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サグリ株式会社|衛星データとAI技術の活用で、農家の収入向上と温室効果ガス削減を同時に目指す!

サグリ株式会社 坂本さん インタビュー

坂本 和樹
1989年兵庫県生まれ。2012年東京大学教養学部国際関係論分科卒業後、消費財メーカーP&Gに入社し、日本・シンガポールでマーケティング部門に在籍、ブランドマネージャーとして多国籍チームの指揮を執る。2019年に退職後、サセックス大学開発学研究所にて開発学修士号を取得し、国連WFP東京事務所、JICAインドネシア事務所にて新興国の人道支援・開発支援に携わる。
テクノロジーが国際協力にもたらす可能性に惹かれ、2023年サグリに入社。シンガポール法人において東南アジア事業・カーボンクレジット事業を管轄、ベトナム・タイ・インドネシア・フィリピン・カンボジア等で事業推進を進めている。
野球好き・猫好き・寿司好き。Xアカウントはこちら (https://twitter.com/kazuk18)

introduction

2018年に創業したサグリ株式会社は、衛星データとAI技術を活用した事業を展開するインパクトスタートアップです。耕作放棄地や作付け情報が一目でわかるアプリや、土壌状態を読み取り、最適な肥料の量を伝えるアプリを開発して、農業に携わる人々の作業効率化に貢献してきました。

さらに、現在同社が最も力を入れているのが、新興国でのカーボンクレジット事業です。「農家の収入を増やす」「気候変動に歯止めをかける」という2つの課題を同時に解決することを目指しています。

今回は、シンガポール法人で東南アジアへの展開を担当する坂本さんに、サグリのこれまでの歩みやカーボンクレジット事業についてお伺いしました。

ルワンダの子どもたちの姿を見てサグリ立ち上げを決意

ーまずは御社の会社概要について教えてください。

坂本さん:

サグリ株式会社は、「新興国を含めた農家の方の生活を向上すること」と「気候変動の問題を解決すること」を目的に、主に衛生データを解析するAI技術を開発しています。そのなかで生まれたのが「AIポリゴン」と「土壌分析」です。

元々軍事利用しかできなかった衛星データの規制が変わり、商用活用ができるようになったことに着眼して開発をスタートしました。社名は、活用しているテクノロジーである、衛星データ(Satellite)×機械学習(AI)×区画技術(GRID)の頭文字をとって、Sagri(サグリ)としました。

弊社CEOの坪井はサグリを立ち上げる前に、小・中学生向けに衛星や宇宙に関する教育を行う「株式会社うちゅう」を立ち上げています。その事業に携わっているなかで、ルワンダの小学生に衛星の教育を行う機会がありました。そのとき、授業が終わった子どもたちが農地で労働をしている姿を目の当たりにし、坪井は衝撃を受けました。

「ここの子どもたちにどんなに衛星や宇宙の教育をしても、彼らが将来それを活用する機会は訪れないのでは」と気づいたんです。だからまずは「農家自体の収入を上げよう」と考えたのが、サグリを立ち上げた経緯になります。

AIポリゴンが実現した農地調査の効率化

ーでは、御社が開発された「AIポリゴン」と「土壌分析」について、どのような技術なのか教えてください。

坂本さん:

「AIポリゴン」は、農地の区画化を自動的にできる技術です。ここでのポリゴンとは、農地の区画情報を指します。地図って、ぱっと見ただけでは、それぞれの農地がどこで区切られるのかは分かりませんよね。ですから今までは、人の目で農地の区画を判断するしかありませんでした。

それを、例えば「畦道や農道で囲われている場合は、1つの田んぼだ」と機械学習させ、地図の画像を入れることで「この田んぼはこのような形で、3ヘクタール」といったポリゴンを自動で生成するようにしたのが、「AIポリゴン」になります。

このAIポリゴン技術はすでに特許を取っていますが、引き続き改善を続けています。というのもこの技術は、教師データとなる画像を読み込むほど多様な農地の区画化の特徴を掴み、精度が増していくからです。

例えば、インドの農地と日本の農地では、異なる慣習があり、農地を何で区切るのかも農地の形も異なります。そのため、多くの国の多様な農地の衛星画像をAIに学習させなければなりません。加えて各国の現地の人に「ここはどのような慣習で農地を区切っているのか」といった聞き取り調査をしたりして精度をあげていきます。

ーこのAIポリゴン技術は、どのようなことに活用しているのでしょうか?

坂本さん:

この技術を活用してまず開発したのが、「アクタバ」と「デタバ」というサービスになります。

アクタバは、「以前は耕作していたけれど、1年以上作付けをしていない、かつ今後数年の間も作付けしない土地」である「耕作放棄地」が、一目でわかるアプリです。

日本では農家の方の高齢化により、耕作放棄地が増加しています。地方自治体では、そんな土地の現状を確認したり、他の使い道がないか調整をしたりしなければなりません。これまでは現地に訪問する必要があり、膨大な時間がかかるという課題がありました。

その課題を解決するために、地方自治体とともに開発したのがアクタバです。衛星データは、現在の農地の画像だけでなく、先月、1年前と、過去にさかのぼってデータを確認することができます。それにより、過去と現在の様子を比較して、農地が耕されているかどうかがわかるんです。結果、人が見に行かなければならない場所が減り、地方自治体の農地調査の効率化が可能になりました。

自治体で最初に実証実験を行っていただいたのが、下呂市農業委員会様です。その実験では、最低でも4日かかっていた農地のパトロール作業を1日半まで短縮することができ、農業水産大臣賞も受賞しました。

デタバは、作付け調査を効率化できるアプリです。作付け調査とは、農業事業者から申請された作付けが適正に行われているか判断するための現地確認調査で、地方自治体の担当者が現場の農地に出向いて目視での確認調査を行っていました。作物の種類に関して、画像認識の機械学習を重ねることによって、画像を取り込むだけで農地の面積と作物の種類とを高精度で推測することを可能にしたのがデタバです。アクタバと同様に、作付け調査にかかる工数を減らすことが出来ます。

農地調査の効率化に大きく貢献しているアクタバとデタバですが、ここに至るまでには、農林水産省との議論も重ねました。例えば、もともと農林水産省が作成する農地パトロールの実施要綱には、「目視でしなければならない」という記載がありましたが、「衛星データの活用もできる」というルールに変えてもらうこともしました。そのおかげで現在は、尾道市や静岡市といった他の地方自治体などでも導入が進んでいますね。

土壌分析で肥料の最適化を実践

ー続いて、御社が開発したもう1つの技術である「土壌分析」についても教えてください。

坂本さん:

衛星データは、画像だけでなく、赤外線などの約12種類の波長もとっています。その波長データを分析することで、土壌に含まれる窒素の量や、酸性アルカリ性といったpH値を推測できるAI技術が「土壌分析」です。

土壌の状態を知るメリットは、適切な肥料の量がわかり、肥料のコストを削減できる点です。窒素が少なければ多めにまかないと作物が育ちません。逆に、窒素が多ければまく肥料は少なくても問題ありません。肥料は輸入をしている国が多いので、現在、各国で値段が高騰しています。だから、肥料の使用量を最適化できるとコスト削減ができるんです。

これまで、農家の方が土壌の状態を把握するための土壌分析は、スコップで土を掘り、その土を検査機関へ送付して、調査結果を待たなければなりませんでした。これらは、非常にお金と時間がかかっていたため、実施率も低く、それらを安価・広域で実施できる営農アプリ「Sagri」を提供しています。

Sagriには、作物の生育状況を見える化できる機能もあるので、広い農地を管理している場合、「優先的に作業が必要な場所」から効率的に農作業ができるようになります。日本では、広い圃場の管理や土壌分析にコストがかかりすぎるという課題があったJA秋田しんせい様で実証実験を実施するなど、JA中心に導入されていますね。

海外ではインドの農業系の民間企業やベトナムの農協が導入しています。それらの新興国では肥料の高騰が課題になっているのはもちろん、肥料の使用量は、親や村などで慣習的に決められており、データに基づいた散布がおこなわれていませんでした。国連FAOのデータを見ても、インドやベトナムでは過剰な化学肥料の使用があると読み取れます。そのため、Sagriを使うことで、最適な肥料の量を知りコスト削減ができたと、非常に喜んでもらっていますね。

ーSagriは海外でも導入が進んでいるのですね。海外ならではの活用方法はありますか?

坂本さん:

インドを含めた新興国では、金融機関が農家にお金を貸そうとしても、所得データが可視化されておらず、銀行口座も保有していない方が多いので、信用スコアを取る手段がありませんでした。

そこでSagriを「どれだけの面積の農地を持っているのか」「何の作物を作っているのか」といった情報を読み取り、お金を貸す相手の収入の概算を割り出すことに使っています。そして、低所得者向けの小規模貸し付けなどの金融サービスであるマイクロファイナンス機関へのデータ提供を始めました。

農家の方がお金を借りることができると、追加の投資をして収入を増やすことにもつながります。今後は、Sagriを肥料の最適化を計るツールとしてだけでなく、農業系のデータを集積するプラットフォームとして、保険や融資も含めた分野への横展開にも力を入れていきたいですね。

「農家の収入を増やす」カーボンクレジット事業は、サグリのビジョンに合致した

ー御社では、「カーボンクレジット事業」もスタートされています。カーボンクレジットという分野に取り組もうとお考えになったきっかけを教えてください。

坂本さん:

会社設立の経緯で、ルワンダに訪れた坪井が設定した目標は「農家の収入を増やすこと」であるとお話しました。ただ、アクタバ、デタバ、Sagriというサービスは、費用を最適化することでコストを下げることはできますが、直接的に農家の収入を増やすことには寄与しません。

そこで、温室効果ガスの排出削減量を企業に販売することができ、農家の収入に直結する「カーボンクレジット事業」をスタートしました。私たちが使ってる衛星のデータは、広い面積を見られるうえ過去にさかのぼってデータを確認できます。また、サグリが有するAIポリゴンと土壌分析の技術と組み合わせることで、人手やコストをかけなくても、温室効果ガスの削減量を算出できる点は強みになると考えました。

具体的には、インドやベトナム、タイなどの新興国の農家向けに、Sagriを活用して現在の化学肥料の量を減らして、温室効果ガスを削減する取り組みです。

温室効果ガスを構成する基本的な要素は、二酸化炭素とメタン、そして一酸化二窒素になります。実はこの一酸化二窒素は、二酸化炭素の300倍の温室効果があるともいわれます。化学肥料を減らすことで削減できるのが、この一酸化二窒素です。

ですから農家にとっては、Sagriを導入すると肥料コストが下がることに加えて、カーボンクレジットによって副収入が得られる一石二鳥になります。ただ、これをデジタルやカーボンクレジット、衛星などにあまり馴染みのない海外の農家の方に説明して納得してもらうのは、一筋縄ではいきませんね。

とにかく私自身が出向いて、現地の人たちに直接会ってコーヒーやお酒を一緒に飲みながら、「お金稼ぎをしに来てるんじゃない」「農家の方の収入を上げたいんだ」ということを信じてもらわないと始まりません。いくら優れた技術を持っていても、簡単に話が進むわけではないのだと身に染みて感じます。当たり前のようですが「信頼関係の構築」が一番大切ですね。

ー今後の展望を教えてください。

坂本さん:

特に力を入れていきたいのは、カーボンクレジット事業です。

現在展開しているアジアのみならず、中南米やアフリカも含めた海外の農地でカーボンクレジット事業を進めて、農家の方の生活を改善していきたいと考えています。

もちろんカーボンクレジット事業では、農家の課題だけではなく、気候変動の課題、温室効果ガスの削減も同時にできます。この2つを解決することで、「人類と地球の共存を実現する」というサグリのビジョンを達成していこうと思います。

関連リンク

サグリ株式会社:https://sagri.tokyo