#SDGsを知る

ペロブスカイト太陽電池とは?実用化はいつ?今後の課題も

イメージ画像

岸田首相は2023年10月、次世代型の太陽電池「ペロブスカイト型」について、2025年の実用化を目指す考えを示しました。「カーボンニュートラル(脱炭素化)の実現に重要な技術、製品の開発、普及に向け、2023年内にGX(グリーントランスフォーメーション)に向けた投資戦略を策定する」としています。 この「ペロブスカイト型」が実用化した2年後の日本は、どのような社会になっているのでしょうか。

この記事では、ペロブスカイト太陽電池とは何か、活用例、メリット、デメリット・課題、注目されている背景、今後の行方、SDGsとの関係について解説します。

ペロブスカイト太陽電池とは

「ペロブスカイト太陽電池」

ペロブスカイト太陽電池とは、ペロブスカイトという結晶の構造をした物質の働きにより、太陽光を電気に変える太陽電池です。厚さはわずか1マイクロメートル(0.001ミリメートル)と非常に薄く、さらに軽くて柔らかいという特徴があります。基盤に塗布する、印刷する、などの方法で簡単に作製できるので、大量生産が可能です。

太陽光発電といえば、建物の屋根や屋上、広い敷地に設置されている太陽光パネルが思い浮かぶかもしれません。太陽光パネルは、発電する層がシリコンでできているため「シリコン系太陽電池」と呼ばれており、現在普及している太陽電池の95%以上を占めます。枯渇しない再生可能エネルギーであるメリットがある一方、原料のレアメタルの供給を海外に依存していることや設置する土地の確保など、さまざまな課題を抱えているのが現状です。対してペロブスカイト太陽電池は、このシリコン系太陽電池の課題を克服する可能性を秘めているといわれており、今大きな注目を集めています。

そもそもペロブスカイトとは

ペロブスカイトとは、酸素と他の元素が化合した組成を持つ酸化鉱物の一種で、灰チタン石(カイチタンセキ)とも呼ばれています。この鉱物の持つ結晶構造を「ペロブスカイト構造」と言い、化学物質の組み合わせや構成比により数百種類が存在します。

「ペロブスカイト構造」

これまでは圧電材料などに利用されてきましたが、2009年に光を電力に変換することに日本が成功しました。そうして生まれたのが、ペロブスカイト太陽電池です。[i]

ペロブスカイト太陽電池は何に使われる?

「積水化学工業株式会社 大阪本社 リニューアル完工イメージ (赤枠内がフィルム型ペロブスカイト太陽電池)」

ペロブスカイト太陽電池は、その「薄い」「軽い」「柔らかい」という特徴を活かして、次のような用途があると期待されています。

  • 建物の壁面・窓・看板
  • 車の車体
  • 信号機のカバーや電柱
  • 航空機やドローン
  • 農業(ソーラーシェアリング)
  • 衣類・眼鏡・腕時計・バッグ
  • 携帯端末など

従来のシリコン系太陽電池は、一定の面積と重さに耐える設置場所が必要でした。ペロブスカイト太陽電池の場合、これらの制約がないため利用範囲が大きく広がります。

建物に太陽電池を設置する際は、従来型の場合、屋上や屋根が一般的でしたが、ペロブスカイト太陽電池は壁面や窓などに取り付けることが可能です。また、車や航空機などの動くものや、柔らかい素材の衣類にも搭載できます。あらゆる場所で発電が行われている、そんな未来の街の姿が見られる日も近いかもしれません。

実用化はいつになる?

ペロブスカイト太陽電池に関わる企業は、株式会社東芝や豊田合成株式会社など十数社です。その中には、NEDOが2050年にカーボンニュートラルの実現に向けて行った「グリーンイノベーション基金事業」に関わる企業も含まれています。これらの一部の企業について、実用化の見通しを確認していきましょう。

グリーンイノベーション基金事業とは

カーボンニュートラルの実現を経営課題として取り組む企業などに、10年間、研究開発・実証・社会実装に対して継続して与えられる支援金のこと。

企業名日程内容
積水化学工業株式会社2023年10月実装済み大阪本社が入居する堂島関電ビルにてフィルム型を実装済み(国内初)[ii]
株式会社アイシン2025年予定自社工場での実証実験をすでに開始[iii]
株式会社カネカ2026年量産技術の研究や技術開発の実装フェーズを開始予定[iv]
パナソニック ホールディングス株式会社未定Fujisawa SST内のモデルハウスで実証実験をすでに開始(2024年11月29日まで)[v]

企業では実用化に向けて、大学などと共同で研究を進めている状況です。進み方はまちまちですが、2025年までに実用化を達成する企業もいくつかあると予想されます。すでに実用化を達成した積水化学工業株式会社では、今度は2025年の事業化を目指して、製造プロセスの確立や耐久性、発電効率の向上に向けた開発を加速していきたいとしています。

ペロブスカイト太陽電池のメリット

「Future Co-Creation FINECOURTⅢ」南南東に面した2階バルコニー部分にペロブスカイト太陽電池を設置した様子

ペロブスカイト太陽電池には、主に次の4つのメリットがあります。

薄くて軽く柔らかいため設置できる場所が多い

これまで述べてきたように、ペロブスカイト太陽電池の厚さは1マイクロメートル、重さはシリコン系太陽電池の約10分の1と軽く、また柔らかい性質を持っていることが特徴です。そのため、従来の太陽電池では難しかった建物の壁面や窓、車や航空機、衣類や眼鏡にも設置できます。

ヨウ素などの原料を国内で調達できる

ペロブスカイト太陽電池の主な原料はヨウ素です。日本の国土には、ヨウ素を豊富に含んだ地下水があります。世界の生産量の29%を日本が占め、チリに次いで世界第2位を誇ります。(平成29年)[vi]つまり、原料を国内で調達できるため、安定的に生産することが可能です。

室内光などの低照度でも発電ができる

ペロブスカイト太陽電池は、波長800ナノメートルまでの可視光を吸収できます。その上、中~低照度の日射や蛍光灯、LEDといった室内光でも、高い効率で発電が可能です。従来型に比べて、低照度の光を2倍以上に出力できるというデータもあります。[vii]

価格が従来の太陽電池に比べて安い

材料の塗布や印刷技術で制作できることから、量産が可能になり製造コストを安くできることもメリットの1つです。従来型に比べて半額程度になるといわれています。

ペロブスカイト太陽電池のデメリット・課題

メリットがある一方で、デメリットや課題もあります。

耐久性が低い

ペロブスカイト太陽電池は、酸素や水分、紫外線に弱い性質があります。そのため寿命は5~10年程度と、従来の太陽光電池の20~30年と比べて短いことが欠点です。耐久性を高めていくことが、今後の課題になるでしょう。

材料に鉛を使用している

材料に鉛を使用していることもデメリットの1つです。鉛は、暴露や環境汚染により人体に影響を与えます。万が一鉛が流出すれば、さまざまな危険が及ぶ可能性もあるでしょう。現在は、代替としてスズや亜鉛ベースの化合物を用いるなど、鉛を減らす、あるいは使用しない製品の開発が進められています。[viii]

ペロブスカイト太陽電池には多くのメリットの他に、デメリット・課題もあります。それでも今、注目を集めているのはどのような背景があるのでしょうか。次の章で確認していきましょう。

ペロブスカイト太陽電池が注目されている背景

「従来型はある程度広い敷地が必要」 

ペロブスカイト太陽電池が注目されている理由としては、太陽電池をめぐる背景が挙げられます。ここではその中でも、2つのポイントを取り上げます。

レアメタルを使用しないエネルギー

1つ目のポイントは、レアメタルを使用しないエネルギーであることです。従来の太陽電池の原料にレアメタルが使用されているのに対して、ペロブスカイト太陽電池には必要ありません。レアメタルとは、希少金属とも呼ばれており、流通量が少なく価格も高い金属です。レアメタルを使用しないことでコストを抑えるほか、安定した供給ができます。

また、レアメタルの供給を海外に依存しているという日本の事情もあります。政治や経済、社会情勢に左右されることなくエネルギーの供給ができ、生活を保障するという意味でも、レアメタルを使用しないペロブスカイト太陽電池は注目されています。

従来型の太陽電池に適した土地が限られている

もう1つは、従来型の太陽電池を設置する土地が少ないことです。従来型の太陽電池は平らな場所に設置しやすいため、国土の70%が山林や丘陵地である日本では適した土地が限られています。また、大型の施設を建設する際には、森林の伐採による環境破壊や近隣住民への影響が心配されます。その点、ペロブスカイト太陽電池は、建物の壁面や車の車体など、従来型では難しかった場所に設置できることが強みです。

日本は、2050年までにカーボンニュートラルを実現することを目標に掲げています。そのためには再生可能エネルギーの導入が不可欠です。ペロブスカイト太陽電池は、目標の実現に大きな役割を担うとして期待されています。

ペロブスカイト太陽電池の今後

「中国の企業『大正微納科技』のペロブスカイト太陽電池を利用した製品」

ペロブスカイト太陽電池は今後、世界や日本でどのように発展していくのでしょうか。日本の課題を踏まえた上で、市場競争の視点から考えてみます。

早期の実用化が求められる

岸田首相は、2025年にペロブスカイト太陽電池の実用化を目指すと発表しました。そして今現在で、積水化学工業株式会社がフィルム型の実用化を達成しています。この先も企業や研究機関が続くためには、課題である耐久性の問題を解決や、設置するための技術開発をさらに進めていく必要があるでしょう。

量産化については、ポーランドや中国の企業が現時点で先行しています。[ix]日本が追い付くためには、国や企業、研究機関などが協力して、実用化から量産化までの体制を確立することが重要です。そして量産化へのステップとして、早期に実用化して発電量や経年変化などの長期的な品質評価を行うことが求められます。

世界での市場競争が激化する

ペロブスカイト太陽電池は、中国の大学や企業をはじめ、イギリスの大学発のスタートアップ、ポーランドの企業が開発を加速しています。特に中国は、複数の企業や大学が研究成果を発表して活発に動いています。またヨーロッパでも商品化に向けて開発が進められており、競争が激化している状況です。

ペロブスカイト太陽電池は日本発の技術でありながら、前述の通り量産化において遅れているのが現状です。従来型では、日本のメーカーが世界のシェアの半分を占めていました。しかし、政府の補助金が打ち切られてからは、国などからの補助を受けた中国が市場シェアの8割を取ったという過去があります。

競争が激しくなる中で、どの国がシェアを取るのか、日本は勝ち抜くことができるのかについても、今後の焦点になるでしょう。

ペロブスカイト太陽電池とSDGs

最後に、ペロブスカイト太陽電池とSDGsの関係について確認します。ペロブスカイト太陽電池は、目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、目標13「気候変動に具体的な対策を」に関係があります。

目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」

目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」は、世界の中で再生可能エネルギーの割合を増やすことや、エネルギー効率を倍増させることを目指しています。また、クリーンなエネルギー技術への投資を促進しています。

日本は、2050年までにカーボンニュートラルを実現することを目標にしています。その中で政府は、従来のシリコン系太陽電池に代わる次世代型太陽電池ペロブスカイト太陽電池の技術開発と普及に向けた投資戦略を策定する予定です。再生可能エネルギーであるペロブスカイト太陽電池への投資を行うことでSDGsの目標に貢献します。

目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」

目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」には、科学研究を強化し、産業セクターの技術能力を向上させるために、イノベーションを促進するとあります。また、官民による研究開発費を増やすことも掲げられています。

日本は、ペロブスカイト太陽電池の本格的な実用化に向けて、今後もイノベーションを生み出しながら取り組む必要があります。そのためには、「グリーンイノベーション基金事業」のような政府の支援や民間の研究開発費が必要です。イノベーションとその実現にかかる費用を支えていくことは、目標9の実現につながります。

目標13「気候変動に具体的な対策を」

目標13「気候変動に具体的な対策を」は、気候変動対策を国の政策や戦略、計画に統合し、実施することを求めています

ペロブスカイト太陽電池は、従来型のシリコン系太陽電池に代わる再生可能エネルギーとして注目されています。政府はカーボンニュートラルの実現に向けて、ペロブスカイト太陽電池の投資戦略を策定する考えを示しました。この戦略により気候変動対策を進めていくことで、目標の達成につながります。

>>各目標に関する詳しい記事はこちらから

まとめ

ペロブスカイト太陽電池とは、ペロブスカイトという結晶の構造をした物質の働きにより、太陽光を電気に変える太陽電池です。「薄い」「軽い」「柔らかい」という特徴を活かして、建物の壁面・窓、車の車体、航空機、衣類などに設置することが可能です。メリットには、用途が広く、原料のヨウ素を国内で調達できること、室内光でも発電できることなどがあります。一方、耐久性が低く、材料に鉛を利用していることが課題です。

ペロブスカイト太陽電池は、従来型のシリコン系太陽電池に必要なレアメタルや、広い土地を必要としないことで注目されています。今後は、実用化を早期に進めて世界での市場競争でどう戦っていくのかが課題になるでしょう。またペロブスカイト太陽電池は、SDGsに関係があります。クリーンエネルギーへの投資やイノベーションの促進、国の戦略を進めていくことで、SDGsの目標に貢献します。

<参考>
ペロブスカイト型太陽電池の開発|環境エネルギー|事業成果|国立研究開発法人 科学技術振興機構
[i] 産総研マガジン「ペロブスカイト太陽電池」とは?
[ii] 国内初、ペロブスカイト太陽電池をビル外壁に実装-大阪本社リニューアル工事- | 積水化学工業株式会社
[iii] 【5分でわかる】塗って発電!?ペロブスカイト太陽電池とは | AI Think – アイシンの今、未来を知る 「アイシンク」
[iv] 経済産業省 産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト部会 グリーン電力の普及促進分野WG 株式会社カネカ
[v] 世界初、ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池 Fujisawa サスティナブル・スマートタウン内で長期実証実験を開始 | 技術・研究開発 | 技術・研究開発 | プレスリリース | Panasonic Newsroom Japan : パナソニック ニュースルーム ジャパン
[vi] 【数字から見えるちば】世界シェア2割強の「ヨウ素」、高付加価値化に期待 – 産経ニュース
[vii] ここまで来た「ペロブスカイト太陽電池」、京大発ベンチャーに聞く開発の最前線 | 日経クロステック(xTECH)
[viii] スズを含むペロブスカイト太陽電池:23.6%の世界最高効率を達成 ―ペロブスカイト薄膜の上下表面構造修飾法を開発― – 京都大学 化学研究所
ペロブスカイト太陽電池を鉛フリーで安定化させる新技術開発 シンガポール|ASEAN科学技術ニュース|Science Portal ASEAN ASEANの科学技術の今を伝える
[ix] 日本経済新聞「貼る太陽光発電、覇権争い 日本発の技術でも量産は中国 第4の革命カーボンゼロ 再エネテックの波(1)」
コスト半減の太陽電池、月内量産 ペロブスカイト型ポーランド新興、建物壁面に