#SDGsを知る

IPCCとはどんな組織?活動内容や各報告書の詳細、SDGsとの関係も

普段なにげなく過ごしていると、IPCCという名前を目にする機会はあまり多くないでしょう。しかし、地球温暖化をはじめとする環境問題や、SDGsに関心のある人で「地球で今なにが起こっているか」を知りたいと情報に目を向ける人の中には、それらの情報源としてIPCCの報告書がよく利用されていることに気がついている人がいるかも知れません。

この、情報源となっているIPCCとはどんな組織なのでしょうか?活動内容や各報告書の詳細、SDGsとの関係も紹介します。

IPCCとは

【IPCCとは】

IPCCIntergovernmental Panel on Climate Changeの略称で、「気候変動に関する政府間パネル」のことです。1988年に

  • WMO…World Meteorological Organization(世界気象機関)
  • UNEP…United Nations Environment Programme(国連環境計画)

によって設立された、国際的な政策立案や交渉のための、最新の科学的知識やデータを提供する政府間組織で、世界で195の国と地域が参加しています。

IPCCからはこれまで第1次から第6次まで報告書が発表され、2021年にノーベル物理学賞を受賞した眞鍋淑郎先生※の論文からも多くの引用※があります。

眞鍋淑郎:まなべしゅくろう(理学博士)

国際的には「 Suki Manabe(スーキー・マナベ)」として知られる気候モデルの研究者。地球科学の分野でコンピュータで気候シミュレーションを行うための数値モデル開発の第一人者で、アメリカ・プリンストン大学上席研究員、国立研究開発法人海洋研究開発機構特別研究員。地球温暖化予測に関わる大気と海洋の動きを組み込んだ気候モデルの開発に世界で初めて成功。

引用

他の論文・情報・データ・文章・説などから、別の場所に主に根拠などを裏付けるために引き出して紹介すること。

IPCCの活動内容

IPCCは、気候変動に関する最新の科学的な研究結果やデータなどを評価し、報告書の作成を行っています。IPCCの報告書は国際的な政策・交渉や各国や地域の政策決定のための信頼できる科学的根拠として、世界中で引用されています。

近年ではビジネスの場面でも

  • ESG
  • SDGs

などのサステナビリティを意識した経営が重要になっているので、規模を問わず企業の経営方針を策定する際にも、世界的な気候変動に関する認識としてIPCCの報告書が役に立っています。

ESG

Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス=企業統治)を考慮した投資活動や経営・事業活動。

【関連記事】ESG投資とは?仕組みや種類、メリット・デメリット・問題点、企業の取り組み事例

SDGs

Sustainable Development Goalsの略称で、2015年に国連で採択された17の目標(ゴール)と169の具体的な行動指標(ターゲット)からなる「持続可能な開発目標」。

【関連記事】SDGsとは|1〜17の目標一覧と意味や達成状況、世界・日本の取り組み事例を紹介

【IPCCの情報が活用されるビジネスの例】

IPCCの組織概要

IPCCでは年に1〜2回、総会が開かれ、「ビューロー(事務局)」と呼ばれる議長団が研究論文などの執筆者の推薦や選定を行なっています。ビューローの下には3つの作業部会1つのタスクフォース※が置かれています。

タスクフォース(Task force)

直訳すると任務部隊・作戦部隊・機動部隊などの意味があり、組織などで緊急を要する課題や任務を達成するために動く特別な組織のこと。

【IPCCの組織図】

ビューローの下に置かれている4つの組織はそれぞれ、

  1. 第1作業部会(WG1):気候システム・気候変動の科学的根拠についての評価
  2. 第2作業部会(WG2):気候変動がもたらす社会経済への影響や自然システムの脆弱性、気候緩和のためのオプション(追加の選択肢)の評価
  3. 第3作業部会(WG3):温室効果ガス(GHG)の排出削減など気候変動の緩和のためのオプションの評価
  4. 国別温室効果ガス目録(インベントリ)タスクフォース(TFI):温室効果ガスの国別排出目録作成のための手法の策定・普及・改定

という役目があります。

【1988年から1990年のIPCCパネル】

IPCCについてより理解を深めるために、次では関連用語として「地球温暖化」と「パリ協定」について簡単に説明します。

【関連用語】地球温暖化とは

【気候システムとその変動要因】

地球温暖化とは、20世紀半ば以降から観測されている地球規模の気温の上昇のことです。この現象は人間の活動によるCO2をはじめとする温室効果ガスの影響が大きな原因と考えられています。

大気中の温室効果ガスは、地球の表面から外に向かって放出される熱を蓄積し、再び地球の表面に戻します。これを温室効果と呼び、地球の暖かさを保つ役割を持っています。

しかし、

  • 産業革命以降の人間の活動による化石燃料の使用の急激な増加
  • プランテーションや都市開発による森林の大幅な減少

により、大気中の温室効果ガス濃度が必要な値を超えて増加しました。これにより、大気の温室効果が高まり、地球規模での気温上昇が起きています。

【世界の主要国の温室効果ガス排出量の推移】

上のグラフから、ほとんどの先進諸国は温室効果ガス排出量が減少傾向にあることがわかります。しかし、中国・インドなどをはじめとする開発途上国の多くは温室効果ガスの排出量は増加傾向にあります。

【世界のエネルギー起源CO2の国別排出量(2019年)】

【関連記事】【地球温暖化とSDGsとの関係】原因や対策、日本が受ける影響、私たちにできること

【関連用語】パリ協定(COP21)とは

2015年、フランスのパリCOP21※とCMP11※が行われ、温室効果ガス排出削減などの国際的枠組みパリ協定が採択されました。パリ協定では世界全体で取り組む長期目標として

  • 産業革命以前から比較して地球の平均気温の上昇を2℃よりも低く抑える
  • 産業革命以前から比較して地球の平均気温の上昇を1.5℃に抑える努力をする
  • 温室効果ガス主要排出国を含む全ての国が削減目標を5年ごとに提出・更新する
  • 温室効果ガスの削減目標は、更新前の目標から前進を示す(より高い削減割合を目指す)
  • 世界全体で協定の実施状況を5年ごとに検討・評価する
  • 二国間クレジット制度(JCM)※などの市場メカニズムの活用
  • 森林などのCO2吸収源の保全・強化
  • 途上国の森林減少・劣化を防ぐ取り組みの奨励

などが設定されました。

パリ協定は2016年10月5日に締約国数55カ国・温室効果ガスの排出量が世界全体の55%という発行条件を満たし、同年の11月4日に発行しました。日本は同年11月8日に締結しています。

COP

 Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Changeの略称で、「国連気候変動枠組条約締約国会議」のこと。ここでは気候変動に関する締約国会議。1944年に発行された「国連気候変動枠組条約」に基づき、2020年以降の枠組みとして発行された「パリ協定」の締約国会議。

CMP

Conference of the Parties Serving as the Meeting of the Parties to the Kyoto Protocolの略称で「京都議定書締約国会議」のこと。1944年に発行された「国連気候変動枠組条約」に基づき2020年までの枠組みとして発行された「京都議定書」の締約国会議。

パリ協定を受けて、日本は2020年10月に「2050年までにカーボンニュートラル※」宣言をしました。この達成のために2013年から比較して温室効果ガスの排出量を46%削減することを目指しています。*1)

【カーボンニュートラル】

カーボンニュートラル

温室効果ガスの排出量を、森林やCO2回収技術(DAC:Direct Air Capture)などの吸収量と差し引いてゼロにすること。

次の章ではIPCC報告書がどのように作成されているか、そのプロセスを見ていきましょう。

IPCC報告書の作成プロセス

【ナミビアの砂漠】

IPCC報告書は3つの作業部会(ワーキンググループ)による報告書で構成されており、各報告書は多数のプロセスを経て作成されます。

完成までに時間がかかるので、3つの作業部会の報告書が作成・公表されて、それらをまとめた統合報告書ができるまでに5〜7年かかります。現在進行中の「第6次評価報告書(AR6)」の作成にはこれまで

  • 2018年10月…1.5℃特別報告書
  • 2019年8月…土地関係特別報告書
  • 2019年9月…海洋・雪氷圏特別報告書
  • 2021年8月…第1作業部会(ワーキンググループ1):自然科学的根拠
  • 2022年2月…第2作業部会(ワーキンググループ2):影響・適応・脆弱性
  • 2022年4月…第3作業部会(ワーキンググループ3):気候変動の緩和

というプロセスを経て2023年3月に統合報告書が発表される予定です。IPCC報告書作成の具体的なプロセスを確認しましょう。

【IPCC報告書が作成されるプロセス】

アウトラインの作成・執筆者の選定

まずは専門家によって大まかな構成(アウトライン)が作成されます。この時、構成を作成する専門家は各国政府や関係機関により推薦されます。大まかな構成が承認されると、次に報告書の執筆者の推薦が行われ、その後選定されます。

ドラフト(下書き作成)

執筆者が作成した1次ドラフト(1回目の草案)は、報告書執筆者の選定の時点で専門家による査読※が行われます。この後、2次ドラフト(2回目の草案・1回目の草案を必要に応じて修正・改善したもの)と、政策決定者向けの要約(SPM※)が作成されます。

査読

学術論文などの原稿を発表前に別の研究者や有識者に読んでもらい、誤りなどを指摘してもらうこと

SPM

Summary for Policymakersの略称で、政策決定者向けの要約

報告書の承認・受諾・公表

各国政府と専門家による査読が行われ、執筆者が報告書と政策決定者向けの要約の最終ドラフト(最終的な執筆内容)決定に進みます。最終ドラフトは各国政府が査読します。

各国政府の査読を経た報告書と政策決定者向けの要約は、作業部会と討論会が承認・受諾を行い、報告書の公表に進みます。報告書では可能性や信頼度の表現などに細やかな規定があり、曖昧な表現や読者の混乱を避けています。

【IPCC報告書における可能性の表現規定】

この表からも、IPCC報告書ではとても細かく可能性の表現の方法が決まっていることがわかります。また、可能性を表す言葉は

  • 統計的な解析
  • 専門家の判断に基づいた確率

などの表現として明確にするために斜体の文字で表記されます。*2)

それでは、これまで発表されたIPCC報告書の内容を順を追って確認しましょう。IPCC報告書は第5次まで発表され、現在は第6次報告書の内容が暫定的に公開されています。

FRA:IPCC第1次報告書(1990年)

IPCC第1次報告書「FRA:First Assessment Report 1990」とも呼ばれます。1988年にスイスのジュネーブで開催された「IPCC第1回総会」で作成が決定しました。

IPCC第1次報告書は、1990年6月に開かれた第3回本会議で承認され、発表されました。この頃は温室効果ガスについての研究が中心の内容でした。

IPCC第1次報告書(FAR)の主な内容

  • 人間活動に伴う排出によって、温室効果ガス(CO2、メタン、フロン、一酸化二窒素)の大気中の濃度は確実に増加(産業革命前と比べ、二酸化炭素換算で50%増加)しており、このため、地球上の温室効果が増大している。
  • モデル研究、観測および感度解析によると、CO2倍増時の全球平均地上気温の感度は1.5〜4.5℃の間であると予想される。
  • 長寿命の温室効果ガスは、排出量を削減しても大気中の濃度変化への効果が序々にしかあらわれない。
  • 過去100年間に、全球平均地上気温は0.3~0.6℃上昇し、海面は10~20cm上昇した。
  • (特段の対策がとられない場合)、21世紀末までに、全球平均地上気温は約1~3℃の上昇[10年間で約0.3℃(0.2~0.5℃)、2025年までに約1℃、21世紀末までに3℃の上昇]が予測される。
  • IPCC(我々)の気候変化に関する知見は十分とは言えず、気候変化の時期、規模、地域パターンを中心としたその予測には多くの不確実性がある。
  • 温室効果が強められていることを観測により明確に検出することは、向こう10年間内外ではできそうもない。

引用:環境省『IPCC第1次報評価告書(FAR)の概要』

【気候システムの機能】

この頃のIPCC報告書に掲載された地球温暖化に関わる温室効果ガスの影響を説明した図です。このように古い報告書もPDFで見ることができます。*3)

SAR:IPCC第2次報告書(1995年)

IPCC第2次報告書は、「SAR:Second Assessment Report: Climate Change 1995」とも呼ばれます。1990年以降の地球温暖化問題に関する科学的知見を集めて、第1次報告書から大幅に改訂され、1995年にローマで行われたIPCCの第11回会合で承認・発表されました。

IPCC第2次報告書(SAR)の主な内容

  • 人間活動の影響による地球温暖化が既に起こりつつあることが確認された。(第1次評価報告書では、まだはっきりと評価しきれなかった人為的影響について、より明確な表現をとるとともに、水資源/農産物/生態系/健康/居住等に関する影響についてより詳細な予測を提示した。)
  • 過去100年間に、全球平均地上気温は0.3~0.6℃上昇し、海面は10~25cm上昇した。(第1次評価報告書とほとんど同様の数値)
  • (特段の対策がとられない場合)、21世紀末までに、全球平均地上気温は0.9~3.5℃)の上昇が予測される。(第1次評価報告書では約1~3℃の上昇を予測)
  • (特段の対策がとられない場合)、21世紀末までに、球平均海面水位は15~95cmの上昇が予測される。(第1次評価報告書では35~65cmの上昇を予測)
  • 大気中の温室効果ガス濃度を安定化し、地球温暖化の進行を止めるためには温室効果ガスの排出量を将来的に1990年の排出量を下回るまで削減する必要がある。
  • 省エネルギーなどの経済的な利得を得ながら、かなりの温室効果ガス排出削減が可能となる技術がある。

引用:環境省『IPCC第2次評価報告書(SAR)の概要』

【世界の主要地域別の世界のエネルギー関連 CO2 排出量 (GtC/年)】

※上から

  • 黒:タンカーなどの国際輸送船
  • グレー1:中央計画アジア(ウズベキスタン・カザフスタン・キルギス・タジキスタン・トルクメニスタン)・中国(CPA)
  • グレー2:アジア(CPA、PAOを除く)
  • グレー3:ラテンアメリカ
  • グレー4:サハラ以南のアフリカ
  • 白:中東および北アフリカ
  • ライトブルー1:旧ソ連
  • ライトブルー2:中央および東ヨーロッパ
  • ライトブルー3:パシフィック OECD (PAO)※OECD=欧州経済協力機構
  • ライトブルー4:西ヨーロッパ
  • 青:北アメリカ

ここでも温室効果ガスの排出源の調査・研究や地球温暖化による影響などを中心に報告されています。だんだんと世界中に温室効果ガスや大気汚染物質の観測の重要性が認識され、詳細な観測や影響の調査が行われるようになりました。*4)

TAR:IPCC第3次報告書(2001年)

IPCC第3次報告書「TAR:Third Assessment Report: Climate Change 2001」とも呼ばれます。過去2回の報告書をふまえ、それ以降に得られた地球温暖化問題全般に関する新たな科学的知見を集めて2001年に発表されました。

IPCC第3次報告書(TAR)の主な内容

  • 過去50年間に観測された温暖化のほとんどが人間活動によるものであるという、新たな、かつより強力な証拠が得られた。
  • 過去100年間に、全球平均地上気温は0.6±0.2℃(0.4~0.8℃)上昇(第2次評価報告書では0.3~0.6℃)し、海面は 0.1~0.2m上昇(第2次評価報告書では10~25cm)した。
  • 21世紀末までに、全球平均地上気温は約1.4~5.8℃の上昇が予測される。(35のSRESシナリオによる全予測の範囲の幅であり、6通りあるIS92シナリオに基づいた第2次評価報告書での約0.9~3.5℃の上昇予測を上方修正)
  • 21世紀末までに、全球平均海面水位は0.09~0.88mの上昇が予測される。(この値は、35のSRESシナリオによる全予測の範囲の幅であり、6通りあるIS92シナリオに基づいた第2次評価報告書では15~95cmの上昇を予測)
  • 数々の証拠により、近年の地域的な気温の変化が多くの物理・生物システムに対して影響を及ぼしている高い確信がある。
  • 技術的対策に大きな進展がみられ、緩和対策には大きなポテンシャルがあることが明らかになった。
  • 緩和方策を成功裡に実施するには、さらに多くの技術上や社会経済等の障害を克服する必要があり、総合的な対策の推進が効果的である。

引用:環境省『IPCC第3次評価報告書(TAR)の概要』

SRESシナリオ

Special Report on Emissions Scenariosの略称で、温室効果ガスの様々な排出条件による、それぞれの将来の展望。

【過去140年の地球の地上気温の変動】

【過去1000年の地球の地上気温の変動】

IPCC第3次報告書から、気象庁が日本語訳を作成し発表するようになりました。気候変動への関心が高まってきていることがわかります。*5)

AR4:IPCC第4次報告書(2007年)

IPCC第4次報告書「AR4:Fourth Assessment Report: Climate Change 」とも呼ばれ、2007年11月にスペイン・バレンシアで行われた第27回IPCC総会で採択されました。この報告書から、インターネット上でのIPCC報告書に関して得られる日本語での情報も増え、重要性への認識が一層広まっています。

IPCC第4次報告書(AR4)の主な内容

  • 気候システムの温暖化には疑う余地がない。このことは、 大気や海洋の世界平均温度の上昇、雪氷の広範囲にわたる 融解、世界平均海面水位の上昇が観測されていることから 今や明白である
  • すべての大陸及びほとんどの海洋で、多くの自然システムが地域的な気候変動、 とりわけ気温上昇の影響を受けつつある
  • 世界の温室効果ガスの排出量は、工業化以降、人間活動に より増加しており、1970年から2004年の間に70%増 加した
  • 世界のCO2 、メタン(CH4)及び一酸化二窒素(N2O)の大 気中濃度は、1750 年以降の人間活動の結果、大きく増加 してきており、氷床コアから決定された、工業化以前の何 千年にもわたる期間の値をはるかに超えている。
  • 20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガス濃度の観測された増加によってもたらされた可能性が非常に高い。
  • 適応策と緩和策のどちらも、その一方だけでは全ての気候 変動の影響を防ぐことができないが、両者は互いに補完し あい、気候変動のリスクを大きく低減することが可能であることは、確信度が高い。

【世界の人為起源温室効果ガス排出】

【世界規模・大陸規模の気温変化】

IPCC第4次報告書から、環境省・経済産業省・国土交通省などが日本語でIPCC報告書の内容をこれまでより詳しく公開するようになりました。政府機関をはじめ、社会の環境へのさらなる意識の高まりが伺えます。*6)

AR5:IPCC第5次報告書(2014年)

IPCC第5次報告書は、「AR5:Fifth Assessment Report: Climate Change」とも呼ばれ、2014年11月に発表されました。翌2015年末にはパリでの気候変動枠組条約締約国会議(COP21)を控えた、非常に重要な資料となりました。

7年前の第4次報告書から、科学的にも世界の環境への意識的にも多くの進歩があり、気候変動への理解が進みました。世界規模での気候の観測や、過去の気候をいくつかの記録から数百年から数百万年にまでさかのぼって復元したことから、大気・海洋・雪氷圏※・陸域の地表面の変動性や長期的変化についての展望がわかってきました。

雪氷圏(せっぴょうけん)

海氷・湖氷・河川氷・積雪・氷河・氷冠・氷床・永久凍土を含めた凍土など、水が凍っている地球の表面。

IPCC第5次報告書(AR5)の主な内容

  • 陸域、淡水及び海洋の多くの生物種は、進行中の気候変動に対応して、その生息域、季節的活動、移動パターン、生息数及び生物種の相互作用を変移させている(確信度が高い)
  • 熱波、干ばつ、洪水、低気圧、森林火災といった最近の気候関連の極端現象の影響は、一部の生態系及び多くの人間システムが、現在の気候の変動性に対して深刻な脆弱性を持ち、曝露されていることを明らかにしている(確信度が非常に高い)。
  • 淡水に関連する気候変動のリスクは、温室効果ガス濃度の上昇に伴い著しく増大する(証拠が確実、 見解一致度が高い)。
  • 21世紀中及びその後において予測される気候変動下で、特に生息地の改変、乱獲、汚染及び侵入生物種といった他のストレス要因と気候変動が相互作用する場合には、陸域及び淡水域両方の多くの生物種が、絶滅リスクの増大に直面する(確信度が高い)。
  • 海洋酸性化は、植物プランクトンから動物までの個々の生物種の生理学的、行動学的及び個体数変動 学的な影響に伴い、中程度から高い温室効果ガス排出シナリオ(RCP4.5、6.0及び8.5)において、特に極域の生態系 やサンゴ礁といった海洋生態系に相当のリスクをもたらす(確信度が中程度から高い)。
  • 今世紀半ばまでに、予測される気候変動は主に既存の健康上の問題を悪化させることで人間の健康に 影響を与えるだろう(確信度が非常に高い)。

【IPCC第5次評価報告書の中核となる概念図】

気候関連のリスクは、気候変動の影響による異常気象などの災害が、人間社会・自然システムの脆弱性や暴露(明るみに出ること・さらされること)の相互作用によってもたらされることを表した図です。IPCC第5次報告書では、この気候システム(図の左側)と社会経済プロセス(図の右側)の双方の変化が災害・暴露・脆弱性の根本的な原因という概念に基づいて報告書が作成されています。

図中のガバナンスについて

IPCC報告書ではガバナンスについて「組織や社会に関与するメンバーが主体的に公共性を担う、意思決定、合意形成のシステム。」と解説されています。企業や個人が社会問題解決を意識することの大切さが認識されるようになりました。

【気候変動に原因特定されたここ数十年(2014年ごろまで)の影響の世界分布】

上の図はIPCC第4次報告書以降の研究に基づいて気候変動が原因であることが特定された、第5次報告書までの数十年間に観測された影響の世界分布です。気候変動が原因と特定できる確信度や、観測された影響の内容が記号で細やかに示されています。

【機会の空間及び気候にレジリエントな経路】

こちらは世界のレジリエンス(回復力・適応力・耐久力)に影響を及ぼす多方面からの多重のストレスを生物物理学的・社会的ストレス要因として表現した図です。ストレスの要因には、

  • 気候変動
  • 土地利用の変化
  • 生態系の劣化
  • 貧困と不平等゙文化的要因

なども含まれています。この図は社会全体が将来の地球のためを考えた正しい意思決定を重ねることの大切さを訴えています。*7)

AR6:IPCC第6次報告書(2023年予定)

現在は2030年3月の統合報告書公開予定に向けて、IPCC第6次報告書(AR6:Sixth Assessment Report) の作成が進められています。気象庁が2022年12月に発表した「IPCC第6次報告書 第1作業部会報告書 政策決定者向け要約(SPM)の暫定訳」から、どのような報告書になるか見てみましょう。(暫定であるため、さらなる編集が行われます。)

IPCC第6次報告書(AR6)の主な内容(暫定)

  • 人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏、及び生物圏において、広範かつ急速な変化が現れている。
  • 気候システム全般にわたる最近の変化の規模と、気候システムの多くの側面における現在の状態は、数百年から数千年にわたって前例のないものである。
  • 世界平均気温は、考慮された全ての排出シナリオの下で、少なくとも今世紀半ばまで上昇し続ける。向こう数十年の間に CO2及び他の温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21世紀中に 1.5℃及び 2℃の地球温暖化を超える。
  • 気候システムの多くの変化は、地球温暖化の進行に直接関係して拡大する。これには、極端な高温、海洋熱波、大雨、及びいくつかの地域における農業及び生態学的干ばつの頻度と強度の増加、強い熱帯低気圧の割合の増加、並びに北極域の海氷、積雪及び永久凍土の縮小が含まれる。
  • 自然科学的見地から、人為的な地球温暖化を特定の水準に制限するには、CO2 の累積排出量を制限し、少なくとも正味ゼロの CO2 排出を達成し、他の温室効果ガスの排出も大幅に削減する必要がある。CH4 排出の大幅、迅速、かつ持続的な削減は、エーロゾル※による汚染の減少に伴う昇温効果を抑制し、大気質を改善させるだろう。

引用:気象庁『SPM 政策決定者向け要約 暫定訳』p.4,p.8,p.14,p.15,p.27(2022年12月)

エーロゾル

空気中に浮遊するちりなどの固体や液体の粒子のこと。人間の活動起源または自然起源のガスから生成される硫酸塩・風に巻き上げられた海塩・黄砂粒子・燃焼により放出されるすすなど。

【 5つのシナリオ※におけるCO2(左)及び一部の主要な温室効果ガス(右)の将来の年間排出量】

5つのシナリオ

IPCC第6次報告書は5つのシナリオ(違った条件)によってそれぞれ予想される将来の展望が示されています。この5つのシナリオは、世界の平均気温の変化の幅を5段階に分けて考えたものです。

【5つのシナリオ】

【 5つのシナリオにおける世界平均気温上昇への寄与とCO2排出の支配的な役割】

上の各グラフは5つのシナリオにおける、

  • 世界の平均気温の上昇(左1)
  • 平均気温の上昇に係るCO2が影響する割合(左2)
  • 平均気温の上昇に係るCO2以外の影響の割合(右2)
  • 平均気温の上昇に係るエーロゾルと土地利用変化(右1)

を表しています。

【世界の低GHG排出技術の価格・導入数の推移】

世界の温室効果ガスの排出が少ないエネルギー技術の導入コストは年々下がり、導入数は年々増えていることがわかります。イノベーションとテクノロジーを扱う章は、第6次報告書で初めて設けられました。*8)

GHG

Greenhouse Gasの略称で、温室効果ガスのこと。フロンガス・一酸化二窒素・メタン・CO2など。

IPCCとSDGsの関係

信頼できる科学的根拠としてIPCCの報告書は、2015年9月にSDGs国連サミットで採択されたことを受けて発行された「パリ協定」においても、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち(2℃目標)、1.5℃に抑える努力をする(1.5℃努力目標)」という目標設定につながりました。パリ協定で、この長期的な平均気温の上昇を抑える目標が発表されたのは2015年です。しかし当時「科学的知見は十分でない」として、この目標に関する特別報告書の作成がIPCCに求められました。

こうして2018年にIPCCは「1.5℃特別報告書」を発表し、この目標が地球にとって有効であることを明らかにしました。この「1.5℃特別報告書」では、IPCCの気候変動に関する知見やデータと、SDGs目標との関係性などにも触れています。

【気候変動緩和の選択肢とSDGsの関連性:IPCCオリジナル図】

上の図はIPCCの「1.5℃特別報告書」の中で取り上げられた、「IPCCの報告する気候変動への緩和策とSDGsの各目標との相関関係」を表したものです(上の図)。オリジナルのタイトルは「相乗効果とトレードオフ、および持続可能な開発目標(SDG)の総配分-個々の緩和オプションとの相互作用」ですが、少し日本人には理解しにくいものだったので、環境省が日本人の感覚に合わせた図を作成しています(下の図)。

【気候変動緩和の選択肢とSDGsの関連性:環境省がわかりやすくしたもの】

環境省の作成した図では、IPCCの気候変動への緩和策とSDGs目標の間の関連性を

  • 棒グラフの長さ:関連性の強度(長いほど関連性が強い)
  • 茶色の棒グラフ:トレードオフの関係(色が濃いほど確信度が高い)
  • 緑色の棒グラフ:相乗効果の関係(色が濃いほど確信度が高い)

という方法で表しています。

トレードオフ(trade off)

何かを達成するために別の何かを犠牲にしなければならない関係。

【気候変動がもたらす陸上の環境変化による人間と生態系へのリスク】

各棒グラフは上から紫・赤・黄・白で表され、紫が多いほどリスクが高く危険な状態です。左から

  • 土地の乾燥による水不足
  • 土壌侵食
  • 植生の損失
  • 山火事による被害
  • 永久凍土の劣化
  • 食料供給の不安定性

のリスクを表しています。SDGs目標達成気候変動への緩和・適応の取り組みは密接な関係があります。

また、気候変動の緩和への取り組みも、例えば森林伐採が問題になっている地域では、現地の貧困問題を解決しないと森林伐採の抑制も進まないなど、気候面以外の問題とつながっている例は少なくありません。SDGsの目標は、そのような現実も反映され、設定されているのです。*9)

まとめ:SDGsへの貢献も科学的根拠に基づいた正しい行動を!

【令和元年東日本台風:Hagibis】

はじめの方のIPCC報告書は、一般の人にはわかりにくい記述や表現が多くありましたが、発表の回数が進むにつれて図・グラフ・表などが多く掲載されて解説がされるようになりました。近年のIPCC報告書は興味を持って読む一般人にもずいぶんわかりやすい内容になっています。

特に「政策決定者向けの要約(SPM)」は要点が簡潔にまとめられているため、量的にも読み進めやすいでしょう。また、気象庁・環境省・経済産業省(資源エネルギー庁)などから、それぞれ解説の記事や関連サイトへのリンクが張られた概要の説明がインターネット上で公開されています。

「SDGsの目標達成に貢献したい」と思っている人なら、IPCC報告書の中にはきっと興味の持てる内容がいくつもあります。正しい知識を身につけることはSDGs目標に貢献するための第一歩です。

あなたもぜひ、一度IPCC報告書をインターネット上で開いてみてください。IPCC公式のページには日本語版はありませんが、翻訳機能を使ってオリジナルを読んでみるのもいいでしょう。

きっと、気候変動の対策のために何か行動する力になります。そして、常に新しい情報に目を向けて過ごしましょう。

〈参考・引用文献〉
*1)IPCCとは
環境省『ecojin IPCC』(2021年12月)
国際連合広報センター『世界気象機関』
国際連合広報センター『国連環境計画』
環境省『眞鍋淑郎先生のノーベル物理学賞受賞を受けた山口壯環境大臣談話』
内閣府『ESGの概要』
外務省『SDGsとは?』
経済産業省『企業のための温暖化適応ビジネス入門』p.9(2018年2月)
資源エネルギー庁『気候変動対策を科学的に!「IPCC」ってどんな組織?』(2022年10月)
経済産業省『IPCCについて』
IPCC『Policymaker Summary of the IPCC Special Committee on the 
Participation of Developing Countries 』p.167(1992年)
環境省『気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)第2作業部会(WG2)報告書 参考資料』p.8(2022年2月)
全国地球温暖化防止活動推進センター『温暖化とは?地球温暖化の原因と予測』
United Nations Climate Change『GHG total without LULUCF, in kt CO₂ equivalent』
環境省『令和4年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第1章 地球環境の保全 第1節 地球温暖化対策』(2022年6月)
United Nations Climate Change『Cooperative activities with United Nations entities and other intergovernmental organizations』
環境省『令和4年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第1章 地球環境の保全 第1節 地球温暖化対策』
国土交通省『国土交通白書 2022 第1節 脱炭素化を取り巻く動向』
経済産業省『空気からのCO2分離回収(DAC)技術(DAC:Direct Air Capture)川崎重工業株式会社 技術開発本部 技術研究所』(2022年1月)
環境省『脱炭素ポータル カーボンニュートラルとは』
*2)IPCC報告書の作成プロセス
資源エネルギー庁『気候変動対策を科学的に!「IPCC」ってどんな組織?』(2022年10月)
*3)FRA:IPCC第1次報告書(1990年)
環境省『IPCC第1次報評価告書(FAR)の概要』
IPCC『1992 IPCC Supplement』p.8(1992年)
IPCC『Climate Change The IPCC Response Strategies』(1990年6月)
*4)SAR:IPCC第2次報告書(1995年)
環境省『IPCC第2次評価報告書(SAR)の概要』
IPCC『IPCC Second Assessment Climate Change 1995』p.38(1995年7月)
IPCC『IPCC Second Assessment Climate Change 1995』(1995年12月)
*5)TAR:IPCC第3次報告書(2001年)
環境省『IPCC第3次評価報告書(TAR)の概要』
気象庁『気候変動に関する政府間パネル(IPCC) 第三次評価報告書 第一作業部会報告書 気候変化 2001 科学的根拠 ~政策決定者向けの要約(SPM)~』p.19(2001年)
気象庁『気候変動に関する政府間パネル(IPCC) 第三次評価報告書 第一作業部会報告書 気候変化 2001 科学的根拠 ~政策決定者向けの要約(SPM)~』p.19(2001年)
IPCC『CLIMATE CHANGE 2001 Synthesis Report』(2001年9月)
*6)AR4:IPCC第4次報告書(2007年)
環境省『気候変動2007: 統合報告書 政策決定者向け要約』p.5(2007年11月)
環境省『気候変動2007: 統合報告書 政策決定者向け要約』p.6(2007年11月)
国立環境研究所 地球環境研究センター『IPCC第4次評価報告書のポイントを読む』(2008年6月)
IPCC『Climate Change 2007:Synthesis Report Summary for Policymakers』(2007年11月)
*7)AR5:IPCC第5次報告書(2014年)
環境省『ipcc 気候変動 影響、適応及び脆弱性 政策決定者向け要約 技術要約』p.5(2016年2月)
環境省『ipcc 気候変動 影響、適応及び脆弱性 政策決定者向け要約 技術要約』p.9(2016年2月)
環境省『ipcc 気候変動 影響、適応及び脆弱性 政策決定者向け要約 技術要約』p.32(2016年2月)
気象庁『地球規模の気候変化の予測』
IPCC『Climate Change 2014 Synthesis Report Summary for Policymakers』(2014年)
*8)AR6:IPCC第6次報告書(2023年予定)
気象庁『SPM 政策決定者向け要約 暫定訳』p.4,p.8,p.14,p.15,p.27(2022年12月)
気象庁『エーロゾルについて』
気象庁『SPM 政策決定者向け要約 暫定訳』p.13(2022年12月)
気象庁『SPM 政策決定者向け要約 暫定訳』p.14(2022年12月)
資源エネルギー庁『温暖化は今どうなっている?目標は達成できそう?「IPCC」の最新報告書』(2022年11月)
IPCC『Climate Change 2022 Mitigation of Climate Change』(2022年4月)
*9)IPCCとSDGsの関係・まとめ
IPCC『SPECIAL REPORTGlobal Warming of 1.5 ºC Sustainable Development, Poverty Eradication and Reducing Inequalities Graphics』(2018年10月)
環境省『1.5℃の地球温暖化:気候変動の脅威への世界的な対応の強化、持続可能な開発及び貧困撲滅への努力の文脈における、工業化以前の水準から 1.5℃の地球温暖化による影響及び関連する地球全体での温室効果ガス(GHG)排出経路に関する IPCC 特別報告書 』(2019年8月)
IPCC『 SPM Summary for Policymakers : Climate Change and Land』p.19(2019年)
WIKIMEDIA COMMONS『Hagibis 2019-10-07 0600Z』