特別栽培農産物とは|メリット・デメリット、有機農産物との違い

SDGs目標への認識が高まってきた近年、環境に優しい農業や安心して食べられる農産物への関心が高まっています。ここで気になるのが「特別栽培農産物」「有機農産物」などの表示です。

ほかにも「無農薬」「天然栽培」「自然栽培」など、さまざまな表示の農産物を目にすると思います。しかし、実は「無農薬」「天然栽培」「自然栽培」などの表示は違反行為です!特別栽培農産物を中心に、有機農産物との違いや近年の農業事情など、私たちに欠かせない食について知識を深めましょう!

特別栽培農産物とは

特別栽培農産物とは、その生産地域の一般的な化学肥料・化学合成農薬の使用量に比べて化学肥料の窒素成分が50%以下、化学合成農薬の使用回数が50%以下で栽培された農産物です。この表示のためには化学肥料・化学合成農薬のどちらも基準以下の使用である必要があります。

【特別栽培農産物と表示できる基準】

特別栽培農産物は農林水産省の「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」によって規準が定められています。

特別栽培農産物に係る表示ガイドラインには何が書かれている?

「特別栽培に係る表示ガイドライン」には、

  • 適用の範囲
  • 生産の原則
  • 定義
  • 表示ガイドライン
  • 生産及び出荷の管理方法
  • 特別栽培米の精米確認の方法
  • 情報の提供
  • その他

について書かれています。

1992年10月に制定されて以来たびたび改正され、2022年8月現在では2007年3月に改正されたものが最新です。

特別栽培農産物の認証機関はある?

特別栽培農産物の表示ガイドラインには、

”確認責任者は、確認内容の信頼性を高める上から、栽培責任者と同一ではなく、当確地域の農業に精通し、技術的な指導が可能であることが望ましい。”

引用:農林水産省『特別栽培農産物に係る表示ガイドライン』p.8(2007年3月改正)

と書かれています。

具体的な認証機関は書かれていませんが、その地域の農業に精通していて技術的な指導ができる立場であるという条件から、農林水産省は特別栽培農産物の認証に関しては、

  • 各地域の農政局にある事業支援部食品企業企画課
  • 沖縄県は沖縄総合事務局農林水産部消費・安全課

に問い合わせ先を設定しています。

特別栽培農産物の規準

特別栽培農産物の認証には、生産者からの生産計画の提出から始まり、確認責任者はその内容が基準を満たしているかの確認した上で、栽培期間中に最低1回は現地に行き、生産の状況・栽培管理記録の記載状況を調査することが定められています。

簡単にまとめると

つまり特別栽培農産物と表示して販売するためには、

  1. 生産者が確認責任者に生産計画を提出
  2. 確認責任者は生産計画が特別栽培農産物の基準を満たしているか確認
  3. 生産者は生産計画のもと、栽培管理の記録をする
  4. 確認責任者は最低1回は栽培の状況・栽培管理記録の記載状況を確認に行く
  5. 確認責任者は栽培の状況が適正でない可能性がある場合は調査する
  6. 販売者は定められた内容を農産物に表示する(容器・包装・テープ・パネルなど)

という段階を踏む必要があります。*1)

特別栽培農産物のルール

特別栽培農産物には、

  • 表示・転記
  • 表示事項
  • 表示の方法
  • 流通関係者の義務
  • 表示禁止事項

という項目ごとに詳細な規定があります。

この中から表示事項・表示方法・禁止事項のルールについて見てみましょう。

表示事項のルール

特別栽培農産物は表示事項として

  • 特別栽培農産物の名称
  • 「特別栽培に係る表示ガイドライン」に準拠している旨
  • 栽培責任者の氏名または名称(会社名・団体名など)と住所・連絡先
  • 確認責任者の氏名または名称と住所・連絡先
  • 特別栽培米では精米確認者の氏名または名称と住所・連絡先
  • 輸入品の場合は輸入業者の氏名または名称と住所・連絡先

の明記が必要で、とても徹底した内容であることがわかります。

農薬・化学肥料を使用していない場合

さらに、

  • 農薬を使用していない
  • 節減対象の農薬を使用していない
  • 窒素成分を含む化学肥料を使用していない

という条件に当てはまる特別栽培農産物は、ガイドラインに沿って表示することが定められています。

農薬・化学肥料を減らして栽培した場合

窒素成分を含む化学肥料や節減対象農薬を使用している特別栽培農産物は、その節減割合と使用した農薬の名称・用途・使用回数も別途表示します。

表示方法のルール

表示方法のルールでは、先述の表示事項の書き方や、それらを他と明確に区別できる枠内に表示することなどが定められています。

【特別栽培農産物の表示例】

禁止事項

禁止事項では指定の表示事項以外のことを枠内に書いてはいけない旨のほか、消費者を混乱させる紛らわしい表現の表示を禁止しています。例えば、

  • 特別栽培農産物を表示した場合「天然栽培」「自然栽培」などの用語※
  • 実際の品質よりも大幅に良いと誤認させるような用語
  • 通常の栽培方法に比べて大幅に良いと誤認させる用語
  • ガイドラインと矛盾する用語
  • その特別栽培農産物の栽培方法・品質などを誤認させる文字・絵・写真などの表示
  • 「無農薬栽培農産物」「無化学肥料栽培農産物」「減農薬栽培農産物」「減化学肥料栽培農産物」などの表示

が、明確に禁止されています。*2)

※従来より明確に確立された農法の名前に「自然~」などの言葉を含む場合は、ガイドラインの一括表示の枠(特別栽培農産物の表示例参照)外であれば表示可能

特別栽培農産物と無農薬・有機農産物との違い

特別栽培農産物と、「無農薬」「有機農産物」との違いは重要なポイントです。後述の「有機農産物」の規格基準が厳しくなったこと、「無農薬」「天然栽培」「自然栽培」など紛らわしい表示が多くなったことから、有機農産物の規格には当てはまらない農産物で、減化学肥料・減化学農薬で栽培されたものの信頼できる表示として「特別栽培農産物」の基準が定められたのです。

【古代エジプトでの農業の様子】

はるか昔、農業は自然から手に入るものだけで作物を栽培していました。科学の発達と収益を追求した大量生産型の農業が始まり、後に環境や生き物の健康への影響が問題となり、このような信頼できる表示の明確化が必要になったと言えます。

それでは、よく目にする「無農薬」「有機農産物」との違いを確認してみましょう。

無農薬との違い

無農薬とは農薬を一切使わずに栽培することです。しかし、「無農薬」と表示された農産物から農薬が検出されたり、「全く農薬を使用していない」「節減対象農薬は使用していないが、それ以外の農薬は使用している」など、しばしば消費者にとって混乱を招く問題が起こりました。

これらのトラブルを防ぐため、先ほど禁止事項にあったように、農産物に「無農薬」とは表示できないことになっています。実際、「無農薬」を保証するのはとても難しいうえに、近年では植物・昆虫・微生物などが持つ力を利用した化学合成物質に頼らない農薬も研究・開発が進んできていることから、農産物の栽培において「無農薬」と表示すること自体、将来的に意味を失うかもしれません。

【ハダニを捕食するカブリダニとハダニの天敵を増やすためのリンゴ園の下草】

有機農産物との違い

有機農産物と特別栽培農産物の違いは、ここまで特別栽培農産物のガイドラインを見てきた人には明白ですね!

特別栽培農産物は、

  • 化学肥料の窒素成分が50%以下
  • 化学合成農薬の使用回数が50%以下

これに対し有機農産物とは、

  • 化学肥料・化学合成農薬の使用を避ける
  • 環境への負荷をできる限り低減している
  • 周囲から使用禁止の農薬などが飛来・流入しないよう配慮する
  • 種まき・植え付け前2年以上化学肥料・化学合成農薬を使用していない
  • 遺伝子組み換え技術や放射線照射を利用しない

などの「有機農産物の日本農林規格」の規準に従って生産された農産物です。この基準に適合していることが認証されると「有機JASマーク」の使用が許可され、有機農産物に「有機〜」などの表示ができます。

【有機JASマーク】

上記の厳しい規格に合格していない農産物に「有機〜」などの表示はできません。また、無農薬・無肥料で栽培しているわけではなく、化学合成物質に頼らず自然界の力を利用して生産されているところも注目すべき点です。

そこで特別栽培農産物という新たな認定基準を作ることにより、これから有機農業へと転換する生産者の1つのステップとしてはもちろん、規模・手間・収支のバランスなどから有機農業への転換は現実的でない生産者でも「特別栽培の規準なら」と、減化学肥料・減化学合成農薬を推進する目的があります。*3)

【有機農業の仕組み】

【関連記事】自然栽培とは?特徴と環境にやさしいメリット、SDGsとの関係も

特別栽培農産物のメリット

【兵庫県豊岡市:コウノトリとの共生に取り組む農業】

特別栽培農産物や有機栽培農産物は明確な規格が設けられ、その認定を受けていない農産物にはそれらの用語を使って販売してはいけないほか、紛らわしい表現で消費者を混乱させる表示も禁止されていることがわかりました。先述のような規定をクリアした特別栽培農産物には、次のようなメリットがあります。

環境保全型農業の推進

地球の環境を守るために変わらなければいけないのは温室効果ガスを大量に排出する工業だけではありません。農業による環境破壊も実は深刻な問題です。

一般的な農産物の栽培方法での化学肥料や化学合成農薬による土壌汚染、生産者の健康への影響、残留農薬などによる消費者の健康への影響が問題になっています。特別栽培農産の生産・消費量が増えれば、それだけ化学合成物質を減らす環境保全型農業の推進を後押しできます。

【環境保全型農業技術の例】

【関連記事】環境保全とは?農業や企業の取組事例、私たちにできること

作る人・食べる人・周りの生き物に優しい

特別栽培農産物は一般の農産物の栽培方法に比べて大幅に化学合成物質の使用を減らして栽培されています。化学合成物質に頼らず生産される有機農産物はもちろんのこと、特別栽培農産物も一般の栽培方法で生産された農産物より環境・生産者の健康・消費者の健康に優しいと言えます。

持続可能な農業への挑戦

先述のように、農業における化学合成物質の使用は、SDGsの観点からもできる限り減らしていく必要があります。利益を最重視した大量生産の農業による土壌汚染や人体への健康被害を無視した農産物の生産は、このまま蓄積を続ければ近い将来取り返しのつかない事態を招く恐れがあります。

高度経済成長期以前に日本の至る所でも見られた里地里山の農業のように、自然と共に循環し、環境や生き物に害を与えない持続可能な農業が求められています。生産者が特別栽培農産物の規格に準じた栽培方法を選択し、消費者がその価値を理解し購入することにより、農業が持続可能な栽培方法へと転向していく後押しとなります。*4)

【岐阜県高山市:天空の棚田 滝町棚田】

特別栽培農産物のデメリット

環境や人体に影響を及ぼす化学合成物質を減らして農産物を生産することに、大きな視野で見てデメリットは存在しません。しかし、消費者の農産物の購入価格や、生産者の栽培時の手間の面ではデメリットとも言えることがあります。

【アヒル農法で栽培している田んぼ】

見た目では効果がわかりにくい

特別栽培農産物は、一般的な栽培方法で栽培された農産物と比べてみても、見た目で違いを見分けるのは困難です。「安心できるから」「おいしい」「環境のためになるから」という声はありますが、特別栽培農産物を選択することによる環境や生き物の健康への影響は、長い期間を経なくては効果がわかりにくく、すぐには利益の得られる物ではありません。

化学肥料・農薬を減らすので手間・コストがかかる

化学合成物質は、

  • 肥料(成長促進)
  • 虫や雑草の駆除
  • 病気から守る

など、農業生産の多くの場面で、安価で強い効果を発揮します。これを使用しない、または特別栽培農産物の基準に合格できるほどに減らすと、代替となる有機肥料や化学合成ではない農薬類は高価であったり、化学合成物質より効果が穏やかであったりして、一般の栽培方法より生産者に手間やコストがかかります。*5)

しかしこれらのデメリットも理解しつつも

  • 安心・安全
  • 環境への負荷を軽減
  • 持続可能な産業

などのために、特別栽培農産物や有機農産物を選択することは、SDGs目標達成への貢献にもなります。

【関連記事】

SDGs2「飢餓をゼロに」の現状と取り組み事例、私たちにできること

SDGs15「陸の豊かさも守ろう」現状と取り組み、私たちにできること

まとめ:特別栽培農産物でSDGs目標達成に貢献!

現代には食糧不足・農業従事者の不足・異常気象・土壌汚染など深刻な問題が多くあります。これらは政府や農産物の生産者だけが努力しても簡単には解決できません。

あなたも地球の未来のために貢献する選択として「特別栽培農産物」や「有機農産物」を食材として取り入れてみましょう!すぐには効果が分かりにくいかもしれませんが「目先の利益だけにとらわれず、持続可能な社会を目指す」というSDGsの根本とも言える信念を持ち、できることから行動してみることが大切です。

〈参考・引用文献〉
*1)特別栽培農産物とは
農林水産省『特別栽培農産物に係る表示ガイドライン』
*2)特別栽培農産物のルール
農林水産省『やってみよう!農業環境規範』
農林水産省『特別栽培農産物に係る表示ガイドライン』p.11(2007年3月改正)
*3)「無農薬」「有機農産物」との違い
農林水産省『“<w天>防除体系”~薬剤抵抗性が発達しにくい、天敵が主役の新しい果樹のハダニ防除』
農林水産省『有機食品の検査認定制度』
農林水産省『【有機農業関連情報】トップ ~有機農業とは~』
*4)特別栽培農産物のメリット
環境省『環境保全型農業をめぐる事情』p.7(2015年1月)
農林水産省『平成18年度 食料・農業・農村白書(4)環境保全型農業の推進』
農林水産省『滝町棚田』
*5)特別栽培農産物のデメリット
環境省『環境再生レポート』(2020年12月)
*6)まとめ:特別栽培農産物でSDGs目標達成に貢献する!
農林水産省『【有機農業関連情報】トップ ~有機農業とは~』