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女性活躍推進法とは?改正点や行動計画、問題点などをわかりやすく解説

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日本政府は男女平等と女性が活躍できる社会を目指して、2015年に「女性活躍推進法」を施行し、その後も、少しずつ実効力のある内容へと法改正を重ねてきました。

本記事では、「女性活躍推進法」の施行とその後の法改正におけるポイントをはじめ、改正に至る背景や課題、具体的な企業の取り組みなど詳しく解説していきます。企業の人事労務担当者の方は特に必見です。

目次

女性活躍推進法とは

女性活躍推進法とは、男女平等の推進と女性の社会進出の促進を目的とした法律で、2015年(平成27年)8月に成立しました。正式名称を「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」といい、国や自治体、企業に対して女性の活躍促進に向けた取り組みを義務付けることで、女性がより活躍できる環境の整備を目指すものです。

具体的には、女性の管理職比率を増やす、女性の採用・育成・登用について具体的な数値目標を定め、その達成度合いを報告することなどが求められています。

女性活躍推進法の施行日と2019年(令和元年)の改正

「女性活躍推進法」の施行日は2016年(平成28年)で、2019年(令和元年)に改正法が成立・公布されました。

改正法の施行は、2020年(令和2年)4月から順次進み、2022年(令和4年)4月に全面施行されました。

改正法によって、これまで努力義務だった数値目標への達成行動がより強制力を持つようになり、対象企業も大企業から中小企業へと範囲が広がりました。

次からは、「女性活躍推進法」の具体的な内容と改正法のポイントについて詳しく見ていきましょう。

女性活躍推進法の内容と改正ポイント

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まずは「女性活躍推進法」の大枠をおさえていきましょう。

①具体的な目標の設定

企業は、女性の採用・育成・登用について、具体的な目標を設定する必要があります。目標達成のための具体的な取り組みも明確化されており、企業が女性の活躍を本格的に推進することを求めています。

②報告書の提出

企業は年次報告書に、女性の活躍に関する情報を記載することが義務付けられています。報告書は、厚生労働省に提出され、世間に公表されます。これにより、企業の取り組みの透明性が高まり、改善につながることが期待されています。

③監督・指導

厚生労働省は、「女性活躍推進法」が遵守できているか監督するために、監督官を派遣することができます。また、違反企業に対しては、指導や勧告を行うこともできます。これにより、法律遵守を促すことが狙いです。

以上のように、ただの目標ではなく実際にきちんと取り組んでいるかどうかの透明性を確保するという点が大きな特徴でした。しかし施行当初は、設定項目なども企業によってバラバラで統一感がなかったため、なかなか全体的な比較や傾向を把握することが困難でした。

女性活躍推進法の改正におけるポイント

2019年改正法の成立、2020年から順次施行となった部分やそれまでとの違いについては以下のとおりです。

2020年(令和2年)の改正点:行動計画の策定や情報公表の方法が変更

常時雇用する労働者数301人以上の事業主が一般事業主行動計画(以降、「行動計画」と表記)※を作成する際、法律で定められた項目に沿って作成し、関連する数値目標を策定することが義務づけられました。また、女性の活躍に関して、決められた項目について情報公表することも必須になりました。

一般事業主行動計画とは

次世代育成支援対策推進法に基づき、企業が従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備や、子育てをしていない従業員も含めた多様な労働条件の整備などに取り組むに当たって、計画期間、目標、目標達成のための対策およびその実施時期を定めるもの

参考:一般事業主行動計画の策定・届出等について(厚生労働省)

企業が策定、公表するなどの「法律で定められた項目」は、2つの区分に分けられています。以下の表は、行動計画における策定項目と、そのうちハイライト部分は情報公表が求められる項目です。

企業は区分ごとにそれぞれ1つ以上の項目を選択し、数値目標を定めた行動計画を届け出なければいけません。

労働者数が301人以上の事業主は、どちらの区分でも必須項目とされているのが男女の賃金の差異です。

改正法の対象は2020年時点で、常時雇用する労働者数が301人以上の事業主に限られていました。そこからさらに対象が広範囲に変更されたのが2022年です。

2022年(令和4年)の改正点:中小規模の事業主まで対象拡大、義務化へ

行動計画の策定や情報の公表が、常時雇用する労働者数が101人以上の事業主にも義務化されたのが2022年の大きな改正点です。

日本の会社は約9割が中小企業で成り立っているといわれており、多くの事業主に拡大されたことが大きなポイントです。これまで対象外だった事業主はこの時期、はじめての対応に追われたのではないでしょうか。

法改正により、男女平等は一部の大企業だけに課せられたことではなく、すべての企業が取り組むべき課題である、と日本政府が大きく舵取りしたことがわかります。

女性活躍推進法が改正された背景

「女性活躍推進法」の改正によって2022年、より広範囲にわたる事業主が対象となりましたが、それまでは努力義務とされていました。法の改正にいたった背景には、大きく以下のことが挙げられます。

改正の背景①ジェンダー・ギャップ指数の低迷

【世界のジェンダー・ギャップ指数ランキング(2023年)】

日本におけるジェンダー・ギャップ指数は先進国の中でも長らく最低水準が続いています。

ジェンダーギャップ指数とは世界各国の男女平等の度合いを示す数値のことです。

【各分野におけるスコア】

日本は、教育分野では1位、健康分野では59位であるのに対し、政治と経済分野での低迷が顕著に表れています。

最もスコアが低い「経済参画」部門では、労働参加率の男女比や同一労働における賃金の男女格差、管理職の男女差などが判定する基準になっています。

「子どもの出産前後で退職せざるをえない」「女性の管理職が少ない」など、今の日本の姿を投影している結果ともいえるでしょう。

【日英独仏の男女間賃金格差(OECD)】

こちらは、4か国における男女間の賃金格差の推移を表したグラフです。1970年時点に比べ、すべての国で格差は解消に向かっていますが、この中でもまだ日本での格差は目立ちます。

日本ではこれまで、1985年(昭和60年)の男女雇用機会均等法をはじめ、男女平等を加速させるための施策を打ち出してきました。しかし、最新のジェンダー・ギャップ指数の結果をみても、大きな成果が出ているとは言い難いでしょう。

諸外国と比較してみても、日本では2022年の法改正まで、企業の情報公表が努力義務であったことに対し、フランスでは2001年、イギリスとドイツでは2017年に情報公表が義務化されています。特にフランスは、公表義務を労働者数50人以上の事業主を対象としているなど、ジェンダー平等への意識の高さが伺えます。

改正の背景②企業による取り組みがなかなか進まない

2015年時点の「女性活躍推進法」では、企業に対して必須ではなく努力目標程度であったこともあり、なかなか取り組みが進みませんでした。

少子高齢化による労働人口の減少が懸念される中、働き手の創出は日本政府にとっても喫緊の課題です。

女性の非正規雇用割合が多い出産・育児期に就業率が低下することなど、女性にとって働きやすい環境を醸成する一つの施策が「女性活躍推進法」です。そこで、2020年からの法改正で目標数値や具体的な取り組みの策定・報告を義務化することで、女性のさらなる社会進出を後押しすることになりました。

女性活躍推進法に関して企業は具体的に何をすれば良いのか

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女性推進法の大きな柱である行動計画の策定と情報公表が、労働者数101人以上の事業主も2022年から義務化されたことで、多くの中小規模の事業主は対応を求められました。近い将来、労働者数に関わらずすべての事業主に対象拡大されることも考えられます。(2023年3月時点で、労働者数100人以下の事業主は努力義務)

では実際何をすればいいのでしょうか?具体的なステップを確認していきましょう。

ステップ①自社の状況調査、課題分析

まずは、自社の女性活躍における状況を調査するところから始まります。調査するのは以下の5項目です。

  • 採用者のうち女性が占める割合
  • 男女の勤続年数の差異
  • 長時間労働の状況
  • 女性管理職の割合
  • 男女の賃金の差異

調査・分析にあたって、厚生労働省がマニュアルと支援ツールを公開しています。

一般事業主行動計画策定支援マニュアル

女性の活躍に関する状況を6つのタイプに分け、推奨する選択項目、課題・取り組み内容を提案してくれます。

入力支援ツール(Excel)

課題分析に必要なデータの入力支援をしてくれます。マニュアルと合わせて使うことで、課題の分析を進めやすくなります。

ステップ②行動計画の策定、社内周知、外部公表

調査と課題分析を終えたら、以下の項目を盛り込んだ行動計画を策定します。

  • 計画期間
  • 数値目標
  • 取組内容
  • 取り組みの実施時期

厚生労働省は、行動計画の策定例を10パターンほど紹介しているので、企業の人事担当者の方はこちらも参考にするといいでしょう。

策定後は社内での周知と外部への公表も合わせて実施しましょう。

ステップ③行動計画を労働局へ提出

所定の様式を使い、行動計画を管轄の都道府県労働局に届け出ます。

ステップ④取り組みの実施、効果測定

数値目標の達成状況や、行動計画に基づいた取り組みの実施状況を点検、評価します。

外部公表は「女性の活躍推進企業データベース」を

自社の情報を外部へ公表する際は、厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」を使います。詳しい操作は、マニュアルを参考にして進めていきましょう。

参考:厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」入力操作マニュアル

女性活躍推進法における行動計画策定のメリット

行動計画を策定することは、事業主にとってもメリットがあります。

メリット①優良企業認定「えるぼし」「プラチナえるぼし」が申請できる

行動計画を策定・届出をした企業のうち、女性の活躍に関する取り組みの実施状況が優良な企業は、申請により、優良企業認定を受けることができます。

この認定は、「えるぼし」と呼ばれ、一定の要件を満たした事業主に付与されます。さらに、2020年からは「プラチナえるぼし」が新設。以下の要件を満たすと付与されるとともに、行動計画の策定・届出が免除されます。

  • 策定した行動計画に基づく取組を実施し、目標達成したこと。
  • 男女雇用機会均等推進者、職業家庭両立推進者を選任していること
  • プラチナえるぼしの管理職比率、労働時間等の5つの基準の全てを満たしていること
  • 女性活躍推進法に基づく情報公表項目のうち、8項目以上を「女性の活躍推進企業データベース」で公表していること

認定を受けた事業主は、自社のHPに公表したり、商品などに「えるぼし」「プラチナえるぼし」の認定マークを付けたりすることができます。

認定マークは、「女性活躍の風土があるホワイト企業」という目安になるため、企業の採用活動でも学生にアピールできるポイントにもなります。

実際、筆者が企業の採用担当者の頃、「えるぼし」は学生にもよく注目されていました。育休取得率や残業時間など、昨今は無理なく働ける環境であるかを重視する学生が多い風潮があります。認定マークの取得は、企業の採用活動においてもメリットの一つといえるでしょう。

メリット②公共調達で有利に

各府省等が実施する総合評価落札方式または企画競争による調達で、有利になる場合があります。これは、女性活躍の取り組みを促すインセンティブとして導入されています。さらに、各府省にとっても、不正な手段を使った企業の受注を防止し、生産性、持続可能性等の高いワーク・ライフ・バランス等を推進する企業の受注機会の増大にもつながります。

公共調達とは

税金を使って国が工事などの公共事業を発注する契約全般のこと。

例えば、オリンピックのために新しい施設を作る場合、国が勝手に業者を決めるわけではありません。希望内容を入札情報としてまとめ、システムを通じて業者の募集がされます。

メリット③資金融資に活用できる

行動計画の策定や「えるぼし」認定を受けた企業は、日本政策金融公庫の「働き方改革推進支援資金(企業活力強化貸付)」を通常より低い金利で利用することができます。これは、非正規雇用の処遇改善への取り組みや長時間労働の是正を実現するため、業務効率向上・生産性向上を図る設備導入や非正規雇用労働者の賃上げ・正社員化、多様な人材の活用促進などを図る中小企業者を支援するものです。

女性活躍推進法のデメリット・課題・問題点

日本政府は、女性が働きやすい環境を整備し、社会で活躍してもらう土台作りの一環として「女性活躍推進法」の法改正を進めてきました。企業にとってもインセンティブのある仕組みは、取り組みを促すきっかけにもなります。しかし一方で、いくつかの課題を抱えているのも事実です。

課題①法的な罰則規定がない

行動計画の策定や情報公表が義務化されたとはいえ、違反したとしても法的に処罰を受けることはありません。そのため、たとえばこれらの取り組みを軽視する事業主が届け出をしなくても罰則はありません。

現在は、公表義務のある事業主が公表をしない、もしくは虚偽の公表をした場合、厚生労働大臣は、事業主に対して報告を求め、または助言、指導もしくは勧告をすることができるとされています。

とはいえ、ジェンダー・ギャップ是正への取り組みは今後も加速すると考えられ、近い将来、罰則が設けられる可能性もあるかもしれません。

課題②数値の目標設定が適しているか不明瞭

「女性活躍推進法」における目標設定は、企業によって自由に設定できます。そのため、目標の内容や設定方法にばらつきがあり、具体性が欠けていることが指摘されてきました。

2020年の法改正により、行動計画や情報公表にかかる具体的な項目が明確化されましたが、区分①と区分②で一つずつ選択すればいいなど、まだまだ企業への本格的な取り組みを促しているとはいえません。

今後、「女性活躍推進法」がさらに法的な効力を持ち、企業への影響力を強めることができれば、企業での取り組みも加速していくことでしょう。

企業における女性活躍推進法の活用・取り組み事例

株式会社ペイロール:男女間の賃金格差是正につながるキャリア開発プランを活用

給与計算、人事労務管理のWebBPOサービスを展開する株式会社ペイロールは、労働者数1,000人越えの事業主で、男女の賃金差異の開示にいち早く踏み切りました。調査・分析から効果測定までを検証していくと、管理職における男女比の違いが影響し、賃金の差異につながっていることが分かりました。

女性の管理職比率是正に向けて、タレントレビュー(社員の強みや課題を踏まえて、その人の成長シナリオを検討すること)や、将来のキャリアパスを意識してもらうためのキャリア開発プランの仕組みを活用しています。上司に対しては、3~5年先の未来を見据えて部下を育成するよう啓発し、長期的視点に立って社員の成長を促すようにしました。

いち早く情報開示に踏み切ったことで、男女間の差異を浮き彫りにし、キャリアプランの仕組みも構築した良い事例です。

⼥性活躍の推進に向けた取組事例集

総務省がまとめている⼥性活躍の推進に向けた取組事例集で、事業者別の取り組み事例を参照することができます。同程度の事業規模かつ同業他社の取り組みを知ることができるので、自社の具体的な取り組みを策定していくうえでぜひ目を通してみてください。

女性活躍推進法とSDGs

sdgsロゴ

最後に、「女性活躍推進法」とSDGsの関係について見ていきましょう。

SDGs5 「ジェンダー平等を実現しよう」と関係

「女性活躍推進法」によって女性の社会進出が促進されることは、SDGs5 「ジェンダー平等を実現しよう」の達成につながります。

SDGs5は、ジェンダーによる差別をなくし、誰もが平等な機会を得て、自分の能力を発揮できる社会を作ることを目指しています。

女性の潜在能力を十分に発揮し、女性によるエンパワーメントを促進することは、経済の成長にも繋がると考えられています。人口減少の局面を迎える日本にとって、男女が平等に活躍できる社会は、必ず達成しなければいけないとも言える、目指すべき未来の姿です。

まとめ:誰もが生き生きと働ける社会へ

2022年法改正により事業主の対象拡大と報告が義務化されたことは、日本の女性活躍が伸展する一つの大きな潮流を生みました。

日本でのジェンダー・ギャップは世界的にもかなり遅れており、長い間改善されてこなかった日本が抱える課題のうちの一つです。「女性活躍推進法」の拡大・活用・定着によって、働きたいと思っている女性が生き生きと働ける社会の実現が求められています。

<参考文献・資料>
女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づく一般事業主行動計画等に関する省令
事業主行動計画策定指針
女性の職業生活における活躍の推進に関する法律の施行について
男女の賃金の差異の算出及び公表の方法について
女性活躍推進法に基づく男女の賃金の差異の情報公表について
女性活躍推進法に関する制度改正のお知らせ
ジェンダー・ギャップ指数2023
Global Gender Gap Report2022
世界経済フォーラムが「ジェンダー・ギャップ指数2022」を公表
女性の職業生活における活躍の推進に関する法律の概要
一般事業主行動計画策定支援マニュアル
えるぼし認定、プラチナえるぼし認定の概要
認定のメリット
令和4年4月1日から女性活躍推進法に基づく行動計画の策定・届出、情報公表が101人以上300人以下の中小企業にも義務化されます(周知リーフレット)
女性の活躍加速のためのワーク・ライフ・バランス等を推進する企業を公共調達等において評価する取組について
⼥性活躍の推進に向けた取組事例集