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神奈川県足柄上郡松田町 |町民との足並みを揃え、豊かな資源を生かした町づくりを目指す

神奈川県足柄上郡松田町 杉﨑さん インタビュー

杉﨑 竜也

1988年10月1日、神奈川県小田原市生まれ。大学卒業後、2011年4月に神奈川県大井町役場に入庁。税務課や企画財政課の部署を経て、2021年4月に松田町役場に交流職員として派遣され、政策推進課にてSDGsの取り組み推進に関する業務に携わる。

introduction

松田町は、神奈川県の西部・足柄上郡(あしがらかみぐん)に位置しています。

人口は10,613人(2021年12月31日現在)で、町の北部は丹沢大山国定公園・西丹沢山系、中心部には小田急小田原線・JR御殿場線が通っているため、自然豊かでありながら都心へのアクセスも良いのが特徴です。

今回は松田町のSDGs取り組みについて、松田町政策推進課の杉﨑さんにインタビューを行いました。

消滅可能性都市から、森林と町民の命を守る持続可能な町へ

–はじめに、松田町がSDGsへの取り組みを始めたきっかけについて教えてください。

杉﨑さん:

松田町がSDGsを本格的に意識した理由は2つあります。

1つは、町域の76%を占める森林の管理・活用についてです。少子高齢化などに伴い、森林の手入れをできる人が少なくなり、荒れ地と化したエリアがたくさんあります。その影響もあり、2019年に台風19号が襲来した際には、松田町の山間地集落が一部孤立する事態が発生しました。森林に手を入れて守り続けなければ、町民の命が危ないと実感した出来事でした。

–森林の管理は多くの自治体が課題として挙げていますよね。では、もう1つの理由もお願いします。

杉﨑さん:

もう1つは、2013年に「消滅可能性都市」の指摘を受けたことです。2021年時点で松田町の人口は約1万人いますが、特に20〜30代の女性が就職・結婚を機に転出していることが分かっています。若い女性が少なくなると同時に将来生まれる子どもの数も減り、平成2年には0〜4才の人口が約700人いたのに対し、令和3年には400人を切ってしまうほど深刻な状況です。

このままでは2040年までに7,364人まで減少し、いずれ松田町自体がなくなる恐れがあります。そこで、今いる人口をキープする必要がありました。

こうした2つの理由から、2019年にSDGsの理念を各事業に紐づけた第6次総合計画を策定しました。2021年にはSDGs未来都市に選定されています。

–町民の命と暮らし、森を守るために、SDGsへの取り組みを本格化したということですね。

木質バイオマスエネルギーで森林資源を活用

松田町で使用している木質バイオマスボイラー

–では、1つずつ詳しくお話を伺いたいと思います。まず森林の管理について、現在進めている取り組みを教えてください。

杉﨑さん:

現在、持続可能な森林管理を目指して、定期的な間伐を実施しています。

森林は、木がたくさん生えていればいいというわけではありません。樹木の密度が高すぎると地面に雑草が生えなくなってしまい、地表が緩んで土砂崩れにつながる恐れがあります。

また、森林と人の住まいとの境目がわかりにくい箇所も増えている影響で、近年は鹿や猪といった森に住む生き物が人里まで降りてきてしまうことで、農業への被害が見られます。ここ数日は猿の目撃報告が絶えません。

こうした問題を解決するためには、森林の適切な間伐が不可欠なんです。

–計画的に間伐することが災害を防ぐんですね。

杉﨑さん:

そしてその過程で発生した間伐材を活用し、木質バイオマスエネルギーの整備を進めています。

木質バイオマスエネルギーとは

「バイオマス」とは、生物資源(bio)の量(mass)を表し、一般に「再生可能な、生物由来の有機性資源(化石燃料は除く)」のことを指します。そのなかで、木材からなるバイオマスのことを「木質バイオマス」と呼びます。つまり、この木質バイオマスから生み出したエネルギーを指します。

林野庁「木質バイオマスエネルギー編」

–木質バイオマスエネルギーは主にどういったところで利用しているのでしょうか。

杉﨑さん:

初めに、町の中でも特にエネルギー消費量の多い健康福祉センター内の温浴施設に導入しました。以前は温水供給に灯油を燃やしていましたが、より環境に優しく、かつ松田町の森林資源を利用できるため持続可能と判断し、2020年度に木質バイオマスボイラーを導入しています。

–きちんと間伐を行い森林の手入れを続けるためにも、燃料として資源を効率よく利用しようという取り組みなのですね。今後さらに展開する予定はありますか?

杉﨑さん:

今は温浴施設のみですが、今後は町内外での受け入れ先を増やしていく予定です。町内の雇用創出の意味も込めて、木を切り出す人や搬出する人など地域の方が参加できる仕組みをつくるといったように、より効率よく持続可能な取り組みにするための体制づくりを進めています。

パートナーシップで、町民と一緒に取り組む

–続いては、2つ目の人口をキープするための取り組みについて教えてください。

杉﨑さん:

人口をキープするためには、皆さんが住みたいと思えるまちづくりを進めていかなければなりません。そのため、町民の方々と一緒に松田町の活性化を目指した取り組みを展開しています。

–具体的に進めている取り組みを教えてください。

杉﨑さん:

さまざまな事業を行なっていますが、その中から3つほどお伝えしますね。まず1つ目が「SDGs仲間」です。

松田町では、SDGsの目標を達成するために「協働のまちづくり」を推進しています。大切なステークホルダーでもある町民の皆さんには、さまざまな立場からSDGsの取り組みに参加してもらい、持続可能な松田町を実現させたいと考えています。

とはいえ、職員もまだまだSDGsについて知らないことが多いのも現状です。そこで一緒に学びを深め、行動に移せるよう「SDGs仲間」の募集を行ったところ、4名の町民が手を挙げてくれました。

–応募した皆さんは、どのような動機で集まってくれたのでしょうか。

杉﨑さん:

皆さん純粋に「SDGsを学びたい」「横のつながりを持ちたい」「松田町をもっとよくしたい!」という思いから応募してくれたようです。中にはすでにボランティア団体に所属してゴミ拾いの活動をされている方もいました。このコミュニティを拠点として、新たな仲間や繋がりを作るきっかけになれば嬉しいです。

–職員と町民が一緒になって勉強をすれば距離も近くなりますし、さまざまな視点からSDGsのアイディアが生まれそうな予感です。具体的にどのような活動をされているのでしょうか。

杉﨑さん:

まだ始めたばかりですが、10月26日にはSDGsセミナーを開催し、町職員や町議員、SDGs仲間の皆さまとで基礎知識から学んでいます。年明けには規模を拡大し、町内の商工会に所属する企業を中心に、どのような取り組みをできるか伝えるためのセミナーを開催予定です。企業に伝われば従業員ご本人はもちろん、その家族や子どもにも伝わるはず。こうした循環を通して、着実にSDGsの認知度や取り組みを広げていければと考えています。

–身近な人や場所から興味を持ってもらえば、行動に移しやすくなりますね。こうした草の根運動のような取り組みこそが、SDGs17「パートナーシップで目標を達成しよう」に繋がりそうです。

松田町の恵みを楽しめる!ブランド認定品

<松田ブランド認定の一例>

杉﨑さん:

2つ目に、地域資源を生かした資源の活用と文化継承を目的に「松田ブランド認定」を行っています。松田町には美味しい食べ物がたくさんあるので、町内外の人たちにもっと知ってもらい、町の良さをアピールして経済を活性化させる狙いもあります。

–どのような商品があるのか教えてください。

杉﨑さん:

肉類だと、町内の精肉店・有限会社石川商店さんが作っている豚ロースの味噌漬け「とん漬」や、寄七つ星ドッグラン&カフェによるジビエ肉のドッグフード「やどりき森のおにく」が挙げられます。魚の場合は、町内にある寄清流マス釣り場で養殖された「さくら鱒」の燻製。農産物であれば、みかんジュースや丹沢のお茶が有名です。最近の申請・認定傾向としては、未活用資源の活用や地域課題の解決を目指した商品など、ストーリー性のある商品が多い状況です。

ジビエ肉のドッグフード「やどりき森のおにく」

–ジビエ肉を商品化すれば、町で増えてしまった鹿による農業被害の課題解決にもなりますね。町民の皆さんにとってはどれも親しみのある食べ物だと思いますが、町外の方へのPRはどのように行っているのでしょうか?

杉﨑さん:

自治体が協力する事業としては、ふるさと納税の返礼品の選定やSNSを通じた販売促進PRを行い、町外の皆さんにも手に取ってもらえるようにしています。あとは、近年人気が高まっている農泊プログラムに、松田町の生産品を盛り込む例も挙げられます。観光業を促進するためにも、ブランド品の認定を行い、地域資源の価値を高める取り組みを積極的に進めています。

教育面でのSDGs取り組み

3つ目が教育面での取り組みです。

松田町がSDGs未来都市に選定された後、町長が松田中学校へ行き、SDGsの説明や各ゴールに対する町の取り組みを話す機会がありました。

ここで面白かったのは、すでに子ども達がSDGsについてよく知っており、鋭い質問が飛んできたことです(笑)。実は松田町がSDGs未来都市に選定される前から、すでに学校では授業に取り入れていました。

–教育現場では、早くから子どもたちがSDGsを学ぶ機会を提供されていたのですね。

杉﨑さん:

学校以外では、子どもの居場所づくりを目的に設立された「寺子屋まつだ」や高学年を対象とした「ジュニアリーダースクール」があります。ここでは小学1年生から中学生までを対象に、英会話やボルダリングを始めとした講座を展開するほか、地域での世代を超えた交流の場になっています。

–そこでも、SDGsに関する教育をしているのでしょうか。

杉﨑さん:

子どもたちが主体となってSDGsの各項目を調査し、その内容をまとめて「SDGs新聞」を作ったり、かるたの制作も行ったりしました。学校で学んだことだけでなく自分たちでSDGsについて調べ、さらに学びを深めているようです。

SDGs新聞

また、子どもたちが学んだことを実践に移すべく、2021年11月には初めての「SDGs朝市」を実施しました。

–それはどのような内容だったのでしょうか?

杉﨑さん:

地域で採れた新鮮な野菜や果物のほか、図書館のリサイクル書籍を持ち帰れるようにしたり、役場の環境上下水道課によるエコクッキングや段ボールコンポストなどの紹介を実施したりと、さまざまな面でSDGsを意識してもらえるような工夫をしました。買い物の際はエコバッグの持参をお願いし、ゴミの削減にも配慮しています。

また、子どもだけでなく大人も学べる内容にしており、町民のみなさんが誰でも実践しやすいアクションを取り入れ、個人レベルで気軽にSDGsを実践できるようなイベントになりました。

第1回SDGs朝市の様子

COOL CHOICEで、SDGsを自分ごとにする

–ここまで伺った事例から、町民の皆さんがとてもSDGsに積極的な印象を受けました。こうした背景には、松田町がSDGs未来都市に選定される以前からの取り組みがあったのだと思いますが、何が考えられますか?

杉﨑さん:

COOL CHOICEだと思います。

COOL CHOICEとは

2015年6月、安倍首相が国民運動として始めることを表明した地球温暖化対策推進本部を中心に「次世代の暮らし方」として選定した地球温暖化を防止するためのアイデアや行動を推進する国民運動の名称である。

コトバンク

松田町でも2016年から本格的に取り組みをスタートさせています。

–例えばどういった選択を提案しているのでしょう。

杉﨑さん:

家電を買い換える際はより環境に配慮した製品を選びましょう、とか、エレベーターに乗らず階段を使いましょう、のような、町民の暮らしに身近な場面で、よりエコな選択をお願いしています。元々は地球温暖化への対策として始めたのですが、SDGs13「気候変動に具体的な対策を」につながる形となりました。

–普段の暮らしで、町民の皆さんがより環境に配慮した選択を意識的に行えるようになれば、温暖化対策として大きな効果がありそうですね。

「協働のまちづくり」で、持続可能な松田町を目指す

–最後に、松田町の今後の展望を教えてください。

杉﨑さん:

松田町では、先ほどもご紹介したように「協働のまちづくり」をテーマにしています。町民の皆さんと立場を超えて、SDGsへの取り組みを展開していきたいと考えています。

現段階では、その仕組みづくりを模索しているところですが、今後はパートナー制度を通して、自分ができること・困っていることを集めてマッチング事業も始めたいと考えています。誰でも参加できるプラットフォームを構築し、地域の課題解決・活性化を通じて松田町の魅力発信をしていきたいです。

もう1つは、「チルドレンファースト」。つまり子ども目線aのまちづくりも進めています。今松田町に住んでいる子ども達が、将来の進学や就職で一度外を出てもまた戻って来たくなるような、魅力あるまちづくりを進めていきたいです。

–本日は貴重なお話をありがとうございました。

インタビュー動画

関連リンク

>>松田町ホームページ

>>松田町SDGs未来都市計画