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ステレオタイプの意味とは?身近な具体例や偏見にならないための言い換え表現・使い方

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「女子は文系が得意。男子は理系が得意」「日本人は集団主義で、アメリカ人は個人主義」「A型の人はきちょうめん」と聞いて、何か感じることはありましたか?実は、これらは差別や偏見にもつながる「ステレオタイプ」と呼ばれている先入観や思い込みです。普段の生活の中で何気なく言葉に出したり、行動したりしていることもあるかもしれません。

この記事では、ステレオタイプとは何か、具体例、メリット・デメリット、ステレオタイプをなくすためにできること、SDGsとの関係を解説します。

ステレオタイプとは

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ステレオタイプとは、多くの人に浸透している先入観や思い込みのことです。例えば、「女性はか弱くておとなしい」「日本人はメガネをかけていてまじめ」など、性別や国籍といった、ある属性を持つ人に対して作られたイメージが該当します。

「ステレオタイプ」という言葉は、100年ほど前に使われていた、鉛の板(ステロタイプ)に紙を当てて印刷すると同じ文字の印刷物を大量に生産できるという印刷技術が語源と言われています。これになぞらえ、「マスメディアがイメージを大量生産する」という意味の例えとして用いられるようになりました。具体的には、マスメディアによって作られたイメージが拡散して、ステレオタイプとして人々に定着することを言います。※[i]さらに現代では、マスメディアに加えてSNSなどによるネット・コミュニケーションによっても、ステレオタイプが作られている状況です。※[ii]

バイアスとの違い

ステレオタイプと似た言葉に「バイアス」があります。バイアスの意味は、「偏り」「傾向」または「偏見」「先入観」です。例えば「バイアスがかかる」と言うと、何らかの原因によって偏りが生じている状況を指します。また、「ジェンダーバイアス(性的偏見)」は、「女の子はピンク」「男の子は青」など、男女の役割を固定的に考えることです。

ステレオタイプもバイアスも、「先入観」という意味は同じです。ただし、ステレオタイプがマスメディアによって作られた「パターン化されたイメージ」であるのに対して、バイアスはステレオタイプの情報に存在する「傾向」と捉える場合があります。現代のメディアに例えると、情報検索している際の検索エンジンのアルゴリズムやSNSのタイムラインは、利用者の指向などの傾向に合わせて出てきます。そうすると、メディアというステレオタイプの中でも偏った情報しか目にしないため、バイアスを生む可能性があります。※[iii]とはいえ、両者の意味をはっきりと区別せずに使用されているケースも多いのが実情です。

ステレオタイプの言い換え表現

ステレオタイプは、「固定観念」(いつも頭から離れないで、周囲の状況の変化に応じることが困難であること)や、「既成概念」(すでにでき上がり動かしがたいもの)と言い換えることができます。

ステレオタイプという言葉には一方で、「物事の見方や表現方法が型にはまっていて新鮮味がないことやその様子」という意味もあります。そのため、「物事のやり方が一定の型にはまっている」という意味の「紋切り型」に言い換えることが可能です。他には、「型どおり」や、文脈によって「類型」「画一的」と言い換えると分かりやすい場合もあります。※[iv]

ステレオタイプの具体例

ステレオタイプは、日常生活の中であまり意識することのない観念を含んでいる場合があります。具体的な例を見ていきましょう。

ジェンダー

  • 「男性は仕事、女性は家事・育児に向いている」
  • 「女子は文系が得意。男子は理系が得意」
  • 「男性は女性よりもスポーツが得意だ。女性は男性よりも器用だ」

ジェンダーとは、社会的・文化的な面から見た性を指します。実際に仕事や家事・育児に向いているのは、性にかかわらず個人の性格や能力によるものです。「男性だから〇〇」「女性だから〇〇」とひとくくりには言えません。また、「女性らしさ」のような「らしさ」もステレオタイプの一種です。現実は、「らしい人」ばかりではありません。結果的に、「らしくない人」を例外のように決めつけてしまうことになります。

【関連記事】ジェンダーバイアスとは?身近な例や解消に向けた取り組みも

人種・国籍

  • 「日本人は集団主義で、アメリカ人は個人主義」
  • 「イタリア人は陽気」
  • 「アフリカ系アメリカ人(黒人)は犯罪者の確率が高い」

ある人種や国籍に対して、特定のイメージが広まっているケースがあります。例えば、ある人種の犯罪率が高いというステレオタイプを持つと、それに該当する人物を捜査対象にする傾向が強くなるという問題があります。※[v]これは、「レイシャル・プロファイリング」とも呼ばれ、世界的な問題になっています。ナイジェリア人の父と日本人の母を持つ男性は、日本で暮らす中で、中学生から27歳までの間に30回以上の職務質問を受けたと言います。※[vi]ステレオタイプは、人権の問題に発展しています。

地域性・県民性

  • 「都会の人は冷たい」
  • 「東北弁は素朴でなまりがある」※[vii]
  • 「京都の人は本音と建て前を使い分ける」

特定の地域や県民性について、実体験としては知らないけれども、何らかのイメージを持っている場合があります。しかし、個人の体験に基づかないイメージは、ステレオタイプである可能性が高いことも事実です。数名の知り合いだけで、その地域性や県民性を判断するのは実際に難しいでしょう。また、その方言をよく知らないのに、ステレオタイプ化されたイメージを受け入れていることもあるのが、方言のステレオタイプの特徴です。

血液型

  • 「A型の人はきちょうめん」
  • 「B型の人はマイペース」
  • 「O型の人は大ざっぱ」

血液型のステレオタイプは、相手の性格を判断する1つの材料として使われるほか、相性占いなどの娯楽性を持っています。もともと血液型ステレオタイプに学術的な根拠はありません。しかし、今日まで日本の社会に長く広く広がっているのも事実です。血液型ステレオタイプは、人に対して誤った判断をしたり、否定的なイメージにより偏見を持ったりする問題があります。血液型性格判断を娯楽として楽しむ一方で、ステレオタイプにも気を付けることが必要です。

ステレオタイプにはメリットもある?

ここまで見てきたように、自分で確認したわけではないのに、特定のイメージを持っている場合が多くあります。また、社会的に共通したステレオタイプも存在していることも事実です。こうしたステレオタイプは、差別や偏見につながる危険性も含んでいますが、悪いことばかりではないという意見もあります。

情報を圧縮して取り入れられるという考え方もできる

ステレオタイプという言葉を生み出したのは、アメリカのジャーナリスト、政治評論家のウォルター・リップマンです。リップマンは1922年に出版された著書の中で「ステレオタイプは、情報を効率よく理解するためのパターン化されたイメージである」と述べています。※[viii]私たちの周囲にはさまざまな情報であふれています。それらをパターン化することで、多量な情報を圧縮して取り入れることができるという考え方もあります。

とはいえ、一般的にはステレオタイプに対してメリットを見出すケースは少ないと言えるでしょう。

ステレオタイプのデメリット・弊害

ステレオタイプが多量な情報を圧縮するという点では、さまざまなメディアに囲まれて生きる忙しい現代人にとって有用であると考えることもできるかもしれません。しかしそれ以上に、デメリットや弊害の方が多く存在します。主な2つのポイントを見ていきましょう。

誤った認識を持ってしまう

ステレオタイプの中には、現実と異なるものもあります。それを思い込んだり決めつけたりしては、誤った認識を持つことになりかねません。特に否定的なステレオタイプは、差別や偏見につながる恐れがあります。偏見は生まれたときから持っているものではなく、環境や教育によって形成されます。ステレオタイプを刷り込まれることによって嫌悪や軽蔑といった感情を持ち、特定の人を避けるなどの行動は差別です。しかし、メディアから入ってくる情報が正しいかをすべて確認することは不可能です。こうした状況は、非常に危険であると言えるでしょう。

心理と行動に影響する場合も

もう1つは、ステレオタイプによってレッテルを貼られると、人間の心理と行動に影響を及ぼす場合があることです。ある実験の例をご紹介しましょう。アジア人の理系の女子を2グループに分けて、1つには「女子は数学が苦手」、もう1つには「アジア人は数学が得意」と刷り込みます。実際に問題を解いてもらうと、前者の成績は悪く、後者は良かったという結果になりました。この実験の結果は、「女子は数学が苦手」というステレオタイプが、「ステレオタイプを実証してしまったらどうしよう」という不安や思考停止状態に学生を追い込んでいると分析されています。※[ix]ステレオタイプは、心理や行動にも影響する可能性があることは、一種の脅威と言えるでしょう。

ステレオタイプをなくすためにできること

ステレオタイプは、人の認識や心理、行動に影響する大きな問題です。しかし、マスメディアやネット社会の中で暮らす現代の私たちは、ステレオタイプから逃れることは難しいでしょう。それでもできることはあります。2つのポイントを確認していきましょう。

複数の情報源を確認する

1つは、メディアで得た情報を別の媒体で確認してみることです。例えば、ネットの記事を読んだら、テレビで確認してみます。テレビにもいくつかの放送局があります。それぞれの局がどのように記事のテーマを伝えているのかを調べてみるのも1つの方法です。メディアの違いによってさまざまな見方や解釈の仕方がある場合もあります。複数の情報を確認することで、ステレオタイプに陥らないようにします。

周りの人と話す

もう1つは、家族や友人など、周囲の人に話すことです。限られたメディアや情報源に頼り、知らないうちにそれらが生み出すステレオタイプに陥っているケースが多くあります。同じテレビ番組や動画チャンネル、フォローしているSNSなど、いつも決まったメディアを利用している人も少なくありません。固定的な考えになることを防ぐために、人と話して事実や認識のずれに気づくことが大切です。

これらの2つのポイントを実行すればステレオタイプに陥るのを完全に免れる、というわけではありません。しかし、ステレオタイプの存在を意識することで、物事への理解をより深め、必要な情報を活用していく力になります。今後も進んでいく情報社会においては、ますます重要な力になるでしょう。

ステレオタイプとSDGs

最後に、ステレオタイプとSDGsの関係について確認しましょう。ステレオタイプは、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標10「人や国の不平等をなくそう」と関係があります。

目標5「ジェンダー平等を実現しよう」

目標5「ジェンダー平等を実現しよう」は、すべての女性・少女に対する差別や暴力をなくすことを目指しています。また、政治や経済、公共の場において、女性の参画と平等なリーダーシップの機会を確保することもテーマの1つです。

ステレオタイプは、先入観や思い込みにより差別や偏見を生む危険性があります。また、ジェンダーによるステレオタイプは、女性の活躍の場を狭めることにつながる場合もあります。差別や偏見を生まないためにも、ステレオタイプに気を付けることはSDGsの目標の達成に貢献するでしょう。

目標10「人や国の不平等をなくそう」

目標10「人や国の不平等をなくそう」は、2030年までに年齢、性別、障がい、人種、民族、出自、宗教にかかわらず、社会的・経済的・政治的に参画する力を与えることを目標にしています。

目標5と同じように、ステレオタイプを意識することで、性別や人種、民族などの先入観や思い込みに気づくことができます。そうすることで差別や偏見がなくなれば、あらゆる人の社会的・経済的・政治的な参画が可能になるでしょう。

>>各目標について詳しくまとめた記事はこちらから

まとめ

ステレオタイプは、多くの人に浸透している先入観や思い込みのことを指します。例えば、「男性は仕事、女性は家事・育児に向いている」「A型の人はきちょうめん」などもステレオタイプです。こうしたジェンダーや人種・国籍、地域性・県民性、血液型などに対して作られたイメージも該当します。

ステレオタイプには、事実とは異なる誤った認識を持ってしまうことや、それが差別や偏見につながる危険があります。こうした危険を回避するには、マスメディアなどによって拡散されたステレオタイプを、複数の情報源により確認することです。また、周りの人と話して認識の違いに気づくことも大切です。

SDGsには、ジェンダーや人、国の平等を実現する目標が掲げられています。ステレオタイプに陥らないことで、この目標に貢献することができるでしょう。

この記事をきっかけに、自分の周りにはどのようなステレオタイプがあるかを考えてみてはいかがでしょうか。

参考
※[i] NHK for School「その思い込み大丈夫?~ステレオタイプ~ | アッ!とメディア ~@media~
※[ii] 講談社「ネットに溢れる『ステレオタイプ』と『バイアス』ここが違います」(水越 伸)ブルーバックス
※[iii] 講談社「ネットに溢れる『ステレオタイプ』と『バイアス』ここが違います」(水越 伸)ブルーバックス
※[iv] 国立国語研究所「ステレオタイプ」
※[v] Yahoo!ニュース「全米に広がる人種差別への抗議運動:『アフリカ系』というステレオタイプ」(前嶋和弘) – エキスパート –
※[vi] NHK | WEB特集「職務質問30回 身に覚えはないのに… レイシャルプロファイリングとは
※[vii] 国立国語研究所 ことば研究館- ことばの疑問 -「方言によって『素朴』『おだやか』『荒っぽい』などのイメージはあるのでしょうか
※[viii] Lippmann, Walter “Public Opinion” 1922、講談社「ネットに溢れる『ステレオタイプ』と『バイアス』ここが違います」(水越 伸)ブルーバックス
※[ix] 週刊エコノミスト Online 「Book Review:『ステレオタイプの科学』 評者・浜矩子」