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【観光業とSDGs】グレートバリアリーフの環境保全とエコツーリズム

映画「ファインディング・ニモ」の舞台にもなったグレートバリアリーフは、広大なサンゴ礁が魅力の観光地です。

しかし、人間の活動によるサンゴの損傷も発生しており、グレートバリアリーフでは観光業と自然保護を両立するためにエコツーリズムに力を入れています。

この記事では、グレートバリアリーフが直面する問題点や原因、実際に行われているエコツーリズムの詳細について解説していきます。

グレートバリアリーフの基本情報

出典:SpaceshipEarth

グレートバリアリーフ(Great Barrier Reef)は、オーストラリア北東部に広がる世界最大のサンゴ礁地帯です。

約35万㎢を誇る広域のサンゴ礁で、1981年に世界遺産に登録されました。

絶滅危急種でもあるジュゴンのほか、30種類の鯨類、6種類のウミガメ、1,500種類を超える魚、215 種類の鳥がグレートバリアリーフで生息しています。

また、サンゴ礁は硬いハードコーラルと柔らかいソフトコーラルの2種類から形成されており、サンゴ礁を住みかとする動植物は330種類のホヤ、300~500 種のコケムシ、500 種の海洋藻類など多彩です。

世界の約25%もの海洋生物がグレートバリアリーフで認知されていることから、グレートバリアリーフとサンゴ礁がオーストラリアの生態系維持に大きく貢献していることが分かります。

尚、グレートバリアリーフはオーストラリアを代表する観光地のひとつでもあり、年間約700万人が訪れる人気のエリアです。

グレートバリアリーフのサンゴ礁が抱える問題点

出典:SpaceshipEarth

数多くのサンゴが生息しているグレートバリアリーフですが、サンゴ礁の損傷に関する問題を抱えています。
台風といった自然災害による被害も大きい一方で、人間の活動によるサンゴの白化も進んでいます。

植物と勘違いされることも多いものの、サンゴは動物に分類される生物です。

サンゴはストレス下に置かれると、組織内の藻類を吐き出すという習性を持っています。

藻類を排出したサンゴは本来の色が抜けてしまい、白化と呼ばれる真っ白な見た目になります。

白化したサンゴは生存していますが、正常なサンゴと比べると健康状態が非常に悪く、産卵はできても受精はできない状態です。
サンゴは年間1cm前後という成長速度が遅い生物で、将来的に白化の影響でサンゴの個体数が激減することが懸念されています。

サンゴ礁を生息地や餌場としている数多くの生物たちの生存にも影響を与えるため、海の生態系を脅かす事態にもなりかねません。
実際、1985年から2012年までにグレートバリアリーフに生息するサンゴ礁の半分以上が消失しています。

サンゴがストレスを抱える原因とは?

白化は、サンゴがストレスを感じることで起こる現象です。

では、いったい何がサンゴに強いストレスを与えているのでしょうか?

最も大きな原因が、水質汚染と地球温暖化による海水温の上昇です。

人間の活動によってサンゴ礁が悪影響を受けていることから、グレートバリアリーフではサンゴ礁を守るために人間との共存を確立することが大切だと考えられています。

グレートバリアリーフが取り組むエコツーリズム

出典:SpaceshipEarth

サンゴの白化を止めるために、保護区であるグレートバリアリーフでは環境への悪影響を抑えながら観光業を営むための工夫を行っています。

実際にどのような取り組みを実施しているのか、以下で事例を見ていきましょう。

エコツーリズム認証の取得

グレートバリアリーフで観光業を行うにあたって、各施設はグレートバリアリーフ海洋局から商業許可を取得する必要があります。
環境への影響、品質、コンプライアンスなどの評価基準をクリアしていることがエコツーリズム認証の取得条件となっており、グレートバリアリーフの各観光業者がエコを意識したビジネスモデルを組み立てるのに役立っています。

海に入るときの注意喚起

出典:SpaceshipEarth

グレートバリアリーフでは、“take only pictures, leave only bubbles(とるのは写真だけで、残すのは泡だけ)”というスローガンを掲げています。

「貝殻を取ったりゴミを残したりしないように」という意味があり、シュノーケリングやダイビングでサンゴ礁との接触を禁じたり、ビーチにプラスチック製品などのゴミを捨てないように掲示したりしています。

不必要に自然環境に干渉しないためにも、適度な距離を保ってマナーを守ることを観光客に提唱しているのです。

エコフレンドリーな宿泊先の選択

出典:SpaceshipEarth

世界中から観光客が訪れるグレートバリアリーフには、数多くの宿泊先があります。
中には泊まるだけで環境保全に繋がるエコフレンドリーなホテルもあり、「せっかくなら環境に優しいホテルを選びたい」「現地で特別なエコ活動に参加するのは難しいけど何か自然保護に貢献したい」という観光客から高い人気を獲得しています。

以下は、グレートバリアリーフのエコフレンドリーな宿泊先の例です。

  • Elysian Retreat(グレートバリアリーフ初の太陽光発電リゾート)
  • Lady Elliot Island(グレートバリアリーフで初めてペットボトルの使用を全面的に禁止)
  • Green Island(リサイクル促進や廃棄物の堆肥化でアドバンスエコツーリズム認証を取得)

Eye on the Reef アプリ

研究と観光客へのエコ意識向上を目的に、サンゴ礁のデータ収集アプリ・Eye on the Reefが運営されています。
Eye on the Reefは、サンゴの健康状態、位置情報、周辺の海洋生物、気づいた懸念点などを観光客自身が入力できる仕組みになっているのが特徴です。

シュノーケリングやダイビングをはじめとするマリンアクティビティでサンゴ礁を見学した人々が自分でデータを記録できるため、観光客がサンゴ礁により強い関心を持つことに繋がっています。
尚、入力された情報はサンゴ礁の管理局によって分析され、持続可能な環境づくりに利用されています。

日焼け止めの使用制限

出典:SpaceshipEarth

サンゴの白化の原因のひとつに水質汚染が挙げられることから、グレートバリアリーフでは化学物質由来の日焼け止めを使わないように呼び掛けています。

日焼け止めに含まれる化学物質は、サンゴ礁に悪影響を与える恐れがあります。

そのため、オーガニックといった自然由来の日焼け止めなど、reef-friendlyな日焼け止めを使用するように案内を行っているのです。

海洋学者によるエコツアー

出典:SpaceshipEarth

環境認定旅行会社のReef Magic Cruisesは、グレートバリアリーフのサンゴ礁を海洋学者と共に見学するツアーを提供しています。

シュノーケリングをしながらサンゴの状態や生息する海洋生物に関するレクチャーを受けられるのが特徴で、生態に関する専門知識や環境問題を学べる人気のツアーです。

また、水中展望台やガラス底ボートを使ったツアーもあるので、泳げない人でも問題なくサンゴ礁への理解を深められるように工夫されています。

環境研究プロジェクトの見学

出典:SpaceshipEarth

グレートバリアリーフ南部に位置するHeron Island(ヘロン島)には、グレートバリアリーフ保護を目的とした最先端の研究所があります。

ツアーに予約している観光客は、研究プロジェクトの舞台裏の見学や、専用タンクで生息するサンゴ礁や生き物とのふれあい体験などを楽しめます。

環境保全の現場で実際にサンゴ礁を保護している職員からリアルな話を聞けるため、観光客がエコ活動をもっと身近に感じやすいというメリットを兼ね備えたアクティビティです。

二酸化炭素の排出量を削減

サンゴの白化の原因のひとつが、二酸化炭素の排出量増加による地球温暖化です。

そのため、グレートバリアリーフでは、地球温暖化への影響を最小限に抑えたアクティビティも実施されています。

最もポピュラーなアクティビティが、モーター付きボートを使わないツアーです。

グレートバリアリーフにはさまざまなアクティビティがあるものの、中にはカヤックでのガイドツアーやアボリジニの伝統的な漁法のレクチャーツアーなども取り揃えられています。

モーター付きボートを使わない昔ながらの乗り物を活用することで、観光客はアクティビティを楽しみながら環境保全にも貢献できます。

まとめ

グレートバリアリーフは、雄大な自然を持つ一方で、サンゴの白化という大きな問題にも直面しています。

日本で暮らしているとあまり馴染みのないサンゴ礁ですが、オーストラリアの海で起きている環境問題やエコ活動について知識を深め、周囲の人たちにシェアすることで環境保全の輪を広げていきましょう。