環境保全とは?農業や企業の取組事例、私たちにできること

環境保全のためには科学的な根拠に基づいた正しい知識が必要です。ほとんどの人が自然を守りたい気持ちを持っていますが、方法を間違ってしまうと効果が出ないばかりか、反対に環境に悪い影響を与えてしまうかもしれません。

  • 「ブラックバスはキャッチ&リリースを」
  • 「鯉(ニシキゴイ)の住める綺麗な川にしましょう」
  • 「海外を旅しながら、行く先々に日本のお花の種をまいています」
  • 「地球環境を破壊する人間なんていない方がいい」
  • 「原子時代のような暮らしに戻ればいい」

今までに聞いたことのある間違った環境保全の認識の例です。あなたはなぜ間違っているか、しっかりと説明することができますか?

それでは環境保全について、基本的な考え方を確認してから、実際に行われている取り組みを見ていきましょう!

環境保全とは

【釧路湿原国立公園】

環境保全とは、人間の活動による環境への負荷を低減し、地球温暖化・生物多様性の損失・公害の発生などを抑制する取り組みです。

環境保全の定義

環境省は「環境保全コストの把握及び公表に関するガイドライン」の中で、環境保全について具体的には

  • 地球全体の温暖化・オゾン層破壊・海洋汚染・野生生物種の減少その他の環境に影響を及ぼす事態を抑制する
  • 人の健康または生活環境に被害をもたらす公害を防止する
  • 天然資源の使用削減・再利用・リサイクルなど(水も含む)
  • その他、事業活動などによる環境への負荷となる活動を低減する

と定義しています。

つまり環境保全は、ただ自然を守ればいいという訳ではなく、将来的に人を含めた地球全体の生き物が住み続けられる場所であり続けるために、時には人間の手を加えつつも環境を守ることです。

ご存じのとおり、現在の地球環境は危機的な状況です。そしてその原因は人間の活動であったことは疑いようのない事実です。

今、世界は私たち人間の活動が自然と共存し、自然のサイクルに乗って循環していける社会の構造を目指しているのです。*1)

次からは環境保全の取り組みを通して、より理解を深めていきましょう。まずは、農業面での取り組みを紹介します。

日本国内の環境保全の取り組み①|環境保全型農業:農林水産省

農業はその規模が大きくなるにつれて環境への影響も大きくなってきました。また、科学の発達により効果の高い化学合成物質が肥料や農薬として使われるようになり、水や土壌の汚染や生産者・消費者への健康被害も問題となっています。

【農業生産活動別の主な環境へのリスク】

このような問題を解決し、自然と共存しながら持続可能な農業を続けるためにはどうしたらいいのでしょうか?農林水産省の環境保全型農業の推進を見てみましょう。

環境保全型農業直接支払交付金による支援

【環境保全型農業直接支払交付金:農林水産省】

農林水産省は農業が今後も持続可能な発展をしていくために「環境保全型直接支払交付金」を設けて環境保全に効果の高い農業経営の支援を行っています。支援の対象となるのは、

  • 主な作物を販売目的に生産している
  • みどりのチェックシート※の取り組みを実施している
  • 環境保全型農業を広げる活動に取り組んでいる

という条件を満たした農業者です。

※みどりのチェックシート

「みどりのチェックシート」には021年5月に農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」に求められる取り組みがまとめられています。みどりの食料システム戦略は、持続可能な食料システムの構築を目指し、

  • 化学農薬・化学肥料の使用量低減
  • 温室効果ガス・廃棄物の排出削減
  • 農作業の安全

などについて実践的な解説や理解度テストが設けられています。

環境保全型農業直接支払交付金の支援内容と対象活動

この交付金は、化学合成肥料・化学合成農薬を各都道府県の一般的な栽培方法で使用されている量から原則として50%以上低減した上で、対象の農法への取組(下の表参照)に対して支援されます。

【環境保全型農業直接支払交付金の内容】

ここで、交付金の対象となっている農法について少し解説しておきます。

有機農業

有機農業とは、

  • 化学的に合成された肥料・農薬を使用しない
  • 遺伝子組換え技術を利用しない
  • 環境への負荷をできる限り低減する

という条件で農業生産することです。また、地域の一般的な栽培方法より節減対象の農薬使用回数が50%以下、化学肥料の窒素成分が50%以下で生産されるなどの基準を満たした農産物を特別栽培農産物と呼びます。

【関連記事】特別栽培農産物とは|メリット・デメリット、有機農産物との違い

堆肥の施用

堆肥とは、

  • 籾殻(もみがら)
  • 緑肥作物(レンゲなど)
  • わら・野草・落ち葉
  • 家畜のふん
  • 木くず

などの有機物を発酵・熟成させることによって作られた肥料です。堆肥の使用により、土壌の改善をはじめ、土壌の中に炭素を貯留して地球温暖化防止に貢献したり、資源の循環利用など環境保全の上で重要な役割を果たします。

カバークロップ(緑肥)

カバークロップとは、田畑のあぜみち・休耕地などに植えられる作物で、それ自体は収穫の対象とはなりませんが、

  • 土壌の保護
  • 土壌の改善
  • 雑草制御
  • 病害虫の防除
  • 害虫の天敵の保護
  • 景観美化

など、さまざまな機能があります。

【カバークロップの例:大根の収穫後に緑肥を作付け】

リビングマルチ

リビングマルチのマルチとは、農業の場面で主作物の耕作地の周りや畑のうねを覆うことを指し、英語の「マルチング」から略した呼び方です。「リビング」は「生きた」という意味なので、一般的な栽培方法では耕作地の周りや畑のうねをビニールシートなどを使って覆っているのに対し、リビングマルチではムギの仲間やクローバーなど被覆植物を作付けします。*2)

【環境保全型農業技術の例】

続いては、エネルギーに関する環境保全の取り組みを見ていきましょう。

日本国内の環境保全の取り組み②|クリーンエネルギー:経済産業省

【福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)】

全世界で大きな問題となっている地球温暖化への対策も環境保全の一環です。地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの排出削減・CO2の回収・CO2を資源として利用するなど、さまざまな取り組みが推進されています。

ここではカーボンニュートラル(CO2の排出量が森林などの吸収量を差し引いたらゼロになる状態)を目指してクリーンエネルギー社会の構築に挑む経済産業省の「カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を見てみましょう。

【カーボンニュートラルの産業イメージ】

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略

カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略は、

  • 地球温暖化対策への取り組みを制約やコストと捉えない
  • 脱炭素社会の構築をビジネスの機会にする
  • 地球温暖化対策と経済の成長を両立させる
  • 短期的な利益の追求ではなく長期的で持続可能な利益を追求する
  • 経済と環境の好循環(サーキュラーエコノミー)を目指す

などの取り組みです。経済産業省は他の省庁と連携し、多岐にわたって将来も日本が経済的に成長し、生き続けるために努力しています。*3)

【省エネがもたらす効果】

次に、インフラ面からの環境保全の取り組みを紹介します。

【関連記事】脱炭素とは?わかりやすく簡単に!カーボンニュートラルとの違いや企業の取組事例も

日本国内の環境保全の取り組み③|グリーンインフラ:国土交通省

【都心の街路樹の様子】

環境保全は、都市・地域の開発やインフラ整備と密接に関わっています。日本国内のインフラ整備や開発を担当する国土交通省は環境保全についてどのように取り組んでいるのでしょうか?

グリーンインフラ

高度経済成長期には、人間の利便性だけを追求した開発が行われ、湿地や河川の護岸が埋め立てられたり、森林を切り開いたりなどが繰り返された結果、公害の発生や生物多様性の損失などを招いてしまいました。

このような反省から、国土交通省は「グリーンインフラ」と呼ばれる自然環境が持つさまざまな機能をインフラ整備に活用するようになりました。これにより、人間社会と自然環境が共存できる社会資本の開発・整備を目指しています。*4)

【グリーンインフラとは】

次は、自然環境保全に関する取り組みを見ていきましょう。

【関連記事】グリーンインフラとは?導入事例やSDGsとの関係性も紹介

日本国内の環境保全の取り組み④|自然環境保全:環境省

【急速な勢いで失われつつあるサンゴ礁】

環境保全と聞けば、真っ先に頭に浮かぶのは「環境省」だと思います。環境保全の場面には何らかの形で関与している環境省ですが、実際はどのような活動をしているのでしょうか?

自然環境保全

環境省はさまざまな環境問題の解決のため、他の省庁と協力して積極的に取り組みを進めています。その中でも、特に生き物や自然環境の保全に関しては環境省が主導しています。

例えば、

  • 里地里山の保全
  • 世界自然遺産の保護
  • 自然環境保全地域の指定
  • 生物多様性・希少な野生動物種の保全
  • 特定外来生物などへの対応
  • 生物多様性の観点から重要度の高い湿地の保護
  • 海洋の生物多様性・サンゴ礁の保全
  • 国際的な森林減少・砂漠化への対策
  • 南極地域の環境保護
  • 国際条約に基づいた自然環境・生物の保全

など、日本国内はもちろん、国際的な環境保全も行っています。今ある自然の保全だけでなく、失われた自然を再生する取り組みもあります。*5)

【環境省のアメリカザリガニへの啓発】

ここまでは、国が主導となって進める環境保全について見てきました。次の章からは、企業が進める取組事例を紹介します。

環境保全に関わる企業の取組事例

近年、環境保全に取り組む企業は増加しています。環境保全へのアプローチは実にさまざまな方法がありますが、ここではその一部を紹介します。

施設を緑化し環境を整える:清水建設株式会社

大手総合建設会社の清水建設では、緑化地域制度※の施行などもあり、施設の緑化による環境保全を推進しています。限られた敷地内でより多くの面積を緑化するために屋上緑化・壁面緑化などを推奨して、都市圏でも緑のあふれる快適な施設空間を創造しています。

緑化地域制度

緑が不足している市街地などで、一定の規模以上の建物の新築・増築のとき、敷地面積の一定割合以上の緑化を義務付ける制度

【壁面緑化ビルのイメージ】

マレーシア・ボルネオ島の環境保全:サラヤ株式会社

サラヤは「ヤシノミ洗剤」をはじめ、多種多様な植物系洗剤など人と環境に優しい商品を生産しています。しかし、原料の原産地ボルネオ島では、世界の食用需要の増加によりパーム油の生産が拡大し、そのために熱帯雨林が伐採されるなど環境・社会問題が発生しています。

【パーム油の用途割合】

サラヤはアブラヤシ農園によって失われた、かつて熱帯雨林だった土地を買い戻し、森を回復させる環境保全活動を行っています。*6)

【ボルネオの野生動物たち】

>>サラヤの取り組みに関してさらに詳しく知りたい方は、こちらのインタビュー記事も参考にしてください。

サラヤ株式会社|社会課題に寄り添い解決する商品開発で、明るい未来を創る

環境保全に関わる仕事

次に環境保全に関わる仕事の例を紹介します。以下に挙げる職業は専門的な知識や資格、経験が必要です。

環境調査員

環境調査員は、新しく開発する土地の自然環境を事前に調査したり、そのほか特定の地域の環境の現状と変化の様子を調査する仕事です。専門的な知識を持ち、科学的な観点に立った調査ができる必要があります。

環境コンサルタント

環境コンサルタントは、環境保全に関する企画・設計・調査などを行います。環境コンサルタントは個人・企業によって業務内容が様々で、例えば

  • 建設時の環境対策
  • 環境アセスメント(調査)
  • 環境関連の法規制対策
  • 環境経営の支援
  • 地球温暖化対策支援
  • 廃棄物対策支援

などの業務があり、多岐にわたる環境関連の知識が必要です。また、業務内容によっては特別な資格を必要とします。

森林経営

森林経営とは、適切な森林の管理をし、国産人工林資材の活用、土砂災害の防止や景観の維持、森林によるCO2吸収量増加などに貢献します。管理されない森林を減らすために2018年に森林経営管理制度が施行され、市町村が森林所有者の委託によって

  • 林業に適した森林→林業経営者に経営管理を委託
  • 林業経営に適さない森林→市町村が管理

という仲介をすることになりました。森林経営はオフセット・クレジット(Jークレジットなど※)を創出することもでき、今後も必要とされる仕事と言えます。

Jークレジット

省エネや森林経営などによって削減・吸収された温室効果ガスの量をクレジットとして国が認証し取り引きできる。*7)

【関連記事】カーボンオフセットとは?仕組みや目的、問題点、個人にできることまで

私たち個人にもできる環境保全の取り組み

【原生林の散策で森の素晴らしさを知る】

それでは、私たちが個人でも普段の生活の中でできる環境保全につながる取り組みを考えてみましょう。国や自治体が環境保全に取り組むことはもちろん大切ですが、私たち個人ができることを無理のない範囲で取り組むことにより、より大きな力となります。

以下はごく一部の例です。正しい情報を知り、あなたができることがあれば無理のない範囲で行動してみましょう!

地球温暖化対策としてできること

  • 省エネ家電に替える
  • 再生可能エネルギーで発電された電気に替える
  • 太陽光発電や太陽熱温水器を利用する
  • ゴミや食品ロスを減らす
  • カーボンオフセットつき商品を選ぶ
  • 環境保全に取り組む企業を応援する

野生生物を守るためにできること

  • 珍しい動物をペットにしない
  • ペットを捨てない
  • 野生動物やノラネコなどに餌をあげない
  • 日本の在来種・在来種に影響を与える外来種について知る

自然環境を守るためにできること

  • 自然環境に触れ、その美しさや奥深さに気づく
  • 地域の歴史や文化を学ぶ
  • 自然の美しさや地域の文化を発信する
  • ナショナル・トラスト※に参加する
  • 地元で採れた食材や旬の食材を食べる
  • 化学合成農薬・肥料を使わない、または減らして栽培された農産物を選ぶ
ナショナルトラスト

募金活動などにより、自然豊かな場所や歴史的な建造物を保全したりすること*8)

まとめ:環境保全の効果を出すために、正しい知識を!

【環境省による活動の様子】

現在の地球環境は深刻な事態です。地球上の生き物が共存しながら、持続可能で長く幸せに生きていける健全な循環を取り戻すためには、2050年までに脱炭素を達成しなくてはならないと言われています。

これは、大きくなってしまった人間社会の構造を変えるには非常に短い期間で、時間に余裕はありません。あなたもぜひ、環境保全について、正しい知識をいつも探求する習慣を持ってください。

ひとりが全てを熟知するのは難しいので、全体的な情報を確認しつつ、あなたの興味があることについて詳しく調べてみるといいでしょう。世界的にも2030年までの私たちの行動が、今後の地球環境に大きな影響を与えると言われています。

正しい知識によって、私たちは同じ目標に向かい、世界中から力を合わせることができるのです!

〈参考・引用文献〉
*1)環境保全とは
環境省『自然再生 自然再生協議会の取組状況』
環境省『自然再生 自然再生推進法』
3.環境保全の定義 (env.go.jp)
環境省『環境保全コストの把握及び公表に関するガイドライン 3.環境保全の定義』
*2)日本国内の環境保全の取組①|環境保全型農業:農林水産省
農林水産省『環境保全型農業直接支援対策の概要』
農林水産省『平成18年度 食料・農業・農村白書 (4)環境保全型農業の推進』
農林水産省『令和4年度環境保全型直接支払交付金の紹介』
農林水産省『【有機農業関連情報】トップ ~有機農業とは~』
農林水産省『V 堆肥など有機資源の利用』
農林水産省『ペレット堆肥の広域流通に向けて』
農林水産省『環境保全型農業直接支援対策 取組事例集』
農林水産省『平成18年度 食料・農業・農村白書 (4)環境保全型農業の推進』
農林水産省『みどりのチェックシート解説書』
*3)日本国内の環境保全の取組②|クリーンエネルギー:経済産業省
資源エネルギー庁『2020年、水素エネルギーのいま~少しずつ見えてきた「水素社会」の姿』(2020年1月)
資源エネルギー庁『カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?』(2021年5月)
資源エネルギー庁『省エネポータルサイト 省エネって何?』
*4)日本国内の環境保全の取組③|グリーンインフラ:国土交通省
国土交通省『グリーンインフラポータルサイト』
国土交通省『グリーンインフラストラクチャー ~人と自然環境のより良い関係を目指して~』(2017年3月)p,16
*5)日本国内の環境保全の取組④|自然環境保全:環境省
環境省『自然再生 損なわれた自然を取り戻すために』
環境省『アメリカザリガニ どんな生き物?身近だけど、ヤバイ奴!』
*6)環境保全に関わる企業の取組事例
清水建設『緑化・生物保全のカギ「環境に配慮し、生態系保全に貢献する」』
サラヤ『サラヤは、植物原料を使用する企業として、原料生産地 マレーシア・ボルネオ島の環境保全に取り組んでいます。』
*7)環境保全に関わる仕事
Jークレジット制度『Jークレジットについて』
*8)私たち個人にもできる環境保全の取組
環境省『国立公園で「楽しむ」 原生の森 広河原 キヅキツアー ~広河原の自然と歴史~』
環境省『ナショナル・トラストの手引き』p,4
WWF『環境保全のために普段の暮らしの中でできること』
WWF『地球温暖化の防止に向けて:一人一人にできる対策』

この記事の監修者
阪口 竜也 フロムファーイースト株式会社 代表取締役 / 一般社団法人beyond SDGs japan代表理事
ナチュラルコスメブランド「みんなでみらいを」を運営。2009年 Entrepreneur of the year 2009のセミファイナリスト受賞。2014年よりカンボジアで持続型の植林「森の叡智プロジェクト」を開始。2015年パリ開催のCOP21で日本政府が森の叡智プロジェクトを発表。2017年には、日本ではじめて開催された『第一回SDGsビジネスアワード』で大賞を受賞した。著書に、「世界は自分一人から変えられる」(2017年 大和書房)