パリの南西50キロほどの距離にあるランブイエ城は、フランス王宮としても使われたことがある由緒ある建物です。1975年11月、フランスのジスカールデスタン大統領はイギリス・西ドイツ・アメリカ・日本などのリーダーを招き、諸問題を話し合いました。
それから48年後の2023年、日本で7回目となる広島サミットが開催されました。サミットではその時々の重要課題が話し合われ、世界情勢に大きな影響を与えてきました。
今回はG7の定義やG20との違い、G7サミットの詳細とこれまでの歴史、日本で開催されたG7広島サミットの内容やSDGsとの関連についてわかりやすく解説します。
目次
G7とは
G7とは、日本・フランス・ドイツ・アメリカ・イタリア・イギリス・カナダの7か国の総称です。
「Group of Seven」の略称であるG7に加えて、現在はEUの代表も参加します。
ニュースでG7を取り扱う際は、3つの使われ方をします。
- 国のまとまりのこと
- G7財務相・中央銀行総裁会議のこと
- 主要国首脳会議のこと
*1)
2と3は区別をつけるため、2を「G7(財務相・中央銀行総裁会議)」、3を「G7(主要国首脳会議)」というように、補足をつけて取り扱われるのが一般的です。主要国首脳会議は「サミット」ともよばれます。(G7サミットについては後ほど詳しく説明します。)
財務相・中央銀行総裁会議は、各国の財務大臣や中央銀行の総裁が一堂に会します。EUで統一通貨のユーロの使用が始まると、ECB(欧州中央銀行)総裁やユーログループの議長も参加するようになりました。この会議では、為替相場の安定や経済成長などについて話し合われ、IMFの専務理事や世界銀行総裁なども招待されます。
G7とG20との違い
G7の国々に加え、以下の国々を加えたまとまりのことをG20と呼び、1999年から年1回の頻度でフォーラムが開催されています。首脳会合以外にも財務相・中央銀行総裁会議、外相会議、保健大臣会議などが開催され、幅広い問題について話し合っています。
G20参加国(G7以外の参加国)
- アルゼンチン
- オーストラリア
- ブラジル
- 中国
- インド
- インドネシア
- 韓国
- メキシコ
- ロシア
- サウジアラビア
- 南アフリカ
- トルコ
- EU(欧州連合)
G7が冷戦時代からの先進国であるのに対し、G20は新興国が多数含まれています。近年、成長が著しいBRICS(ブリックス)のブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカや、石油大国のサウジアラビア、ヨーロッパとアジアをつなぐトルコ、IT関連で成長した韓国、ASEANで最も多くの人口を持つインドネシアなど多彩な顔触れが並びます。
また、G20にもIMFや世界銀行が参加しています。
G7サミットとは
G7サミットでは、自由や民主主義、人権などの価値観を共有する7つの先進国のトップが世界情勢や経済情勢など地球規模の問題について意見を交換します。ここでは、サミットの特徴や議長国の任期・役割、これまでのサミットの歴史などについてまとめます。
G7サミットの特徴
G7サミットの特徴は、幅広い内容が議題に上がることです。グローバル化により、以前よりも世界が緊密に結びついている現代社会において、各国の立場はそれぞれ異なっています。
国の代表が話し合う場としては国際連合がありますが、G7は大国同士が直接話し合うという点で違いがあります。また、安全保障理事会にある「拒否権」のようなものはないため、参加国が対等に意見を交換できることも特徴です。
後ほど詳しく説明しますが、G7は1970年代以降の世界の歴史に大きな影響を与えてきました。自由主義・資本主義陣営の中心国である7つの国が結束して世界的な問題解決のために話し合ってきたからです。
しかし、近年は中国やインドなどの経済成長によりG7の世界経済に占めるウェイトは小さくなりつつあります。加えて、G7の国々の足並みの乱れも指摘されています。具体的には、2019年にフランスで開かれたピアリッツサミットで、首脳声明の発表がはじめて見送られました。*4)
このときは、アメリカのトランプ政権が自国中心主義の傾向を強めていた時期にあたり、G7サミットを軽視する姿勢も見られたため、結束しきれなかったという実情もあります。
G7議長国の任期と役割
G7議長国の任期は1月から12月の1年間です。議長国は参加国が持ち回りで務め、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダの順番で努めます。2023年は日本が、2024年はイタリア、2025年はカナダが議長国となります。
議長国の役割は、会議の開催国であることに加え、
- 議題の設定
- 会議日程の調整
- 首脳会談であるサミット以外の閣僚級会合の主催
- 首脳宣言作成の主導
などが挙げられます。
首脳宣言をスムーズに出すためには、事前の交渉が欠かせません。議長国のトップが直接働きかけることもありますが、実務レベルの調整などは議長国の担当者が行います。
G7の歴史
大まかな内容を把握したところで、G7の歴史を振り返っていきましょう。まずは、G7に関する主な出来事を年表形式で確認します。
1975年 | フランスのランブイエで第1回サミット →カナダはまだ参加していない |
1976年 | アメリカのサンフアンで第2回サミット →カナダも参加しG7となる |
1998年 | イギリスのバーミンガムサミットでロシアが正式参加 →G8となる |
2006年 | ロシアのサンクトペテルブルクでサミット →正式開催としてはロシア初 |
2014年 | オランダのデン・ハーグで緊急開催 →ロシアの参加資格停止 |
2022年 | ベルギーブリュッセルで緊急開催 →ロシアのウクライナ侵攻について討議 |
第1回のG7サミットは、フランスのランブイエで開催されました。議長国はフランス大統領のジスカールデスタンで、西ドイツのシュミット首相、イギリスのウィルソン首相、アメリカのフォード大統領が参加しました。のちに、イタリアのモロ首相も追加で参加します。日本からは三木武夫首相が参加しています。
サミット開催のきっかけは、石油危機とその後も続く先進国の経済不況でした。第4次中東戦争が引き金となり、アラブ諸国が石油価格を大幅に引き上げたため、石油を中東などからの輸入に頼っていた先進国で深刻な不況が発生しました。*5)
高度成長を続けていた日本も戦後初のマイナス成長に転落しました。鉱工業生産で見ると日本は21.4%もの大幅な落ち込みを見せています。*5)
その中で、第1回のランブイエサミットにおいて、定期的に首脳会議を開くことや議長国の任期を1年とし、持ち回り開催することなどが決まりました。
冷戦中は、アメリカを中心とする西側諸国の会合という意味合いが強い会議でしたが、終結後は、かつての東側諸国のリーダーだったロシアを含めてG7+1(いわゆるG8)が開催されるようになります。(ロシアが参加するようになったのは1994年のナポリサミットからですが、1998年のバーミンガムサミットからG8と呼ばれるようになりました。*6))
2014年、ロシアが除外される
しかし、ロシアは2014年にG8から除外され、再びG7の形に戻っています。
同年2月、ロシアはクリミア半島に軍事介入を行いました。この行為はG7にとって受け入れ難いもので、3月にオランダのデン・ハーグで緊急会合が開催され、ロシアが除外されたのです。
このような緊急会合は2022年にも開催されています。この時は、ロシアのウクライナ侵攻を受けて開催されたもので、ウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインで出席しました。
2023年に日本で開催されたG7サミットについて
2023年5月、議長国となっていた日本は広島でG7サミットを開催しました。これまでも、日本では何度かG7サミットが開催されていますので、最初にこれまでの開催について整理してみましょう。
開催年 | 開催地 | 首相 | 主な内容 |
---|---|---|---|
1979年 | 東京 | 大平正芳 | 第2次石油危機への対応 |
1986年 | 東京 | 中曽根康弘 | プラザ合意後の経済・為替問題 |
1993年 | 東京 | 宮澤喜一 | 冷戦終結後の東欧諸国の支援 |
2000年 | 沖縄 | 小渕恵三 →森喜朗 | 小渕首相の死により森首相が議長になるクリントン大統領が米軍基地の整理縮小の考えを表明 |
2008年 | 北海道洞爺湖 | 安倍晋三 →福田康夫 | 安倍内閣総辞職により福田首相が議長になる温室効果ガスの半減などについて合意 |
2016年 | 三重県伊勢志摩 | 安倍晋三 | G8からG7に戻って初めての会合財政出動の在り方を討議 |
サミットではその時々に世界が抱えている重要問題が討議されていることがわかります。
G7広島サミット
2023年に開かれた広島サミットでは、議長国の岸田首相がホスト役となり、各国の首脳を迎えました。G7とEUの首脳は以下のとおりです。
日本 | 岸田文雄首相 |
イタリア | メローニ首相 |
カナダ | トルドー首相 |
フランス | マクロン大統領 |
アメリカ | バイデン大統領 |
イギリス | スナク首相 |
ドイツ | ショルツ首相 |
EU | ミシェル欧州理事会議長 |
EU | フォン・デア・ライエン委員長 |
これらの国に加え、オーストラリアやブラジル、アフリカ連合議長国のコモロ、太平洋諸島フォーラム議長国のクック諸島、G20議長国のインド、ASEAN議長国のインドネシア、韓国、ベトナムが招待されました。*8)
このほかに、国連やIMF、OECD(経済協力開発機構)、WHO(世界保健機関)、WTO(世界貿易機関)、IEA(国際エネルギー機関)、世界銀行などの国際機関やウクライナも参加しています。*8)
参加国・招待国から世界全体を巡る問題を討議する姿勢と、ロシアや中国と距離を置く姿勢が見て取れます。
サミット終了後の首脳宣言には、法の支配にもとづく国際秩序を守り抜くことやウクライナを支援する姿勢、核兵器の廃絶に向けた取り組み、グローバルサウスとの関係強化などが盛り込まれました。*9)
G7大阪・堺貿易大臣会合
G7議長国となっている国では、さまざまな会合が開催されます。その中の一つに「G7大阪・堺貿易大臣会合」があります。開催日は2023年10月28日(土)・29日(日)の両日を予定しています。(記事執筆段階)
2022年にドイツのノイハーデンベルクで開催された会合では、ウクライナの復興支援やWTO改革、公平な競争条件、強くて持続可能なサプライチェーンなどについて議論されました。大阪・境貿易大臣会合でも、貿易に関する様々なテーマで話し合いがなされると予想されます。
G7とSDGs目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」との関わり
G7は冷戦時代に西側諸国の首脳が話し合う場としてスタートしました。冷戦後は自由や民主主義などの価値観を共有する国同士のトップ会談として世界の諸問題に対応するといった役割が期待されています。
G7で話し合われる議題はその時々の世界情勢を反映したものですが、SDGsについてはどのように話し合われているのでしょうか。G7とSDGsの関わりについて考えてみましょう。
G7はSDGs目標17の「パートナーシップで目標を達成しよう」と密接なかかわりを持っています。目標17では、1国だけで解決できない問題についてさまざまな国が支援することを目指しています。
世界には2023年9月現在で196もの国が存在しています。しかし、これらの国々は全てが同じ国力を持っているわけではありません。所得や生活水準は国によって大きく異なっており、なかには経済的に苦しい状況に置かれている後発開発途上国のような国々もあります。
こうした国々の苦しい状況を改善するには、自由や民主主義といった価値観を共有する国が率先して話しあって行動することが必要です。
先ほども述べたように、国の代表が話し合う場として国際連合がありますが、軍事や紛争といった大国の利害が絡みやすい安全保障理事会は、「大国の拒否権」により機能が十分発揮できていないのが現状です。
価値観を共有する国々が話し合って物事を進め、世界の諸問題を解決する手段の一つとしてG7は今でも大きな役割を期待されています。ただし、今のままでは世界の国々が一致して問題に取り組むことは困難です。ロシアや中国も含めて、話し合いを進められる環境が整って、はじめてSDGsの掲げる「持続可能な開発目標」を達成できるのではないでしょうか。
まとめ
今回はG7についてとりあげました。G7は西側諸国の中でも価値観を共有し、一定以上の国力を持つ国々で構成されています。一時はロシアを含むG8の討議の場となっていましたが、クリミア編入やウクライナ侵攻によりロシアが除外され、再びG7となりました。
国連の安全保障理事会が冷戦時代のように拒否権を乱発し、大国が自説を曲げない状況が続いている中、現実的な問題解決の手段の一つとしてG7サミットの役割が重要となっています。
首脳会談であるサミットは5月に終了しましたが、10月には大阪・堺貿易大臣会合が控えていますので、2023年いっぱい、日本は議長国としての役目を果たさなければなりません。自国のことだけではなく、世界全体の状況を改善し、SDGs目標達成のために行動できるかどうかが問われています。
参考
*1)デジタル大辞泉「G7(ジーセブン)とは?」
*2)デジタル大辞泉「IMF(アイエムエフ)とは?」
*3)デジタル大辞泉「世界銀行(せかいぎんこう)とは? 意味や使い方」
*4)野村総合研究所「形骸化が進むG7とG20機能強化の必要性 | 2019年 | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI)」
*5)内閣府「第2章 二度の石油危機と日本経済の動向」
*6)野村證券「G8|証券用語解説集」
*7)NHK「【動画】G7サミット 日本ではこれまでに6回開催 | NHK」
*8)広島サミット2023「参加国 | サミット情報 | G7広島サミット2023」
*9)外務省「G7広島サミット(概要)」
*10)スペースシップアース「SDGs17「パートナーシップで目標を達成しよう」現状と日本の取り組み、私たちにできること」