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ヨーロッパはSDGsの達成率がなぜ高い?現状と問題点・取り組み具体例を解説

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最近、日本でもすっかりお馴染みの言葉「SDGs」。

テレビやWebで日本の政府・企業の取り組みが取り上げられる一方で、海外の動向はいまいち分からないという方も多いのではないでしょうか。

この記事では、ヨーロッパのSDGs達成率や4カ国をピックアップして政府・企業・国民それぞれの取り組みをご紹介します。

ぜひ、ヨーロッパ流のSDGsの取り組みを日常に取り入れてみてはいかがでしょうか。

ヨーロッパのSDGsの現状

2015年にSDGsが採択され、ヨーロッパでは続々と動きがみられるようになりました。特に最近は環境の施策が進んでいます。

例えばEU委員会にて2019年、フォークやナイフ、ストローなどの使い捨てプラスチックの製品流通を禁止する法案「特定プラスチック製品の環境負荷低減案が採決されました。これを受けて、EU加盟国が国内法制化に乗り出しています。

まずフランスでは、2020年に「循環経済法」を施行しました。これは、2025年1月1日までにプラスチックのリサイクル率100%とする目標や、2040年までに使い捨てのプラスチック包装の市場投入を禁止する目標が掲げられています。

また、スペインでは2023年1月よりプラスチック課税を施行予定となっています。国内で使用される再利用不可能なプラスチック製の容器や包装の製造者、もしくはEU域内外からの輸入者を対象に、プラスチック含有量1キロ当たり0.45ユーロの課税を決定しました。

このように今後の持続可能な社会を目指す取り組みをしていますが、すでに2020年にEU全体で温室効果ガス排出を1990年比で31%に減少させるなど結果を残しており、ヨーロッパはEU連合の結束のもと、SDGs達成に向けて躍進しています。

ヨーロッパのSDGsランキング

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このような取り組みはSDGsの達成率ランキングにも表れています。

SDGs達成率とは

国連や研究資料をもとに一国ずつ100点中で点数化した数値のこと。SDGs目標の実現を促進するために設立されたSDSN(サステナブルソリューションネットワーク)により毎年発表。23年版は、2023年6月にSDGs達成率を発表しています。

2023年のヨーロッパ全体のSDGs達成度ランキングでは、上位3位を北欧各国が独占し、4〜18位は他ヨーロッパ諸国がランクインする結果となりました。前年度の2022年は、1位フィンランド・2位デンマーク・3位スウェーデンであり、大きな順位変動は見られていません。

【ヨーロッパにおけるSDGs達成度ランキング】

この順位は、世界全体のランキングで見てもほとんど変わりません。ヨーロッパがいかにSDGsの取り組みに積極的かつ実践的に取り組んでいるかがわかります。

ヨーロッパの各国はどのようにSDGsを進めているのか

ではなぜ、ヨーロッパのSDGsに関する達成度が高いのでしょうか。

ここでは、ドイツ・フランス・フィンランド・ノルウェーの国家政府・企業・国民の取り組みを見ていきましょう。

ドイツの取り組み事例

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ドイツは、SDGsの目標を達成するために(厳密には「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の達成ですが、この記事ではSDGsとします。)、連邦政府が実施する具体的な政策手段を「国家持続可能性戦略」としてまとめています。特にエネルギー分野における成果が出ており、電気構成における再生可能エネルギーの比率は年々上昇傾向にあります。

2022年は、ウクライナとロシアの戦争を受けて、再生可能エネルギーの比率は低下したものの、

  • ロシアからのエネルギー資源依存の脱却
  • 残る石炭や火力、原子力のエネルギー転換

を推し進め、2030年には再生可能エネルギー65%の目標を掲げています。

気候変動法

またドイツは、パリ協定※に基づく気候保護の目標を達成するために2019年12月に「気候変動法」を発効し、2050年までにGHG排出量を実質ゼロにする目標を立てました。

2016年、パリで開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択され、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みのこと。

その後、2021年5月に改正法案が可決・施行されました。具体的には、GHG排出量実質ゼロ目標を2050年から2045年に改正し、「温室効果ガス排出量の削減目標の厳格化」を目指しています。

一方の日本は、2050年までに温室効果ガスをゼロとする目標で、2030年までに2013年比で46%削減を宣言。日本の削減目標を見ると、ドイツが温室効果ガス削減に意欲的であることが分かります。

ドイツ企業の取り組み事例

企業の取り組みも盛んです。自動車産業界の先陣を切る自動車企業「Volkswagen」では、2030年までにヨーロッパでのオール電化車の販売を70%にすることを約束しました。また新車の完全電動化を目指しています

同じく自動車大手「BMW」は、内装部品の環境負荷を減らす製造にシフト転換を図っています。

例えば、

・2023年からBMWとミニの内装に植物由来の「ビーガンインテリア」を採用

・2025年から販売予定の新モデル「ノイエ・クラッセ」の内外装に、漁具をリサイクルした素材を約3割使ったプラスチックを活用

引用:日本貿易振興機構ジェトロ ドイツ自動車大手、サステナビリティーへの取り組みを強化(ドイツ) 

としており、これにより二酸化炭素排出軽減と海洋汚染の防止が期待されています。

ドイツ国民の取り組み事例

ヨーロッパでは近年、移動手段(モビリティ)の変化が進んでおり、ドイツにおいては2022年、電車に破格の金額で乗れる「気候チケット」の実験を実施しています。

1ヶ月約1,300円で電車乗り放題にしたところ、約5,200万人が購入し180万トンのCO2が削減されました。その結果、都市の大気汚染レベルは7パーセント下がったと報告されています。

今後、自動車産業のサステナブルな取り組みも相まって、国民のモビリティの変化はさらに進むでしょう。

フィンランドの取り組み事例

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5年連続で世界一幸福度な国に選ばれるフィンランドは、ヨーロッパでも随一の豊かな自然を有します。課税率は消費税24%と、他国と比べて高いものの、その使い道は公的福祉制度や教育制度の充実化に充てられています。

公的福祉制度

公的福祉制度の一つに親族介護支援法という法律があり、在宅で介護する家族や親族と自治体が親族介護契約を結ぶことで、介護報酬が支払われる仕組みがあります。

また、妊娠から就学前の支援制度「ネウボラ」は、出産や育児を無料でサポートをするなど、福祉制度が充実しています。

サステナブルツーリズムの推進

このような公的福祉制度に加えて、フィンランド政府観光局「Visit Finland」が中心となりサステナブルツーリズムを推進しています。

持続可能な観光地を目指して、環境に配慮した移動手段や宿泊施設の選択を推奨する旅行形態。

フィンランドでは旅行の持続可能性において

  • 気候と自然を考える
  • 遺産を尊重する
  • 地産地消で地域支援

などの側面を基礎にして取り組みを進めています。

具体的には、旅行関係の企業が政府主催のSTF(Sustainable Travel Finland)プログラムに合格すると、STFラベル認証が付与されます。観光客は、このラベル認証を選択するとサステナブルな旅行が実現できるというわけです。

フィンランド企業の取り組み事例

続いては企業の取り組みを紹介します。

首都ヘルシンキには、ゼロウェイストのレストランnolla」があります。「持続可能に妥協しない食事サービスの提供をする」という考えがnollaの根幹を支え、レストラン経営を実現しました。

nollaのゼロウェイストの取り組みは、

・食材調達

地元の農家や漁師、製造業者からの調達。野菜の皮や卵の殻、肉の骨などの余った部分はコンポストとして、食材調達した農家に渡し、肥料として野菜など栽培に使われる仕組みを構築。

・調理

動物性食材を一切使わないヴィーガンベジタリアン料理の提供や、可能な限り食材を余すところなく調理。

ローカル規模で取引をし、ゴミとなるはずだった野菜の皮などを循環させるなど、まさにゼロウェイストレストランの先駆例と言えるでしょう。

フィンランド国民の取り組み事例

500年もの間、フィンランド国民に伝承されている哲学「SISU(シス)」をご存じでしょうか。

「SISU」とは

“極度の逆境に直面した時の並外れた決意と決意”

出典:Sisu — transforming barriers into frontiers | Emilia Lahti | TEDxTurku

このSISUこそが、フィンランドの幸福度やSDGs達成度上位を支えていると言われています。具体的にSISUが反映されている

の2つの側面から見ていきましょう。

まず勤務体制では、7.5時間労働の16時退社が徹底されています残業をするのはごく稀で、プライベートを充実させることに時間を割きます。

教育においても、フィンランドの年間授業日数は約190日(日本は約230日)と休暇が多く、勉学以外での充実を大切にしています。特に、フィンランドの子供たちは読書習慣があり、公共図書館では1年間に一人あたり12冊以上借りるほどです。

このように限られた時間の中でパフォーマンスをこなす姿勢や実現性は、まさしくSISU哲学を映し出しています。そのため、自由な時間をきちんと作り、サウナやキャンプなどアウトドアを楽しんだり、読書をしたりと幸福に生きることが上手なのです。

スウェーデンの取り組み事例

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北欧の中でも最大面積を有し、第二外国語である英語は世界トップクラスを誇るスウェーデン。福祉大国とも称されますが、ゴミ処理に関しては他ヨーロッパ諸国に比べて群を抜いた厳格な制度を構築しており、リサイクル率は99%といわれています。

ゴミ処理制度

スウェーデンのゴミ処理方法は、ゴミを焼却して電気を生み出すゴミ発電と、リサイクル埋め立ての3種類です。

割合は、

  • ゴミ発電 52%
  • リサイクル 47%
  • 埋め立て 1%

となり、ゴミ発電に至ってはイタリアやイギリス、ノルウェーなど国外から輸入したゴミも燃料にするほどです。ゴミ発電による発電量は、100万世帯の暖房と25万世帯の電気に生まれ変わっています。

またゴミの法律整備も進み、企業に対する製造責任を追求。製造者は、自社製品の回収やリサイクル(または廃棄)に関わる費用を全額負担します。

スウェーデン企業の取り組み事例

日本でも人気の「IKEA」は、スウェーデン発祥の北欧家具や日用雑貨を製造・販売する企業です。

IKEAは、2030年までに全ての製品を再生可能素材やリサイクル素材のみを使用する目標を掲げました。その中で家具製造に不可欠な木材は、すでに99%以上がリサイクルもしくは森林管理協議会(FSC)認証材※になっています。

森林管理協議会(FSC)認証材

FSC認証とは、森の維持をする森林管理協議会から認証を受けた木材製品のこと

スウェーデン国民の取り組み事例

先に見た国家政府主導のゴミ制度の取り組みは、国民の生活にも浸透しています。

瓶や缶をリサイクルするとお金が戻る仕組み「デポジット制度」は、1990年代より導入が開始されました。今では、街中の至る所にスーパーマーケットに回収機があり、スウェーデンに住む人は、これをよく利用してます。

またゴミに関する教育も盛んで、親は幼い頃から子供にもゴミの分別やリサイクルについて教えています。

さらに、生ごみを肥料に変えるコンポストを取り入れる家庭が多いことも特徴です。同じアパートに住む人同士でコンポストを行なっているコミュニティも多数あります。

フランスの取り組み事例

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最後に紹介する国はフランスです。

フランスは、2040年に使い捨てプラスチックの市場禁止を目指すなどの環境に対する取り組みに加えて、ジェンダー平等の動きも盛んです

パリテ法

2000年に制定されたパリテ条項は、選挙における男女平等を目指すものです。各政党からの候補者が男女差2%を超えた場合には、政党助成金を減額するなどのペナルティが設けられました。

1997年の国民議会議員選挙では、女性議員の割合はわずか 10.9%でしたが、パリテ条項を導入後、過去20年間で4倍の女性議員率を獲得しました。

フランス企業の取り組み事例

企業の取り組みとして、ここでは「エルメス」を紹介します。エルメスは2021年、レザーの代用としてきのこを使用したバッグをバイオテクノロジーの会社MycoWorksと共同開発しました。また、ルージュの詰め替え商品を発表するなど、サステナブルなビジネス戦略を着実に進めています。

フランス国民の取り組み事例

フランス国民は、日本人よりもサステナブルな意識が高い特徴があります。約8割の人が、「外国産のオーガニック食材より地元でとれた旬の食材を買う」というデータもあり、地産地消を意識する消費者が多い傾向が見られます。

また、畜産の温室効果ガス排出削減のために、肉の消費を減らすなどの行動をとる、いわゆるヴィーガンやベジタリアンを実践する人も多くいます。

まとめ

この記事では、ヨーロッパのSDGs事情について、SDGs達成ランキングや各国の国家戦略・企業・国民に分けてみてきました。

ヨーロッパのSDGs達成度ランキングは世界ランキングでみても、上位をヨーロッパが占める結果になっています。

国ごとで見ると、ドイツでは国家戦略としてSDGsを活用。気候変動法などによって脱炭素化への勢いを増しています。フランスではジェンダー平等を訴えるパリテ法により、選挙の男女比の不平等を大幅に改善しています。

このように、ヨーロッパがSDGs達成で上位にランクインしている背景には、国家政府の政策の遂行と、企業や国民がサステナブルな行動に意欲的であることが挙げられます。

SDGs先進国であるヨーロッパの動向に今後も注目です。

<参考文献>
日本貿易振興機構ジェトロ 循環経済法が2月に施行、循環経済型社会へ大きな一歩(フランス) | 欧州が歩む循環型経済への道 
日本貿易振興機構ジェトロ EU理事会、使い捨てプラスチック製品禁止法案を採択(EU)
外務省 日本の排出削減目標
外務省 2020年以降の枠組み:パリ協定
BLUE OCEAN Turning Waste To Energy: Sweden’s Recycling Revolution
World Economic Forum|Germany’s monthly 9-euro ticket prevents major CO2 emissions
日本貿易振興機構ジェトロ 政府がSDGsの国家戦略の更新版発表(ドイツ)
 日本学術振興会|「ケア“ワーク”としての家族介護: フィンランドの自治体レベルでの支援制度から考える」
朝日新聞GROBE+|全家庭が無料、フィンランドの子育て支援「ネウボラ」 日本にも広がる
Oodi (オーディ)は、世界で一番識字率の高い国で図書館の新時代を創り出します – Helsinki Partners
一般社団法人スウェーデン研究所 【Sweden.se日本語版】リサイクルとその先へ
森林管理協議会 Forest Stewardship Council®(FSC®)
日本貿易振興機構ジェトロ 環境を中心に、政府、社会、企業が先進な取り組み(スウェーデン) | 欧州で先行するSDGs達成に寄与する政策と経営
研究論文「フランスにおける女性議員の増加のプロセスとその要因」
公益財団法人|日本女性学習財団|パリテ(parité)|キーワード・用語解説

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