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世界最大の穴を掘る有袋類!オーストラリアの固有種・ウォンバットの個体数減少の理由と対策とは?

まるい身体にコアラのような大きな鼻。

ウォンバットは、オーストラリアを代表する固有種のひとつです。

しかし、50年以上前から個体数の減少が危ぶまれており、一時は35頭まで個体数が減ってしまったという過去を持ちます。

オーストラリアはウォンバットの個体数を増やすための繫殖プログラムを行い、現在では10倍近くまで個体数を増加させています。

今回は、そんなウォンバットの個体数減少の理由や繫殖プログラムの詳細について見ていきましょう。

ウォンバットってどんな動物?

ウォンバット(Northern hairy-nosed wombat)は、オーストラリアの固有種である哺乳類です。

体長は1m前後、体重は約25~40kgとなっており、カンガルーに次いで2番目に大きい有袋類として知られています。

ずんぐりむっくりとしたぬいぐるみのような見た目で、草食かつ夜行性です。

草を好んで食べるほか、低木や木の根なども餌となり、東京ドーム1.3個分程度のエリアを3~8時間ほどかけて採餌する習性を持ちます。

また、Northern hairy-nosed wombat以外にも、オーストラリア国内にはBare-nosed wombatや Southern hairy-nosed wombatが生息しています。

この記事では、Northern hairy-nosed wombatについて解説していきます。

穴を掘る有袋類の中で世界最大

ウォンバットは、巣穴を掘って生息する動物です。

ビルビー、バンディクート、べトングなど、オーストラリアは巣穴の中で暮らす有袋類が多く、ウォンバットはその中でも最大種です。

オーストラリア国内にしか野生の有袋類は生き残っていないため、ウォンバット=世界最大の穴を掘る有袋類ということになります。

ウォンバットの巣穴は群れごとに分かれており、1つの巣穴につき4〜5頭が共有する仕組みです。

巣穴は深さ3.6 m、距離は最大100m以上で、大きな巣穴の場合は出入口が10か所以上にも及びます。

尚、メスのウォンバットのお腹にはカンガルーのような袋がありますが、穴を掘るときに砂が袋に入るのを防ぐために袋は逆向きに付いています。

ウォンバットの個体数

2024年時点で、ウォンバットは主にクイーンズランド州の2か所のエリアでのみ生息しています。

元々はクイーンズランド州からニューサウスウェールズ州やビクトリア州の境界エリアまで幅広く生息していたものの、個体数と生息地の減少によって現在はわずか315頭のみとなっています。

レッドリストでは1980年代から絶滅寸前種(critically endangered species)に認定されており、最後に再審査が行われた2015年でも同様に「絶滅寸前」と認定されました。

「絶滅寸前」はレッドリストの中で「絶滅」「野生で絶滅」に次ぐ3番目に重い評価で、ウォンバットがいかに深刻な状況に置かれているかがわかります。

ウォンバットの個体数減少の原因は?

オーストラリアの固有種でありながら、絶滅寸前種として記録されているウォンバット。

ここでは、なぜウォンバットの個体数がそれほどまでに減ってしまったのかをチェックしていきましょう。

①外来種

ウォンバットの個体数が大きく減少している原因のひとつが、外来種の存在です。

オーストラリアの固有種は、ヨーロッパから持ち込まれたディンゴ、野犬、猫などが脅威となります。

ウォンバットもほかの多くの固有種と同様に、生息地に入り込んできた外来種からの攻撃によって命を落としてきました。

また、物理的な攻撃以外にも、外来種による餌の減少がウォンバットを苦しめています。

牛などの有蹄類やウサギを含む外来種は、餌の種類がウォンバットと被っています。

そのため、ウォンバットは餌となる草を外来種に奪われる機会も多くなっており、餓死する個体も後を絶ちません。

ウォンバットが生息するクイーンズランド州は、オーストラリアの中でも特に干ばつの被害が深刻な地域です。

年によっては植物が極端に育ちにくいというデメリットがあり、代わりの餌を見つけられないウォンバットが多く存在していたと考えられています。

②人間の影響

草を主食とするウォンバットは、牧場や農場のそばで生息することが多くなっています。

しかし、穴を掘って暮らすという特性を持つウォンバットは、牧場や農場の至る場所に巣穴を掘ってしまうという問題を抱えていました。

牧場や農場の運営に悪影響を及ぼすことから、害獣として牧場主から駆除される頻度も高い傾向にあります。

牧場主が巣穴を塞ぐといった直接的な駆除を行うほか、農業の一環として野焼きする際にウォンバットが被害に遭うパターンもあり、ウォンバットが安定して個体数を増やしにくい環境となっているのです。

③異常気象と災害

ウォンバットが生息するクイーンズランド州は、オーストラリアの中でも特に自然災害が多い地域です。

雨量が増加する夏ごろには洪水によって川が氾濫しやすくなっており、巣穴に水が入り込んでウォンバットが溺れるといった事故も多発しています。

また、気温が高く干ばつが発生しやすいクイーンズランド州では、森林火災の規模も大きくなりがちです。

ウォンバットの最高速度は40kmと比較的速いものの、持久力は90秒程度と短めです。

森林火災の発生時に長距離を走り続けることが難しいことから、逃げ遅れる個体も多くなっています。

ウォンバットを保護するための取り組み

現在、ウォンバットの個体数は315頭とされています。

しかし、ウォンバットがレッドリストの絶滅寸前種に加えられた1970~1980年代にかけての個体数は、わずか35頭でした。

もちろん、人目につかない場所でひっそりと生息しているウォンバットがいる可能性もありますが、人間が認知している個体数は35頭とされており、絶滅への一途を辿っていました。

そんな中でオーストラリアが実施したのが、ウォンバットの個体数を安定させるための2つの繫殖プログラムです。

エッピングフォレスト国立公園とリチャード・アンダーウッド自然保護区で行われた繫殖プログラムの詳細は、それぞれ以下のようになっています。

①エッピングフォレスト国立公園でのプログラム

ウォンバットを絶滅の危機から救うべく、クイーンズランド州中央部に位置するエッピングフォレスト国立公園(Epping Forest National Park)にて個体数の保護プログラムがスタートしました。

エッピングフォレスト国立公園は東京ドーム106個分ほどの敷地で、当時はウォンバットの個体群が生息する唯一のエリアと言われていました。

周辺には天敵となる牛の侵入を防ぐためのフェンスが作られ、1980年代半ばには約65頭、1990年代後半には176頭にまで個体数を増やしています。

2000年前後には野犬の発生によって個体数が10%ほど減少したものの、捕食者防止の柵や追加の餌と水の補給で再度個体数の増加に成功しています。

②リチャード・アンダーウッド自然保護区でのプログラム

エッピングフォレスト国立公園での繫殖プログラムを成功させた後、2009年から新たにスタートしたのがリチャード・アンダーウッド自然保護区(Richard Underwood Nature Refuge)でのプログラムです。

エッピングフォレスト国立公園だけでウォンバットを繁殖させると、災害、捕食、感染病などの病気が広まった際にせっかく増やした個体が全滅する恐れがあります。

さらに、遺伝子が近い個体の増加によって近親交配が進み、遺伝子的に問題のある個体が生まれることも懸念されていました。

そこで、エッピングフォレスト国立公園で繁殖させたウォンバットのうち5頭をクイーンズランド州南部のリチャード・アンダーウッド自然保護区に移動させました。

リチャード・アンダーウッド自然保護区は巣穴、餌、水、フェンス、柵などが完備されたエリアで、2010年にはさらに10頭のウォンバットが追加されています。

エッピングフォレスト国立公園と比べると小さな個体群で形成されているものの、生息地を分割することで絶滅の危機を最小限に抑えることに成功しています。

まとめ

一時はわずか35頭まで個体数が減少してしまったウォンバットですが、繫殖プログラムによって約10倍まで個体数を増加させることに成功しました。

状況の把握と改善によって、少しずつでも着実に状況を好転できます。

自然環境や野生動物を守っていくためにも、私たちもできることから一つずつ取り組んでいくことが大切ですね。