温室効果ガスは、地球温暖化に大きな影響を与えるガスです。
二酸化炭素、メタン、一酸化窒素、フロンガス類などが太陽からの熱を地球にとどめる働きをします。これにより地球の気温が上昇し、気候変動や極端な気象現象が引き起こされると考えられています。
温室効果ガスの排出量を減らすためには、再生可能エネルギーの利用やエネルギー効率の改善が必要です。これらを進めることで、温暖化の主な原因と考えられている二酸化炭素の排出削減を進めようとしています。
2022年から改正温対法が施行され、国・地方自治体・企業がより積極的に温室効果ガスの排出削減を進める環境が整えられました。個人でも、温室効果ガスの排出削減に参加することができます。今回は温室効果ガスと地球温暖化、SDGsとの関わりについて解説します。
温室効果ガスとは
温室効果ガスとは、大気を構成する成分のうち、温室効果をもたらすガスのことです。*1
温室効果とは、地表から出る熱を大気が吸収することで、仕組みは以下のようになっています。
【温室効果の仕組み】
温室効果があることで、地球の平均気温はおよそ14℃に保たれています。もし効果が失われると-19℃まで地球の表面温度が低下すると言われています。
つまり、適正な量の温室効果ガスは地球にとって不可欠なものです。しかし、人間の活動により温室効果ガスが過剰に増えたことで、地球温暖化が進んでいるのです。
地球温暖化との関係
温室効果ガスと地球温暖化の関係に注目が集まるようになったのは20世紀後半のことです。1985年にオーストリアのフィラハで開催されたフィラハ会議において、二酸化炭素の影響による地球温暖化の加速が大きく取り上げられました。*4)
その後1988年に、国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)は気候変動に関する政府間パネル(IPCC)を立ち上げました。この組織は人間活動が気候変化に与える影響などについて研究するもので、世界中の科学者が協力し、定期的に報告書を作成しています。*5)
最新の報告書である第6次報告書では、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことは疑う余地がない」「広範囲にわたる急速な変化が、大気、海洋、雪氷圏及び生物圏に起きている」としています。*6)
また、第6次報告書では工業化前(1850年ころ)と比べ1.07℃気温が上昇したとしていますが、そのうち、すくなくとも1℃は温室効果ガスが寄与しているとしています。*6)
温室効果ガスの種類と特徴
IPCCの第6次報告書でもわかるように、温室効果ガスは地球気温上昇の大きな原因となっています。ここからは具体的に温室効果ガスの種類や特徴を確認していきます。
京都議定書では6種類の排出を規制
温室効果ガスは様々な種類がありますが、京都議定書では以下の6つのガスを温室効果ガスと規定し、排出を規制しました。
- 二酸化炭素
- メタン
- 一酸化二窒素
- ハイドロフルオロカーボン
- パーフルオロカーボン
- 六フッ化硫黄
*10)
それぞれ詳しくみていきましょう。
二酸化炭素
二酸化炭素は、地球温暖化への影響が最も大きいとされる温室効果ガスです。
化学式はCO2で、別名を炭酸ガスといいます。色もにおいもない気体であり、生物の呼吸や発酵、火山の噴火などから生成されます。
また、石灰石に塩酸を作用させることで人為的に発生させることができます。
二酸化炭素は身近なものにも活用されており、固体化させたドライアイスや、水に溶かした炭酸水、消火剤などが挙げられます。*22)
メタン
化学式はCH4で、可燃性の気体です。天然ガスの主成分ですが、炭鉱火災の原因となります。メタンには「沼気(しょうき)」という別名がありますが、沼の底の枯れた植物などが発酵するときにも発生します。*23)
メタンガスの発生原因の一つに牧畜があります。牛に代表される「はんすう動物」は、消化の過程でメタンを多く含むゲップを発生させます。1頭の牛が1日に排出するゲップの中には300リットルものメタンが含まれています。牛のゲップに含まれるメタンは温室効果ガスの4%を占めるという指摘もあるほどです。*24)
一酸化二窒素(亜酸化窒素)
一酸化二窒素は窒素酸化物の一つで、化学式はN2Oです。少量を吸うと顔面の筋肉がけいれんし、まるで笑ったように見えることから「笑気」の別名を持ちます。窒素肥料やロケットエンジンの燃料、麻酔剤の材料として使用されます。赤外線を吸収することから、一酸化二窒素も高い温室効果をもたらす気体といえます。大気中の寿命が109年と長いため、一度放出されると影響が長期化します。*7)
発生源としては、土壌や海洋から自然発生するものと、人間活動によって排出されるものがあります。人間活動の代表としては窒素肥料の使用やバイオマス燃料の燃焼、それ以外の工業活動などが挙げられます。*7)
ハロカーボン類(HFC)
ハロカーボン類は人為的に生み出された物質で、フッ素や塩素、臭素などを含みます。大気中の割合こそ少ないものの、強力な温室効果を持つ気体で、寿命が長いことから影響が長期化します。*7)
ハロカーボン類はフロン類とよばれるCFC(クロロフルオロカーボン)やHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン類)、HFC(ハイドロフルオロカーボン類)の総称で、一般的にはフロンガスとほぼ同じ意味ととらえられています。
ハロカーボン類は人体に毒性が小さいことなどから、エアコンや冷蔵庫の冷媒、建物の断熱材、スプレーの噴射剤として広く用いられました。
これらのガスの一部は、オゾン層を破壊することから、モントリオール議定書や「特定物質の規制等によるオゾン層保護に関する法律」などにより規制されています。*7)
パーフルオロカーボン(PFC)
パーフルオロカーボンも人為的に生み出された物質です。半導体基板の洗浄剤やフロンガスに代わる代替フロンとして用いられましたが、二酸化炭素の数千倍に及ぶ温室効果があることがわかり、京都議定書で規制対象とされました。
大気中での寿命が長く、影響が長期化する点でもハロカーボン類と同様です。*8)
六フッ化硫黄(SF6)
六フッ化硫黄とは、フッ素と硫黄からなる化合物です。化学的に非常に安定し、人体に害がなく不燃性であることから、電力プラントの絶縁体やアルミニウム、マグネシウムの精錬などの際に使用されてきました。
強力な温室効果を持ち、3200年という驚異的な寿命を持つことから長期間にわたって温室効果をもたらすと懸念されています。*9)そのため、京都議定書で規制の対象となりました。*9)
現在、代わりとなる物質が開発されていないことから、細心の注意を払いつつ使用されています。*9)
【補足】京都議定書で排出を規制した効果
これらのガスについて、京都議定書では1990年の温室効果ガス量を基準に削減する割合が決められました。目標達成期間は2008年から2012年までの5年間とされました。
京都議定書第3条では先進国や東欧・ロシアなどの市場経済移行国全体で、1990年の水準より二酸化炭素を5%削減すると定めています。
【京都議定書の達成状況】
上のグラフは、各国の排出量に森林による吸収量を加味したものです。排出量(ピンク)だけを見ると、ニュージーランドやスペイン、アイスランドなどが目標を達成できていませんが、森林による吸収を加味した排出量(青)を見ると、全ての国が京都議定書目標値を下回っていることがわかります。*11)
続いては、温室効果ガスの発生原因について掘り下げて見ていきましょう。
温室効果ガスの発生原因
まずは、温室効果ガスと一口に言っても、地球温暖化に与える影響は異なります。まずは、地球温暖化に強い影響を与えている温室効果ガスのランキングを確認しましょう。
ランキング
温室効果ガスが地球温暖化にどの程度影響を与えているかを示す度合いを寄与度といいます。寄与度が高い順にランキング形式でまとめました。
1位 | 二酸化炭素 | 66% |
2位 | メタン | 16% |
3位 | フロンガス類 | 10% |
4位 | 一酸化二窒素 | 7% |
寄与度が最も高いのは二酸化炭素、次いでメタンやフロンガス類、一酸化二窒素と続きます。フロンガス類とは、HFCやCFCといったフロンガスのことです。CFCは京都議定書では規制対象とされませんでしたが、オゾン層破壊を食い止めるためのモントリオール議定書では規制対象とされています。*13)
次からは、最も寄与度が高い二酸化炭素の日本における発生原因について見ていきましょう。
最も多いのがエネルギー部門から排出される二酸化炭素
【日本の温室効果ガス排出量(2020年度)】
日本で排出される温室効果ガスの84%がエネルギー起源の二酸化炭素です。つまり、火力発電で化石燃料を燃やすときに発生していることがわかります。二酸化炭素排出量を減らすには、火力発電以外の発電方法の非常を増やす必要があるのです。
温室効果ガスを減らすための国の取り組み
ここからは、温室効果ガスを減らすための国の取り組みを見ていきましょう。
カーボンニュートラルの推進
国は二酸化炭素の排出量と吸収量を等しくし、実質的な二酸化炭素排出量をゼロにするカーボンニュートラルを2050年までに達成するとしています。
【カーボンニュートラルを表明した国や地域】
日本は2013年度以降、二酸化炭素を含む温室効果ガスを削減し続けています。
【日本の温室効果ガス排出量の推移】
今後も、再生可能エネルギーの割合増加や電気自動車の導入といった非電力部門での二酸化炭素排出量削減を進める方針です。
改正温対法の施行
改正温対法(改正地球温暖化対策推進法)が2021年5月に成立し、2022年4月に施行されました。主な改正点は以下の3点です。
- 基本理念の新設
- 地域レベルでの脱炭素化の推進
- 企業の脱炭素化の推進
*15)
パリ協定やカーボンニュートラルの内容を基本理念とし、脱炭素を国として推進することを表明しました。また、地方自治体に脱炭素に関する施策の目標設定を求めています。さらに、企業に対しては温室効果ガスの排出量に関するデータの開示を、電子システムで報告するよう求めました。これにより、データ公表までの期間短縮を図ります。
温室効果ガスを減らすための企業の取り組み
企業も、温室効果ガス排出削減についての取り組みを求められています。ここでは、データ開示以外の企業の取り組みを2つ取り上げます。
再生可能エネルギーへの切り替え
再生可能エネルギーに切り替える方法は大きく分けて3つです。1つ目が電力を再生可能エネルギー由来のものに切り替えることです。電力事業者が用意する再生可能エネルギー由来の電力を使用するプランに変更します。*16)
2つ目は、自社で太陽光発電施設などを導入することです。事業所の屋根に太陽光パネルを設置し、自社で使用する電力を賄うことができます。そして、不足分だけ電力会社から購入するようにすれば、再生可能エネルギーの使用割合を増やすことができるのです。*16)
3つ目はPPAモデルを採用することです。
【PPAモデルとは】
PPAモデルとは、企業が保有する施設の屋根や使用していない土地などに専門業者が無償で発電設備を設置し、そこで生み出された電力を企業が購入して使う仕組みです。PPAモデルは初期投資なしでスタートできるので、手軽に導入可能な方法だといえます。*16)
省エネ機器や電気自動車の導入
省エネ機器を導入することでも二酸化炭素排出量を削減できます。たとえば、防犯・警備の分野で有名なセコムグループでは、蛍光灯のLED照明化で電力使用量を60%削減するほか、空調機器の性能アップなどにより電力使用量を40%削減しています。*17)
企業による電気自動車導入も進んでいます。配送大手のヤマトホールディングスでは、小型商用EVトラックを2020年1月から導入しています。*18)
温室効果ガスを減らすために私たちができること
温対法の改正により、国や地方自治体、企業の二酸化炭素排出削減が急ピッチで進んでいることがわかりました。続いては温室効果ガス削減に向けて、私たちができることを4点取り上げます。
節電・省エネを実行
1つ目は節電や省エネの実行です。先ほど述べたとおり、温室効果ガス排出量のおよそ84%が発電などのエネルギー起源であることがわかっています。私たちが、過度な冷暖房の使用を控えることで、二酸化炭素排出量の削減に貢献できます。*19)
さらに、LED照明への交換や省エネ性能が高い家電の買い替え、電気自動車やプラグインハイブリッド車の導入により、生活全体を通じた温室効果ガス排出量の削減が可能です。移動手段として自転車や公共交通機関を利用することも効果的です。*19)
食品ロスを減らす・地産地消を心がける
2つ目は食品ロスを減らすことです。廃棄食品を埋めると強力な温室効果をもつメタンを発生させてしまいます。地域で生産された食べ物を、地域で消費する「地産地消」も効果的です。遠隔地に輸送しなくて済む分、輸送で発生する燃料由来の二酸化炭素排出量を減らせるからです。*19)
3Rやリペアの実施
3つ目は3Rやリペアの実施です。再利用するリユース、ゴミの量をできるだけ減らすリデュース、使い終わったものを再度資源に戻して製品材料とするリサイクルの3Rを徹底することで、新たな製品生産・輸送で発生してしまう二酸化炭素の量を抑えられます。*19)
破損したものを修理するリペアも、同様に二酸化炭素排出量削減に役立ちますので積極的に取り組みたいところです。*19)
再生可能エネルギーの導入
4つ目は再生可能エネルギーの導入です。自宅で再生可能エネルギーを導入する方法は2つあります。1つ目は自宅に太陽光発電設備を設置すること。2つ目は自宅で使用する電力を再生可能エネルギー由来のものに切り替えることです。
太陽光発電設備と蓄電池を組み合わせると、1日を通じて再生可能エネルギーを利用することが可能となります。また、電力会社のプランを再生可能エネルギーを利用したものに切り替えることでも温室効果ガス排出削減に貢献できます。
温室効果ガスとSDGs
最後に、温室効果ガスとSDGsの関係について確認します。
温室効果ガスの排出削減はSDGsの重要テーマの一つで、特に目標13と深いかかわりを持っています。
目標13「気候変動に具体的な対策を」との関わり
目標13「気候変動に具体的な対策を」では、地球温暖化の原因となっている温室効果ガスの削減が重要テーマとなっています。
【SDGs目標13の概要】
これまで述べたように、温室効果ガスは地球温暖化の主要な原因と考えられています。2015年に締結されたパリ協定では、途上国を含む全ての国々が二酸化炭素の排出削減の対象となることが定められました。*21)
世界の平均気温を産業革命以前に比べ、2℃より十分低く、1.5℃以内に抑える努力をすることや、21世紀後半には温室効果ガスの排出量と森林などによる吸収量のバランスをとることなどが定められました。*21)
日本も、その方針に従い2050年までのカーボンニュートラル達成や改正温対法の施行などによる国内体制の整備を行ってきました。こうした流れは一過性のものではなく、世界全体の潮流として定着しつつあります。
まとめ
今回は温室効果ガスについてまとめました。私たち人類の多くは産業革命や工業化を達成し、豊かな生活を手に入れました。しかし、それと引き換えに二酸化炭素やメタンといった温室効果ガスが飛躍的に増加し、地球温暖化の原因となりました。
また、工業化の過程で生み出されたフロンガス類はフロンを破壊するだけではなく、強力な温室効果を持っていることもわかっています。地球温暖化のこれ以上の進展を阻止するには、国や地方自治体、企業に任せておくだけではなく、個人でも温室効果ガスの排出削減を意識した生活を送る必要があるのではないでしょうか。
<参考文献>
*1)気象庁「温室効果ガスの用語解説」
*2)気象庁「気象庁|ヒートアイランド現象と地球温暖化は違うのですか?」
*3)気象庁「展示室1 温室効果ガスに関する基礎知識」
*4)全国地球温暖化防止活動推進センター「1-6 いつから地球温暖化が問題とされるようになったのか」
*5)全国地球温暖化防止活動推進センター「IPCCとは? 」
*6)経済産業省「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第 6 次評価報告書第 1 作業部会報告書(自然科学的根拠」
*7)気象庁「展示室1 温室効果ガスに関する基礎知識」
*8)宮城県「環境用語集」
*9)気象研究所「1. 六フッ化硫黄(SF6)について」
*10)森林・林業学習館「京都議定書の概要」
*11)地球環境研究センターニュース「附属書I国の京都議定書(第一約束期間)の達成状況」
*12)WMO「WMO 温室効果ガス年報」
*13)環境省「オゾン層破壊物質と温室効果ガスの関係」
*14)資源エネルギー庁「環境 | 日本のエネルギー 2022年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」」
*15)環境省「改正地球温暖化対策推進法について」
*16)再エネスタート「企業の方へ | 「再エネ スタート」はじめてみませんか 」
*17)セコム株式会社「地球温暖化防止|脱炭素・循環型社会|サステナビリティ重要課題」
*18)ヤマトホールディングス「日本初、宅配に特化した小型商用EVトラックを導入」
*19)国際連合広報センター「個人でできる10の行動」
*20)スペースシップアース「SDGs13「気候変動に具体的な対策を」の現状と私たちにできること、日本の取り組み事例」
*21)資源エネルギー庁「今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?」
*22)コトバンク「二酸化炭素(にさんかたんそ)とは?」
*23)コトバンク「メタン(めたん)とは? 意味や使い方 – コトバンク」
*24)学研「ウシのげっぷは温暖化に関係しているの? | 大気 | 環境なぜなぜ110番 | 科学 | 学研キッズネット」
*25)気象庁「ハロカーボン類(フロン類)」
*26)環境省「フロン排出抑制法の概要」
*27)コトバンク「パーフルオロカーボンとは? 意味や使い方 – コトバンク」