私たちの生活に身近なプラスチック製品。しかし、その中には目に見えない微小な粒子が含まれていることをご存知でしょうか。この微粒子はマイクロプラスチックと呼ばれ、海洋に流れ出し、食物連鎖によって魚や鳥、海洋生物に取り込まれ、体内に蓄積されるなどの問題が発生しています。
こうした問題に対し、世界的にも関心が高まっており、欧米諸国では本格的な規制が始まりました。また、日本でもプラ新法制定といった新しい動きが見られます。
本記事では、マイクロプラスチックがどのようなものなのか、どうやって生まれるのか、魚や鳥にどのような影響を与えているか、世界や日本でとられている対策の内容、私たちができるマイクロプラスチック対策についてまとめます。
目次
マイクロプラスチックとは
マイクロプラスチックとは、5mm以下の微細なプラスチック類のことで、一次マイクロプラスチックと二次マイクロプラスチックに分類されます。それぞれ内容を確認しましょう。
一次マイクロプラスチックとは
一次マイクロプラスチックとは、非常に小さいサイズで作られたプラスチックのことです。主にスクラブ剤が挙げられ、洗顔料や歯磨き粉などの製品の一部に配合されているものがあります。こうしたマイクロプラスチックは、マイクロビーズとも呼ばれています。*2)
マイクロビーズは数ミクロンから数百ミクロンと非常に小さいため、通常の排水処理施設では除去することができず、川などを通じて海に流入します。流出した微粒子は環境中に存在する微量な化学物質を吸着し、プランクトンや魚に摂取されてしまいます。*3)
一部の国々では一次プラスチックの規制が始まっています。オランダでは2016年までにマイクロビーズの流通・製造・販売が禁止されました。フランスでは、2018年以降にマイクロビーズを使用した商品の流通が出来ない仕組みが導入されました。日本では法律で禁止されているわけではありませんが、業界団体による自主規制の動きが進んでいます。
二次マイクロプラスチックとは
二次マイクロプラスチックとは、製造されたときは大きなプラスチックだったものが、自然環境の中で破壊・分解されてマイクロサイズとなったものを指します。
細かく砕ける理由は様々ですが、現在特に問題視されているのが海洋に流出したことによって発生するものです。陸で製造・使用されたプラスチック製品が海に流出すると、波の作用や紫外線の影響により徐々に劣化し、細かく分解されます。そして、最終的には目に見えないマイクロサイズとなってしまうのです。*4)
※どちらのマイクロプラスチックも環境への影響が注目されていますが、本記事では主に二次マイクロプラスチックについて詳しく見ていきます。
なぜマイクロプラスチックが発生するのか?原因は?
では、なぜマイクロプラスチックが発生するのでしょうか?原因について確認していきましょう。
プラスチックの現状
マイクロプラスチックの発生について考える場合、まずはプラスチックごみの現状を知る必要があります。
OECD(経済協力開発機構)は、2019年のプラスチックの消費量は4億6,000万トンであるとし、2060年には12億3,100万トンに達するとの推計を発表しました。*5)そして、大量に生み出されているプラスチックの一部が海洋に流出し、海洋ごみとして漂流します。その結果、海洋中には膨大な量のマイクロプラスチックが存在しているのです。
【海洋プラスチック汚染の現状】
上の地図で赤の色が濃いほど海洋中のプラスチック濃度が高いことを意味します。海洋プラスチックによる汚染は地球全体で拡大していることや、東アジア・東南アジアの国々で汚染が広がっている実態がよくわかります。*6)
プラスチックごみが海洋に流れ込む理由
海洋中に存在するマイクロプラスチックは、元をたどれば陸上で生産されたものです。プラスチックは軽い・丈夫・大量生産できる・加工しやすいといったさまざまな利点があるため、世界中で使用されています。使い終わった後、適切に処理されているのであれば問題ありませんが、一部はポイ捨てされたり屋外に放置されたりしています。
【プラスチックが川に流出するまで】
こうしたプラスチックごみは側溝などから川に辿り着き、やがては海に流れ着きます。
【海洋に流出したプラスチックごみのゆくえ】
海に流出したプラスチックは海洋ごみとなり、海岸に打ち上げられたり、海底に沈んだりするだけではなく、漂流ゴミとして外洋まで運ばれることがあります。漂流ごみは波や紫外線の作用で徐々に劣化し、再び海岸線に打ち上げられ、そして風雨の影響により細かく砕かれてマイクロプラスチックになってしまうのです。浜辺で砕かれたマイクロプラスチックは再び海に戻ると考えられています。
マイクロプラスチックが人体に与える影響
マイクロプラスチックが人体にどのような影響を与えているかは、まだよくわかっていません。しかし、過去の公害の経験を踏まえると、生物濃縮により悪影響が出るのではないかと懸念されます。ここでは、生物濃縮の仕組みから、人体への影響について考えます。
生物濃縮で悪影響が出る可能性がある
生物濃縮とは、環境中に微量に存在する有害物質が、食物連鎖によって生物体内に蓄積され、高濃度になる現象のことです。*12)
生物濃縮の例として知られているのが水俣病のケースです。化学工場から排出されたメチル水銀を、水俣周辺の魚やカニ、エビなどが取り込みました。すると、それらをエサとする大きな魚に徐々に水銀が蓄積します。そして、水銀を多く含む魚を食べた人に水俣病の症状が出ました。*26)
これと同じことがマイクロプラスチックでも起きるのではないかと心配されています。マイクロプラスチックに含まれる有害物質を取り込んだ魚を私たちが食べると、それが体内に蓄積され、水俣病のような健康被害をもたらすかもしれないのです。
マイクロプラスチックの蓄積による健康被害は検証途中ですが、公害病の前例などから考えれば、悪影響を及ぼす可能性も否定できません。
マイクロプラスチックが生物に与える影響
それでは、これらのマイクロプラスチックは、地球環境にどのような影響を与えているのでしょうか。魚や鳥を例に、マイクロプラスチックが生物に与える影響について明らかにします。
魚
魚のなかでも特に小さな魚は、海の中に住む小さな生物であるプランクトンをエサとしています。プランクトンは植物プランクトンと動物プランクトンに分けられますが、このうち動物プランクトンが、エサである植物プランクトンと間違えてマイクロプラスチックを食べていることがわかっています。*8)
そして、マイクロプラスチックを取り込んだ動物プランクトンを魚が食べることで、体内に蓄積されてしまうのです。
鳥
2021年10月、東京農工大学の研究グループは世界18の研究機関の研究者とともに海鳥のプラスチック添加物汚染の状況を発表しました。それによれば、世界の海鳥のおよそ半数にプラスチック添加物による汚染が見られることが明らかになりました。*10)
プラスチック添加物とは、プラスチックを燃えにくくする難燃剤や加工しやすくする可塑剤、紫外線による劣化を防ぐ紫外線吸収剤などのことです。これらの添加物はマイクロプラスチックを通じて魚や海鳥に蓄積されています。*11)
魚や鳥に蓄積されたマイクロプラスチックやプラスチック添加物がどのような影響を及ぼしているかは研究途中です。しかし、プラスチックに使用される添加物の一部には有害なものがあるため、これらを人体が取り込んだ時にどのような悪影響が出るか研究者の間で懸念されています。今後、どのような影響が出るか注視する必要があるでしょう。*25)
世界が取り組むマイクロプラスチック問題対策
マイクロプラスチックがもたらす悪影響について、世界が注目し始めています。例えば海外では、プラスチック容器の使用禁止や他の製品への置き換えが進んでいます。ここでは、フランスの試みとイギリスに本社を置くユニリーバ社の取り組みを取り上げます。
フランス
フランスでは、2040年までに使い捨てプラスチックを市場に出すことを禁止するとしています。2020年2月には循環経済法が施行され、使い捨てプラスチックについて以下のように定められました。*13)
2020年 | コップ、グラス、皿類への使用禁止 |
2021年 | ストロー、ナイフ、フォーク類への使用禁止 |
2022年 | ティーバッグ、ファストフード店の子ども用のおもちゃへの使用禁止 |
2024年 | マイクロプラスチックを含む医療機器の販売 |
*13)
加えて、2030年までに400平米以上のスーパーマーケットでは売り場面積の2割を包装のない量り売りにすることを義務付けることも検討されるなど、マイクロプラスチックの元となるプラスチックの規制を強化しています。
フランスがこうした方針を決めた背景には、使い捨てプラスチック包装のリサイクル率が27%にしか過ぎないことがあると言います。*13)
ユニリーバ
イギリスに本社を置くユニリーバ社は、プラスチックに関する問題を解決するため、製品の素材選びや使用済みパッケージの分別・回収・再生のための仕組みをつくるさまざまな取り組みを行っています。
具体的には、「Less Plastic」、「Better Plastic」、「No Plastic」という3つのアプローチを組み合わせ、環境に対する負荷を最小に抑えつつ、プラスチックを活用する方策を模索しています。
「Less Plastic」はパッケージに使用するプラスチックの量を減らすこと、「Better Plastic」再生プラスチックや再利用しやすいプラスチックを使用すること、「No Plastic」は不要なプラスチックの使用をやめたり、他の素材に転換することです。*28)
これらの取り組みにより、2025年までに以下の目標を達成するとしています。*14)
- 非再生プラスチックの使用量を50%削減
- 使用するプラスチックの25%を再生プラスチックに置き換え
- パッケージを100%再使用・リサイクル・堆肥化
*14)
また、「Less Plastic」では、パッケージに使うプラスチック量の削減を目的としています。そのために、軽量化や省資源・ごみの削減につながる製品開発を進めています。
実際、2022年末までに、全世界で非再生プラスチックの使用量を13%削減することに成功しました。こうした取り組みを通じ、プラスチックをごみではなく資源として扱う循環型社会への転換をはかっています。*14)
日本が取り組むマイクロプラスチック問題対策
周囲を海に囲まれた日本にとって、海洋プラスチックごみや、それらが元となって生み出されるマイクロプラスチックについて無関心でいることはできません。その中で日本でも、プラスチック資源循環促進法が施行されるなど、対策が進みつつあります。法律の内容や日本企業の取り組みについてみてみましょう。
プラスチック資源循環促進法
プラスチック資源循環促進法は、製品設計からプラスチックの廃棄までのあらゆる場面で、資源循環の取り組みを促進するための法律で、プラスチック新法とも呼ばれます。*15)最重要ポイントは、「3R+Renewable」です。
3Rとは、Reduce・Reuse・Recycleの頭文字をとったもので、従来から推進されてきた考え方です。
【3Rと循環型社会】
製造過程でプラスチックの発生を抑えるReduce、一度使用したプラスチックを再利用するReuse、そして、素材やエネルギー源として再利用するRecycleの3つをさしています。これに加え、Renewableも必要です。
Renewableとは、プラスチックを再生素材や再生可能資源に置き換える動きのことです。具体的には紙やバイオマスプラスチックへの切り替えを意味します。*16)
サントリー
サントリーは、ReduceとRecycleに着目した包装容器の使用を推進しています。ペットボトルを例にとると、以下のような取り組みを実施しています。
Reduceの分野では国産最軽量ペットボトルを導入することで、プラスチックの使用量を大きく減らすことに成功しました。*19)
Recycleの分野では、再生PET樹脂100%のペットボトル製造を可能にしました。こうして作られたペットボトルを「またあえるボトル」と命名。2030年までに国内清涼飲料事業で使用する全てのペットボトルを「またあえるボトル」に切り替える予定です。*19)
つまり、プラスチックの使用量を削減し、リサイクルを進めることでマイクロプラスチックの元となるプラスチックごみの発生を抑えようという取り組みです。
マイクロプラスチック問題の解決に向けて私たちができること
マイクロプラスチック問題は、私たちの生活と密接に結びついた問題です。ということは、消費者である私たちの行動次第で、この問題を解決できる可能性があります。では、どのように行動すればよいのでしょうか。2つのポイントについて解説します。
使い捨てプラスチックの使用量を減らす
1つ目のポイントは使い捨てプラスチックの使用量を減らすことです。たとえば、プラスチック製容器をシリコン製容器に変えたり、プラスチックの袋の代わりに、植物由来の布などで作った袋を使用することなどがあげられます。マイバッグやマイボトルの使用も使用量削減に貢献できます。
しかし、プラスチック製品が数多く使用されている現代社会で、プラスチックを使用しない生活は非現実的です。であれば、可能な限り同じプラスチック製品を長く使用することも検討するべきでしょう。使い捨てのプラスチックを減らせれば、それだけ、海洋ごみ・マイクロプラスチックのもとを排出せずに済むからです。
リサイクルに協力する
2つ目のポイントはリサイクルに協力することです。ゴミの分別ルールは自治体によって異なります。
【プラスチックの分別収集の違い】
各自治体が定めた分別ルールを守ることが、プラスチックリサイクル率を向上させることにつながり、マイクロプラスチックの元であるプラスチックごみを減らすことにつながります。
マイクロプラスチックとSDGs
マイクロプラスチックはSDGsと密接にかかわっています。特にマイクロプラスチックを削減することは、目標14「海の豊かさを守ろう」の達成につながります。詳しい内容を見てみましょう。
目標14「海の豊かさを守ろう」との関わり
SDGs14のポイントは以下の5点です。
【SDGs目標14の概要】
海には気温の調整や二酸化炭素の吸収といった役割のほかに、私たちの生活に必要な資源を供給してくれる場という役割があります。しかし、私たち自身が大切な海をプラスチックによって汚染してしまっています。
【海洋ごみの種類】
海に流れ出たプラスチックは波や紫外線の力によって分解され、マイクロプラスチックとなって海を漂っているのです。このままでは、私たちは水産物を食べているようでいて、実は、マイクロプラスチックを食べているという事態になりかねません。
環境省は海洋プラスチックごみ対策アクションプランを策定し、海洋汚染を止めようとしています。*23)私たちも、自分たちにできる範囲で海洋汚染を止めるための行動をする必要があるのです。
まとめ
今回はマイクロプラスチックに関する問題を取り上げました。マイクロサイズにまで小さくなったプラスチックが、生物にどのような影響を与えるかについては、研究中です。
しかし、私たちは過去の公害病から、汚染物質の生物濃縮によって悲惨な公害が引き起こされたことを知っています。いま、問題点がはっきりしないからといって、マイクロプラスチック対策をおろそかにするのはリスクが大きい行動です。
プラスチックを全く使用しない生活は非現実的であり、極端すぎる対策は共感を呼びにくいため、かえって逆効果になるかもしれません。そうであれば、海洋ごみの大きな理由となっている使い捨てプラスチックの削減や、プラスチック製品のリユースなど、個人でもできる対策を積み上げ、海洋環境を守る取り組みを広げていく必要があるでしょう。
<参考>
*1)環境省「令和元年度海洋ごみ調査の結果について」
*2)環境省「プラスチックを取り巻く国内外の状況」
*3)環境用語集「環境用語集:「マイクロビーズ」」
*4)日本財団「マイクロプラスチックが海の生き物、人体に与える影響は? | 日本財団ジャーナル」
*5)OECD「2060年までに世界のプラスチック廃棄物はほぼ3倍に―OECD発表」
*6)環境省「海洋 プラスチック ごみ対策」
*7)政府広報「海のプラスチックごみを減らし きれいな海と生き物を守る!~「プラスチック・スマート」」
*8)東京大学海洋アライアンス「海のマイクロプラスチック汚染」
*9)東京大学大気海洋研究所「魚は淡水中より海水中でより多くのマイクロプラスチックを飲む」
*10)東京農工大学「〔2021年10月8日リリース〕世界の海鳥の50%にプラスチック添加剤の汚染が広がっていることを、世界16地域32種の海鳥の分析から明らかにしました 」
*11)科学技術振興機構「世界の海鳥の半数がプラスチック添加物汚染 東京農工大などの調査で判明 | Science Portal」
*12)EICネット「環境用語集:「生物濃縮」」
*13)ジェトロ「2025年までに使い捨てプラスチック包装の年間市場投入量を2018年比20%削減(フランス) 」
*14)ユニリーバ「プラスチックへの取り組み 」
*15)環境省「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案」
*16)環境省「3Rまなびあい ブック」
*17)環境省「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラ新法)の普及啓発ページ 」
*18)環境省「バイオプラスチックとは? 」
*19)サントリー「容器包装の3R サントリーグループのサステナビリティ」
*20)環境省「市区町村によるプラスチックの分別収集・リサイクル 」
*21)スペースシップアース「SDGs14「海の豊かさを守ろう」現状と課題、日本の取り組み事例、私たちにできること」
*22)海と日本プロジェクト「今、知っておきたい 海洋ごみの事情」
*23)環境省「「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」の策定について」
*24)九州大学「磯辺研究室の海洋プラスチック汚染研究 – odg-riam ページ!」
*25)日本財団「マイクロプラスチックが海の生き物、人体に与える影響は? 」
*26)環境省水俣病情報センター「水俣病と水銀について」
*27)富山県「富山県/イタイイタイ病の特徴」
*28)ユニリーバ「プラスチックへの取り組み 」
*29)スペースシップアース「マイクロビーズの現状は?与える影響や世界と日本の対策」