#SDGsを知る

ボランタリー・クレジットとは?種類や日本の現状、購入方法も

持続可能な未来を築く鍵、ボランタリー・クレジット。あなたはどのようなものか、知っていますか?

ボランタリー・クレジットは、企業が温室効果ガス削減に取り組むための、新たな選択肢として注目されています。これから急速に成長すると予測されている、ボランタリー・クレジットについて、日本での現状や購入方法まで、わかりやすく解説します。

ボランタリー・クレジットの仕組みを理解し、持続可能な未来への一歩を踏み出しましょう!

目次

ボランタリー・クレジットとは

ボランタリー・クレジットとは、地球温暖化対策の一環として、企業やNGOなどの民間主体が自主的に取り組むカーボン・クレジット※のシステムを指します。この仕組みは、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出量を削減、または吸収・回収するプロジェクトを通じて生成されるクレジットで、企業などが自らの排出量削減に貢献するために購入することができます。

ボランタリー・クレジットは、国連や政府が主導するカーボン・クレジットとは異なり、民間が主体となって運営される点が特徴です。

※カーボン・クレジット

温室効果ガスの排出削減量や森林などによる吸収量を1トンあたり1クレジットとして認証し、取引する仕組み。

【関連記事】カーボンクレジットとは?仕組みや種類、ビジネスの活用事例、個人で取引可能?

【カーボン・クレジット市場の開設】

日本でも、2023年10月11日、東京証券取引所がカーボン・クレジット市場を開設しました。これは、日本のカーボン・クレジット市場にとって歴史的な出来事であり、脱炭素社会実現に向けた大きな一歩です。

ボランタリー・クレジットは自主性に基づく取り組み

ボランタリー・クレジットは、企業や団体が自らの意志で環境保全活動に参加し、その成果をクレジットとして購入することで、地球温暖化対策に貢献するシステムです。この自主性が、ボランタリー・クレジットにおいて非常に重要で特徴となる点です。

ボランタリー・クレジットの仕組み

  1. プロジェクトの開発:各クレジット認証機関の基準を満たすプロジェクトを開発します。
  2. 独立機関による評価:プロジェクトは、認定の独立機関による厳格な評価を受けます。ボランタリー・クレジットの場合、民間主体の認証機関を利用します。
  3. 認証取得:評価に合格すると、プロジェクトは認証され、排出削減クレジット(=カーボン・クレジット)を発行できます。
  4. 取引・利用:③で発行されたクレジットは、カーボン・クレジット市場で売買され、企業はクレジットを購入することで、自社の温室効果ガス排出量をオフセット(=カーボン・オフセット)※することができます。

※カーボン・オフセット

企業や個人が排出する温室効果ガス(主に二酸化炭素)を、別の場所で削減することで、排出量を埋め合わせる仕組み。カーボン・クレジットを購入することでも、クレジット相当分のカーボン・オフセットが可能。

【カーボン・オフセット】

【関連記事】カーボンオフセットとは?仕組みや目的、カーボンニュートラルとの違いや企業事例を解説!

ボランタリー・クレジットの特徴

次に、ボランタリー・クレジットの特徴をおさえておきましょう。

多様なプロジェクト

ボランタリー・クレジットは、

  • 再生可能エネルギーの普及
  • 森林保全や植林
  • 廃棄物の削減
  • メタン排出削減
  • 有機農業・自然栽培・アグロフォレストリー

など、さまざまな環境保全プロジェクトにより創出されます。これを取引することにより、企業や個人は自身の関心や目標に合ったプロジェクトを選択し、支援することが可能です。

また、クレジットを創出・販売する側は、その収益でさらに環境保全プロジェクトに取り組む資金を調達することができます。

【カーボン・クレジットの種類】

市場の動きで価格が変動する

ボランタリー・クレジットの価格や発行量は、市場の需要と供給、さらには国際的な気候変動政策の動向によって影響を受けます。投資家や企業は、市場の状況を把握し、適切なタイミングでクレジットを購入することが重要です。

【ボランタリークレジットの種類別平均価格と取引量(2021年1月〜8月)】

ボランタリー・クレジットは、気候変動対策への貢献だけでなく、企業の社会的責任(CSR)活動の一環としても注目されています。この取り組みを通じて、企業や個人は環境保護に対する自社の姿勢を示すことができます。

次の章では、ボランタリー・クレジット以外のカーボン・クレジットについて確認して、違いを理解しておきましょう。*1)

カーボン・クレジットの種類と違い

カーボン・クレジットには、国連や政府が主導する制度と、民間団体が主導するボランタリー・クレジットなど、さまざまな種類があります。それぞれの制度には異なる特徴があり、メリットとデメリットがあります。

まずは、ボランタリー・クレジット以外にどのようなクレジットがあるのか確認しておきましょう。

国連主導

国連主導のクレジット制度には、京都議定書に基づいて開発途上国での排出削減プロジェクトを支援するCDM(クリーン開発メカニズム)や、パリ協定に基づいた新しい枠組みであるNCM(新市場メカニズム)などがあります。これらの制度は、途上国の持続可能な開発と地球環境保護に貢献する一方で、複雑な手続きや認証取得の難しさといった課題も指摘されています。

【CDMプロジェクトのイメージ】

二国間クレジット

二国間クレジット制度は、特定の国同士が直接合意を行い、一方の国での排出量削減や吸収活動によって生じたクレジットを、他方の国がその削減実績として認める仕組みです。この制度は、双方の国が互いに信頼関係を築きながら、より効果的に温室効果ガスの排出削減を目指すことを可能にします。

日本が進める「ジョイント・クレジット・メカニズム(JCM)」がこの例にあたります。

【JCMの基本概念】

【関連記事】二国間クレジット制度とは?仕組みやメリット・デメリット、取組事例をわかりやすく解説

二国間クレジットは、基本的に日本とパートナー国との間でのみ有効です。

国内制度

国内制度としては、日本では「J-クレジット制度」が代表的です。この制度は、国内での

  • エネルギーの効率化
  • 再生可能エネルギーの導入
  • 森林管理

などによって温室効果ガスの排出量を削減、または吸収した量をクレジットとして認定するものです。企業はこれらのクレジットを購入することで、自社のCO2排出量削減量をカーボン・オフセットすることができます。

【J-クレジット制度】

【関連記事】J-クレジットとは?目的や仕組み、メリット・デメリットをわかりやすく!

上記以外にも、地域限定のクレジット制度や、民間団体が独自に設けた認証制度など、さまざまな種類のカーボン・クレジットが存在します。*2)

ボランタリー・クレジットの主な種類

ボランタリー・クレジットとは、前の章で紹介した国や政府主導のカーボン・クレジットではなく、企業やNGOなどの民間団体が主導するものなので、例えば日本政府が主導するJ-クレジットと比較すると、より柔軟な仕組みで、環境問題への貢献に多様な選択肢の提供が可能です。ここではボランタリー・クレジットの代表的な認証機関を確認しましょう。

VCS(Verified Carbon Standard)

【VCS標準】

VCS(Verified Carbon Standard)は、世界で最も広く利用されているボランタリー・クレジット制度です。温室効果ガスの排出削減プロジェクトを認証する国際的な基準を設けており、高い透明性と信頼性を備えています。

GS(Gold Standard)

GS(Gold Standard:ゴールドスタンダード)は、2003年にWWFとその他の国際NGOによって設立された、気候変動対策と持続可能な開発に貢献するプロジェクトを認証する国際的な機関です。GSは、VCSと並ぶ代表的なボランタリー・クレジット制度の1つであり、

VCSと同様に、国際的な基準を設けており、高い透明性と信頼性を備えています。

GSは、特に社会開発持続可能な開発に貢献するプロジェクトに焦点を当てているのが特徴です。

ACR(American Carbon Registry)

ACR(American Carbon Registry)は、1996年に設立された世界初の民間自主温室効果ガス登録機関です。25年以上の経験と専門知識を活かし、炭素プロジェクト開発、気候政策、炭素市場設計など、幅広い分野で支援を提供しています。

ACRは、主にアメリカ合衆国で広く利用されているボランタリー・クレジット制度です。VCSやGSと同様に、温室効果ガスの排出削減プロジェクトを認証する基準を設けており、地域に根差したプロジェクトを支援することに力を入れています。

CAR(Climate Action Reserve)

CAR(Climate Action Reserve)は、北米を中心に世界中の炭素市場で信頼と経験を得ている民間の認証機関です。高品質なカーボン・クレジットの発行と管理を通じて、温室効果ガスの排出削減を促進しています。

VCSやGSと同様に、国際的な温室効果ガスの排出削減プロジェクトを認証する基準を設けており、特にアメリカ西海岸でのプロジェクトに強みを持っています。

JBE(ブルーカーボンクレジット/JブルークレジットⓇ)

【JブルークレジットⓇの証書】

Jブルークレジットは、

  • 海藻養殖
  • 海草植栽
  • サンゴ礁再生
  • マングローブ林再生

など、海藻や海草などの海洋生物が吸収する二酸化炭素に着目した、国内初のボランタリークレジット制度です。企業や団体は、Jブルークレジットを購入することで、海を守る活動への貢献と、自社の温室効果ガス排出量削減を同時に実現できます。

Jブルークレジットの対象となるプロジェクトは、JBEの審査を経て認証されます。

ボランタリー・クレジットとその他のクレジットの違い

ボランタリー・クレジットと、その他のクレジットとして日本で代表的なJ-クレジットとの違いを整理しておきましょう。

利用目的

ボランタリー・クレジット:特にグローバルなレベルでの自主的な排出量削減

J-クレジット:日本国内の法的な排出量削減義務の履行

発行基準

ボランタリー・クレジット:国際的な認証制度に基づく (基準は比較的緩やか)

J-クレジット:政府主導の制度に基づく (基準は厳格)

プロジェクト

ボランタリー・クレジット:国内外の多種多様なプロジェクトから選択可能

J-クレジット:国内で行われた基準を満たすプロジェクトのみ

取引

ボランタリー・クレジット:市場での取引はJ-クレジットに比べて、まだ活発ではない

J-クレジット:東京証券取引所などの市場で取引が開始され急速に成長している

法的な対応

ボランタリー・クレジット:日本政府による法的な排出量削減義務の履行には使用できない

J-クレジット:日本の法的な排出量削減義務の履行に使用できる

このように、国連や政府主導のカーボン・クレジットとはさまざまな面で違いがあります。どちらの利用が適切かは、企業の規模や、クレジットを購入する目的などによって変わります。*3)

ボランタリー・クレジットが注目される背景

ここでは、ボランタリー・クレジットが注目される背景を探っていきましょう。

地球環境・気候変動対策への意識の高まり

地球温暖化異常気象が世界的な課題としてクローズアップされる中、個人や企業レベルでの環境保全への取り組みが強く求められています。ボランタリー・クレジットは、気候変動対策に貢献できる新たな手段の1つとして、その重要性が高まっています。

企業の社会的責任(CSR)の強化

企業においては、環境保全への取り組みが社会的責任の一環として位置づけられています。ボランタリー・クレジットの購入を通じて、企業は環境保護活動への貢献を明確に示すことができ、ブランドイメージの向上にもつながります。

透明性とトレーサビリティの確保

ボランタリー・クレジットの市場は、プロジェクトの内容や効果が明確に示され、購入者は自分の貢献がどのように環境保全に役立っているかを具体的に知ることができます。この透明性トレーサビリティ(追跡可能性)は、クレジットの信頼を得る上で非常に重要です。

新たな投資機会の創出

環境保全プロジェクトへの投資は、持続可能な社会の実現に向けた新たなビジネスチャンスを生み出します。ボランタリー・クレジット市場の成長は、環境技術の革新循環型経済※への移行を加速させる可能性を秘めています。

※循環型経済(サーキュラーエコノミー)

従来の「大量生産・大量消費・大量廃棄」型経済から脱却し、資源を循環利用し続けることで、環境負荷を低減し、持続可能な社会を目指す経済システム。

【関連記事】サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは?パートナーシップや企業の取り組み事例、課題を解説

ボランタリー・クレジットが注目される背景には、気候変動への危機感と共に、企業や個人が積極的に環境保全に貢献したいという意識の高まりが強く影響しています。カーボン・クレジット自体がまだ社会に広く認知されているとは言えませんが、企業や個人が自主的に取り組む温室効果ガス削減のための有効な手段として、今後さらに創出・取引が活発になることが予想されています。*4)

企業がボランタリー・クレジットを購入するメリット

日本政府が主導するJ-クレジットや国連主導のカーボン・クレジットではなく、あえて民間主導のボランタリー・クレジットを購入することには、以下のようなメリットが考えられます。

柔軟性

J-クレジットは国内プロジェクトのみ、国連主導は特定の基準を満たしたプロジェクトのみですが、ボランタリー・クレジットは国内外の幅広いプロジェクトから自由に選択できます。また、地域貢献や特定の技術・課題への貢献など、企業の理念や目標に合致したプロジェクトを選び、より具体的な貢献を実現できます。

国際的・自主的な排出量削減目標

J-クレジットは法的な義務の履行に使用できますが、ボランタリー・クレジットは自主的な目標達成や、国際的にカーボン・オフセットなどの温室効果ガス削減をアピールする場面で認知度が高く、グローバルに理解を得られやすいと言えます。

このことから、グローバルに自社の取り組みをアピールする必要がある大企業などの、国際的な企業活動やサプライチェーン全体での排出量削減に貢献できます。

比較的コストが安い場合が多い

ボランタリー・クレジットは、厳格な基準のJ-クレジットや国連主導よりも発行コストが低い場合があります。特に、小規模なプロジェクトや途上国でのプロジェクトは、費用を抑えながら貢献できます。

国内外の多種多様なプロジェクトから購入するクレジットを選択できることから、予算に合わせた購入が可能になり、より多くの企業・個人にとって取り組みやすい選択肢となる可能性があります。

このように、ボランタリー・クレジットはこれまでその他のカーボン・クレジットが抱えていた、さまざまな問題を解決できる可能性を秘めています。しかし、ボランタリー・クレジットは比較的新しいシステムであり、まだ問題点も残されています。

次の章では、ボランタリー・クレジットの問題点に焦点を当てていきましょう。*5)

ボランタリー・クレジットの問題点

ボランタリー・クレジットには、具体的にどのような課題が存在し、それらにどのように対処すればよいのでしょうか。

信頼性と透明性の確保

ボランタリー・クレジット市場において、最も重要視されるべき点は、その信頼性と透明性です。プロジェクトが実際に環境への貢献を果たしているかどうかを確認するためには、厳格な検証プロセスが必要となります。しかし、現状では、検証基準の統一性が欠けているため、プロジェクトの品質にばらつきが生じています。

この問題のための解決策

ボランタリークレジットの信頼性と透明性の確保のためには、国際機関による検証基準の統一や、第三者機関による厳格な監査の実施が必要です。また、プロジェクトの情報を透明に公開し、一般の人々が容易にアクセスできるようにすることも、信頼性の向上につながります。

本当に温室効果ガス削減できているか

ボランタリー・クレジットが実際に温室効果ガスの削減に寄与しているかどうかは、その実効性にかかっています。一部のプロジェクトでは、クレジットの売買が行われても、実際には環境保全に対する追加的な効果が見られないという指摘もあります。

この問題のための解決策

ボランタリー・クレジットの仕組みを活用して、実際に温室効果ガスの削減に貢献するためには、制度の透明性と信頼性を向上させる必要があります。

また、購入する側も、厳格な基準を満たしているプロジェクトや、第三者機関による検証を受けているプロジェクトかを確認して、信頼できるクレジットを選ぶことが重要です。

グリーンウォッシュの可能性

企業が環境保護への取り組みをアピールすることは大切ですが、実際には十分な努力をしていないのに、あたかも環境に貢献しているように見せかける「グリーンウォッシュ」と呼ばれる問題があります。

ボランタリー・クレジットを購入することは、環境保護活動への貢献につながります。しかし、クレジット購入だけで環境問題解決をアピールするのは、グリーンウォッシュにつながる可能性があります。

具体的には、

  • 根本的な解決にならない:クレジット購入だけでなく、自社の排出量削減努力も積極的に行う必要がある
  • 効果の誇張:環境効果は、実際よりも大きく見せかけられる可能性
  • 責任の所在不明確:企業の環境問題への責任が曖昧になる可能性
  • 消費者の誤解:消費者が企業の環境保護活動について誤解する可能性

などの問題が指摘されています。

この問題のための解決策

ボランタリー・クレジットに関わるグリーンウォッシュを防ぐためには、企業がクレジット購入の背景や目的、具体的な効果について透明に情報を開示することが求められます。また、消費者側も、ボランタリー・クレジットの仕組みや意義を正しく理解することも、グリーンウォッシング対策には不可欠です。*6)

日本におけるボランタリー・クレジットの現状

日本におけるボランタリー・クレジット市場は、まだその規模は小さいものの、気候変動への関心の高まりと共に、だんだんと成長しています。ここでは、日本におけるボランタリー・クレジットの現状について、特に注目すべきポイントをいくつか見ていきましょう。

日本のボランタリー・クレジットの市場規模

​​2023年における日本のボランタリー・クレジット市場規模は、約20億円と推計されています。これは、全世界での市場規模が約200億円であることを考えると、日本が世界市場の約10%を占めていることになります。

日本はこれまで、かなり化石燃料に依存した社会構造でしたが、将来も持続可能な地球環境と人間社会の構築のために、高い目標を設定し、それに向かってさまざまな取り組みを推進しています。その取り組みの一環として、先ほどの数字からも日本国内でのボランタリー・クレジットに対する関心の高まりがうかがえます。

【地球温暖化対策計画の目標達成状況(2024年1月26日時点の実績)】

日本のボランタリー・クレジットの主な取引形態

日本ではボランタリー・クレジットを含む、カーボン・クレジットの取引市場は、2023年10月に開設されたばかりであるのに、年々その市場規模が拡大しています。取引量が多いJ-クレジットの現状から順を追って確認していきましょう。

【現在日本で主要なカーボン・クレジット】J-クレジット制度

J-クレジット制度は、日本政府が主導するカーボン・クレジット取引であり、法的な排出量削減義務に使用できます。しかし、政府主導のカーボン・クレジットに分類されるので、ボランタリー・クレジットではありません。とはいえ、日本のカーボン・クレジット市場を理解するためには、発行量・取引量ともに多くの割合を占めるJ-クレジットに関しての知識は必須と言えます。

【J-クレジットの認証回数と認証量の推移】

【J-クレジットの入札状況の推移(平均落札価格)】

上のグラフからもわかるように、J-クレジットの発行量・取引量・価格(省エネ関連のJ-クレジットに関してはやや横ばい)は順調に増加していると言えます。

現在、日本で主要なボランタリー・クレジットの取引形態

日本では、J-クレジットが現状では主要なカーボン・クレジットの取引となっていますが、ボランタリー・クレジットの取引も増えつつあります。日本で主要なボランタリー・クレジットの取引形態は、先ほど確認した

  • Verified Carbon Standard (VCS)
  • Gold Standard(GS)

などの国際的なボランタリー・クレジットの認証機関を利用する場合が多く、Jブルークレジットに代表される日本国内で発行されているボランタリー・クレジットは、まだJ-クレジット制度を利用した発行量に比べると少ないのが現状です。

【国際的なカーボン・クレジットの発行量・無効化量の推移】

日本のボランタリー・クレジットの主な利用者

日本におけるボランタリー・クレジットの主な利用者は、国際的な環境への配慮を重視する一部の大企業です。ボランタリー・クレジットは国際的な市場で取引されており、広く認知されている一方、J-クレジットは日本国内でのみ認知度が高く、国際的な取引は限られているからです。

よって、グローバルな視点から環境問題に取り組んでいる国際的な企業は、ボランタリー・クレジットを、サプライヤーの排出量削減を支援するツールとして活用しています。
日本におけるボランタリー・クレジット市場は、まだ発展途上ではありますが、環境保全への意識が高まる中で、その重要性は今後さらに増していくことでしょう。このような制度を通じて、私たち一人ひとりも地球環境の保全に貢献できる道が広がっています。*7)

ボランタリー・クレジットの購入方法

ボランタリー・クレジットにはさまざまな種類があり、購入方法も発行機関によって異なります。詳しくは発行機関のホームページを確認しましょう。

ここでは大まかな購入の流れを紹介します。

ボランタリー・クレジットの基本的な購入の流れ

ボランタリー・クレジットの購入方法は、国内クレジットと国際的なクレジットで基本的な流れは同じです。ボランタリー・クレジットは、発行する場合は認証機関への登録などが必要です。しかし、購入する場合は認証機関への登録は必要ありません。

①購入方法の選択

クレジットを購入するには、以下の3つの方法があります。

  1. 仲介業者:専門的な知識を持つ仲介業者に依頼することで、ニーズに合致したクレジットを見つけやすく、購入手続きも代行してもらえます。
  2. 直接取引:クレジット保有者と直接交渉することで、仲介手数料を節約できます。
  3. 入札:政府や国際機関が実施する入札に参加することで、比較的安価にクレジットを購入できる可能性があります。

②クレジットの選定

購入方法を選択したら、希望に合ったクレジットを選びます。クレジットを選ぶ際には、以下のポイントに注意しましょう。

  • プロジェクトの種類:森林保護、再生可能エネルギー、エネルギー効率化など、さまざまなプロジェクトから、自社のコンセプトに合ったものを選びます。
  • 認証制度:第三者機関による認証を受けている、信頼できるクレジットを選びましょう。
  • クレジットの価格:クレジットの価格は、プロジェクトの種類や認証制度によって異なります。

クレジットを選定する際には、「ボランタリー・クレジットの問題点」の章の内容を再確認し、環境への貢献が確かなクレジットを選ぶことが重要です。

③購入手続き

希望に合ったクレジットを選んだら、購入手続きを行います。購入手続きは、購入方法によって異なります。

  • 仲介業者を利用する:仲介業者を通じて購入する場合、仲介業者と購入契約を締結します。
  • 直接取引:クレジット保有者と直接交渉する場合、購入契約を締結します。
  • 入札による購入:入札に参加して落札した場合、落札価格でクレジットを購入できます。

【クレジット取引の流れ】

購入後のクレジットの管理

ボランタリー・クレジットを購入する前に、購入後のクレジット管理についても理解しておくことが大切です。クレジットを購入した後は、以下のことに注意しましょう。

クレジットの履歴を記録する

購入したクレジットに関する情報をきちんと記録しましょう。クレジットの取引日、数量、取引先などの詳細を記録しておくことで、将来的な管理や報告がスムーズに行えます。

クレジットの期限を確認する

購入したクレジットには有効期限がありますので、定期的に期限を確認しましょう。期限が近づいているクレジットは、効果的に活用するための計画を立てることが重要です。

クレジットの利用方法を検討する

購入したクレジットをどのように活用するか、計画を立てておきましょう。例えば、

  • 自社の温室効果ガス削減に活用する
  • 他の組織とクレジットを取引する
  • 環境プロジェクトに寄付する

など、活用方法はさまざまです。

また、投資目的でクレジットを購入し、保有する場合、更新の手続きをして何年も持ち続けることは可能ですが、いくつかの注意点があります。

①有効期限

ボランタリー・クレジットには、他のカーボン・クレジットと同様に、更新可能なものと、更新不可のものがあります。投資目的で購入する場合は、更新可能なクレジットを選ぶことが重要です。

②更新手続き

更新手続きには多くの場合、費用がかかります。また、更新手続きが煩雑な場合もあります。

③市場価格

ボランタリー・クレジットの市場価格は、将来大きく変動する可能性があります。購入時に高い価格で購入しても、将来価格が下落すれば、損失を被る可能性があります。

④資産としての流動性

カーボンクレジットの市場は、まだ発展途上であり、流動性が低い場合があります。例えば、購入後にすぐに売却したい場合、希望する価格で売却できない可能性があります。

⑤環境への貢献

ボランタリー・クレジットを含む、カーボンクレジットは、本来環境への貢献を目的として発行されます。投資目的で購入する場合でも、環境への貢献度を考慮する必要があります。

専門家や仲介業者のサポートを活用する

クレジットの管理に不安を感じたり、より効果的に活用したい場合は、専門家や仲介業者のサポートを活用しましょう。専門的な知識や経験を活かしたサポートにより、クレジットの管理がより効果的に行えます。*8)

ボランタリー・クレジットとSDGs

ボランタリー・クレジットとSDGsは、地球と社会の持続可能な未来を実現するために、密接に関係しています。ボランタリー・クレジットは、地球温暖化対策をはじめ、多くのSDGs目標達成に貢献する重要なツールです。

特に関連の深いSDGs目標を確認してみましょう。

SDGs目標13:気候変動に具体的な対策を

ボランタリークレジットは、企業や個人が自らの温室効果ガス排出量を相殺するために、再生可能エネルギーのプロジェクトや植林活動など、環境に良い影響を与えるプロジェクトに投資することで得られるクレジットです。これにより、気候変動対策への具体的な取り組みに資金が集まり、SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」の達成に貢献します。

SDGs目標15:陸の豊かさも守ろう

植林プロジェクトによる二酸化炭素吸収量を認証し、ボランタリー・クレジットを発行することにより、さらにプロジェクトを拡大するための資金を集めることができます。植林プロジェクトの推進によって森林が再生され、二酸化炭素の吸収量がさらに増加するだけでなく、生物多様性の保全にもつながります。

このような活動は、陸地の生態系を守り、SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」の実現に直結します。

SDGs目標16:平和と公正を全ての人に

ボランタリークレジットを通じたプロジェクトは、地域社会の経済的な自立を支援し、雇用を創出することが期待されています。こうした経済活動は、公正な社会の構築や地域の安定に貢献し、結果として平和の維持に繋がります。

このことから、ボランタリークレジットはSDGs目標16「平和と公正を全ての人に」の達成にも間接的に影響を及ぼすと考えることができます。

SDGs目標17:パートナーシップで目標を達成しよう

ボランタリークレジット市場は、多様なステークホルダーが協力し合う場を提供します。企業、政府、NGO、個人が一緒になって環境問題に取り組むことで、より大きな影響力を発揮できます。

このような仕組みや協力関係の構築は、SDGsの目標達成にあたってとても重要であり、SDGs目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」の精神を体現しています。

ボランタリークレジットは、単に環境問題への対策としてのみならず、社会的、経済的な利益を生み出し、SDGsの多くの目標達成に貢献する重要な手段です。この仕組みを理解し、活用することで、私たちはより持続可能な世界の実現に向けて前進することができるでしょう。

>>各目標に関する詳しい記事はこちらから

まとめ

地球温暖化は、人類にとって最大の課題の1つです。異常気象や海面上昇など、その影響はすでに世界中で深刻化しています。

また、近年、企業のESG経営への関心の高まりもあり、ボランタリー・クレジット市場は急速に成長しています。今後も、その成長は加速していくと予想されています。

さらに、技術の進展により、より効率的で透明性の高いクレジット取引が可能になることで、現在は課題となっている信頼性も向上するでしょう。

しかし、ボランタリー・クレジットを含むカーボン・クレジットの認知度は徐々に高まっていますが、その理解度はまだ十分とは言えません。この社会全体として見た認知度と理解度の不足は、クレジット取引の透明性や信頼性に疑問を生む原因ともなっており、制度の普及において大きな障壁となっています。

企業・個人どちらのレベルでも、ボランタリー・クレジットについての理解を深め、積極的にその利用を検討することが求められています。同時に、クレジット取引の透明性を高め、その信頼性を確保するためには、企業の活動内容の情報開示や、このような仕組みについての教育の強化が必要です。

産業や事業活動の種類によっては、温室効果ガスの排出削減努力をしても、現状の技術レベルでは排出なくすのは困難なものも多く存在します。一方で、温室効果ガスの削減が容易な事業内容や森林管理による二酸化炭素の吸収、CCS※など、温室効果ガスを削減・吸収・回収が得意な企業が、より多くの温室効果ガス削減してクレジットを発行し、温室効果ガスの削減が困難な企業が購入することによって、世界の企業が協力しあい、地球全体の温室効果ガス削減に向けて前進することができます。

※CCS

主に産業活動で発生する二酸化炭素(CO2)を、大気中に排出する前に回収したり、大気中から回収したりして、CO2を貯留または資源として有効利用する技術。

【関連記事】CCSとは?カーボンニュートラルの貢献度・CCUSとの違い・問題点を解説

今後の会社経営やビジネスシーンにおいては、ボランタリー・クレジットをはじめ、カーボン・クレジットの仕組みを理解しておくことは、ますます重要になっていくでしょう。あなたも、この記事を機会にこのような仕組みについて理解を深め、地球全体で温室効果ガスを削減する取り組みに参加しましょう。

また、常に新しい情報に目を向け、学び続けることを心がけてください。あなたの小さな新しい一歩は、より良い地球環境と人間社会を実現する、大きな力につながります。

<参考・引用文献>

*1)ボランタリー・クレジットとは
カーボンクレジットとは?仕組みや種類、ビジネスの活用事例、個人で取引可能?
JPX『カーボン・クレジット市場オンライン説明会』(2023年7,8月)
農林水産省『カーボン・オフセット』
カーボンオフセットとは?仕組みや目的、カーボンニュートラルとの違いや企業事例を解説!
環境省『カーボンクレジットの活用に関する動向と課題』(2022年7月)
NIKKEI COMPASS『ボランタリー・クレジット』
日本経済新聞『変化進む「ボランタリークレジット」』(2023年5月)
日経ESG『排出枠・クレジット』(2022年7月)
*2)カーボン・クレジットの種類と違い
炭素市場エクスプレス『クリーン開発メカニズム (CDM)』
環境省『JCM(二国間クレジット制度)について』
二国間クレジット制度とは?仕組みやメリット・デメリット、取組事例をわかりやすく解説
環境省『J-クレジット制度及びカーボン・オフセットについて』
J-クレジットとは?目的や仕組み、メリット・デメリットをわかりやすく!
国土交通省『CDM(クリーン開発メカニズム)』
J-クレジット『J-クレジット制度について』(2023年11月)
*3)ボランタリー・クレジットの主な種類
VERRA『VERIFIED CARBON STANDAR』
Gold Standard『An impact standard accelerating progress toward climate security and sustainable development for all』
Gold Standard『We are all about impact』(2023年3月)
American Carbon Registry『A Global Leader that Delivers Ambitious Climate Results』
Climate Action Reserve『About Us』
Climate Action Reserve『Voluntary Offset Program』
国土交通省『ブルーカーボン・クレジット制度(Jブルークレジット®)の状況』
JBE『Jブルークレジット』
*4)ボランタリー・クレジットが注目される背景
環境省『炭素クレジット等について(気候変動対策に関わる環境価値の取引に関する仕組み)』(2022年10月)
サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは?パートナーシップや企業の取り組み事例、課題を解説
*5)企業がボランタリー・クレジットを導入するメリット
日経ESG『企業主導でクレジット市場の創設を』(2022年5月)
日本経済新聞『民間型クレジット、高まる関心 実質排出ゼロ、二重使用に課題』(2021年4月)
*6)ボランタリー・クレジットの問題点
GX League『ボランタリーカーボンクレジット情報開示検討WG 最終報告書』(2023年12月)
日本経済新聞『脱炭素の「補助輪」空回り 排出権9割安、削減効果に疑義』(2023年12月)
日本経済新聞『炭素クレジットで新基準 「IC VCM」 多様性の配慮カギ』(2023年8月)
日本CSR普及協会『カーボンクレジット取引の法的その他の問題点』(2022年5月)
*7)日本におけるボランタリー・クレジットの現状
J-クレジット『J-クレジット制度について(データ集)』(2024年1月)
経済産業省『カーボン・クレジット・レポート』(2022年6月)
MIZUHO『カーボンプライシングとカーボンクレジットを巡る国内外の動向~加速する脱炭素の潮流を見据えた企業経営を考える~』(2023年6月)
JETRO『世界で導入が進むカーボンプライシング(前編)炭素税、排出量取引制度の現状』(2021年9月)
JETRO『世界で導入が進むカーボンプライシング(後編)拡大するボランタリークレジット市場』(2021年9月)
JETRO『日系企業は省エネや創エネのほか炭素排出枠、クレジットの購入も』(2023年12月)
日経ビジネス『三菱商事、CO2除去技術に金脈探る クレジット仲介を突破口に』(2023年6月)
*8)ボランタリー・クレジットの購入方法
JPX『カーボン・クレジット市場オンライン説明会』(2023年7,8月)
J-クレジット『購入方法(買いたい方)』
e-dash『カーボン・オフセットを、すべての企業に開かれた選択肢へ』
フォレストック協会『クレジット購入希望の皆さま』
*9)ボランタリー・クレジットとSDGs・まとめ
経済産業省『SDGs』
CCSとは?カーボンニュートラルの貢献度・CCUSとの違い・問題点を解説