オーストラリアのケアンズに位置する熱帯雨林は、世界自然遺産として1988年に登録されました。
毎年多くの観光客が訪れる熱帯雨林で人気のアクティビティ・Skyrailは、熱帯雨林を一望できるケーブルカーとして1995年に作られました。
大自然のど真ん中にケーブルカーを建設する上でさまざまな工夫を凝らしているのはもちろん、自然環境や生態系に影響が出ないような運営体制が敷かれている点も特徴です。
この記事では、そんなSkyrailが自然と共存するために行うエコ活動について見ていきましょう。
ケアンズの熱帯雨林
ケアンズの熱帯雨林は「デインツリー熱帯雨林(Daintree Rainforest)」と呼ばれており、ケアンズの市街地から120kmほど北上した場所に位置しています。
規模はデインツリー川の北側に位置するクックタウンや西側のグレート・ディバイドまで広がる約1,200平方キロメートルに及び、世界最古の熱帯雨林として知られています。
約920種類もの木々が生息しており、ポッサム、ヒクイドリ、カワガメ、ニシキヘビ、マングローブオオトカゲ、ジョンストンワニ、アマガエル、オーストラリアンタランチュラ、リーフテールヤモリといったバリエーション豊富な野生動物が見られる特殊な自然環境が魅力です。
Skyrailは世界遺産の熱帯雨林を一望できるケーブルカー
1995年に運営が開始されたSkyrailは、熱帯雨林を真上から一望できる観光スポットとして人気を博しています。
ケアンズの市街地から車で15分程度の場所に位置するSmithfieldターミナルからKurandaまでを結んでおり、観光客は終点のKurandaで下車した後でキュランダ村周辺を散策できるようになっています。
Skyrailは全長7.5kmにも及び、建設された当時は世界一長いケーブルカーとして知られていました。
SmithfieldターミナルからKurandaまでのおおよその乗車時間は45分~2時間程度とされており、観光客はRed peakとBarron fallsの2か所で途中下車が可能です。
いずれも熱帯雨林の目玉スポットで、上から熱帯雨林の様子を観察するだけなく、大自然を間近で見られる点が人気の理由です。
Skyrailは観光客にスロートラベルを楽しんでもらうという目的で作られているため、自身のペースで熱帯雨林の中を自由に過ごせる仕組みになっています。
尚、Skyrailは6人乗りのゴンドラが114台完備されており、一部には床がガラス張りのゴンドラも設置されています。
Skyrailが取り組む環境保全とは?
世界自然遺産である熱帯雨林の中に位置するSkyrailでは、自然環境を守りながら運営するためのさまざまな取り組みが行われています。
以下では、建設やマネジメントにおけるSkyrailの環境保全活動をご紹介します。
建設前の生態系リサーチ
Skyrailを建設するにあたって、最も懸念されたのが熱帯雨林の生態系への影響です。
全長7.5kmものケーブルカーを作るとなると、建設による騒音や機材が周辺の野生動物や植物に悪影響を及ぼす可能性も高くなります。
そこで、Skyrailは建設プランが立ち上がった1987年から1994年までの7年間にかけて、環境影響調査、報告書と評価、地元関係者との協議と承認プロセスなどを行いました。
熱帯雨林に生息する動植物の種類を確認するのはもちろん、希少種や絶滅危惧種の位置関係や生息地などのリサーチを徹底し、建設による生態系破壊のリスクがないことを把握した上で建設をスタートさせました。
建設前の落ち葉・表土の収集
建設が決定した後、Skyrailでは熱帯雨林の中の落ち葉と表土を収集・備蓄しました。
どんなに生態系への影響が低くても、新しくケーブルカーが導入されることで臭いに敏感な野生動物などが警戒する恐れもあります。
ケーブルカーの建設後も野生動物が同じ場所に生息できるように、Skyrailはケーブルカーの設置が終わり次第集めた落ち葉と表土を熱帯雨林の中に置くことを計画していました。
また、建設中に除去をやむなくされた植物の苗木に関しては、各現場でリスト化した上で別の施設にて繁殖させ、建設完了後にリストに掲載されている場所に戻しています。
熱帯雨林に影響を与えない建設方法
ケーブルカーを繋ぐ目的の下、熱帯雨林の複数個所に塔が立てられています。
ケーブルカーから熱帯雨林を一望するには塔を熱帯雨林の中心部に建設する必要がありましたが、機材などを使うと生態系に影響を及ぼす可能性があります。
そのため、建設された塔はほぼすべてが手作業で作られており、シャベルなどを使って深さ5mもの穴を掘ったとされています。
塔の建設後も、機材を運ぶための道路などを作ると野生動物が生息地を変える恐れがあったため、作業員が毎日機材を抱えて塔まで足を運びました。
片道1時間程度の道を往復して作業は行われ、人が運搬するのが困難な重い物に関してはヘリコプターを使用しました。
尚、ヘリコプターに関しても生態系へ異常を来さないように規定が設けられており、建設に関する環境負荷低減を実現した施設として高い評価を受けています。
太陽光発電システムの採用
建設時の持続可能性に力を入れていたSkyrailですが、完成後も環境負荷低減を目指すために再生可能エネルギーを導入しています。
Skyrailの各ゴンドラの上部にはソーラータイプが装備されており、通信システムへの電力供給に太陽光発電を利用しています。
発電時に排出される二酸化炭素量の削減に繋がるため、長期的に環境保全に貢献できる観光地としての役割を果たしています。
レンジャーによるエコガイド
Red peakとBarron fallsの2か所で途中下車可能なSkyrailですが、Red peakでは終日レンジャーによるツアーやエコガイドが実施されています。
レンジャーとはオーストラリア国内の自然公園や動物保護区などで働くスタッフのことで、自身が働く分野における高い専門知識を持ち合わせています。
レンジャーのエコガイドはケアンズの熱帯雨林の生態系や重要性を啓発するという目的の下に行われており、観光しながら人々が環境について学習・再認識する機会を提供しています。
電気自動車充電ステーションの完備
Skyrailの乗車場所のひとつであるSmithfieldターミナルに設置されているのが、電気自動車用の充電スポットです。
Smithfieldターミナルからケアンズの市街地までは13kmほどあり、Skyrailは観光客向けにシャトルバスサービスを提供しています。
しかし、シャトルバスサービスは本数が比較的少ないため、利便性を優先して車でSmithfieldターミナルまで移動する利用客も多いのが特徴です。
SkyrailはSmithfieldターミナルに電気自動車用の充電スポットを完備することで、持続可能性が高い電気自動車ユーザーのサポートを行っています。
テクノロジーの活用による紙類の廃止
Skyrailではリサイクルプログラムに力を入れており、オフィスや現場にて紙、段ボール、ゴム、ガラス、プラスチック、アルミニウム、その他の金属、燃料、油をはじめとするさまざまな素材の廃棄物削減を目指しています。
そんな中でSkyrailが導入したのが、観光客向けの音声ガイド及び通訳アプリです。
従来は紙のパンフレットなどを配布していたものの、A4紙13,000枚を生み出すのに木を1本切り倒す必要があります。
Skyrailには年間100万人の観光客が訪れるため、伐採や廃棄物による環境負荷を懸念して現在では紙ベースから電子ベースに切り替えています。
コーヒー粉の再利用
Skyrailでは、併設しているキャノピーカフェから出るコーヒー粉の余りを堆肥化しています。
堆肥化された後はSmithfieldターミナルの庭園エリアに肥料として撒かれており、廃棄物の削減と植物の育成の両方に役立てられています。
まとめ
熱帯雨林の中に位置するSkyrailは、自然との共存を目的にさまざまな保全活動を行っています。
また、現地の自然環境や生態系だけではなく、気候変動への影響を最小限に抑えるために廃棄物の削減、再生可能エネルギーの導入、リサイクルなどにも力を入れています。
熱帯雨林を訪れる機会があったら、ぜひSkyrailに乗って大自然の魅力を感じてみてはいかがでしょう?