#インタビュー

株式会社折兼|バガス製品から分かる「日常の当たり前を見直す」大切さ

株式会社折兼 服部さん インタビュー

服部 貞典

2022年7月より新たに発足した広報・SDGs課 課長。
メディアに対する広報関係の業務の他、SDGsキャンプや地域学校の子供たちに対するSDGsの啓発活動にも力を入れています。

introduction

お弁当や惣菜、肉や魚などの生鮮食品。私たちは当たり前のように、プラスチックで包装された食品を購入しています。一方で、世界的には脱プラスチックが叫ばれており、さまざまな問題提起がされています。プラスチックに対するネガティブなイメージは拭えません。株式会社折兼の服部さんは、「現状を正しく知ることが大切である」と考えています。

同社が扱う100%植物由来のバガス(非木材紙)製品を通して、日常の当たり前を考え直すきっかけになるかもしれません。

釣りをしていたら最初に釣れたのはビニール袋だった

–事業内容について教えてください。

服部さん:

私たち株式会社折兼は、スーパーマーケットや飲食チェーンさんに、肉や魚などの生鮮食品を入れるトレーやラップ・フィルムなどを、食品工場さんへは、フイルムなどの軟包装と呼ばれる製品を販売しております。

食品に関わる製品ということもあり、衛生面を非常に注意されているお客様も多いです。包装容器のほかに、HACCP認証の衛生資材も提供しております。例えば、マスクや消毒アルコール剤、使い捨ての手袋などですね。

–SDGsに力を入れた経緯は何でしょうか。

服部さん:

二酸化炭素の排出による温暖化やマイクロプラスチックの問題などが重なったという経緯はあるのですが、社長のある出来事がきっかけですね。

釣り好きの社長が、瀬戸内海の方に釣りに行った時のことです。陸から船を出して船釣りに気合を入れて行ったものの、いざ釣り始めたら1番最初に釣れたのはレジ袋でした。

「これはいけないな」と衝撃を受けたようです。そこからトップの意識が完全に固まって、環境に配慮した製品を作る必要性を強く感じたと聞いています。

バガスシリーズからエコと利便性について考えてみる

–そこからどんな製品を開発されたのでしょうか。

服部さん:

釣りに関していうと、関西の釣具チェーンさんと共同開発した「バガスパック」という製品があります。この製品は、原材料が100%植物由来なので、仮に海に流されても微生物の力で分解されるのです。

釣り場に行くとよく見るのですが、やっぱり釣り餌のパックが浮いていたりするんですよね。故意に捨てられているわけではなく、容器が薄くて軽い透明のフードパックなので、中身が少なくなるほど軽くなり、風で飛ばされてしまうんですよ。

従来の製品を使い続けていると周辺にゴミが増え、自由な立ち入りが制限されることもあります。結果として釣り場が減ってしまいますし、何より、海洋プラスチックの問題にも直結します。

–バガス製品について詳しくお聞かせいただけますか。

服部さん:

約3年くらい前から、バガスシリーズの開発に取り組んでいます。

バガスの原材料はサトウキビの搾りかすや竹、麦などで、本来捨てられる材料を再利用しているのが特徴です。

きっかけは、出張に行く弊社の営業マンや開発者たちが、中国や欧米でバガス素材が流通していることを知り、まずは欧米で流通している商品を仕入れて販売したのが始まりです。ただ、欧米で流通しているパッケージは現地に合わせて作られています。アメリカではフライドポテトやハンバーガーが入るのに適した大きさで底が深いタイプが多く、一般的な日本人が食べるよりも多くの量が入る容器でした。

また日本では、お米を食べる文化やお弁当を作る習慣がありますよね。パッケージにお米がくっつかないように加工したり、おかずが2〜4品分けて入れられるような容器もアレンジしたりして、バリエーションを増やしていきました。

現在では色違いやサイズ違いの展開も含めて125種類以上のシリーズを展開しております。

従来のプラスチック製品との違いは、プラスチックだと嵌合性(入れ物と蓋がカチッとはまる状態)がありますのでお弁当やお惣菜の汁漏れを防ぐことができます。仮に落としてしまったり、蓋の部分だけ持ち上げたりしても中身が漏れるのを防ぎます。しかし、バガス素材だと嵌合性がそれほど強くありません。

製造コストに関しては、大きいものはあまり変わりませんが、小さいサイズになってくると1.2倍から1.5倍ほどバガス製品の方が高くなりますね。

また、プラスチックだと色や柄を入れてデザインすることができますが、バガスではできません。逆に、ナチュラルな風合いを出すことができるのはバガスの特徴かもしれませんね。

プラスチック製だと透明な蓋をつけられますが、バガスは非木材のパルプなので、本体も蓋も同じ材料で作ると中身が見えなくなってしまいます。

中身が見えないという弱点を解消する1つの方法として「かけ紙」を使っています。容器をくるむように紙でまくのですが、料理のイメージ画像やイラストを入れられるようにしています。

そうすることで、高級感とエコ、可愛らしさのようなものを同時に表現することができます。

スーパーやコンビニの食品をはじめとして、日常生活のありとあらゆるところで包装資材が使われています。たくさんの製品が流通していて、それが当たり前になっています。

私たちは、現在もプラスチック製品を相当量販売させていただいています。それは、先ほどの機能面のようにプラスチックにもメリットがあるからなんですよね。

近年、世界中である意味「プラスチック=悪」のような印象を持たれているのはご存知の通りです。ですが、代替製品のバガスにもデメリットがあるわけですよね。ゼロかイチで判断するのではなく、選択肢の幅というのを理解していただく必要があるのかなと感じています。

それが、弊社のESD(持続可能な教育)への取り組みにもつながっていますね。

ESDを通じてプラスチックを正しく理解してもらう

–ESDに力を入れた経緯についてお伺いしてもよろしいでしょうか。また、どのような活動を行っているかも教えてください。

服部さん:

「持続可能な社会を実際に作っていくのは誰だろう」と考えた時に、やはり今の子どもたちが大人になった時に実現できるようにしなければならないと考えました。

子どもたちの身近に当たり前のようにあるプラスチック製品ですが、とある調査では、日本のゴミの排出量の約40%が包装資材で占められているという試算もあります。

レジ袋の有料化や、プラスチック循環促進法により、カトラリーを減らすという動きが起きて久しいですが、プラスチックが最も使われている包装資材という根本的な部分で、なかなか手が打てていない状況です。

子どもたちは、プラスチックの問題について学校では教えられていても、このような現状に対する関心はあまり高くありません。また、プラスチックの素晴らしさに至っては全く認知されていないと感じました。

そこで、当たり前にあるパッケージをもう一度見つめ直していただきたいという思いからさまざまな取り組みを行っております。

例えば小学校から高校まで、弊社の社員が出向いて課外授業を行っています。トレイやパッケージの裏側を見てもらいながら、どのようにして包装資材が作られているのかを伝えています。

外見では区別がつかない石油由来のパッケージと植物由来のパッケージを見せて、違いを考えてみたり、プラと紙が混ざった材質や石灰石とプラが混ざった材質など、世の中にはいろんな種類のプラスチックがあるということもお話しさせていただいています。

授業の最後には、子どもたちに「活動を通して身近なものに関心をもち、自分でアクションできるようになってほしい」とお伝えしています。

そのほかには、愛知県のスポーツ振興財団が主催しているSDGsキャンプにも協力しています。

SDGsキャンプにはどのように関わっているのですか。

服部さん:

カトラリーの提供と、子どもたちの活動の1つとして実験を行っています。

2022年5月8日に行われた「学び、実践しようSDGs!春の自然体感キャンプ」には、愛知県内各地から子どもたちが参加しました。やはり、SDGsキャンプと打ち出している分、SDGsへの意識の高い子どもたちが多いようでした。

キャンプの中で、弊社は「バガスチャレンジ」というものを企画し、子どもたちと一緒にバガスを自然分解する実験を行っています。

バガス製品は元々、北九州市立大学との共同開発した製品です。竹とサトウキビ由来のバガスでできた製品なので、落ち葉と同じように分解します。

共同研究では、バガスを土に埋めたらどれくらいの期間で分解するのかを実験しました。すると、76日で分解することがわかりました。

そこから、本当に分解するのかやってみようと考えました。せっかくなので「バガスチャレンジ」という名前をつけて、文字通り気軽にチャレンジして、子どもたちの夏休みの自由研究でも使ってもらえたらというところからこの企画が始まっています。

キャンプは全部で3回あります。

1回目は、自分たちで穴を掘って、キャンプで使った食器(バガス製品)をその穴の中に埋めます。

1カ月半後の2回目のキャンプでは、本当に分解しているかどうかを掘り返して確かめます。すると、全部分解しているわけではないけれど、形がしっかりしていたピザの容器が明らかに原型をとどめておらず、黒っぽく変色している様子が分かります。

そして3回目に分解された様子を確かめます。

このキャンプでの企画だけでなく、学校で課外授業をさせていただいた後に、希望される学校にはスプーンやフォークなどのカトラリーを送っています。子どもたちが持ち帰って家の庭や植木鉢に埋めたら、本当に分解したという声も今年は結構いただいております。

キャンプに参加された子どもたちはどんな様子でしたか。

服部さん:

参加される前は多分、容器自体が分解される概念なんて全くないと思うんですよ。分解というよりは「処分=燃やす」しかないという想像の中で「これが溶けちゃうんだよ」と話すと「えー?」となるわけですよね。

1ヶ月半後に掘り返すことで、容器がボロボロになっていて、明らかに分解が進んでいることが分かります。しかも、掘り返したところからミミズや虫の幼虫が出てきて、自然の力で分解されていることを目の当たりにして、子どもたちがすごくびっくりしていたのが印象的でした。

また、私たちも3回目で新たに分かったことがあります。今回は3カ所の土に埋めたのですが、赤っぽい土に埋めると分解があまり進みませんでした。

それに対して、黒っぽいふさふさした土の方では、微生物の量が多かったのか、ほぼ分解されていました。土によって分解のスピードが違うという、当社としても新たな知見を深めることができました。

ゴミの捨て方や取り扱いについて、責任を持って正しく処理する

–今後の展望について教えていただけますか。

服部さん:

これまでの取り組みに加え、SDGsやCO2排出削減のようなイベントを提案できないかと検討しています。

具体的には、フードサイクリングを取り入れたイベントです。

イベントで出たゴミというのは産業廃棄物となり一括で処分されます。すると、当然CO2が排出されますよね。

そこを、イベントの企画段階からゴミの分別をしてもらう前提で計画を立てます。例えば、テイクアウトで使用されるカトラリーに関しては全てバガスを使用していただき、残飯とバガスは燃えるゴミとして分別、缶やペットボトルも分別します。

そのうち、バガスと残飯は別回収をして堆肥化させて肥料にする。そしてその肥料を使ってイベント内でまた作物を育てて、その作物を使った料理を提供するというような取り組みです。

また、現在キャンプ場でもゴミの問題が起きているようです。キャンプ場にも堆肥場のような場所があれば、そこにバガス製品と残飯などの生ごみを埋めることで、2、3カ月で肥料になります。その肥料を使ってキャンプ場でも作物を育てることができます。

ESDについては、子どもたちにもっと楽しく学んでいただきたいという思いがあります。

幣社で商標をとっている「エコバガス」というマークのついた紙があります。この紙を使ったクラフトワークを、今後小学校でも行っていく予定です。

このエコバガス紙は、自分たちの好きな絵を描いて切り取って組み立てると貯金箱になるように設計されています。そうやって楽しみながら、身の回りの製品の材質にも興味を持っていただけるような取り組みをしていきたいですね。

プラスチック=悪というイメージがありますが、やはり優れた材質に違いはありませんから、今後しばらくなくなることはないと思います。

ただ、捨て方や取り扱いの仕方について、責任を持って正しく処理するということを子どもたちにしっかり伝えていきたいですね。

–今後の取り組みが楽しみです。貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

株式会社折兼HP:https://www.orikane.co.jp/