アミンには腐食性があるため、吸収搭や再生搭の配管が腐食しやすいことが問題です。[iii]

物理吸着法

物理吸着法は、空気を吸着材に通してCO2を吸着・回収する方法です。吸着材には、アルカリ金属塩やアミン担持多孔質材、イオン交換樹脂などが用いられます。

空気(図では「CO2を含むガス」)は、加圧されることにより吸着材にCO2が吸着されます。そして吸着材を減圧することで、CO2を分離・回収する仕組みです。分離・回収する方法はこの他に、加熱や加湿があります。

物理吸着法は、化学吸収法に比べて必要なエネルギーが低いことが利点である一方、吸着と脱着のサイクルに時間がかかることが欠点です。

膜分離法

膜分離法は、空気を分離膜に通してCO2を分離回収する方法です。高分子膜やイオン液体膜などが主な材料として使用されています。

空気は、膜を通過することでCO2を分離することが可能です。ただし、膜の上流を加圧するか、もしくは下流を減圧か真空状態にするかして、圧力差を生じさせる必要があります。

DACの種類の中でも最小のエネルギーで済むため、今注目されている方法の1つです。より高機能な膜を作るため、最適な材料の開発が進められています。

深冷分離法

深冷分離法とは、空気をCO2の凝固点まで冷却し、ドライアイスにして分離する方法です。気体であるCO2に圧力をかけて液状にした後、蒸留して固体にします。

他のDACの中でも設備コストが高く、圧縮に使用するエネルギーも多く必要であることが課題です。

欧米では、物理吸着法や化学吸収法の研究開発と大規模実証が進められており、商用規模で稼働している設備もあります。一方日本では、物理吸着法や深冷分離法、膜分離法を中心に開発が進められている状況です。[iv]

なぜDAC(直接空気回収技術)が注目されているのか

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DACは世界で注目されている技術ですが、その大きな理由は、ネガティブエミッションに不可欠な技術であることです。そして今、ビジネスの分野でも活発な動きを見せているEフューエルについて触れていきましょう。

ネガティブエミッションに不可欠な技術である

世界は、地球温暖化の原因と考えられている温室効果ガスの削減に取り組んでいます。温室効果ガスには、メタンや一酸化二窒素などがありますが、CO2(二酸化炭素)もそのうちの1つです。

CO2を削減するためには、再生可能エネルギーの利用やカーボンリサイクルなどの推進が必要です。しかし、航空燃料や鉄鋼業などにおいては、脱炭素が困難であるといわれています。そこで、ネガティブエミッション技術の1つとしてDACが注目されています。

ネガティブエミッションとは、大気中の温室効果ガスを回収・貯留してCO2をマイナスにする技術のことです。例えば、樹木を植えてCO2の吸収を促進する技術も該当します。ネガティブエミッションを進めることで、より積極的に温室効果ガスの削減に取り組むことが可能です。その中でDACは、地球温暖化対策に欠かせない技術として期待されています。[v]

【関連記事】ネガティブエミッションとは?問題点や現状、取り組み事例なども

CO2排出量ゼロの燃料「Eフューエル」に利用できる

EUや航空業界では、CO2排出量ゼロの燃料「Eフューエル」に注目しています。Eフューエルとは、再生可能エネルギーから作られる合成燃料のことです。合成燃料は、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)から成る燃料で、人工的な原油ともいわれており、通常の原油に比べて硫黄分や重金属分が少ないのが特徴です。Eフューエルに使われるCO2は発電所や工場などのほか、DACから供給することも想定されています。

また、Eフューエルの1つの特徴は、少ないエネルギー資源量でも多くのエネルギーに変換できることです。[vi]そのため、電気や水素エネルギーへの転換が難しい航空機やトラック、乗用車、船舶などにも利用できると期待されています。

【関連記事】合成燃料とは?作り方や活用事例、メリット・デメリット、課題も紹介

DAC(直接空気回収技術)のメリット

DACについて大まかな理解が深まったところで、メリットについて確認していきましょう。

カーボンニュートラルの実現に貢献

1つ目のメリットは、カーボンニュートラルの実現に貢献できることです。世界120以上の国と地域は、2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする「2050年カーボンニュートラル」の目標を掲げています。日本も2020年に同目標を宣言し、温室効果ガスの排出量を抑えるだけでなく、ネガティブエミッションを強化する必要性を検討してきました。

繰り返しになりますが、DACはCO2を回収する技術であり、排出量をマイナスにすることが可能なネガティブエミッションの1つです。排出量の削減だけでは難しい状況の中で、「2050年カーボンニュートラル」の目標を達成するためにはDACをはじめとした新しい技術が必要です。DACが実用化すれば、カーボンニュートラルの実現に向けた大きな一歩になるでしょう。

空気があればどこでも導入が可能

もう1つのメリットは、空気のある場所であればどこでもDACを設置できる点です。工場や発電所などから排出されるCO2を回収する方法は、これまでにもありました。しかしこの場合、設置できる場所は限られます。一方DACは、ほとんどの場所に存在する空気を回収できるため、多くの選択肢が生まれるところが大きな利点です。

さらに、植林やバイオマス発電から回収して貯留するBECCSなど、他のネガティブエミッション技術よりも設置面積が小さい[vii]ことも特徴に挙げられます。場所や面積といった設置する際の制限が、従来の技術より比較的自由になることも魅力です。

DAC(直接空気回収技術)のデメリット・課題

DACにはメリットがある一方で、デメリット・課題もあります。

エネルギーコストが高い

1つ目の課題は、エネルギーコストが高いことです。DAC装置に空気を送り込むファンは、多くの電気エネルギーを必要とします。例えば、化学吸収法や物理吸着法のエネルギーコストは、1キログラムのCO2を回収するのに2.9~49.7円かかります*[viii]。これは、排ガスを回収する設備のエネルギーコストの2.5円を上回り、大きな課題と言えるでしょう。

今後、市場の競争力を高めていくためには、エネルギーコストのほか、設備・運転コストの削減も必要です。政府は、2040年以降のターゲットとして、CO2の総回収コストを1トン当たり2,000円台にするという数値を掲げています。[ix]

*CO2を1時間当たり112トン回収する設備の場合。吸着材の種類により金額に幅がある。

エネルギーの供給源が限られている

もう1つの課題は、DAC設備に必要なエネルギーをどういった形で供給するかです。DACがカーボンニュートラルを実現する技術である以上、CO2を排出する化石燃料などに頼ることはできません。風力、太陽光などの再生可能エネルギーや地熱など、カーボンフリーであることが重要です。

2050年のカーボンニュートラル実現に必要な容量をDACで回収する場合、DAC設備のほか、供給電源や熱源設備を大規模化することも考えなければなりません。試算によると、太陽光発電で供給する場合には設備使用面積全体の17.2%、風力発電は25.4%が必要となっており、今後、実用化を進めていく中で、敷地の確保も焦点になるでしょう。[x]

DAC(直接空気回収技術)に取り組む企業

DACは、カナダやスイス、アメリカなどで実用化や商用化が進んでいます。一方、日本ではまだ実用化されていないのが現状です。とはいえ、政府の研究支援もあり、企業や大学、研究機関などが実用化に向けて本格的に研究開発を進めています。

海外と日本の企業を1社ずつ取り上げて、取り組みの成果を見ていきましょう。

【海外】クライムワークス社(スイス)

スイスのクライムワークス社は、2017年に世界で初めて産業規模のDACを建設した企業です。この世界初の産業規模のDACは、スイス北部のチューリヒにあるごみ処理施設の屋上に設置されました。回収したCO2は近くの農家に送られ、野菜の成長促進やコカ・コーラ社の炭酸水製造に使われました。(現在は運転を終了しています)

2021年には、アイスランドに世界最大規模のDACを建設しています。この施設は8つの収集コンテナから成り、それぞれ年間500トン、合計最大4,000トンのCO2を現在も回収しています。

回収されたCO2は、地中の玄武岩層に貯留されます。必要なエネルギーは、DACの近くにある地熱発電所から供給されており、カーボンニュートラルの実現に貢献しています。[xi]

【日本】川崎重工業株式会社

川崎重工業株式会社は、2030年にDACを約500憶円規模の事業にすると発表しています。2025年にはCO2の回収量が、年2万トンの設備で実証する方針です。すでに石炭火力発電所内に試験設備を設置し、排ガスからCO2を分離・回収する試験を始めています。[xii]

同社は、潜水艦などの閉鎖空間におけるCO2除去技術を持っています。この技術をDACに応用しながら、独自の固体吸収材と液体吸着剤を併用したシステムの開発に取り組んでいます。その際に必要なエネルギーは、プラントなどから排出される未利用排熱を利用する計画です。

回収したCO2は貯留する、もしくは合成燃料の原料にするほか、カーボンクレジット事業にすることも検討しているとのことです。[xiii]

DAC(直接空気回収技術)とSDGs

最後に、DACとSDGsの関係について確認します。DACは、目標13「気候変動に具体的な対策を」に関係があります。

目標13「気候変動に具体的な対策を」

目標13「気候変動に具体的な対策を」は、気候変動による影響への緊急対策を行うことを目指しています。また、気候変動対策を国の政策や戦略、計画にすることが盛り込まれています。

DACは、地球温暖化の原因といわれている温室効果ガスの1つであるCO2を大気中から除去する技術です。気候変動による影響を抑えるためには、温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにするカーボンニュートラルの実現が求められます。この目標を達成するためには、CO2の排出量を抑えるのと同時に、DACのような回収する技術も必要です。

また、政府はDACの開発支援として、総額2兆円のグリーンイノベーション基金(実施期間2022〜2030年度)を立ち上げました。現在、選定された企業や研究機関などが、各事業テーマに沿って取り組んでいます。[xiv]

DACは、気候変動への対策として、また国の政策や計画として研究開発が進められている状況です。

まとめ

DAC(Direct Air Capture)とは、直接空気回収技術という意味で、大気中の二酸化炭素(CO2)を直接回収する技術のことです。回収したCO2は、貯留もしくは利用される仕組みになっています。回収する方法の違いにより、「物理吸着法」「膜分離法」「深冷分離法」「化学吸収法」などの種類があります。

DACが注目されている理由は、ネガティブエミッションに不可欠であることや、燃料としてEフューエルに利用できることです。CO2の排出量をマイナスすることで、カーボンニュートラルを実現する狙いがあります。また、空気がある場所であればどこでも導入できるのもメリットです。課題としては、エネルギーコストが高いことと、再生可能エネルギーなどの設備が必要なことが挙げられます。

DACは気候変動への対策になるほか、政府が立ち上げた支援基金などにより研究開発が進められている状況です。このことからDACは、SDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」に貢献しています。

日本では、近年中にDACが実用化されると見込まれています。カーボンニュートラルの実現にどこまで貢献できるのか、またEフューエルの実用化がどこまで近づくのか、行方を見守りたいところです。

[i] Direct Air Capture – Energy System – IEA
[ii] CO2分離回収技術の進化で、カーボンニュートラル実現を目指す! | NEDO グリーンイノベーション基金産総研マガジン「DAC(直接空気回収技術)とは?」
[iii] CO2分離回収技術の進化で、カーボンニュートラル実現を目指す! | NEDO グリーンイノベーション基金
[iv] 産総研マガジン「DAC(直接空気回収技術)とは?」
[v] 「ネガティブエミッション技術の検討方針について」2021年12月経済産業省産業技術環境局
[vi] エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料「合成燃料」とは|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁
[vii]  産総研マガジン「DAC(直接空気回収技術)とは?」
[viii] 「DACの⽅法とコスト」科学技術振興機構低炭素戦略センター越光男、岩崎博、三森輝夫、⼭⽥興⼀LCSウエビナー2022.6.24
[ix] 「カーボンリサイクル技術ロードマップ」令和元年6月(令和3年7月改訂)経済産業省 協力府省 内閣府 文部科学省 環境省
[x] 【産業競争力懇談会 2021年度 研究会 中間報告】2021年10月15日 産業競争力懇談会COCN
[xi] 空気中のCO₂回収でスイスがまた一歩リード – SWI swissinfo.chOrca is Climeworks’ new large-scale carbon dioxide removal plant
[xii] カーボンニュートラルとはなにか。重工メーカー視点で語る、今さら聞けない環境ワードの定義 | ANSWERS(アンサーズ) | つぎの社会に向かうKawasakiのこたえ | 川崎重工業
[xiii] 川崎重工、DACを25年に事業化 | 電気新聞ウェブサイト
[xiv] CO2の分離回収等技術開発 | NEDO グリーンイノベーション基金