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ハラスメントとは?定義や種類、なくすための政府・職場の対応事例をわかりやすく解説

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職務上で優位な地位にある人が同僚の目の前で叱責したり、必要以上に長時間、繰り返し執拗に叱ったりするのは、相手に精神的苦痛を与える行為としてパワーハラスメントにあたります。

近年、このようなパワーハラスメントに加えて、さまざまな場面でのハラスメントが指摘されるようになりました。

これからの社会では、どのようなハラスメントがあるかを知ることが大切です。本記事では、ハラスメントの種類、政府の方針、企業の対策について詳しく解説します!

目次

ハラスメントの定義とは

ハラスメントとは、嫌がらせや、いじめなどの迷惑行為を指します。

具体的には、性別や年齢、職業、宗教、人種、国籍、身体的特徴などによって、人に不快感や不利益を与え、尊厳を傷つけることです

30種類を超えるハラスメント

ハラスメントは、職場や学校、家庭などの身近な場所で起こります。

現在、30種類を超えるハラスメントが存在しており、次の章では、法律により処分されるハラスメントや、日常生活の何気ない場面で起きるものなど12種類を紹介します。

 ※シーン別に分けていますが、ハラスメントは限られた場面で起こるものではありません。生活する中でどの状況でも起こりうるため、分類はあくまでも参考程度にしてください。

ハラスメントの法的責任

ハラスメントが起こった場合、男女雇用機会均等法育児・介護休業法労働施策総合推進法にのっとり企業に法的責任が生じるケースがあります。

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律では厚生労働大臣が必要と判断した場合、企業に対し指導・勧告がなされることや、さらに勧告に従わない時には企業名を公表する措置がとられることも。

また法律の範囲外であっても、損害賠償訴訟など民事上の責任に問われるリスクがハラスメントには大いにあるのです。

実際にあったハラスメント例

では、ここからはハラスメントに法的措置が取られた実例を通して理解を深めていきましょう。

介護員に対する雇止め

介護員として非正規雇用されていたXは、「笑顔がない。患者や他の部署から苦情が出ている、不満そうなオーラがでている。」などの不当な理由で雇用契約が更新されませんでした。

雇止めの合理性・相当性に欠けるものとして札幌地裁は雇い主に対し20万円の慰謝料及び5万円の弁護士費用の支払いを命じました。※【16】

バスの運転手に対するいじめ

バスの運転士Xが路線バスを駐車車両に接触させる事故を起こしたことにより、営業所所長Yが①1ヶ月の営業所構内の除草作業、②乗車勤務復帰後に1ヶ月以上の添乗指導を命令しました。

Yの裁量の範囲を逸脱した違法な業務命令であることから「人権侵害の程度が非常に大きい」とし横浜地裁はパワハラをしたX本人だけではなく会社側にも「違法な業務命令にあたる」と結論付けました。※【17】

職場におけるハラスメントの種類

まずは、職場で起きやすいハラスメントについて見ていきましょう。

パワーハラスメント

職場におけるパワーハラスメントは、職務上で優位な地位にある人が、同じ職場で働く人に対して業務の範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりする行為のことです。

例えば、職場での地位を利用して、

  • 同僚の目の前で叱責したり、必要以上に長時間、繰り返し執拗に叱ったりすること

が当てはまります。また、

  • やり方の分からない新人に、他の人の仕事を押し付けて皆で帰ってしまうこと

などの行為もパワーハラスメントに当たります。※[1]

セクシャルハラスメント

職場におけるセクシャルハラスメントは、性的な言動に対して働く人が拒絶することで、その人の労働条件が不利に働いたり、就業環境が害されたりすることです。

例えば、

  • 上司が部下の腰や胸に触ったが、抵抗されたため、その人物を配置転換した※[2]
  • 職場にヌードポスターなどを貼る※[3]

など、働く人が解雇や降格などの不利益を受けることや、職場環境が不快になることで仕事に支障が出ることを言います。

妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント

妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントとは、職場において、働く人が妊娠・出産・育児や、それらに関する制度を利用する際、上司や同僚がその人をいじめたり嫌がらせをしたりすることです。ただし、業務上の必要性に基づく言動によるものについては該当しません。

例えば、「業務体制を見直すため、上司が育児休業期間を確認する」、「業務状況を考えて上司が『妊婦検診はこの日は避けてほしいが調整できるか』と確認する」、「上司や同僚が『つわりで体調が悪そうだが、少し休んだほうがいいのではないか』と配慮する」などです。※[4]

また、このハラスメントは、マタニティハラスメントや、パタニティハラスメントとも言われます。

具体的にどのような対応がハラスメントにあたるのか、3つの例を見てみましょう。

  1. 「産休・育休は認めない」と言われた
  2.   妊娠を伝えたら「次の契約更新はしない」と言われた
  3.   妊婦健診のために休暇を取得したいと上司に相談したら「病院は休みの日に行くもの」と相手にしてもらえなかった※[5]

1や2のような、妊娠・出産・育児休業を理由として解雇などの不利益な取り扱いをすることは、男女雇用機会均等法や、育児・介護休業法で禁止されています。

また、3については、事業主は同法に基づき防止措置を講じなければなりません。

法律の適用は、男性の育児休暇取得についても当てはまります。

学校(学生)におけるハラスメントの種類

次に、学生の身の回りに起きやすいハラスメントを紹介します。

アカデミックハラスメント

アカデミックハラスメントを定義した法令上の規定はありませんが、東京大学アカデミック・ハラスメント防止宣言によると、以下のように定められています。

「アカデミック・ハラスメントは、大学の構成員が、教育・研究上の権力を濫用し、教育・研究に不利益を与え、精神的・身体的損害を与える人格権侵害を言う」※[6]

また、特定非営利活動法人アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク(NAAH)では、教授や指導教員からの、

  • 学習・研究活動の妨害
  • 卒業・進級の妨害
  • 研究成果を強制的に奪うこと※[7]

などを、アカデミックハラスメントの例として示しています。

就活終われハラスメント

就活終われハラスメントは、企業が内定と引き換えに学生に対して就職活動を終わらせるように迫る嫌がらせです。

就職問題懇談会は、大学、短期大学、高等専門学校卒業・修了予定者の就職について、企業に対して以下のように要請しています。

就職問題懇談会とは

学生の就職活動の在り方について検討・協議を行う、国公私立の大学、短期大学および高等専門学校関係団体の代表者から構成される組織。

「自社の内々定と引き替えに、他社への就職活動を取りやめるよう強要することなど、学生の意思に反して就職活動の終了を強要するようなハラスメント的な行為は厳に慎むこと」※[8]

このような妨害は、学生の職業選択の自由を妨げる行為になり、人権を侵害しているとみなされます。

社会におけるハラスメントの種類

社会の中で起きやすいハラスメントを見ていきましょう。

レイシャルハラスメント

レイシャルハラスメントとは、「人種や皮膚の色、祖先、出身地、民族的出自、民族文化、宗教的信条、国籍等の人種や民族的要素に基づくハラスメント」と言われています。[9]

日本での認知度は低いものの、欧米では広く知られているハラスメントです。

具体的には、

  • 仕事のミスと出身国を結び付けるような言動
  • 特定の人種や民族をからかうようなジョーク
  • 特定の人種や民族への憎しみをあおるヘイトスピーチ

などもレイシャルハラスメントと考えられており、日常生活の中だけではなく、職場でも起こりうるものです。

コミュニティハラスメント

コミュニティハラスメントとは、共同体の中で多数の構成員による特定少数の構成員に対する嫌がらせです。

コミュニティの中の多数が少数に対していじめや嫌がらせ、仲間外れや無視などのいわゆる村八分を指します。

村八分になると、精神的に苦痛であるだけでなく、日常生活もままならないこともありますが、生活基盤がコミュニティにあるため、離脱も簡単にはできません。

家庭におけるハラスメントの種類

続いて、家庭内で起きやすいハラスメントを紹介します。

モラルハラスメント

モラルハラスメントは、言葉や態度で相手を攻撃し、人の心を傷つけることです。

1999年、フランスの精神科医、マリー=フランス・イルゴイエンヌ氏の著書「モラル・ハラスメント―人を傷つけずにはいられない」が日本語に翻訳されてから、この言葉が知られるようになりました。

『「モラル・ハラスメント」のすべて 夫の支配から逃れるための実践ガイド』(2013年)※[10]によると、モラルハラスメントの典型的な行為は

  • 怒鳴る。強い口調で命令する。
  • 何を言っても無視して口をきかない。
  • 「頭が悪い」「役立たず」「何をやらせてもできない」などと言って侮辱する。

などが挙げられています。

家事ハラスメント

家事ハラスメントは、家事の分担などに関する嫌がらせのことです。

家事、育児、介護などの労働を女性に無償で押し付けるのが社会の問題であるとしたハラスメントです。また、夫の家事を妻が強くダメ出しするという意味でも使われます。

その他のハラスメントの種類

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他にも、ハラスメントは存在します。

スメルハラスメント

スメルハラスメントは、臭いに関する嫌がらせのことです。

体臭や口臭、たばこ、香水などの臭いにより、周囲が不快に思う状態を指します。

【関連記事】香害とは?症状や原因、対策、香害にならない洗剤2選も

ヌードルハラスメント

ヌードルハラスメントとは、麺類などをすする音による嫌がらせのことです。

そばやラーメンなどを食べる際の麺のすすった音を、周囲が不快に思う状態を言います。

アルコールハラスメント

アルコールハラスメントは、酒席での迷惑行為を指します。

アルコール依存などを予防に取り組む特定非営利活動法人ASK(アスク)では、「アルハラ(アルコールハラスメント)の定義5項目」として以下を挙げています。

  1. 飲酒の強要
  2. イッキ飲ませ
  3. 意図的な酔いつぶし
  4. 飲めない人への配慮を欠くこと
  5. 酔った上での迷惑行為※[11]

アルコールハラスメントやスメルハラスメント、ヌードルハラスメントは、職場でも起こりうるハラスメントと言えるでしょう。

このように、ハラスメントにはさまざまな種類がありますが、その中でも職場におけるハラスメントの現状を詳しく見ていきます。

職場内ハラスメントは増加傾向にある

職場内でのハラスメントの状況はどうなっているのか、相談窓口の応対件数から探ってみましょう。

都道府県労働局等への相談件数は最多

厚生労働省は、あらゆる労働問題の相談ができる総合労働相談コーナーを全国379カ所に設置しています。下記のグラフは全国の労働局に寄せられた相談件数です。

都道府県労働局等への相談件数

事業者と労働者との紛争相談件数内訳

  1. いじめ・嫌がらせ ……… 87,570件
  2. 自己都合退職 …………… 40,081件
  3. 解雇 ……………………… 34,561件

(出典:厚生労働省「「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」

職場内ハラスメントの相談は年々増加しており、令和元年度は87,670 件と、前年に比べて4,873件も増えています。また、全相談件数のうち、「いじめ・嫌がらせ」(ハラスメント)に関する相談は、全相談件数の25.5%と相談内容のトップです。上記の内訳を見ても、圧倒的な件数となっています。

 企業・団体内相談件数は「変わらない」が最も多い

次のデータは、先述した総合労働相談コーナーとは異なり、企業・団体で働く人のハラスメント相談を受け付けた件数です。

厚生労働省が、全国の従業員30人以上の企業・団体に対して行った「令和2年度 職場のハラスメントに関する実態調査」によると、働く人のハラスメントの相談件数は「変わらない」が最も多いという結果でした。

相談内容の内訳を見ると、セクハラは「過去3年間に相談件数は減少している」が8.8%と、「増加している」3.0%を大幅に上回り、セクシャルハラスメントが減っていることが分かります。

一方で、その他のハラスメントは、過去3年間の相談件数の増減に大きな違いはなく、全体的には変わらないと言えるでしょう。

ハラスメントは引き続き、職場の問題として考える必要性があります。

それでは、国はどのような対応をしているのでしょうか。次に政府の動きを見ていきます。

日本政府が取り組むハラスメント対策・法律

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職場内ハラスメントの増加において、政府も法の整備を進めています。

ここでは、ハラスメントに関連する「労働施策総合推進法」「男女雇用機会均等法」「育児・介護休業法」について解説します。

労働施策総合推進法

労働施策総合推進法とは、多様な働き方を進め、均衡のとれた待遇の確保、育児・介護と仕事の両立、労働時間の短縮などの改革を進めることを目的とした法律です。パワーハラスメント防止義務も規定されているため、パワハラ防止法とも呼ばれています。

政府は令和2年、労働施策総合推進法を改正し、大企業は令和2年6月1日から、中小企業は令和4年4月1日から、職場におけるパワーハラスメント対策を義務化する方針としています。

事業主に課された義務の主な内容は、大きく4つです。

  1. 職場においてパワハラを行ってはならないことや、行為者に厳正に対処することを労働者に周知すること。
  2. 相談窓口を設け、相談内容や状況に応じて適切に対応できるようにすること。
  3. 事実関係を正確に確認し、被害者や行為者に適正な処置を行い、再発防止に努めること。
  4. 相談者や行為者のプライバシーを守り、相談したことなどを理由に解雇などの不利益な扱いをしないと定め、その旨を労働者に周知すること。

また、職場におけるセクシュアルハラスメント対策や、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策についても、パワーハラスメントの指針と同様に改正されています。※[12]

男女雇用機会均等法

男女雇用機会均等法は、働く人が性別により差別されることなく、また、働く女性がその能力を十分に発揮できる雇用環境を整備するための法律です。募集や採用、昇進などについて、性別を理由とした差別を禁止しています。

この法律で定められている、事業主が行うセクシュアルハラスメントや、妊娠・出産等に関するハラスメント対策については、3つのポイントがあります。

  • 職場において性的な言動で就業環境が害されることのないよう、必要な体制の整備をする。
  • 職場において、妊娠したことや出産したこと、休業を申請し、休業をしたことにより、就業環境が害されることのないよう、必要な体制の整備をする。
  • 性的言動問題や、妊娠・出産等関係言動問題への関心と理解を深める、必要な注意を払うよう、研修などを実施する。※[13]

また、企業において男女雇用機会均等推進者を選任することが定められ、職場におけるセクシュアルハラスメント対策や、妊娠・出産等に関するハラスメント対策を有効に実施することとしています。

育児・介護休業法

育児・介護休業法とは、人口減少や少子高齢化、核家族化などに対応するため、仕事と育児、介護を両立できるように支援する法律です。

ハラスメントに関する部分は、「事業主は、労働者が育児休業の申し出や、育児休業をしたことを理由として、解雇その他不利益な取り扱いをしてはならない」と定められています。

この法律で述べられている休業は9つあり、その一部は以下の通りです。

  • 育児休業(育児のために原則として子が1歳になるまで取得できる休業)
  • 介護休業(介護のために対象家族 1 人につき通算 93 日間取得できる休業)
  • 子の看護休暇(子の看護のために年間 5 日間(子が2人以上の場合 10 日間)取得できる休暇)
  • 介護休暇(介護のために年間 5 日間(対象家族が2人以上の場合 10 日間)取得できる休暇)※[14]

企業におけるハラスメントのリスク

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ハラスメントが企業に及ぼすリスクは、生産性や離職などの人的資源の問題だけでなく、法的な処分にまで至ります。

ここでは3つの問題について考えてみます。

法的責任を負う可能性がある

職場でハラスメントがあった際、企業は法的責任を負う場合があります。

一体どのようなケースがあるのか、パワーハラスメントの裁判例を見てみましょう。

Y銀行に勤めていたTさんは、書類にミスがあるとGとH主査から厳しい口調で叱責されます。その後、上司が変わりTさんの負担が増えると同時にミスも多くなり、GとH主査からの叱責の回数も増えたそうです。


この業務を地獄だと思ったTさんは死にたいと同僚に漏らし、同僚はGとH主査にも伝えます。しかし、2人ともこれを聞き流し、Tさんは「もう夢も希望もない」と言い残して自殺します。

◎判決

裁判所は、Y銀行にはTさんに対する労働契約上の「債務不履行責任がある」と判断し、Y銀行に対して逸失利益3,582万円余り、慰謝料2,000万円、弁護士費用560万円の支払いを命じました。(徳島地裁平成30年7月9日判決)

債務不履行責任とは

契約によって約束した義務を果たさなかった場合に追う法的責任のこと。

判決のポイントは2つあります。

  • 主査の叱責はTさんのミスに起因するもので、人格を非難してはいないことから、不法行為には当たらない。
  • Tが精神的につらい状態であることを上司は知っており、これに対し有効な対応を取らなかったのは安全配慮義務に違反している。

業務上必要な叱責は違法ではありませんが、従業員の安全を配慮する義務を怠るのは違反であるということです。

その他にも、従業員が他の従業員に対して不法に退職に追いやるなどした場合、企業が法的責任を負います。※

※従業員が他人に与えた損害を雇い主が賠償する「使用者責任」(民法715条)

メンタルヘルス不全につながる

ハラスメントにより、うつ病などの精神障害を発病し、労災補償を受けるケースがあります。

労災補償とは

労働者の業務中の災害、または通勤中の災害などについて、必要な保険給付を行う制度。

令和元年の脳・心臓疾患と精神障害の労災補償の支援決定件数を見ると、職場での嫌がらせやいじめ、暴行を受けたことによるものは79件と、上司や同僚とのトラブルよりも圧倒的に多くなっています。

 【脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況】

労災補償は、労働者の社会復帰の支援をする制度ですが、ハラスメントにより制度の利用が発生すること自体、企業にとっては大きな問題です。

従業員の精神障害発症や自殺は、社会通念上、客観的に見て精神疾患を発症させるほど過剰であると認められれば、業務に起因したものと判断されます。

精神障害は従業員にとって大きな傷になるだけではなく、企業にとっても人的資源を失うリスクが大いにあります。まずは職場でハラスメントがないか、発生しているのであれば一刻も早く対策を考える必要があるでしょう。

作業効率が低下する

ハラスメントは従業員の作業効率にも影響します。日本労働組合総連合会の調べ(2021年)によると、職場でハラスメントを受けた人の中で、「仕事のやる気がなくなった」という回答は、56.8%でした。

職場でハラスメントを受けたことで、どのような生活上の変化があったか [複数回答形式]

対象:職場でハラスメントを受けたことがある人

また、「仕事のミスやトラブルが多くなった」という人は17.6%。その他の回答の「心身に不調をきたした」「夜、眠れなくなった」なども合わせて考えると、ハラスメントにより従業員の作業効率が落ちることが予測できます。

ハラスメントは働く人の精神面に大きく作用するだけではなく、企業側も働く意欲を失った従業員を抱えるため、経営にも影響が出てくるでしょう。

離職率が高まる

上記データをさらに見ていくと、22.5%が「仕事をやめた・変えた」と回答しており、ハラスメントが離職につながっている現状がうかがえます。

従業員のやる気や心身の状態は、生産性を向上させるための大切な要素であることからも、ハラスメントのない、働きやすい環境を整えることが求められています。

それでは、具体的にどのような対策をとれば良いのでしょうか。次にハラスメントのためにするべきことを解説します。

企業が取り組むべきハラスメント対策

厚生労働省あかるい職場応援団「ハラスメント関係資料ダウンロード」
引用元:厚生労働省あかるい職場応援団「ハラスメント関係資料ダウンロード

ハラスメントは、起きる前に対策をとる必要があります。とはいえ、万全に備えていても発生したときのことも考えて、体制も整えておくようにしましょう。

ここでは、厚生労働省のリーフレット「NOハラスメント」※[15]をもとに、事前の予防策と事後の対応策について解説します。

【予防策】基本的な枠組みをつくる

パワーハラスメントを中心に、セクシャルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(マタニティハラスメント、パタニティハラスメント)に準じた形で、企業の基本的な体制をつくります。

他の企業の取り組みを知りたい場合は、厚生労働省あかるい職場応援団「他の企業はどうしてる?」を参考にしてください。

  1. トップのメッセージを発信する
    組織のトップが、職場からハラスメントをなくすという姿勢を明確に示します。
    ハラスメント防止がなぜ重要なのか、その「理由」を伝えることや、「具体的な活動の準備」もしておきましょう。
  2. ルールを決める
    就業規則や労働規約、労使協定などでハラスメントの禁止や処分に関する規定を設けます。
    「罰則規定の適用基準」や「処分内容」などを明確に定めましょう。
  3. 実態を把握する
    アンケートの対象者が偏ることのないように、従業員アンケートを実施します。
    匿名で行うことが有効です。
  4. 教育をする
    教育のための研修は、漏れなく全員が受講できるようにし、定期的に実施します。
    研修内容には、トップのメッセージや会社のルール、取り組みの内容を加えると効果的です。
  5. 内で周知する
    組織のルールや相談窓口について周知します。
    計画的で継続して周知を実施していきましょう。

各ハラスメントの防止に関する規定例や防止文書、就業規則への記載例は、厚生労働省「雇用環境・均等室 ハラスメント対策・各種規定例ダウンロード」など、ネットで例文を調べることができます。

【対応策】相談対応の手順を決める

実際にハラスメントが起きてしまったらどうするのかを見ていきましょう。

①相談や解決の場を提供する

企業内・外に相談窓口を設置し、職場の対応責任者を決めます。

相談者の秘密が守られていることや、不利益な取り扱いを受けないことを明確にしてきましょう。

相談対応の流れ

  1. 相談窓口で一次対応を行う
  2. 事実関係の確認をする
  3. 行為者・相談者へどのような措置をとるべきかを検討する
  4. 行為者・相談者へのフォローをする

②行為者に対する再発防止研修を行う

再発防止をすることで、予防策も同時にできます。

取り組み内容の定期的な検証・見直しを行い、より効果的な再発防止策をつくっていきましょう。

予防策と対応策を一体として取り組みましょう。

ハラスメントとSDGsの関係

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最後にハラスメントとSDGsの関係について確認しましょう。

ハラスメントの予防と対策を行うことで、SDGsの17の目標のうちの4つに貢献できます。

まずは、SDGsとは何か確認していきます。

SDGs(エスディージーズ)とは、2015年に国連サミットで採択された、17の目標と169のターゲットから成る、国際目標です。” Sustainable Development Goals” の略で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されています。

2030年を達成期限とし、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを掲げています。

ハラスメントに関する4つの目標について見ていきましょう。

目標5「ジェンダー平等を実現しよう」

目標5は、女性への差別をなくし、平等な権利を得られるようにすることを目指しています。

男女雇用機会均等法を始めとした法整備も進められていることから、企業においてもセクシュアルハラスメント対策や、妊娠・出産等に関するハラスメント対策を行う必要があります。

その中で、女性が性的な言動や妊娠・出産等で不利益にならないような取り組みをすることは、この目標5に貢献します。

目標8「働きがいも経済成長も」

目標8は、働きがいのある仕事を生み出し、すべての労働者が安全・安心でいられる労働環境をつくることを掲げた目標です。

働く人がハラスメントによってやる気をなくしたり、心身に不調をきたしたりすることのないよう、企業はしっかりとした体制をつくることが必要です。働きがいや労働環境を確保することは、目標8の趣旨と一致します。

目標10「国や人の不平等をなくそう」

目標10は、すべての人々の不平等をなくし、社会に参加できるようにすることを目指しています。

働く人が妊娠・出産・育児などにより、職場で不利な扱いを受けるハラスメントは、法律に反するだけでなく、不平等をもたらします。誰もが社会で生き生きと働ける企業をつくることは、目標10の達成に貢献します。

目標16「平和と公正をすべての人に」

目標16は、平和で誰もが受け入れられ、すべての人が法で守られる社会をつくることです。

政府が、労働施策総合推進法や男女雇用機会均等法、育児・介護休業法で、労働者を守るためのハラスメントの防止と対策を打ち出しています。企業もそれに従って取り組みを進めていくことは、より良い社会につながっていきます。

まとめ

ハラスメントは、嫌がらせやいじめなどの迷惑行為を指し、その種類は30以上にのぼります。

その中でも、企業に関する主なハラスメントは、「パワーハラスメント」「セクシャルハラスメント」「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」です。

これら3つのハラスメントは近年増加傾向にあり、政府も労働施策総合推進法や、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法により対策を強化し、事業主に対して適切な対応を求めています。

企業にとっても、ハラスメントは法的責任を負う可能性や人的資源の損失などのリスクになりうるため、予防と対策を打ち立てる必要があります。

政府のガイドラインをもとに、他の企業の取り組みなどを参考にして必要な体制や手順を作成しましょう。

ハラスメントを防止する取り組みは、SDGsの達成にもつながります。積極的に推し進めていくことで、持続可能な職場づくりも実現できるでしょう。

<参考文献>
石嵜信憲編著、豊岡啓人著、松井健祐・藤森貴大・山崎佑輔著「ハラスメント防止の基本と実務」中央経済社
山梨県弁護士会編集「Q&Aハラスメントをめぐる諸問題」ぎょうせい
君嶋護男著「ハラスメント裁判例77」労総調査会
蟹江憲史著「SDGS(持続可能な開発目標)」中公新書

[1] 厚生労働省「NOパワハラ」事業主の皆さまへ
[2] 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)
[3] 人事院 「人事院規則10―10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)の運用について(平成10年11月13日職福―442)
[4] かながわ労働センター「労働問題対処ノウハウ集 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを受けたら」
[5]厚生労働省「職場でつらい思いしていませんか?
[6] 東京大学アカデミックハラスメント防止宣言
[7] 特定非営利活動法人アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク(NAAH)「アカデミック・ハラスメントとは
[8] 文部科学省「2022年度(令和4年度)大学、短期大学及び高等専門学校卒業・修了予定者に係る就職について(申合せ)

[9] 金明秀著「レイシャル・ハラスメントQ&A」解放出版社
[10] 本田りえ、露木肇子、熊谷早智子著『「モラル・ハラスメント」のすべて 夫の支配から逃れるための実践ガイド』講談社
[11] 特定非営利活動法人ASK(アスク)「アルハラの定義5項目
[12] 厚生労働省あかるい職場応援団ハラスメント関係資料ダウンロード「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!
[13] 厚生労働省「男女雇用機会均等法の あらまし
[14] 厚生労働省「職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント対策やセクシュアルハラスメント対策は事業主の義務です!!
[15] 厚生労働省「NOハラスメント
[16] 厚生労働省あかるい職場応援団 「【第58回】介護員に対する雇止めは、著しく合理性、相当性を欠き、権利濫用で無効であるとして、地位確認及び損害賠償が認められた事案」
[17]厚生労働省あかるい職場応援団 【第32回】バスの運転士に対して1ヶ月にわたって除草作業を命じたことが「いじめ」にあたると判断された事案