
山口 悠希
株式会社UPDATER 事業本部 パワーイノベーション部 /1998年生まれ、大阪府出身。関西学院大学国際学部を卒業。ひとりでも多く、環境問題へ楽しくアクションを起こせるきっかけづくりを目指し、2021年4月にみんな電力(現 UPDATER)へ新卒入社。現在は「顔の見える電力」の主役である、電気の生産者さんから電力を調達し、発電所の魅力発信に取り組む。
introduction
再生可能エネルギーの電力小売事業などを行っている「みんな電力(株式会社UPDATER)」の山口さんにインタビューしました。
「顔の見える電力™」を掲げるみんな電力のユニークな取り組みは、近年メディアからも注目を集めています。
私たちが生きる上で欠かせない電気。環境負荷が少ない選択をするだけではなく、電気を買うことで人の温かみを感じられる取り組みです。
みんな電力の掲げる「顔の見えるライフスタイル」とはどういったものか。電力だけに留まらない、社会課題を解決する仕組みについて伺いました。
みんな電力の事業内容
2011年、再生可能エネルギー(以下、再エネ)を取り扱う会社として創業したみんな電力。電力小売事業、再エネ発電所の開発・販売・メンテナンス、地域新電力コンサルティング事業などを行っています。
電力の生産者が分かり、そのストーリーを感じることができる「顔の見える電力」を個人・法人に提供。電力調達には、環境破壊につながる開発行為を行っていないこと、地域住民との合意形成が取れていることなど独自の基準を設けています。さらには環境や人への配慮をし、想いを持った電気の生産者と契約しています。
電力の供給に留まらず、「顔の見える化」によってあらゆる社会課題を解決していきたい、世の中をより良くアップデートしていきたいという想いもあり、2021年10月に「株式会社UPDATER(アップデーター)」に社名変更しました。
SDGsアワード受賞

みんな電力は、2020年12月に第4回ジャパンSDGsアワードでSDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞を受賞しました。再生可能エネルギー比率の高さや、発電者の顔やストーリーをwebサイトなどで積極的に開示している「顔の見える電力™」などの取り組みが評価された結果です。
みんな電力創業のきっかけ
–本日はよろしくお願いします。まずは創業のきっかけを教えてください。
山口さん:
社長が地下鉄に乗っていた時の経験がきっかけです。
社長はその日、タイミングが悪いことに携帯の充電が切れそうになっていたそうです。その時、目の前に座っていた女性がポータブルのソーラーパネルがついたキーホルダーを持っていて、「この人から電気を買いたい」と思ったことが、事業のヒントになりました。
「人から電気を買う」という仕組みがおもしろいんじゃないか。しかも、買う人を選べたらさらに良い。電気って誰がどこでどうやって作っているのか見えませんよね。だから、みんな電力で、電気の生産者を見える化する仕組みを作ろうと思ったんです。
みんな電力では、どんな人がどんな想いを持って電力を供給しているかをお客様に紹介しています。今までは見えなかった電力の生産者を「見える化」したんです。
再生可能エネルギーの販売


–現在、みんな電力さんと契約している発電所は全国に600か所あるそうですね。
山口さん:
はい。2012年に制定されたFIT制度もあり、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の発電所は増えていると感じます。また、みんな電力の考えに共感いただく電気の生産者さんも、ありがたいことに増えてきていますね。
電気料金の中から100円を好きな生産者に届けられる「応援」の仕組み
–生産者を「見える化」したみんな電力さんですが、おもしろい取り組みをされているそうですね。
山口さん:
電気料金の中から100円を好きな生産者に届けられる「応援」という仕組みがあります。webサイトで、各電力生産者さんの写真やメッセージを掲載しており、お客様はその中から自分で好きな生産者さんが選べるようになっています。
生産者の想いや取り組みを応援できて、それが次の発電所を作る資金にもなり、再エネの普及にもつながると考えています。
–応援すると返礼品などの特典があるんですよね。
山口さん:
はい。特典としてみかんジュースやお米など地域の特産品をもらえたり、発電所の見学や収穫祭などのイベントへの招待もあります。生産者からも「消費者の顔がわかって話せるのがうれしい」と感想をいただいています。


–普通、電気の売買でお互いの顔が見えることはないですよね。これこそみんな電力さんが掲げる「顔の見える」事業ですね。
山口さん:
毎日使う電気の作り手とつながりを生むことで、再エネを使うだけではなく、いつも使っている「コンセントの向こう側」を考えるきっかけになればと思います。
「電気を選ぶ」価値観が広がっている
–再エネを販売する上で大変だったことはありますか?
山口さん:
以前は「電気を選ぶ」価値観自体が消費者にはありませんでした。電気は色もないし、見えないので、「自分で電気を選ぶ」という考えになりにくいんです。また、「電気は安ければ安い方がいい」「ガスとセットで選べる便利な方がいい」と考える方も多く、サービス開始当時はなかなか広がらず大変だったそうです。
–それがどうやって変化していったんでしょうか?
山口さん:
気候変動への関心の高まりや菅元首相の「脱炭素宣言」がきっかけで、個人のお客様の意識が変わってきたこともありますが、「電気を選ぶ」という価値観に共感してもらえるようになってきたことも大きいのかなと。メディアの取材なども増えてきて、少しずつ社会に浸透してきたように思います。
–売上にも効果は出たのでしょうか?
山口さん:
はい。最近は法人企業様からの問い合わせが増えています。これからの社会では、脱炭素が不可欠という意識が企業全体に広まっているように感じます。ESG投資も広まっていますし、環境や社会に配慮することで企業価値を高める社会になりつつあるのかなと。
家庭向け電力販売の新規申込も、2020年度は前年度の3倍になりました。これまでの安ければいいという考えから、自分のお金がどこに支払われているのか、石炭火力なのか再エネなのかを考える方が増えているのを感じますね。
関心のない層にどうやってアプローチするか?
–これは電力だけではなく、多くの環境問題や社会課題に当てはまることだと思うのですが、関心のない層にアプローチするのが課題だと思います。みんな電力さんでは、どう対策しているのでしょうか?
山口さん:
そこは我が社も課題だと感じています。関心のない層に違う切り口で何かできないかと、いつも探していますね。
アーティスト電力
再エネに関心のない層へのアプローチの一つに「アーティスト電力」があります。たとえば、クリエイターで作家のいとうせいこうさんの発電所が福島県にあって「せいこうさんが発電した電気を購入できる」というものです。電気を通じてアーティストとファンがつながれる仕組みなんです。

この電力を買った消費者は、限定ライブに参加したり、特典を受け取ったりすることもできるんですよ。
–せいこうさんのファンだったら、再エネに興味はなくても買いたい!と思うわけですね。
横浜の動くガンダム
山口さん:
他にも、横浜市にある全高18メートルの実物大「動くガンダム」でも再エネが使われています。横浜市風力発電所(ハマウィング)の電気をブロックチェーンの技術で供給の紐づけをして、横浜のガンダムが再エネで動くという仕組みで、バンダイナムコグループさんと協力して実現しました。
–アーティスト電力もガンダムも、エンターテイメントの力で再エネに関心のない層も取り込んでいけるんですね!
SDGsとの関係
–みんな電力さんの取り組みと、SDGsが重なる部分を教えてください。
山口さん:
再エネを販売し広めることは、二酸化炭素の排出量を減らし、限りある資源の化石燃料を使うことを避けられます。そのため、目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、目標12「つくる責任つかう責任」、目標13「気候変動に具体的な対策を」に貢献できていると考えます。化石燃料に依存せず、再エネを使うことで持続可能な社会の実現を目指しています。
再エネの販売が貧困をなくすことに貢献
そして、再エネを取り扱うことは、目標1「貧困をなくそう」にも貢献しています。
–え?電気と貧困ってどう関係あるんですか?
山口さん:
かつて電気は地域の大手電力会社しか取り扱えませんでした。でも自由化され、みんなが自由に電気を作って、みんなが好きな電力を選んで買える時代です。そうすれば独占されていた富が分配されるので、貧困や格差解消につながると考えています。創業当初からこの想いがあるんです。
–なるほど。「電気と貧困」は一見全く関係ないように思えますが、確かに格差解消につながりますね!
今後は電気以外も「顔の見えるライフスタイル」を
–みんな電力さんの今後の展望を教えてください。
山口さん:
今後は電力だけではなく、もっといろんなものに「顔の見えるライフスタイル」を広げていきたいと考えています。その一つに「空気を見える化」した「みんなエアー」という取り組みがあります。空気質をモニタリングし、適切な換気を促したり、対策機器を置いた方がいいなどの改善案を提案するんです。これは感染症の対策にもつながります。

たとえば2つカフェがあったとして、空気の数値が見えて空気環境が改善されていたら、コーヒー一杯の値段が高くても空気がいい店を選びたい。そんな価値観ってどうですか?と提案しています。
–電力も空気も自分で選べるなんて、おもしろい発想ですね。
山口さん:
現代は生産過程の背景が見えないものが多いですよね。食べるものも着るものも、自分の身のまわりにあるものがどこでどんな人が作っているのか見えづらい社会です。もしかしたら、安いものの裏には労働条件が悪い中で働いている人がいるかもしれない、生産過程で環境負荷がかかっているかもしれない。
顔の見える化によって社会課題が解決できるんじゃないかと思うんです。よりよい方向に世界をアップデートさせられるよう、これからも社会と向き合って事業を展開させていきたいと思っています。
–本日はありがとうございました。
インタビュー動画
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