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トランスジェンダーとは?特徴と性同一性障害との違いや診断方法・トイレやお風呂で困る事

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LGBTQの「T」にあたる、トランスジェンダー。生まれたときに割り当てられる性と、自身が認識している性が異なる人々のことを指します。トランスジェンダーのことを「なんとなく」知っているけど、もっと詳しく知りたいという人は多いのではないでしょうか。

この記事では、トランスジェンダーについての概説から、「性同一性障害」など関連する用語の解説、また当事者を取り巻く問題や、よくある疑問点について取り上げます。さらに後半では、戸籍上の性別を変えるための要件や、トランスジェンダーの有名人も紹介します。

目次

トランスジェンダーとは

トランスジェンダーとは、身体的性と性自認が異なる人を指すセクシャリティです。

具体的には、「男性の身体で生まれたが、自身の性別は女性であると認識している人」と「女性の身体で生まれたが、自身の性別は男性であると認識している人」がいます。

前者をトランスジェンダー女性やMtF(Male to Female)、後者をトランスジェンダー男性やFtM(Female to Male)と呼ぶこともあります。

  • 出生時は男性、性自認は女性→トランスジェンダー女性(MtF)
  • 出生時は女性、性自認は男性→トランスジェンダー男性(FtM)

そもそもLGBTQとは

セクシャルマイノリティ(性的少数者)を指す言葉としてよく使われる「LGBTQ」。このうちのTは、トランスジェンダーの頭文字です。ここで、他のL・G・B・Qの意味も合わせて確認しておきましょう

  • L…Lesbian(レズビアン:女性同性愛者)
  • G…Gay(ゲイ:男性同性愛者)
  • B…Bisexual(バイセクシュアル:両性愛者)
  • T…Trans-gender(トランスジェンダー:身体的な性別と自認している性別が異なる)
  • Q…Questioning(クエスチョニング:性自認や性的指向を決められない、迷っている)

これら5つのセクシャリティ以外にも、マイノリティであるセクシャリティは多くありますが、一般的に「LGBTQ」がセクシャルマイノリティを表す言葉として、よく使われています。ほかに「LGBT」「LGBTQIA」「LGBTQ+」などもよく見る表現ですが、どれも基本的にセクシャルマイノリティ全般を表す言葉として使われています。

LGBTQの割合に関する調査はいくつか行われており、結果にバラつきはあるものの、全人口に対して7~9%の割合で存在しているとされるケースが多いようです。つまり30人規模のクラスや職場であれば、2〜3人程度のセクシャルマイノリティがいることが想定されます。

性自認・身体的性の考え方

LGBTQ、特にトランスジェンダーについて理解するには、まず人間の性には「身体的性」と「性自認」という考え方を明確にしておく必要があります。以下に整理しましたので、まず確認してみてください。

  • 身体的性…出生時に身体構造(外性器など)によって判断される性。男性・女性のいずれか。
  • 性自認…自分自身が認識している性。男性・女性のほかにXジェンダー(男性女性のいずれにも属さない)やクエスチョニング(定まっていない・定めていない)などもある。性同一性ともいう。

ちなみに、身体的性と性自認が一致していることを「シスジェンダー」と言います。このワードもLGBTQについて語るときによく出てきますので、覚えておくと良いでしょう。

ジェンダーという言葉の持つ意味

「ジェンダー」という言葉についても知っておきましょう。ジェンダーは、身体的性(セックス)に対して社会的・文化的な意味合いによる性区別のことをいいます。性規範ということもあります。

社会には、”男性はこうあるべき”、”女性はこうあるべき”といったジェンダーが数多く存在しています。”男らしい”、”女性らしい”といった言葉が自然に使われていることからも、社会には無数のジェンダーがあることがわかります。

さらに、「あなたは男(女)だから、○○をするのが普通」というような考えには、本人の性自認に基づかずに「あなたは男(女)」と決めつけてしまっており、自分の身体的性に違和感を感じている人たちを苦しめてしまうこともあるのです。

性的指向の考え方

「性的指向」とは、ごく簡単に表すと、どの性別の人のことを好きになるかと言えます。より丁寧に言えば、「どのセクシャリティの人に恋愛感情や性的欲望が向くか」ということです。性的指向は男性・女性に限りませんし、恋愛感情と性的欲望は必ずしもセットというわけでもありません。

なおトランスジェンダーは、性自認と身体的性が異なるセクシャリティであり、性的指向については問いません。トランスジェンダーの中には異性愛者だけでなく、同性愛者、バイセクシャルアセクシャルなど様々な性的指向の人がいるということです。

トランスジェンダーとその他のセクシャリティとの違い

続いて、トランスジェンダーと混同されてしまうことがある下記4つのセクシャリティや用語について解説します。

  1. Xジェンダー
  2. トランスセクシャル
  3. 性同一性障害
  4. クロスドレッサー・トランスヴェスタイト

Xジェンダーとの違い

Xジェンダーは、「男女のどちらにも属さない」という性自認を持つ人のことを指します。

トランスジェンダーは、身体的性の反対の性を自認します。つまり身体的性が男性なら性自認は女性、身体的性が女性なら性自認は男性となります。この点において、Xジェンダーとトランスジェンダーは異なります。

Xジェンダーは、中性・無性・両性などの言葉で表されることもあります。中には中間よりは男性に近いと感じている人、女性に近いと感じている人もいるほか、日によって感じ方が異なることもあり、人によって様々です。

トランスセクシャルとの違い

トランスセクシャルは身体的性と性自認が一致しておらず、医学的な処置(性別適合手術やホルモン注射など)を用いて、身体と自認する性別の一致を望む人々のことを指します。また、処置を終えた人のこともトランスセクシャルと呼ぶこともあります。

「身体的性と性自認が一致していない」という点においては、トランスジェンダーと共通しています。またトランスセクシャルは、広義のトランスジェンダーに含まれることもあります。一方でトランスセクシャルとトランスジェンダーは別のセクシャリティであると認識している人もおり、そのような考え方も間違いではありません。「あなたは○○だからトランスジェンダーだ」と決めつけるのでなく、当事者本人が心地よいと感じるセクシャリティを認めることが大切です。

性同一性障害との違い

性同一性障害は、身体的性と性自認が一致していない状態を示す医学的な用語です。英語のGender Identity Disorderの頭文字を取って、GIDと表すこともあります。

世界保健機関(WHO)では身体的性と性自認が不一致である状態を、これまで性同一性障害として「精神疾患」に分類していましたが、2022年より「性別違和」と名称を変更し、分類も「性の健康に関連する状態」に変更されました。「障害」という言葉が含まれていることもあり、近年は使われる機会が減っています。代わりに、WHOが定める「性別違和」やアメリカの団体が定める「性別不合」という用語が使われるようになってきています。

一方で日本で性別適合手術を行う場合、性同一性障害という診断を根拠にしないと、手術を行えない現状にあります。そのため現在でも性同一性障害という言葉が使われています。

クロスドレッサー・トランスヴェスタイト

クロスドレッサーとは、身体的性とは異なる性別らしい服装(以下、異性装)を好む人のことです。トランスヴェスタイトと呼ばれることもありますが、過去には「異性装をすることに興奮を覚える人」という意味合いを持っていたことや、医学的に使われていたこともあり、ネガティブなイメージを持つこともあります。

一般的にクロスドレッサーというと、トランスジェンダーと異なり、身体的性と性自認は一致しているとする考え方が主流です。ただし、クロスドレッサーであることと性自認は相関性がないと考える場合もあります。つまり性自認が身体的性と異なる場合も、異性装を好む人はクロスドレッサーであるという考え方です。この考え方では、トランスジェンダーの人も(異性装を好む限り)クロスドレッサーに含まれるということになります。

また、クロスドレッサーであることと性的指向の相関性もありません。「女性らしい服装」を好むクロスドレッサーの男性の性的指向は、異性であることも同性であることも考えられます。

トランスジェンダーを取り巻く問題

続いては、トランスジェンダーを取り巻く問題、またトランスジェンダーについて起こるトイレ・お風呂論争などについて解説します。

問題①就職しづらく、貧困に陥りやすい

2020年に行われた調査*によると、トランスジェンダーの就業率はその他のセクシャリティの人に比べて低いことが分かっています。また年収も200万円以下の人が35%弱を占めています。つまり、トランスジェンダーは就職に困難を感じることがあり、貧困に陥りやすいということが言えます。

原因の一つに、企業が採用の際に無意識のうちに差別をしているという現状があります。とくに新卒就職の世界では、未だに男女ともスーツを着用することが推奨され、個性を出しすぎないよう指導されます。「多数派」と異なるトランスジェンダーの人は、不採用とされてしまうことも少なくないのです。

また就職した後も、上司や同僚などから差別を受け、精神的な苦痛を強いられるケースもあります。

さらに、安定した収入を得にくいなかで性別適合手術やホルモン療法などを行うトランスジェンダーもいます。2018年から性別適合手術や乳房切除は健康保険が適用されるようになりました。その一方で、ホルモン療法は薬事承認の都合から、健康保険の対象外とされています。

さらに、本来保険適用される性別適合手術も、適用外のホルモン療法と一連の治療として行う場合「混合診療」となり、性別適合手術も含めて全てが保険適用外、つまり全額自己負担となってしまいます。多くの人が性別適合手術とホルモン療法を同時に行うことから、実際に性別適合手術が保険適用となっている人は少ないようです。

このように、医療費も貧困を加速させる原因の一つとなっている現状があります。

問題②学校生活での悩み:いじめ・制服など

トランスジェンダーやその他のセクシャルマイノリティに限らず、「マイノリティ」の子どもたちは学校生活で困難を感じることがよくあります。

「多数派」と違うことによるいじめは頻繁に起こりますし、学校では性規範に基づく活動も多くあります。授業などでグループ分けするとき「男女」というカテゴライズは、未だに頻繁に行われています。このときトランスジェンダーの児童・生徒は、他の子どもたちは感じ得ない悩みを抱くのです。

また主に中学校・高校では制服の問題もあります。近年は「女子生徒がスラックスを選択することができる」という学校も増えてきています。スカートをはくことに違和感を覚えるトランスジェンダーの生徒のための他、寒さ対策、痴漢対策として導入する学校が多いようです。

なお、女子生徒用スラックスが「トランスジェンダーのために導入した」ことが前面に強調されると、様々な事情でスラックスを着用したい生徒が、着用しづらくなってしまう恐れがあります。女子生徒がスラックスを選択できること自体は良い傾向ですが、目指すべき姿は身体的性にとらわれず、生徒が着たい制服を自由に着用できる環境であるといえます。

問題③トランスジェンダーの権利拡大をきっかけに起こる議論:トイレ論争

トランスジェンダーの権利回復や、LGBT理解増進法案の議論にともない、主に非当事者から湧き上がる意見があります。それは「トイレや公衆浴場などプライベートな場において、性自認だけに基づく選択を認めたら、混乱が生じるから認めるべきではない」というものです。特に「トランスジェンダー女性を装った男性性犯罪者が女性専用の空間に入り込むのでは」という意見は、一見その通りだと思われがちで、SNSなどで多くの人がシェアしている様子もよく目にします。

ですが少し考えれば、女子トイレに女性になりすまして侵入する男性性犯罪者は、トランスジェンダー女性が女子トイレを使用できないようにしても、排除することはできません。実際に当事者からは、「(トランスジェンダー女性の場合)男性と間違われるかもしれないという想いから、女子トイレも男子トイレも使いづらい。そのためできるだけ共用トイレを使用するようにしている」という声も上がっています。これは公衆浴場の問題でも同じです。

「トイレ・公衆浴場問題」は、トランスジェンダーの権利拡大に関して、いたずらに大衆の不安を煽りがちな内容です。LGBT等の理解増進・差別禁止の法案は、実際に差別に苦しむ当事者を救うために議論されています。それを「トイレ・公衆浴場」という面だけで「反対」と判断するのは、いかがなものでしょうか。ぜひ一度考えてみてください。

なお当事者の意見も人それぞれですから、「当事者はみんな○○の問題に賛成している」というような認識にも気をつけましょう。

トランスジェンダーに関するよくある質問

次に、トランスジェンダーに関してよく寄せられる疑問について、一つずつ解説します。

トランスジェンダーはどのくらいの割合?

国内で行われた調査結果※によると、日本の人口におけるトランスジェンダーの割合は、0.6~1.8%程度と報告されています。数値にばらつきはありますが、社会の中で一定数のトランスジェンダーの人々が暮らしていることは確かであり、特別な世界にしかいない存在ではないということが言えます。

なお外国に目を向けると、国ごとに割合が大きく異なります。これは、人間のセクシャリティ自認・形成、またアンケートへの回答率などが、成長・生活環境や社会の価値観なども影響するためです。

※東京都総務局人権部「性自認及び性的指向に関する調査」、株式会社LGBT総合研究所「LGBT意識行動調査2019」、株式会社電通「LGBTQ+調査2020」、「大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート」

トランスジェンダーの診断方法は?

「自分がトランスジェンダーなのかはっきり知りたい」と、診断を求める人も少なくありません。まず、自身の身体的性と性自認が異なる場合は、特別な診断をせずともトランスジェンダーということができます。

性同一性障害(性別違和)の診断は、医師が行います。診断されることで、心理的サポートやホルモン療法、外科手術などを、本人の希望に基づき受けることができます。専門医のいる病院も増えていますので、医師による診察を望む場合はお住まいの地域の病院を探してみてください。

なお検索サイトで「トランスジェンダー 診断」と検索すると、アンケート形式の診断サイトがいくつか出てきます。筆者が確認したところ、内容の信頼性が低いサイトもあったため、使用する際は注意が必要そうです。

トランスジェンダーの人とどう接すればいい?

周りにトランスジェンダーの人がいる場合、どう接すればいいのか迷ってしまうことがあります。特に初めてトランスジェンダーの人と接する場合、この様な迷いが生じることは自然なことです。

基本的には、相手が自認している性別に対する接し方をすることが好ましいでしょう。例えばトランスジェンダー男性(身体的性は女性、性自認は男性)と接する場合、あなたが普段男性にとる接し方を取るとよいということです。

また性別移行をしている人が相手の場合、性器や生殖腺はどうなっているのか気になることもあるかもしれません。ですがそれは非常にプライベートな質問です。性器に関わる話題は、相手をトランスジェンダーではない人に置き換えれば、相当関係性の深い間柄でないかぎり、適切ではないことが分かると思います。

トランスジェンダーの人も、そうでない人も、適切なコミュニケーションは人それぞれです。分からないことがある場合は、どんな対応が一番心地いいか、本人に尋ねてみましょう。

トランスジェンダーは先天的?後天的?

トランスジェンダーは先天的(生まれつき)なのか、後天的なのか、という疑問です。

身体的性と性自認が一致しないことの要因の一つとして、胎児期のホルモン環境が関わっているという研究結果もあります。つまり、トランスジェンダーの要因が先天的である可能性があるということです。一方で、後天的に身体的性と性自認に乖離が生じるかどうかは、未だ明らかなことは分かっていません。つまり現状では、トランスジェンダーとなる要因が先天的なものだけなのか、後天的なものもあるのかは不明ということです。

先天的であろうと後天的であろうと、当事者や家族などの周りの人は「今」に注目し、出来るだけ自分らしく暮らせる環境づくりをすることが、大切なのではないでしょうか。

男性・女性どちらもトランスジェンダーになりうる?

「男性と女性、どちらもトランスジェンダーになるのか」も、度々みられる疑問です。

ここまで記事を読んでくださった方はお分かりのとおり、答えはイエスです。身体的性が男性の人も、身体的性が女性の人も、自身の性別に違和感を感じ、トランスジェンダーとして生きる人は多くいます。

性別移行について

次に、法的な性別移行について取り上げます。

トランスジェンダーの人は、服装やふるまい、また性別適合手術やホルモン治療、美容整形などによって、外見も自認している性に近づくことができます。一方で法的な性別が身体的性のままだと、社会生活を送るうえで不都合や不利益を被ることがあるほか、行政手続きや通院などのふとした瞬間に、自認している性との乖離を感じてしまい精神的な負担にもなり得ます。そのため、法的な性別の変更を希望する人が少なくありません。

日本では2003年に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」という法律が成立したことにより、トランスジェンダーであることを理由に法的な性別を変更することができるようになりました。

この法律では性別を変更するために必要な要件が5つ設けられています。

  1. 成人(18歳以上)であること
  2. 現に婚姻をしていないこと
  3. 現に未成年の子がいないこと
  4. 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること
  5. その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること

ここでは、上記5つの内容と議論されている点などを解説します。

要件①成人(18歳以上)であること

法的な性別変更は大きな決定であり、未成年では意思決定能力が不十分であると考えられるため、設けられている要件です。また性別変更は個人に関わる内容のため、保護者(法定代理人)の同意があっても不可能となっています。

なお海外に目を向けると、国や地域によっては年齢要件がさらに低い場合や、年齢要件を下回っていても両親の同意、裁判所の個別判断によって認められる場所もあります。

要件②現に婚姻をしていないこと

婚姻状態にある人が性別変更を行うと、現在日本では認められていない同性婚となってしまうため、この様な要件が設けられています。

海外でも、同性婚を認めていない国や地域では、基本的に同様の要件があるようです。なおこの記事の本題からはずれてしまいますが、G7(主要国会議)参加国の中で同性婚を認めていないのは日本だけになってしまいました。

要件③現に未成年の子がいないこと

法律施行時は「現に子がいないこと」という要件でしたが、2008年の改正で「子」が「未成年の子」に改められました。

一方でこの要件は違憲なのではないかと、度々議論を呼んでいます。

2007年、最高裁はこの要件を「家族の秩序を混乱させ、子どもの福祉の観点からも問題が生じないよう配慮したもの」であるとし、合憲であると判断しました。2021年にも同様の判断がなされています。一方で、最高裁で担当した5人の裁判官のうち1人は違憲だと反対意見を表明しています。実際にこの要件があるために法的な性別移行が出来ない当事者もおり、妥当な要件であるかどうかは検討を続ける必要がありそうです。

なお、性別変更を法定している諸外国では、この「子なし要件」を設けている国・地域は見当たりません。

要件④生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること

この要件は簡単にいうと「身体が子どもを作ることのできない状態」である必要があるということです。「変更前の性別の生殖機能によって子どもが生まれると社会に混乱が生じかねない」という理由により設定されています。

この要件を満たすためには、手術によって睾丸精巣・卵巣の摘出をする必要があります。身体的・金銭的負担があり、性別を変更したい人に立ちはだかる大きな壁となっています。さらに、生殖腺の摘出は「断種」にあたるため、人権侵害なのではないかという声も上がっています。

2022年12月、最高裁の第一小法廷はこの要件の合憲性の判断を、大法廷で審理することを決めました。これは最高裁に所属する15人全員の裁判官で判断するということです。2023年4月現在、まだ結果は出ていないため、判決の行方が注目されています。

要件⑤その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること

この要件は、変更後の性別に近い性器の見た目を持つ必要があるということです。公衆浴場など公衆の場で混乱を生まないために設けられた要件と言われています。この要件を満たすためにも一つ前の要件と同じく、手術を経る必要があり、度々議論を呼んでいます。

そもそも性別変更を望むトランスジェンダーの全員が、手術による外観の変更を望んでいるわけではありません。手術は金銭的・身体的負担のほか、失敗や後遺症のリスクもありますし、健康な体にメスを入れることに抵抗を覚える人もいます。

法の成立から20年

2023年は、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」成立から20年目の節目の年です。司法統計によると、この法律に基づいて性別を変更した人は1万人を超えています。

この20年間で、社会は大きく変化しました。特に「性のあり方」についての国民の価値観の変化は目覚ましいものがあります。性別変更のための5つの要件も、時代に合わせて変化していく必要があると言えるでしょう。

トランスジェンダーを公表している有名人

続いて、トランスジェンダーを公表している有名人をご紹介します。

その前に一つ、読者の皆さんに気を付けてほしいことがあります。トランスジェンダーをはじめセクシャルマイノリティの当事者は、メディアに登場するような発信力のある人ばかりではないということです。マジョリティの人々と同じように、性格も得意なことも容姿も人それぞれです。

〈タレント〉はるな愛さん

2000年代後半にブレイクし、一躍有名となったタレントのはるな愛さん。日本で一番有名なトランスジェンダー女性(MtF)の一人と言えるでしょう。ブレイク時は有名アイドルの「口パク」が話題を呼びましたが、現在は報道番組のコメンテーターなど活躍の場を広げています。

そんなはるなさんは、1995年に性別適合手術を受けていますが、ご自身の考えから法的な性別の変更はしていないようです。トランスジェンダーの中には、法的な性別移行を望む人もいるし、望まない人もいるということがわかりますね。

〈元サッカーなでしこリーグ選手〉大嶋悠生さん

女子サッカーのなでしこリーグ選手で、現在はYoutuberの大嶋悠生(ゆう)さん。小学生のころにはすでに自身の性別に違和感を抱いていたといいます。大学卒業後はプロのサッカー選手として活躍しましたが、「30歳までに性別変更したい」という願いをかなえるため、治療期間を見据えて27歳で引退しました。

29歳で戸籍を男性へと変更し、現在はLGBT向け人材会社で働きつつ、元女子サッカー選手・現トランスジェンダー男性の3人組Youtuberグループ「ミュータントウェーブ」のリーダーとしても活動しています。

トランスジェンダーとSDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」との関連

最後に、トランスジェンダーとSDGsの関係について解説します。

SDGsの17の目標のうちトランスジェンダーと最も関連のあるのは目標5「ジェンダー平等を実現しよう」です。

ただしSDGsにはこの目標5も含めて、セクシャルマイノリティに関する記述はありません。これは、SDGsが国連加盟国の中にはセクシャルマイノリティの権利確保に否定的なスタンスをとる国もあることが理由です。そのため目標5では、主に女性や少女といった社会的弱者の権利拡大がうたわれています。

とはいえ、SDGs全体の理念として「誰ひとり取り残さない」というキーワードがあります。トランスジェンダーも含めて、セクシャルマイノリティの人もそうでない人も、全ての人々の平等を実現することが、目標5達成の鍵と言えます。

まとめ

この記事ではトランスジェンダーについて、概説から用語解説、当事者の抱える問題やよくある疑問、さらに法的な性別移行の問題などについても取り上げました。

トランスジェンダーをはじめセクシャルマイノリティの人は、あなたの周りにも必ずいます。より多様性のある社会を目指すため、様々なマイノリティの人について知識をアップデートすることは大切です。ぜひこの記事で得た知識を周りの方にシェアしてみてくださいね。

<参考文献>
認定NPO法人 虹色ダイバーシティ 国際基督教大学 ジェンダー研究センター
大阪市民のアンケート
NHK 性別変更「未成年の子なし要件」憲法違反か|最高裁 国民審査後の主な裁判 
性同一性障害者特例法違憲訴訟の大法廷回付について | 憲法研究所 発信記事一覧
心と体の性の不一致、性別変更者は1万人超 なお多い医療の課題:朝日新聞デジタル
性別変更をめぐる諸外国の法制度 | Magazine for LGBTQ+Ally – PRIDE JAPAN
“性別変更に手術必要” 大法廷で審理へ 新たな判断の可能性も | NHK | 憲法
ヒューマン・ライツ・ウオッチが、性別変更を望む人に断種を強要する現行法を「早急に」改正すべきだと訴える声明を発表しました | Magazine for LGBTQ+Ally – PRIDE JAPAN
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律 | e-Gov法令検索
性同一性障害、性別違和の診断テスト
男女の決定 | 岐阜新聞Web
日本全国どこへでも。元なでしこリーグ選手の3人が、子どもたちに伝えたいこと | MASHING UP
東京パラリンピック聖火ランナー 「元なでしこの男性」大嶋悠生さんが語る「女子サッカー」
元なでしこリーグ選手 大嶋悠生さん「性の多様性に理解を」 | NHK
トランスジェンダー女性の入浴断れば差別? 弁護士が語る問題の本質
47news 「こんな変な性別は、世界で自分だけだと思っていた」トランスジェンダーの深刻な苦悩 性別変更のハードル高く、政府は「大手術」を要求
元なでしこリーグ3人組、男性としての日々「ありのまま」配信…小中学校でLGBT講演も : 読売新聞
gid.jp