オーストラリアのマスコット的存在であるコアラ。
ぬいぐるみのような可愛らしい姿で世界中の人々を魅了するコアラですが、実はオーストラリアの森を守るための重要な役割を担った野生動物でもあります。
しかし、年々コアラの個体数は減少しており、オーストラリアのエコシステムが大きく変化してしまう可能性も否定できません。
そこで今回は、オーストラリアがコアラを保護するために実践している5つの対策のほか、コアラとエコシステムの関連性やコアラの個体数が減少している原因についても解説していきます。
コアラは森のエコシステムを守る生き物
コアラは、1日の大半を木の上で過ごします。
当然トイレも木の上でするのですが、木の根元に落ちたコアラの糞は木々にとって栄養抜群の肥料となります。
コアラが色々な木から糞を落とすことで森林地帯の成長や再生を促すため、コアラの個体数を維持することはオーストラリアのエコシステムを守ることに繋がるのです。
コアラは個体数が減少している野生動物
国際自然保護連合(IUCN)では、野生動物たちの絶滅危惧レベルをレッドリストで発表しています。
絶滅の危険がある動物と聞いて、「絶滅危惧種」という呼び名が1番に思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか?
実は、絶滅の危惧には全部で7段階あり、レッドリストに掲載される動物は以下のいずれかに振り分けられるのが一般的です。
「低懸念」から順に深刻度が上がり、野生動物の個体数の増減に伴って危惧レベルも更新されます。
2022年時点におけるコアラの危惧レベルは、「絶滅危急」です。
下から数えた方が早い危惧レベルですが、安心はできません。
コアラは2008年には「低懸念」に分類されていたにもかかわらず、個体数の減少により2016年に「絶滅危急」に変更された過去を持ちます。
現在進行形でコアラの生息数は危ぶまれており、このままでは今よりも深刻な危惧レベルに引き上げられる可能性も高くなっているのです。
実際、かつてはウルルで有名なノーザンテリトリー州にもコアラがいたことが分かっているものの、2022年時点でコアラが生息しているのはニューサウスウェールズ州、クイーンズランド州、ビクトリア州、そして一部の南オーストラリア州の4エリアのみです。
コアラの個体数が減っている主な理由
エコシステムの維持に大きく貢献するコアラですが、生息数は毎年減っています。
コアラが減少している主な理由は、以下の3つです。
①ロードキル
コアラの生息地と人間の生活域が近いオーストラリアでは、年間約4,000頭のコアラがロードキルで命を落としています。
森の中では木から木へ直接移動するコアラですが、道路で森が分断されたエリアでは木から路上に下りなければなりません。
道を渡っている最中に車にはねられる事故が頻発しており、個体数の減少に拍車をかける原因となっています。
特にニューサウスウェールズ州とクイーンズランド州はコアラの絶対数が多いことから、この2つの州におけるロードキルの発生率が高い傾向にあります。
②犬や猫からの攻撃
犬や猫の存在は、コアラの個体数に大きな影響を与えています。
住宅街の近くで暮らすコアラは、移動するにあたって民家の庭を通り抜けることも多くなっています。
その際、飼われている犬や猫に襲われることがあり、残念ながら命を落とすコアラも後を絶ちません。
また、野良猫による野生動物の殺傷も深刻化しています。
オーストラリア全域において、野良猫が1年間に捕獲する野生動物の数は合計26億匹にも及ぶとされています。
この数字にはコアラだけでなく鳥や小動物も含まれているものの、野生で暮らすコアラにとって野良猫が大きな脅威であることは間違いありません。
③病気や遺伝子異常
野生のコアラは、クラミジアにかかるリスクが高くなっています。
メスコアラの場合は悪化すると不妊に繋がるため、クラミジアに感染したコアラが多いエリアでは新しい個体の誕生率が激減してしまいます。
また、森林を切り開いて道路を作ったことによる生息地の断絶も深刻です。
道路ができたことでコアラの移動範囲が狭まってしまい、近い生息地に住むコアラとの交配率が高まっています。
新たな種が交わらないことで近親交配が進むため、寿命の短い遺伝子異常のコアラが誕生するといった事態も発生しているのです。
コアラを保護するためにオーストラリアが行う対策
オーストラリアの森を守る上で、コアラは欠かせない存在です。
ここでは、オーストラリアが実施する5つの対策についてご紹介していきます。
①橋を設置する
コアラが車に轢かれるのを防ぐために、交通量が多い道の上に野生動物専用の橋を設置しています。
コアラが生息地からそのまま橋に移動できるようになっており、危険な目に遭うことなく道の反対側に渡れる画期的な対策です。
また、橋には分断された生息地を繋げるという役割もあります。
コアラ同士が行き来をすることでより多くの種が交わることに繋がり、近親交配による遺伝子異常の発生率減少にも貢献しています。
②野生動物保護ゾーンを作る
オーストラリアでは、野生動物の生息地の中に道路を作っているエリアがたくさんあります。
必然的にロードキルの発生率が高くなるため、野生動物保護ゾーンを作って人々に安全運転を促す対策を実施しています。
野生動物保護ゾーンには看板が立てられており、入口と出口箇所の地面には色が塗られているのが一般的です。
尚、野生動物保護ゾーンで速度オーバーした場合は、通常のスピード違反と同様に罰金の対象となります。
③速度表示の電光掲示板をコアラ仕様にする
日本でも見かける車の走行速度を測定する機械は、オーストラリアでも至る所に置かれています。
ただし、ロードキルが発生しやすいエリアでは、コアラの顔が点滅するアイデアが採用されています。
時速45キロ以上の車には文字やマークで警告を行い、時速45キロ以下で微笑むコアラが表示される仕組みです。
車のスピードを落とさせると同時に、運転手がコアラに対する親近感や興味を持つことにも繋がるため、国民全体のコアラ保護に関する意識を高められます。
また、機械のデザインにコアラの写真を使っているケースも多く、運転手にコアラの存在を印象付けることで事故を未然に防げるというメリットがあります。
④道路標識を設置する
コアラが多く生息するエリアのそばの道には、運転手に注意を促す標識が設置されています。
単に減速を喚起するだけではなく、コアラのイラストを記載して運転手の気を引く工夫が凝らされているのが特徴です。
余談ですが、オーストラリアには野生動物のための道路標識が多く、近くに何の野生動物が出没しやすいかでイラストが異なります。
⑤一般市民からコアラの目撃情報を集める
コアラの個体数が多い自治体で行われている対策が、一般市民と連携したコアラのモニタリングシステムです。
例えば、クイーンズランド州のレッドランド市が管理する「Redlands Koala Watch」では、 一般市民がコアラの目撃情報を専用のwebマップに記載できる仕組みになっています。
寄せられた情報はコアラの研究者の元に送られ、市議会と共に生息地保護の促進や安全区域の設定の見直しなどに役立てられます。
「コアラを守る活動に参加している」という自覚を市民が持ちやすいため、人々への野生動物保護の啓発とコアラのモニタリングとを同時に達成できる優れた対策です。
また、リアルな行動範囲を確認することで怪我や病気で苦しむコアラの早期救助ができるというメリットもあり、コアラの個体数を長期的に守ることにも繋がっています。
まとめ
オーストラリアの森林の未来は、コアラの個体数を増やすことに懸かっています。
ロードキルや遺伝子異常など、さまざまな要因でコアラの数は減っているものの、オーストラリアは多方面からコアラを守るための取り組みを実施しています。
事故発生率を減らす、早期救助を行う、生息地を繋げるといった直接的なやり方はもちろん、国民への啓発に繋がる対策も取り入れており、国全体でコアラを保護するという意識が高まっているのが特徴です。
「環境を守るって具体的に何をしたらいいの?」「壮大すぎて自分にできることが思い浮かばない」いったイメージを抱きがちなエコ活動ですが、オーストラリアのように自分にとって身近な野生動物を気にかけることから始めてみましょう。