株式会社PETOKOTO 井島 七海さん インタビュー
井島 七海
1994年東京都生まれ。株式会社PETOKOTO 執行役員兼OMUSUBI事業責任者。2018年1月新卒第1号でPETOKOTOへ入社し、保護犬・保護猫マッチングサービス展開からメディア・ペットフード事業開発・CS・営業に従事。2019年にはOMUSUBIを審査制マッチングサイト日本一の規模へ成長推進し、同年5月に執行役員に就任。現在はミッションである「ペットを家族として愛せる世界へ」の実現を目指し、事業横断のマーケティング戦略・推進を担当。動物好きが高じてアフリカを陸路テント泊で9カ国縦断。
introduction
株式会社PETOKOTO(以下「ペトコト」)は「ペットを家族として愛せる世界へ」をミッションとし、ペットライフの全てに関わることで、飼い主とペットの支援を目指すスタートアップ企業です。
フレッシュペットフードの提供や保護犬・猫の譲渡の推進を目的としたマッチングサイトなどに取り組む同社は、2022年に次世代の起業家が集うスタートアップカンファレンスのピッチイベント「IVS2022 LAUNCHPAD NAHA」にて、250社の頂点に立ちました。
今回は、執行役員兼OMUSUBI事業責任者の井島七海さんにペット業界の課題や事業内容、事業にかける思いなどについてお伺いしました。
ミッションは「ペットを家族として愛せる世界へ」。ペットウェルネスブランドを目指して
–まずはじめにペトコトのご紹介をお願いいたします。
井島さん:
ペトコトは「ペットを家族として愛せる世界へ」をミッションとし、ペットを迎える場面から、一緒に暮らし、いつかくるお別れまで、ペットと飼い主さまに寄り添えるペットウェルネスブランドを目指すスタートアップ企業です。
2015年3月に創業し、現在約30人のメンバーと共に事業を展開しています。
現在の主な事業内容は、出会いの場として審査制の保護犬・猫のマッチングサイト「OMUSUBI」、ペットを迎えた方の支えとなる情報を発信する「ペトコト メディア」、ペットの安心・安全なごはんとしてフレッシュペットフードサービスの「ペトコトフーズ」の3つです。
ペトコトのロゴマークは、二足歩行の人間と四足歩行の動物の足跡がモチーフで、「人が動物と同じ方向を見られる社会にしたい」という思いが込められています。
また、コーポレートカラーのオレンジはペトコト・オレンジと呼び、「命と向き合う」「ペットは家族と同じ温かい存在」という暖かさを表現しました。オレンジを中心に、多様性を表現したサブカラーの設定もしています。
–次に御社の事業内容をお聞かせください。「ペトコト メディア」はどのような事業でしょうか。
井島さん:
「ペトコト メディア」は、犬猫の飼い主さまに向けたペットライフメディアです。獣医師やドッグトレーナーなど、ペットの専門家が監修、執筆している3,000本ほどのコンテンツを有し、多くのユーザーに利用していただいています(約120万MAU:2023年10月現在)。
「飼い主さまの困りごと」や「ペットの健康問題」などの疑問に答え、問題解決になるようなコンテンツを中心に、旅行やお出かけの提案といった、ライフスタイルに寄り添えるようなコンテンツも揃えています。
インターネット上にはたくさんのペット情報が溢れていますが、誤った情報も多くあります。その中で、ペットと暮らしている方々にとって「どれだけ新鮮で正しい情報が手に入るか」ということが非常に重要なのでは?と考え、事業を立ち上げました。
3,000本以上のコンテンツの新鮮さ、正確さを常に維持するのは大変ですが、意義のある事業だと思っているので、引き続き実施していきたいと思います。
–次に「OMUSUBI」の事業内容をお聞かせいただけますか。
井島さん:
「OMUSUBI」は、 2016年11月に開始したサービスで、保護犬・猫をペットとして迎えたい方と保護団体のマッチングサイトです。
弊社の審査を通過した保護団体の情報のみが掲載されており、応募者にとって安心できる仕組みとなっています。これまでの「信用できる犬猫保護団体が分かりづらい」という課題を解決するサービスです。
審査については、保護団体の活動形態、コミュニケーションでのスタンス、SNSでの発信内容、信用情報などを含めた情報で判断しています。
現在約280の保護団体が約2,000件の犬猫の応募掲載をしており、登録会員数は7万人にのぼります。
自分たちの希望にマッチするペットを検索できる絞り込み検索や相性診断のツールもあり、気になる犬猫たちが見つかったら、応募を通して保護団体と直接やり取りが出来ます。他にも、譲渡会の情報も掲載しています。
環境省の発表によると、2021年度においては、国内で1.4万匹以上の犬猫が殺処分されています。保護犬・猫から迎える文化はまだまだ未発達のため、譲渡推進は大切な取り組みです。
ペットを家族に迎えるのは、本当はとてもハッピーなライフイベントのはずですが、背景には動物にとって大きな負担やしわ寄せがあるのが現実です。ペット業界に身を置く企業の責任として、弊社ではITの力で譲渡推進に取り組んでいきたいと考えています。
また、世間の関心の高まりとともに、多くの方がSNSなどで意見を発信するようになりました。色々な価値観が生まれることは良いことだと思いますが、それに伴い情報が錯綜するようになってきています。
そのため、正しい情報を発信し、社会情勢にあわせて運営体制もアップデートすることが必要であり、課題でもあると感じています。
–3つ目の事業「ペトコトフーズ」についてお聞かせください。
井島さん:
「ペトコトフーズ」はフレッシュペットフードという新しいジャンルの愛犬・愛猫のごはんで、弊社が今一番注力している事業です。
良質なごはんを通して、家族としての食事の時間を一緒に楽しんで欲しいと考え、開発しました。当初は犬用だけの取り扱いでしたが、2023年に猫用もリリースしています。
フレッシュペットフードとは、人間も食べられる良質の食材を使い、最低限のスチーム加熱と急速冷凍により、保存料や不必要な添加物を加えずに製造するフレッシュタイプのごはんです。栄養を吸収しやすい上に水分も補え、おいしく食べながら健康になれることが特長です。
世界に約90人しかいない米国獣医栄養学専門医のニック・ケーブ氏と、弊社の副社長で獣医師でもある佐藤の2名で開発を担当しています。
サービスを始めて半年ほど経ったとき、お客さまから「涙やけが目立たなくなった」との感想が寄せられるようになりました。従来のフードはオイルコーティングしてあるものが多いのですが、食事を変えたことで体質改善されたのではないか、というのが獣医師の見解です。
こちらのサービスは公式サイト・各種ECモール・全国の取り扱い店舗での購入が可能です。
公式サイトでは「無料フード診断」のシステムを設けており、犬猫の種類や年齢、アレルギーの有無などの質問に答えると、それぞれのペットに最適なカロリーやメニュー・給餌量などが提案されます。
家庭によってごはんの与え方は様々なので、色々な要望に応えられるようなプランを用意しています。ぜひ目を通していただきたいですね。
偏食・食べむらなどペットの食に関する悩みを抱える飼い主の方からは、「ペトコトフーズ」は美味しそうに食べてくれたので継続したいと言うお声を頂戴しています。
他にも「体質の悩みが改善された」という声も多く、以前、シニアのペットが亡くなったお客さまから「最後に美味しいごはんを食べさせられてよかった」と仰って頂いたときは胸が熱くなりました。これからも頑張っていこうと思えましたね。
また、「ペトコトフーズ」を展開する上では、常にサステナブルの意識を持って取り組んでいます。
使用している食材の一部は、味や品質に問題はないものの形や大きさが規格外という理由から市場に卸せずに廃棄されてしまう野菜なども使い、フードロスの削減に貢献しています。
さらに、製造過程でラベルがずれてしまったものをはじめ、品質には問題ないが正規品販売が難しいものは保護団体に寄付し、製造後のフードロスにも取り組んでいます。
保護犬・猫達はなかなか良質の栄養を取れないことが多いので、これらは支援のための取り組みでもあるんです。
梱包材には、バイオマスインキや森林保全につながる認証を得た素材の配送ボックスなどを使用し、動物が暮らす地球環境にも配慮したいと考えています。
国内ではフレッシュペットフードの認知度はまだ低いものの、これからはドライフード・ウエットフードと並ぶ選択肢となるよう、いかに健康で美味しいごはんが作れるか引き続き注力していきます。
「ペットの家族化」が進むペット業界をITの力でより良い業界に!
–飼い主にとっても、ペットにとっても便利で必要なサービスばかりですね。
では、御社がペット事業を起業したきっかけをお聞かせいただけますか。
井島さん:
弊社を起業した代表取締役社長の大久保は、ペット事業に携わるものとしてはめずらしく、起業する3年前までは犬・猫が苦手でした。
そんな大久保は、パートナーと一緒に暮らしていた犬と触れ合うことで、今まで見ることのなかった動物の生活環境を目にすることになリました。その環境はとてもアナログなもので、他の産業との大きなギャップを感じたそうです。
例えば、動物病院の支払いは当時は現金払いがメインだったり、まだまだITが浸透していない状況でした。
また、犬は犬種ごとに特性が大きく違い、自分と暮らす犬種の情報が正確に得られないことも問題だと感じたそうです。
そして、ペット業界には様々な社会課題が多くあります。
例えば、生体展示販売に関する問題や殺処分問題が挙げられます。
ペットショップで犬猫を展示し販売する「生体展示販売」は、イギリスやアメリカをはじめとする海外の一部の州では停止される動きも生まれています。
国内におけるペットの流通過程で一般的に正規ルートと呼ばれているのは、ブリーダー(繁殖事業者)から市場などを経由し販売事業者が購入し、店頭で売られるルートです。その過程で「持病がある」「体型がスタンダードでない」「人気のない毛色」などの理由で買い手がつかない場合があります。
過去には売れ残ってしまうと、保健所に持ち込まれ殺処分されるという事実もあったようです。現在では法改正が進み、保健所側が引き取りを断れるようになっているものの、このような状況では、行き場がない犬猫が多く出てしまうという新たな課題が生まれています。
1973年に制定された「動物愛護管理法」は、1999年、2005年、2012年、2019年に法改正され、動物を扱う事業者への取り締まりは強化されていますが、まだ抜け道があることなどで徹底されていません。多くの犬猫が、飼い主を探してもらうこともなく、生活のための良い環境を整えられず、ネグレクト状態になっている現状があります。
参照:動物愛護管理法|環境省
他にも様々な課題が山積みで、大久保は自分に新しい価値観を与えてくれたペットたちのため、ITの力を使って業界を良くすることを目指し起業しました。
このような背景の中で、弊社には行動指針として3つのルールがあります。
- 短い命に届けよう
- ペットを愛するプロでいよう
- 輪の外も想像しよう
世の中には動物が苦手な方やアレルギーの方もいます。この中の「3、輪の外も想像しよう」は、本当にペットを愛せる世界を作るには、そのような方々へも配慮し、尊重し合えるような行動も大事だというルールです。これは元々、動物が苦手だった大久保だからこそ生まれたルールではないかと思います。
スタートアップの会社としては、ペット事業はニッチな事業に見られがちで、事業展開の難しさはありますが、だれもが暮らしやすい世界、ミッション実現のために頑張っています。
–では最後に今後の事業の展望をお聞かせください。
井島さん:
「ペットを家族として愛せる世界へ」のミッションを実現するためにペットウェルネスブランドとしての地位を確立したいと思います。
そのために今後は、獣医療やペットツーリズムも含めたペットライフのすべてをサポートできる存在になりたいと考えています。
2022年にはJR東日本スタートアップ株式会社と連携し、「日本初のペット専用新幹線で行く軽井沢ツアー」の実証実験を行いました。
公共交通機関のペットフレンドリー化を推進するための実験で、獣医師の監修や実証実験パートナーのパナソニック株式会社のご協力を得て、当日は粒子計測や匂いの計測なども行いました。
このような建設的な実証実験を経て周りにも配慮しながら、ペットと一緒の時間を過ごし、良い思い出を作る選択肢を増やしていきたいですね。
そのために、ペットと一緒に暮らしている方から、持続可能なペット業界を作るためにはどうしたら良いかご意見をいただき、共に考えていきたいと思います。
また、ペットのいない方でも犬や猫のためになにかできないかと考えている方は多いはずです。自分ができることを知るため、「ペトコト メディア」や「OMUSUBI」のサイトを覗いて動物のことを考えるきっかけにしていただければうれしいですね。
–ペットを家族として愛せる世界が実現するように、できることを考えたいと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。
株式会社PETOKOTO公式サイト:https://corp.petokoto.com/
ペトコト メディア: https://petokoto.com/
OMUSUBI:https://omusubi-pet.com/
ペトコトフーズ:https://foods.petokoto.com/