近年、地震や洪水といった自然災害の発生頻度が高まっています。災害が発生しニュースで取り上げられる度に、「うちも、いざという時のために備えておこう」と思い、備蓄食品や防災グッズを用意するでしょう。しかし用意したことに満足し、備蓄食品の定期的なチェックを怠ってしまい、ふとした時に思い出して確認すると賞味期限が切れていたということも珍しくありません。
実際に必要になり中身を開けたものの、食べられる状態ではなかったということもありえます。これでは、緊急時の役割をはたせないだけでなく、食べ物を無駄にしてしまいます。そういった事態を防ぐために、注目されているのが「ローリングストック」です。
本記事では、
- ローリングストックの実践方法
- メリット・デメリット
- 備蓄食品の具体例
- よくある質問
- SDGsとの関係性
を紹介します。
まずは、ローリングストックについて知りましょう。
ローリングストックとは
ローリングストックとは、備蓄(ストック)している食料を賞味期限が切れる前に定期的に消費し、その都度買い足して備える(ローリング)方法のことです。
病気や被災時用にストックしている食料は、いざという時がないと出番がこないことも多く、定期的に賞味期限を確認することを忘れてしまう人もいるでしょう。そのため、「食べようとしたら、賞味期限が切れていた」ということも多々あります。
消費期限とは違い賞味期限の場合は、期限を過ぎたからと言ってすぐに食べられなくなるわけではありません。しかし、期限切れを理由に廃棄されているストック品があることも事実です。食べられるストック品を捨てる行為は、食品ロスの問題を加速させる可能性もあります。実際に、2021年の朝日新聞の記事によれば、政府の災害用備蓄食品100万食のうち、年間20万食が廃棄対象となっているとしています。(参考:朝日新聞食品ロスデジタル)
そういった点も含めて、食品の廃棄を防ぎながら食品ロスの減少にもつながるローリングストックが、注目されているのです。
防災につながる備蓄方法
大災害の発生時は、支援物資がすぐに届かない可能性もあります。コンビニやスーパーも人が殺到し、商品の欠品が相次ぐでしょう。そのため各家庭で食料をストックし、いつでも使える状態にしておくことが重要です。つまり、常に新しい食料をストックしている状態を保つローリングストックが災害が頻発している現代において適していると言えるでしょう。
非常食として準備する備蓄食品は、主に「非常食」と「日常食品」に分類され、この2種類を均等に用意します。例えば、普段から多めに日常食品を買い置きしておき、非常食は3日分用意しているとします。被災後、まずは冷蔵庫や台所にある日常食品を消費することによって、3日間はしのげます。その後、ローリングストックを行っていた非常食で3日間を過ごします。この流れでいくと、6日間は食料を心配する必要がありません。
極限の状態で食の安全が確保されているということは、精神的・身体的にも救われます。このことから、ローリングストックは防災につながり、とても重要だと言えるでしょう。
ローリングストックの実践方法
続いては、ローリングストックの実践方法を紹介します。ここでは「補充」と「消費」の2つに分けて確認していきます。
【1】補充
まずは、ストックする食料や飲み物を購入しましょう。
備蓄食品の選び方は、最初に自宅にある食品をチェックし、
- 栄養バランス
- 使い勝手のよさ
- 家族の人数・好み
などに応じて内容や量を決めます。
ここで特に気をつけたいのが、「栄養バランス」です。災害時は、手軽さからインスタント麺やご飯など、食事が炭水化物に偏ってしまうことも多いと言われています。もちろんエネルギー源となる炭水化物も必要ですが、栄養バランスが崩れると体調不良になる危険性もでてきます。そのため、たんぱく質や野菜もとれるように常備しましょう。
たんぱく質をとるためには、缶詰がおすすめです。サバやイワシなどの魚の缶詰から、コンビーフや焼き鳥の缶詰など、種類も豊富にあるため好みに合わせやすく、数種類用意しておくと飽きません。長期保存が効く点も魅力です。
そして野菜は、ビタミンやミネラル、食物繊維をとるために必要な食材です。災害時に野菜がとれず、便秘や口内炎に悩んだという人もいます。
野菜を準備する場合は、比較的日持ちのするカボチャやジャガイモ、タマネギを多めに買い置きしましょう。長期保存の面でいうと、乾物やドライフルーツ、野菜ジュース、梅干し、漬物もおすすめです。
【2】消費
常備食品が整ったら、定期的に賞味期限の確認をしましょう。最初のうちに、備蓄食品の名前と賞味期限をリスト化し、台所やリビングなど目のつくところに貼っておくと確認忘れを防げます。確認する際に数も記入しておくと、在庫もわかり補充もスムーズに行えます。
そして備蓄食品は、賞味期限の近いものから消費し、都度、又はほぼ半分になったら補充します。このサイクルを繰り返すことによって、常に新しい備蓄食品がある状態を保てるのです。
ローリングストックの具体例
ローリングストックの意味や実践方法を理解したところで、続いては、実際にどのような食品をストックしておけばよいのかを知りましょう。
パックご飯
主食はエネルギー源となるため、ストックしておきたい食品の1つです。なかでもご飯は、昔から日本人に好まれている主食であり、食べ飽きることもないでしょう。缶詰やレトルト食品などと、組み合わせることも可能です。
【テーブルマーク株式会社】国産こしひかり
テーブルマーク株式会社のパックごはん「国産こしひかり」は、賞味期限が製造から12カ月と長期保存が可能なため、備蓄食品としても最適です。カセットコンロがあれば、湯煎したり鍋で煮たり、フライパンで温めたりすると食べられます。そして保存容器も、丈夫でしっかりとした作りになっており、そのままお皿として使用できます。
「お赤飯」や「お湯なしで食べられる白がゆ」もあるため、気になる方は公式サイトをご覧ください。
公式サイト:テーブルマーク株式会社
レトルトパウチ食品
レトルトパウチ食品とは、完成された状態の料理が、空気や光を通さず熱にも強い特殊な袋に詰められ、加圧加熱殺菌された食品です。カレーや肉じゃがなど種類も豊富なうえに、温める又はそのままの状態で食べられます。介護食やベビーフードもあり、幅広い世代や人に適応している点も魅力です。
【キユーピー株式会社】やさしい献立
キユーピー株式会社が展開している「やさしい献立」シリーズは、常温で12カ月以上もち、豊富な品ぞろえと美味しさにこだわった味が特徴です。
また、「やさしい献立」は、
- 容易に噛める
- 歯茎で潰せる
- 舌で潰せる
- 噛まなくてよい
と、噛む力・飲み込む力によって4段階のラインナップになっています。
介護食としては勿論、味も美味しいため「普段の献立にもう1品加えたい時」や、「災害時の非常食として」も活用できます。
公式サイト:キユーピー株式会社
缶詰
缶詰は密封後、加圧加熱殺菌を施しているため、保存料を使用せずに3年ほどもちます(※製品による)。缶詰入りのパンやお惣菜なども登場しており、バラエティーに富んだ品揃えも魅力です。また魚や肉、豆類の缶詰は、炭水化物に偏りがちな被災時の食事にも取り入れやすいことから、備蓄食品に加えたい食品の1つだと言われています。
【マルハニチロ株式会社】さばのトマト煮
さばのトマト煮は、さばとジャガイモ、タマネギ。オリーブをトマトベースで仕上げた洋風の缶詰です。そして「さばのトマト煮」は、「災害食大賞2021」の缶詰部門で、60品の中から最優秀賞に選ばれました。トマトの酸味も効いており、さばに衣をつけ揚げることによって、青魚特有の臭みも抑えています。
さばには良質なたんぱく質やカルシウム、DHA、EPAなどが含まれているため、被災時は勿論、日常食としても取り入れたい食品です。
公式サイト:マルハニチロ株式会社
ローリングストックのメリット
続いては、ローリングストックのメリットを見ていきましょう。
ローリングストックのメリット①普段の買い物の範囲でできる
ローリングストック用の備蓄食品は、食べなれたものであるため、普段の買い物と一緒にできます。「普段1つ購入するものを、3つに増やそう」や「いつもより、少し多めに買っておこう」くらいの気軽さで行えるのです。忙しくて頻繁に買い物へ行けない人も、挑戦しやすいでしょう。
ローリングストックのメリット②馴染みのある食品を非常食にできる
被災した時に、「非常食を食べたが、馴染みのない味のため喉を通らない」ということもありえます。ただでさえ精神的にも負担が大きい状況で、十分に栄養がとれないとなると、心身共に弱ってしまうでしょう。
しかし、ローリングストックの備蓄食品は、各家庭に合わせて選んでいるため食べなれています。避難生活をする際に健康管理もしやすくなり、ストレスの軽減にもなるのです。
ローリングストックのデメリット
メリットの多いローリングストックですが、デメリットも存在します。
ローリングストックのデメリット①賞味期限チェックが面倒
ローリングストックは、備蓄食品の賞味期限切れを防ぐためにも最適な方法です。しかし定期的に賞味期限チェックが必要なため、少し手間がかかります。とはいえ、面倒だからといってチェックを怠ると、量も多いため、どの食品の賞味期限が短いのか把握できなくなる恐れもあります。
リストを作成したりチェック日を決めたりするなど、少しでも負担を軽減できるように工夫しながら管理することが大切です。
ローリングストックのデメリット②生鮮食品より値段が高いことも
非常食と日常食をバランスよく構成しなければならないとはいえ、災害時のことを考えると非常食を多めに準備しておきたいと考える方も多いのではないでしょうか。
その中で、日持ちがする食品や防災用の食品は、生鮮食品より値段が高いことも多いため、家計への負担が大きくなることもデメリットと言えます。スーパーの特売日を狙ったり、ネットで注文したりするなど、少しでも安く購入できるように工夫が必要です。
ローリングストックに関するよくある質問
ここからは、ローリングストックに関するよくある質問とその回答を見ていきましょう。
おすすめの食品は?
備蓄食品は、「主食(炭水化物)+主菜(たんぱく質)」の組み合わせが大事だと言われています。そして、ビタミンやミネラル、食物繊維のとれる食品、水、被災時の精神的ストレスを緩和し、エネルギー補給にも最適なおやつなどもあると良いでしょう。
農林水産省が公開している『災害時に備えた食品ストックガイド』には、下記のような食品が掲載されています。
主食 | ・精米、無洗米、パックご飯など ・小麦粉、米粉、餅 ・乾麺、即席麺、カップ麵 ・缶詰パン、乾パン |
主菜 | ・肉 ・魚 ・豆等の缶詰 ・カレーやパスタソースなどのレトルト食品 ・フリーズドライのソース類 ・鰹節や桜エビなどの乾物類 |
副菜 | ・梅干し、漬物、日持ちがする野菜類 ・野菜の缶詰やジュース ・のり ・ひじき ・切り干し大根 ・わかめなどの乾物類 ・粉末やフリーズドライの汁物 |
果物 | ・みかんやりんごなどの日持ちする果物 ・缶詰やジュース ・ドライフルーツ |
その他 | ・ロングライフ牛乳や粉チーズ ・スキムミルクなどの乳製品 ・ふりかけ、ジャム、ハチミツなど ・塩や味噌、醤油、砂糖、酢などの調味料 ・アメやチョコレート、ビスケットなどのお菓子 ・長期保存型の水、お茶、清涼飲料水 |
大人2人の1週間分の例も出ているため、参考にしてください。
また災害用の非常食の中には、水を注いで待つだけで食べられる食品も存在します。火を使えない場合も想定して、準備しておくと役に立つでしょう。
【関連記事】【おすすめの非常食18選】必要な量は何日分?人気のお菓子・缶詰もご紹介
何日分を準備すればいい?
一般的に、「最低でも3日、できれば1週間分の備蓄食品×家族の人数」と言われています。自治体によっては、状況に応じて2週間分準備することも推奨されています。
被災時は、ライフラインが止まり支援物資が届きにくくなることから、少し余裕をもって用意しておくと安心でしょう。ローリングストックによって定期的に消費するため、期限までに食べきれないという心配もありません。
また、高齢者や乳幼児、慢性疾患の方、要介護の方、食物アレルギーがある方は、それに対応できる備蓄食品を別に準備してください。
手間はかかる?
ローリングストックは、食品のリストアップや賞味期限のチェック・補充などを行います。とくに賞味期限チェックと補充は、定期的に行わなければいけないため多少手間がかかります。しかし被災時や病気など、いざという時に活用できるように、しっかりと行わなければいけません。
リスト管理はどうすればいい?
まず備蓄食品を購入した際に、「食品名」「個数」「賞味期限・消費期限」を確認し、リスト化します。
その後の管理方法としては、
- リストを冷蔵庫に貼り、消費する度に内容を更新する
- 定期的に「備蓄食品を消費する日」を設けて、その日にリストも更新する
の、2パターンがあります。
とくに①は、冷蔵庫に保管している賞味期限が短い備蓄食品の管理に最適です。冷蔵庫は使用頻度が高い家電の1つであるため、飲み物や食べ物をとる際にリストも自然と目に入るでしょう。保管場所とリストが離れていないため、在庫も確認しやすく、備蓄食品の取り出しもスムーズに行えます。
そして②は、缶詰やフリーズドライ製品など、賞味期限が長い備蓄食品の管理に向いています。補充する際に賞味期限を確認し、台所やリビングにあるカレンダーに「消費する日」を記載。「記載したことも忘れそう」という人は、スマートフォンのカレンダーを使用すると良いかもしれません。
注意するポイントは?
ローリングストックの注意点は、下記の通りです。
【食品を選ぶ際の注意点】
- 常温保存が可能で、賞味期限が長いもの(3カ月以上)を選ぶ
- ガスコンロを使用しない食品を選ぶ
- ビタミンやミネラル、食物繊維のとれる食材も準備する
- 持ち運びのしやすいパッケージ商品や、カセットコンロがあれば食べられる食品も可
- 賞味期限が長くなるほどコストも上がることが多いため、自分たちに適した価格と賞味期限を考えて食品を選ぶ
【収納・管理に関する注意点】
- なるべく取り出しやすい場所に収納する
- 「何がどこに、どのくらいあるか」「賞味期限はどのくらいか」がわかるように収納する
- 賞味期限の短いものが手前にくるように収納する
- 賞味期限切れを防ぐためにチェック日を設ける
- 使用頻度の高い食品は台所に、低い食品は押し入れやクローゼットなどに収納するなど工夫する
ローリングストックとSDGs
最後に、ローリングストックとSDGsの関係性を確認していきます。SDGsとは、2015年9月に開催された国連総会にて、193の加盟国が賛同した国際目標です。現在世界で起きている、環境・社会・経済の課題解決を目指し17の目標と169のターゲットが設定されました。
そして、ローリングストックの普及による食品ロスの減少は、目標12「つくる責任つかう責任」の達成に貢献すると期待されているのです。
目標12「つくる責任つかう責任」
目標12は、人々が普段何気なく行っている消費活動と、消費のもととなる生産活動を、地球と人間にとって持続可能にしていくための内容が盛り込まれています。
そのなかでもターゲット【12.3】は、下記の通り食品ロスに注目しています。
2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる。
引用元:JAPAN SDGs Action Platform|外務省
つまりローリングストックによって、これまで賞味期限が過ぎたことを理由に、廃棄されていた備蓄食品が減ると、食品ロスの減少につながるのです。
また農林水産省は、令和2年度の食品ロス量が推計を開始した平成24年度以降、過去最小の522万トンであったと報告しています(令和4年6月発表時点)。ローリングストックは、私たち個人にも気軽にできるアクションの1つです。これからさらに取り組む人が増え、食品ロス量が減少することによって、目標12の達成にも近づきます。
まとめ
普段の生活の中で賞味期限の近い備蓄食品を消費し、定期的に新しいものを補充するローリングストックは、賞味期限切れによる食品廃棄を減らし、目標12の達成に貢献すると注目されています。また、常に新しい備蓄食品を用意しておくことによって、災害時の支援物資の遅延に対しても焦る必要がなく、心身の余裕にもつながります。
なかには、定期的な賞味期限チェックが面倒だと感じる人もいるかもしれません。しかし、被災した際に「食べる物がない」とならないためにも、ローリングストックを取り入れてみましょう。自分や家族のために行ったことが、結果として世界的な課題の解決にもつながります。
〈参考文献〉
できることから始めよう!防災対策 第3回‐内閣府防災情報のページ|内閣府
食品ロス量が推計開始以来、最小になりました|農林水産省
災害時に備えた食品ストックガイド|農林水産省
国の災害用備蓄食品の提供ポータルサイト|農林水産省
SDGs(持続可能な開発目標)|蟹江憲史 著
非常食に|「味の素のKKおかゆシリーズ」|味の素株式会社
ストックして、安心&便利!|やさしい献立|介護職|キユーピー株式会社
ムリなくムダなくできる食料品の備蓄方法とは? 災害時に最低限必要&役立つものもチェック!|江崎グリコ株式会社
ローリングストックにはパックごはん!|テーブルマーク株式会社
もしもの時にもパックごはん|テーブルマーク株式会社
かんづめ活用便利Book|マルハニチロ株式会社
9月は防災月間!ローリングストックで日頃から備えを|マルハニチロ株式会社