二見 哲史
1976年8月4日、京都府出身。奈良工業高校専門学校へ進み、その後アステラス製薬に1年間勤務。工場での薬の管理、および品質管理を行う。その後大阪市立大学理学部へ社会人編入し、中学校教諭第一種免許(理科)と高校教諭第一種免許(化学)を取得。2002年から2013年まで関西の中学・高校で教員として教鞭をふるう。2013年、学校教員を退職し、現場・技術系の資格を専門に扱う通信教育会社「SAT株式会社」を設立。現在63の現場・技術系資格の講座を開講中。限られた分野にのみ特化しているからこそ提供できる質の高い教材・講義で、これまでに延べ9万人が受講。今年5月からは、現場・技術系仕事に特化した就職支援サービス”caree tech”(https://careetech.sat-co.info/)を開設。技術伝承のインフラのような存在を目指し、日々質のいい教材の提供に励んでいる。
Introduction
近年、益々増えている外国人労働者。しかし、外国人が技術系・現場系資格を取得するための支援体制は整えられてきませんでした。SAT株式会社ではそこに目を付け、外国人が技術系・現場系の資格を獲得し、収入の高いやりがいのある仕事に就くことを支援し続けてきました。今回、代表の二見哲史さんにお話を伺いました。
技術系に特化した資格の通信教育
–まず、SAT株式会社がどのような事業を行っているのか教えてください。
二見さん:
技術系の資格対策の通信教育を行っている会社です。電気工事施工管理技士、建築士の資格取得を目指される方に対して、教材を制作して提供しています。
動画講義だけでなく、テキストもオリジナルで作成して、講義とテキスト・問題集を全てセットで販売しています。
また、今年5月から転職支援マッチングサービスを開始しました。
これは技術系の法人や転職希望者をマッチングするもので、他の転職支援サービスと違って、技術系に特化しています。
–御社のサービスには「特別教育」もありますよね。こちらはどのような内容なのでしょうか。
二見さん:
特別教育とは、一定の危険・有害な業務に労働者を就かせるときは、事業者は、その業務に関する安全または衛生に関する特別の教育を行わなければなりません(労働安全衛生法第59条第3項(特別教育))。
厚生労働省「労働安全衛生関係の免許・資格・技能講習・特別教育など」
「特別教育」では、労働災害を防ぐための教育を行っていて、全部で50種類くらいのプログラムがあります。
例えば、高い所で作業される方は落下防止のために、フルハーネスという落下防止器具を付けるのですが、それをきちんと付けないと当然死亡事故につながるので、作業に関する知識や器具の正しい使い方を「特別教育」でレクチャーします。これらは全てEラーニングで通信教育で提供しています。
外国人のための特別教育
–「特別教育」では外国人向けの取り組みもされていますよね。
二見さん:
ベトナム人、中国人など外国人労働者が日本で就職した場合も、危険作業や高所作業などについて「特別教育」を受けてもらう必要があります。
しかし日本語ではわからないので、当社が元々やっていた「特別教育」にベトナム語の字幕を付けて販売しています。
今はベトナム語だけなのですが、今後は英語の字幕も導入できれば良いなと思っています。
–なぜ、ベトナム語に特化したのでしょうか?
二見さん:
これまで外国人労働者は中国人の方が多かったのですが、中国はどんどん発展し賃金も上がってきたため、日本に来るよりも国内で働く方が増えたんです。
そのため日本で働いている外国人労働者数を見ると、最近ではベトナムが一番多くなってきたので、だったら特化したサービスを展開しようと考えました。
–ベトナム人の方が増えているとは知りませんでした。ちなみに御社のサービスで取得できる資格の数はどのくらいあるのでしょう?
二見さん:
「特別教育」だけでも20,30あり、細かい区分も入れると、60を超えています。
「特別教育」のベトナム語字幕は9割くらいは導入できていますね。
–たくさんの資格を取り扱っているのですね!国籍問わず、様々な方が受講できるサービスはうれしいですね。
二見さん:
ありがとうございます。Eラーニングシステム自体を使っている人は、1年間で1~2万人ぐらいで、累積では10万人を突破しました。
その中で、「特別教育」でベトナム語を使っている方は1,000人ぐらいだと思います。
–ここまでお話を伺って、まさにSDGsが掲げる目標4「質の高い教育をみんなに」や目標8「働きがいも経済成長も」の実現に向けての取り組みだと感じました。
二見さん:
そうですね。日本に来られる外国人労働者の方は、「自国にいい技術を持ち帰って、皆が経済的に豊かな暮らしができるようにしたい」という気持ちが強いんです。
しかし、日本語が分からないことで不当な扱いを受け、お給料が安くなってしまう事態が発生しています。
また、事業者は労働者に「特別教育」を受けさせる義務があるものの、なかなか外国人労働者が受講できる機会がありませんでした。
そういった意味で、「質の高い教育をみんなに」と「働きがいも経済成長も」への貢献を目指しています。
新事業に活きたのは教員時代の経験
–ここからはきっかけについて伺います。なぜ通信教育事業を始めようと考えられたのでしょう?
二見さん:
私は元々、教員をしていました。当時、教材作りがやりたいとの思いがあったこと、また、色々な会社の人との出会いがあり、そこで刺激を受けたからです。
これからはスマートフォンなどで学習する時代が来るだろうと思ったのも理由の一つです。
–そこから事業を立ち上げたのですね!
二見さん:
そうですね。教員時代の経験は、どういう視点で作れば受講者が分かりやすいか、どういう説明の仕方がいいのかを考える時に役に立っています。
また、講師の方を採用する際には模擬授業をしてもらうのですが、授業を見て採用するかどうかの判断にも活かされています。
–ではなぜ、技術系に特化することになったのでしょう?
二見さん:
前は技術系以外の講座も用意していたのですが、技術系の分野がとても遅れていることに気が付きました。
宅建士やファイナンシャルプランナーは他の会社も素晴らしい教材を作っていたので、敢えて当社が参入する必要はないと感じました。
–確かに、宅建士やファイナンシャルプランナー向けの講座はテレビCMでも見かけるほど、多くの会社が力を入れている印象です。
二見さん:
技術系は講師の方の年齢層が高めなことに加え、そもそも講義の内容自体が分かりにくいものが多いんです。しかも、テキストも白黒で、他の資格に比べて質が低かった。このような状況をうけて「技術系の教育の質をもっと上げたい」と思いました。
ニーズに合わせたシステムや教材の導入
–通信教育を提供するにあたって、課題はありましたか?
二見さん:
時間と場所を選ばずにスマートフォンで視聴できることは、利便性は高い一方で、受講生が本当にその講座を受講しているのか確認できないことが難点でした。このことは労働局の方からも指摘を受けました。
–その課題をどのように解決したのでしょうか?
二見さん:
顔認証システムを導入しました。
初めに受講者の顔を撮影してもらい、その画像と、講義中に画面を見ている人の画像を照らし合わせるAIシステムとなっています。他人が見ている、もしくは講義を全く見ていない状態が続くと、AIが講義を受講していないと判定する仕組みです。
–最新の技術を使った効果的な仕組みですね。講義のクオリティの高さについてはどのように出しているのでしょうか?
常に質の高い講座を提供するために
二見さん:
講義とテキストがしっかり連動するように、講義担当者がテキストの執筆も行っています。また、講義担当者の給料を印税方式にすることで、良いものをつくれば評判が広まり、売上が上がって講師自身がやりがいを感じられるよう工夫して、講義の質と、講師のモチベーションの高さを確保しています。
さらに、受講者アンケートを元にシステムの改善にも取り組んでいます。
–受講者アンケートの結果はどのような反応でしょうか?
二見さん:
送られてきたアンケートを見る限り、満足度は非常に高く、合格率も90%を超えていますね。
–合格率90%はすごいですね!
二見さん:
多くの会社は動画だけなのですが、当社では紙媒体のテキストと問題集を付属させています。Eラーニングシステムでアプリのように問題が解けたりすることもやっています。
これが合格率の高さにつながっているんだと思います。
–動画・テキスト・問題集・アプリと、さまざまな媒体を使って学べることが合格率の高さにも繋がっているのですね!
継続的にできる仕組みと、一貫したキャリアサポート
–今後の展望を教えてください。
二見さん:
現在、関連書籍はたくさん出ていても、動画とセットになっていない資格もあります。
こういった資格はそもそも受験者数が全国で50人程度とかなり少なく、収益性の観点から講座を開講しない企業も多いんです。そういった部門にもニーズはあるので、当社でサポートしていきたいと考えています。
また、Zoomでの質問受付対応はすでに進めています。通信教育の弱点はモチベーションの維持なので、原田教育研究所と提携し、目標達成のための「原田メソッド」というツールを無料で利用できるようにしています。
受講者が目標達成のためにどういうことをすればいいのかという特典映像が30分くらいあり、特典映像を見ながら、紙に具体的な目標設定や行動を書いてもらいます。
–確かに受講者のモチベーションの維持は大切ですね。
二見さん:
そうなんです。それからもう一つやりたいのが、外国人の派遣事業です。
ベトナム人を派遣している現地の会社と提携して、当社のEラーニングシステムを利用してもらい、受講者を日本企業にマッチングさせるという仕組みができればいいかなと思っています。
–最終的な目標はありますか?
二見さん:
「技術系の通信教育といえばSAT」と言われるように、人気度と専門性を高めていきたいです。
また、資格取得だけでなく、転職サポートまで一貫してやり、キャリアアップのサポートをさせていただきたいですね。
–本日は貴重なお話をありがとうございました!
SAT株式会社:https://www.sat-co.info/