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フードバンクとは?仕組みや課題とデメリット、取り組み事例を解説

食品ロスや貧困問題の解決手段の一つとして、日本でもフードバンクが注目され、活動が活発化しています。SDGsとも直結するフードバンクの取り組みですが、一方で様々な課題も抱えています。

本記事では、フードバンクの定義や仕組みをはじめ、課題や具体的な取り組み事例を解説していきます。さらに、どうすれば利用できるのか?など具体的な方法もまとめていますので、興味がある方や必要だと思われる方はぜひ参考にしてみてください。

フードバンクとは

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フードバンクとは、安全に食べられるのに包装の破損や過剰在庫、印字ミスなどの理由で、流通に出すことができない食品を企業などが寄贈し、必要な施設や団体、困窮世帯に無償で提供する団体および活動のことを指します。

もう少しわかりやすく言うと、「まだ食べられるのに捨てられてしまう食品を、困っている人たちに無料で提供する」仕組みです。

容器が破損していたり、包装に印刷ミスがあったりすると、企業は商品として売ることができません。つまり、食品自体に影響がなくても、廃棄しなければいけないのです。

フードバンクは、安全に食べられる食品を廃棄することを防ぎ、必要な人が無料で食品を受け取ることができるため、企業だけでなく個人、環境にも優しい取り組みと言えます。

フードドライブやフードパントリーとの違い

フードバンクと似た言葉として、「フードドライブ」や「フードパントリー」を耳にしたことがあるかもしれません。違いについて簡単に押さえておきましょう。

フードドライブとは

フードバンクとの大きな違いは、誰が食品を提供するか、という点です。

フードドライブは企業に限らず、一般家庭などの個人が食品を提供します。買ったものの食べきれず、余らせてしまう食品などが寄付されます。

フードパントリーとは

フードパントリーの明確な定義はないものの、集まった食品を提供する場、とイメージするとわかりやすいかもしれません。フードバンクやフードドライブで集まった食品を、必要な方へ直接配布する場所のことをフードパントリーと呼んでいます。

3つそれぞれを簡単にまとめると以下のようになります。

  • フードバンク=主に企業などから食品を集める団体、またその活動自体
  • フードドライブ=個人が食品を提供する活動自体
  • フードパントリー=地域で食品を無償提供する場所

フードバンクが注目されている背景

フードバンクが近年注目されている大きな理由は2つあります。

①食品ロスの削減

まだ食べられるにも関わらず捨てられてしまう食料を食品ロスと呼びますが、世界では13億トン、日本では年間約612万トンもの量が廃棄されています。

日本での内訳は、

  • 売ることのできない規格外食品
  • コンビニやスーパーなどの売れ残り食品
  • 外食での食べ残し

などを含めると、事業系の食品ロスが328万トンを占めます。対して、一般家庭での買いすぎや作りすぎによる家庭系の食品ロスが284万トンです。

フードバンクは、食品ロスとなっている食品を活用できます。食品廃棄によってかかる環境負荷の軽減にもつながるため、日本だけでなく世界でも活発に取り組まれているのです。

フードバンクが注目されるもう一つの理由として、貧困対策が挙げられます。

②貧困家庭への支援

日本は、先進諸国と比べると相対的貧困が高い状態です。

相対的貧困とは、自分が住んでいる国、地域社会で暮らす人々の平均よりも貧しい生活を送っている状態を指します。

一見して豊かな国と思える日本でも、3食食べられない貧困家庭が存在します。現在、7人に1人の子どもが相対的貧困状態といわれる中、無償で食品を提供するフードバンクの取り組みは、貧困家庭の直接的な支援になるのです。

相対的貧困について詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてみてください。

フードバンクの仕組み

人にも環境にもメリットのあるフードバンクはどのように成り立っているのでしょうか。フードバンクの仕組みを簡単に解説していきます。

フードバンクの仕組み
筆者作成

まず、食品製造業や小売業、農家などから、廃棄せざるを得ない食品をフードバンク団体に寄贈してもらいます。その後、集まった食品は、それぞれのフードバンク団体が提供先を検討します。宅配を通じて発送したり自分たちで運送したりして、食品を届けます。

現在最も多い提供先は子ども食堂です。これは、子どもにまつわる貧困が広く認知されてきたことにより、提供数も年々増えてきたことによるものです。

フードバンクは、地域の特性も加味しながら本当に必要としている人に届くよう、つなぎ目となる役割を担っています。

フードバンクの世界と日本の現状

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フードバンクの定義や仕組みを理解したところで、世界と日本のフードバンクの現状を押さえていきましょう。

世界の現状①:アメリカ

世界で初めてのフードバンクは、1967年にアメリカのアリゾナ州で誕生しました。

アメリカでは、黒人やラテン系移民、未婚者、低学歴層が貧困に陥りやすい傾向にあります。社会貢献への意識が高いアメリカでは、企業から恒常的に食品寄贈があり、不足しがちな肉や乳製品は別途購入し、栄養価の高い食品を提供することも重要視しています。

またフードバンクに対する個人からの現金寄付も多く、それが運営費用の3分の1を占めています。

世界の現状②:フランス

1984年、ヨーロッパ初となるフードバンクがフランスで設立されました。フランス政府が肉や野菜、果物など集まりにくい生鮮食品を提供したり、食品提供企業へ税制優遇措置があったりと、国の手厚い支援により発展しています。

また、提供先である貧困に陥っている人々が、

  • 極度の肥満
  • 栄養に関する病気にかかっている

といった状況であることに着目。フードバンクの存在意義が、貧困対策から利用者の健康増進にも寄与すべきというフェーズまで成熟しています。

世界の現状③:韓国

韓国は、1998年に政府主導でフードバンクを始めました。2015年には437か所へ拡大するなど、短期間の発展を遂げています。

韓国は政府主導による政府系フードバンクと、宗教団体が母体となる民間フードバンクの2種類に大きく分けられます。政府系フードバンクは組織体系が整備されており、企業からの食品提供も多いものの、利用者の受給資格が厳しいのが特徴です。対して民間フードバンクは、政府系フードバンクの対象から外れてしまう生活困窮者を対象にしており、補完的な役割を担っているといえます。とはいえ、まだ相互連携できている状態とはいえず、両者のパートナーシップが望まれています。

日本の現状

2007年以前は日本のフードバンク団体は6つほどでしたが、2016年以降から急速に広がり続けています。現在、農林水産省が把握しているフードバンク団体は全国で215か所あります。

フードバンク活動団体一覧(令和4年10月31日時点)

2019年には食品ロス削減推進法が施行され、国の基本的施策としてフードバンクを支援することが決まりました。食品を提供する企業に税制優遇策が設けられているほか、新型コロナウイルス感染拡大で学校の休校が相次いだ2019年には、給食で利用できなかった未利用食品をフードバンクに提供する際の経費を支援しています。

2022年度は、食品価格の高騰を受け、食品ロス削減及びフードバンク支援緊急対策事業が組まれました。フードバンク団体に対して、

  • 食品の受け入れと提供を拡大するための必要経費を支援
  • ネットワークを強化するためのマッチングの支援

などを行っています。

参考:食品ロス削減及びフードバンク支援緊急対策事業(農林水産省)

フードバンクの取り組み・活動事例

世界と日本の現状を押さえたところで、ここからはフードバンクに取り組む日本の企業・団体の具体的な取り組み事例をご紹介します。

取り組み事例①:認定NPO法人フードバンク渋谷

認定NPO法人フードバンク渋谷

2016年に活動開始したフードバンク渋谷では、みんながお互いに助け合える社会を目指し、行政と連携した取り組みを進めています。また、集まった食品を提供する「フードパントリー」の役目も同時に果たしています。

行政の防災備蓄品を提供してもらうことをはじめ、区の相談窓口でフードバンク渋谷の案内状を発行してもらったり、逆にフードパントリーを利用した方を生活支援相談窓口に繋いだりと相互的な動きをしています。食料支援の先にある生活支援や、保護へのサポートを重視しており、誰もが暮らしやすい社会を目指しています。

【詳しくはこちらから】認定NPO法人フードバンク渋谷|みんなが当たり前に助け合い、笑顔で暮らせる社会を目指して

取り組み事例②:一般社団法人ひのくにスマイルプロジェクト

一般社団法人ひのくにスマイルプロジェクト

熊本県にある「ひのくにスマイルプロジェクト」は、フードバンクのほかに

  • 子ども食堂
  • 子ども食堂のネットワーク
  • 子育て相談

の4つを柱にして活動しています。

代表の茶木谷与和さんは児童相談員を務めていた経験から、まずは子ども食堂を立ち上げました。運営していく中で貧困や食品ロスにも目を向けるようになり、「フードバンクひのくに」を設立。子どもたちの笑顔と居場所を守ることが、地域や国が変わるきっかけになるという信念を大切に、フードバンクや子ども食堂を通じた支援を続けています。

【詳しくはこちらから】一般社団法人ひのくにスマイルプロジェクト|子どもたちの笑顔が溢れれば地域が変わり、地域が変われば、県が、国が、世界が変わる

取り組み事例③:株式会社ゼンヤクノー

株式会社ゼンヤクノー

株式会社ゼンヤクノーは、鳥取県にある健康茶の製造・販売会社です。はと麦茶を主力商品として、地元の生産者と耕作放棄地を活用した桑の葉の健康茶も作っています。

廃棄していたチコリの根を使い、焙煎してチコリコーヒーとして開発するなど、食品ロスに対する施策にも取り組んでいます。さらに、消費期限を残したまま販売することなく廃棄されてしまう商品はフードバンクに提供するなど、社会貢献活動を進めています。

【詳しくはこちらから】株式会社ゼンヤクノー|生産者と一体になって作りあげる健康茶で「薬草と健康をつなぐこころの企業」を実現

フードバンクの課題

ここまで見てきたように、フードバンクは大きなメリットがあり、活動も広がっています。しかし、主に運営面に大きな課題を抱えていることも事実です。

フードバンクの課題①:予算(運営費)の不足

活動に必要な資金を安定的に確保できておらず、またその仕組みも構築されていないのが現状です。欧米では国による手厚い支援が特徴的でしたが、日本での行政支援はまだ充分とはいえません。さらに昨今のガソリン代や物価高騰を受け、物流費が大きな負担にもなっています。

フードバンクの課題②:人手不足

このグラフによると、フードバンクのスタッフのうち4割以上は常勤スタッフがおらず、5割以上は無給のボランティアです。

常勤による専従スタッフがいないと、企業との連携が取りにくく、食品提供の機会があっても対応できない場合があります。さらに、食品の受け渡しや倉庫搬入など、ボランティアスタッフの身体的負担が大きいことも問題になっています。

フードバンクの課題③:保管設備不足による取扱食品の偏り

保管設備の保有状況

冷蔵品、冷凍品の保管設備はコストが大きいため、低温保管が必要な食品を在庫として受け入れることができません。

この表からわかるように、取扱食品は肉、魚などのたんぱく源が少なく、脂質や糖質の多いインスタント食品が多いのが現状です。水産物や畜産物は、保管や運送で大きなコストがかかってしまうため、衛生面でも安心な常温加工食品の取り扱いが中心となってるのです。

フードバンクの課題④:一時的な支援に留まっている

食料の無償提供に留まらず、その先の支援にどうつなげていくかを考える必要があります。フードバンクを生活相談や社会保障への入口として位置づけることが重要で、生活困窮者のみに対する一時的な食料支援ではなく、利用者が最終的に自立することが大切です。

フードバンクに関するよくある質問

ここでは、フードバンクについてよくある質問を簡単にまとめました。

個人でも食品を提供できる?

フードバンクは企業からの食品提供が中心ですが、個人でも寄付できます。ほとんどのフードバンク団体で直接持ち込みや宅配の利用が可能です。事前連絡が必要なところ、連絡なしでも受け取り可能なところなど団体によって異なりますので、詳細はお住まいの地域にあるフードバンク団体のHPをご覧ください。

【全国】:全国フードバンク推進協議会 加盟フードバンク団体一覧

【東京・神奈川・埼玉】:セカンドハーベストジャパン

個人で食品をもらうためにはどうすればいい?

それぞれのフードバンク団体によって受け取り方は異なりますが、

  1. 受け取り場所を選ぶ
  2. 利用予約をする
  3. 食品を受け取る

というのが大まかな流れです。まずは、お住まいの地域のフードバンクに問い合わせてみましょう。

フードバンクとSDGsの関係

最後に、フードバンクとSDGsの関係を確認していきましょう。

特にSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」と関係

フードバンクと特に関係しているのは、SDGs12「つくる責任 つかう責任」です。この中で、「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる」と食品ロスに向けた明確な目標が設定されています。

日本は、事業系食品ロスを2030年度までに2000年度比で半減する目標を掲げています。家庭系食品ロスも同様に、2030年までに半減を目指しています。

目標を達成するには、企業での積極的な取り組みはもちろん、個人でも普段の生活から食品ロス削減を意識することが大切です。その中で、フードバンクやフードドライブを利用することは、大きな一歩となります。

まとめ:利用者の未来につなげるフードバンクの包括的な仕組みづくりを

フードバンクの取り組みは、食品ロスや貧困、環境問題の解決手段の一つとして、世界的に関心が高まり、日本での活動も盛んになってきています。

その半面、フードバンクの運営には様々な課題を抱え、活動自体の継続が難しかったり、普及が遅れていたりする現状もあります。

本当に必要としている人がフードバンクを利用し続けられるよう、またその先の支援にもつなげられるよう、包括的な仕組みの整備が必要でしょう。

<参考文献・資料>
フードバンク――世界と日本の困窮者支援と食品ロス対策 佐藤 順子
フードバンクとは(一般社団法人全国フードバンク推進協議会)
食品ロスの現状を知る(農林水産省)
国内フードバンクの活動実態把握調査及びフードバンク活用推進情報交換会実施報告書
フードバンク実態調査事業報告書(流通経済研究所)
海外におけるフードバンク活動の実態及び歴史的・社会的背景等に関する調査
食品ロス削減及びフードバンク支援緊急対策事業(農林水産省)
フードバンクの現状について(農林水産省)
フードバンク活動の現状と課題