近年、地球温暖化の対策の一環として再生可能エネルギーを利用した発電方法に注目が集まっています。
バイオマス発電(生物由来燃料を用いた発電)もそのうちの一つであり、日本だけでなく世界でも導入が進んでいます。
しかし、太陽光や風力発電などに比べて、バイオマス発電は一般的にもあまり認知されていない現状があります。
そこで今回は、バイオマス発電の概要や特徴、関連キーワードなどを中心に紹介していきます!
目次
バイオマス発電とは?
バイオマス発電とは、バイオマスを燃料として発電する方法を指し、再生可能エネルギーのなかの1つです。
そもそも「バイオマス」とは動植物などから生まれた「生物資源」の総称です。
※正確には化石燃料である石炭や石油なども植物資源が変化したモノなので、生物資源の一種ですが、生成されるまでに非常に長い年月を要するため、再生可能資源としてのバイオマス資源には含まれません。
バイオマス発電の仕組み
バイオマス発電の仕組みとしては、バイオマス燃料(生物由来燃料)を燃焼してお湯を沸かし、その蒸気の力で蒸気タービンを回転させて発電を行います。
この発電方法は火力発電と同様の方式が採用されており、燃料にバイオマス燃料を使用する点が大きな特徴です。
バイオマス発電が注目される背景
ここでは、バイオます発電に注目が集まる背景について見ていきましょう。まずは、バイオマス発電とカーボンニュートラルの関係について確認します。
バイオマス発電とカーボンニュートラルの関係
カーボンニュートラルとは、工場での生産時や電力の発電など、人間活動によって排出される二酸化炭素の量が、植物によって吸収される量と同程度の状態を指し、日本語では炭素中立とも呼ばれています。
二酸化炭素は温室効果ガスの一種で、地球温暖化の原因として世界中で問題視されています。
そのため、大気中に二酸化炭素を残さないカーボンニュートラルの状態は地球温暖化対策になるとして、達成が望まれているのです。
具体的には、二酸化炭素を多く排出する化石燃料の発電ではなく、再生可能エネルギーを利用した発電への移行がカーボンニュートラルの達成方法の一つとして認知されています。
以上のことから、再生可能エネルギーであるバイオマス発電の普及はカーボンニュートラルに貢献するといえるでしょう。
バイオマス発電の歴史
次は、バイオマス発電の歴史について紹介していきます。
バイオマス発電の歴史自体は古く、アメリカでは1960年代から1970年代ごろから、林産業にて発生した大量の廃材を利用して行われていました。
その後1973年、世界的なオイルショックが発生します。原油の供給量減少に伴い、世界的に石油価格が高騰したのです。
これにより、様々な分野で石油をエネルギー源としていた先進国諸国では、大きな経済的混乱が発生。
オイルショックをきっかけに、石油をはじめとする化石燃料に依存した状態が明確に問題視され、太陽光やバイオマスなど自然のクリーンエネルギーが徐々に注目され始めます!
1980年代から1990年代になると、本格的に地球温暖化などの環境問題が話題に上がってきました。このころから二酸化炭素などの温室効果ガス削減が目標に上がり、自然エネルギーのバイオマスや太陽光などが再生可能エネルギーとして導入が進んでいきます。
2000年代以降は環境意識の高いヨーロッパを中心に、バイオマス発電の商業・工業利用が盛り上がりを見せています。
ここまでが、バイオマス発電の大まかな内容になります。続いては、バイオマス発電の関連キーワードである「バイオマス資源」と「バイオマス燃料(生物由来燃料)」について見ていきましょう!
バイオマス資源とは?
バイオマス資源は、動植物から生まれた生物資源と定義されています。より具体的には、家庭から出る生ゴミやサトウキビなどの植物、木材、家畜のフンなどが挙げられます。
経済産業省エネルギー庁によると、バイオマス資源は以下の6種類に分類されています!
- 木質系
- 農業、畜産、水産系
- 建築廃材系
- 食品産業系
- 製紙工場系
- 生活系
また、バイオマス資源の状態によって「乾燥系」「湿潤系」「その他」に分けられます。
バイオマス燃料の種類
バイオマス資源は、そのままの状態ではエネルギー源として利用できません。
そのため、バイオマス資源に前処理を行い、バイオマス燃料(生物由来燃料)に変換する必要があります。
また、バイオマス燃料はその状態によって「固体燃料」「液体燃料」「気体燃料」の3種類に分類されます。
それぞれの特徴について見ていきましょう。
固体燃料
固体燃料として代表的なものは、木材を原料とした木質ペレットなどがあげられます。
木質パレットとは、製材工場などから排出される乾燥した木材を粉砕し、圧力をかけて圧縮、小さな円筒形にしたものです。
主にストーブやボイラーの燃料として利用されています。また近年では、バイオマス発電の燃料としても利用されるため、大きく注目されています!
▶︎関連記事:「木質バイオマスとは?特徴やデメリット、活用事例など徹底紹介!」
液体燃料
液体燃料として代表的なものはバイオエタノールが挙げられます。
原料となるバイオマス資源は、トウモロコシやサトウキビなどの農作物が主流です。
それらを発酵、蒸留することでエタノールが生成され、バイオマス資源を原料にしていることからバイオエタノールと呼ばれています。
バイオエタノールはガソリンと混ぜられ、自動車用の燃料として利用されています。
現代の通信販売や貿易による輸送燃料には、石油を原料にしたガソリンが利用されているため、化石燃料の代わりになる燃料としても期待されています※。
気体燃料
気体燃料として代表的なものに、バイオメタンが挙げられます。
家畜の排せつ物や食品廃棄物、下水汚泥などを原料にメタン発酵を行い、そこでバイオガスを発生させた後、バイオメタンのみを抽出します。
バイオメタンはボイラーに使用するだけでなく、バイオマス発電の気体燃料としても利用されています!
バイオマス発電のメリット
続いてバイオマス発電のメリットについて見ていきましょう。バイオマス発電のメリットとしては以下の4点があげられます。
- 燃料が枯渇しない
- 二酸化炭素を排出しない
- 発電量を操作することが可能
- 地域活性化に貢献する
それぞれ具体的に見ていきましょう。
メリット①燃料が枯渇しない
オイルショックの例からも分かる通り、化石燃料に依存した経済は大きなリスクを抱えています。
また、化石燃料自体が資源量に限界があるため、将来的な枯渇が指摘されています。
バイオマス発電の原料であるバイオマス資源は、人間によって供給可能なため、将来的な燃料の枯渇は起こり得ないとされています。
これは再生可能エネルギー全般に共通する特徴ともいえるでしょう。
メリット②二酸化炭素を排出しない
これも再生可能エネルギーに共通する特徴と言えますが、バイオマス発電においては補足が必要になります。
バイオマス発電では原料に木材を使用する場合が多く、燃焼する際に二酸化炭素を排出してしまいます。
そこで、排出された二酸化炭素は新たに成長させた樹木に吸収させることによって、バイオマス発電の実質的な二酸化炭素排出量をゼロとしているのです。
メリット③発電量を操作することが可能
他の再生可能エネルギーとは異なり、バイオマス発電は自然の状況によって左右されずに発電できるため、発電量を自由に操作することが可能です。
太陽光や風力発電などの自然の力を利用した発電方法は、無尽蔵の膨大なエネルギーを燃料にできる反面、発電量を調節しづらいという難点を抱えています。
一方バイオマス発電であれば、人間の操作によってバイオマス燃料を投入して発電を行えるため、確実に必要な量の電力を供給できます。
化石燃料と同等の使い勝手の良さがあるのは、他の再生可能エネルギーにはない大きなメリットと言えるでしょう。
メリット④地域活性化に貢献する
バイオマス資源は局所的に埋蔵している化石燃料とは異なり、各地に点在している特徴があります。
そのため、バイオマス資源を利用したバイオマス発電は、小規模な発電設備を各地に設置する方法が向いているとされます。
これにより、都市部や地方問わず
- バイオマス資源を収集する
- 発電設備の導入
- 発電設備のメンテナンス業務
などの雇用が発生し、地域活性化への貢献が期待されています。
バイオマス発電のデメリット
では次にバイオマス発電のデメリットについて見ていきましょう。バイオマス発電のデメリットは以下の2点があげられます!
- 大規模な電力生産に向いていない
- バイオマス燃料の採算が取れていない
それぞれ具体的に見ていきましょう。
デメリット①大規模な電力生産に向いていない
先ほどバイオマス発電のメリットとして「小規模な発電設備を各地に配備する方法が向いている」ことを取り上げました。
こうしたメリットは逆に大規模な電力生産には向いていないといえるでしょう。
化石燃料であれば大量に産出国から輸入した後、大規模な設備で発電、広い範囲に送電が可能です。しかし、各地に燃料が分散しているバイオマス発電では、一か所に燃料を収集するのは現実的ではありません。
これは化石燃料を用いた火力発電だけでなく、太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーを利用した発電にも劣る点と言えます。
デメリット②バイオマス燃料事業で採算が取れていない
現在、木材や食用作物、人間の廃棄物など様々なバイオマス資源から、バイオマス燃料(生物由来燃料)が製造されています。
バイオマス発電は、これらバイオマス燃料を利用することで運営されますが、化石燃料を利用した発電事業に比べると採算が取れているとは言い難いのが現状です。
なぜなら、バイオマス燃料の製造や運搬などのコストが、化石燃料を利用した場合と比べてもまだまだ高価であるためです。
バイオ燃料事業として採算がとれているのは、ブラジルで大量生産されたサトウキビから作られるバイオエタノール以外には今のところ存在しないとも言われています。
バイオマス発電の課題・問題点|将来性はあるの?
これらのデメリットも踏まえながら、バイオマス発電の課題を見ていきましょう。
バイオマス資源は木材に依存している
一般社団法人日本木質バイオマスエネルギー協会の顧問を務める熊崎実氏によると、バイオマス発電の燃料は約9割が木質系であると述べています。(1)
バイオマス発電が木材に依存していることで以下の問題が発生しています。
- 燃料の確保・生産に手間とコストがかかる
- 国内で燃料を確保しきれず、バイオマス資源の輸入量が増えてきている
それぞれ具体的に見ていきましょう。
燃料の確保・生産に手間とコストがかかる
日本は国土の約3分の2が森林におおわれた、世界有数の森林国家です。
そのため、木質系バイオマス燃料と相性が良いのではないかと考えられていました。
しかし、実際には
- 山から木を伐採し、ふもとまで運び出す
- ふもとから製材所などの加工場まで運ぶ
など、燃料にするまでに様々なコストがかかり、黒字化するのは非常に困難なのです。
国内で燃料を確保しきれず、バイオマス資源の輸入が増えてきている
このように国内で木材資源を供給することは難しく、供給量も少ない傾向にあります。
そのため、日本のバイオマス発電では海外からの木質系バイオマス燃料の輸入に依存している現状です。
日本のNPO法人バイオマス産業社会ネットワークが公開している「バイオマス白書2020」によると、2019年12月時点で稼働しているバイオマス発電の内、6割強が輸入バイオマスを燃料にしています。(2)
バイオマス発電は本当にカーボンニュートラルなのか?
ここで、カーボンニュートラルについて補足します。
2020年にFoE Japan、地球・人間環境フォーラム、熱帯林行動ネットワーク(JATAN)、バイオマス産業社会ネットワークの4つの環境団体が、「バイオマス発電は『カーボン・ニュートラル(炭素中立)』ではない」とする意見を発表しました。
燃料の栽培、加工、輸送などによって排出される二酸化炭素を考えると、カーボンニュートラルとは言えないとの指摘も
バイオマス発電で木材を燃料にした場合に排出される二酸化炭素は、新たに成長する樹木の光合成によって吸収されるため、最終的にはプラスマイナスゼロになると考えられています。
しかし、これは「発電(燃焼)の際に排出される二酸化炭素」しか考慮していないと指摘されています。
発表によるとバイオマス発電は、燃料の栽培、加工、輸送などのサイクルによって排出される二酸化炭素も考えると、実際にはカーボンニュートラルとは言えないと結論付けています。
例えば、燃料を生産するにあたり、森林伐採など既存の土地を変化させる場合があります。こうした場合、樹木だけでなく土壌からも貯蔵されていた二酸化炭素が排出されてしまうのです。
つまり、木材を利用したバイオマス発電の促進が、地上にて重要な二酸化炭素の貯蔵庫である森林や土壌を破壊するため、かえって二酸化炭素排出の原因になってしまうと考えられているのです。
また日本の場合、バイオマス発電に利用する木材の輸入量が増加しているため、輸送船や輸送車からも二酸化炭素が排出されていると考えられるでしょう。
さらに、同年2020年末にはEUでも「木材を利用したバイオマス発電はカーボンニュートラルではない」とするレポートが発表されました。これにより、世界的にも「木材を利用したバイオマス発電」の地球に対する影響が懸念されています。
一方で、
- 燃料の輸送にもバイオマス燃料を使用すれば二酸化炭素の排出は抑えられる
- さらなる科学技術の発展で環境への影響を最小限に抑えられる
などの意見もあり、バイオマス発電の是非について最終的な結論はついていません。
いずれにせよ、環境への影響を抑えるために、森林破壊が行われるという事態は本末転倒です。バイオマス発電をどのように活用していくのか、これからも考えていく必要があるでしょう。
日本のバイオマス発電普及率と現状
続いて日本においてどの程度バイオマス発電が普及しているのか、
- 新規バイオマス発電設備の導入量推移
- 2020年度における発電容量・発電量
- 2030年度における発電容量・発電量の見通し
の3つの観点から紹介していきます。
具体的な話に入る前に、発電容量と発電量の違いを先に理解しておきましょう。
発電容量とは、発電設備の発電能力を表したものです。システム用量や出力用量とも呼ばれ、kW単位で表されることが一般的になります。用量が大きくなればなるほど発電量も多くなります。
発電量はその名の通り、発電設備で実際に発電された電力量を指します。発電用量がkWで表されるのに対し、発電量はkWhで表されます。
例:発電容量10kWの設備を1時間(単位:h)運用した場合の発電量は、10kW×1h=10kWhとなります。
発電容量は発電設備の瞬間的な最大出力を表しているため、常にこの出力で発電できているとは限りません。
しかし、発電容量は発電システムにおける発電量の上限を示しているため、どちらも密接に関係しているといえるでしょう。
日本のバイオマス発電新規導入量の推移
資源エネルギー庁の設備導入状況の公表によると、バイオマス発電設備の新規導入量は年々増加傾向にあり、2020年度末には新規導入量が250万kWを越えています。(3)
次は2020年度時点における合計発電容量ならびに発電量を見ていきましょう。
2020年度における発電容量・発電量
2020年度末時点で導入されたバイオマス発電設備の発電用量は約490万kWに至っており、同年の発電量は約361億kWhでした。(4)
2020年における日本の発電量が約10,000億kWであったため、日本におけるバイオマス発電の発電量割合は約3%程度です。
2030年度における発電容量・発電量の見通し
一般社団法人日本有機資源協会と一般社団法人木質バイオマスエネルギー協会が共同で公表した「国産バイオマス発電の導入の見通し」によると、2030年には、
- バイオマス発電導入量
約650万kW(内訳:木質系バイオマス626万kW、メタン発酵ガス系21~24万kW) - バイオマス発電量
424.6億kWh(内訳:木質系バイオマス409億kWh、メタン発酵ガス系13.6~15.6億kWh)
まで増加するとしています。(6)
2020年時点と比べると発電容量は約32%アップ、発電量は約18%アップの割合です。
また、バイオマス発電が今後拡大していくには以下の要因が重要であると述べられています。
- 燃料の生産、供給体制の構築や新たなバイオマス燃料の開発
- 調整電源としての対応可能な仕組みの構築
- 自治体との連携
- 有機性廃棄物の適正処理と資源化の促進
(※有機性廃棄物:)
一方で、「市場が大きくないことによる研究開発ならびに投資額の抑制」「事業そのものが海外メーカーに依存傾向にある」ことがリスクとしても語られています。
次は日本政府のバイオマス発電普及に向けた取り組みについて見ていきましょう。
バイオマス発電普及に向けた政府の取り組み
ここでは、日本政府が行っているバイオマス発電普及のための取り組みを紹介します。
政府が行ったバイオマス関連の施策のうち、バイオマス発電の関するものは主に以下の4つです。
- 【2006年】バイオマス・ニッポン総合戦略
- 【2010年】バイオマス活用推進基本計画(前)
- 【2011年】電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法
- 【2012年】バイオマス事業化戦略
- 【2016年】バイオマス活用推進基本計画(新)
※「バイオマス活用推進基本計画」は同じ名前で2010年と2016年の二回、策定されています。
それぞれ、バイオマス発電に関する部分に注目してみていきましょう。
【2006年】バイオマス・ニッポン総合戦略
バイオマス・ニッポン総合戦略は、もともと2002年に閣議決定されたバイオマス推進施策です。
その後、2005年の京都議定書の発効をもとに見直しが行われ、2006年に改めて策定されました。
具体的には地域でのバイオマス利活用が重要とされ、バイオマス・ニッポン総合戦略策定時にバイオマスタウンの構築が目標として掲げられました。
【2010年】バイオマス活用推進基本計画(古)
バイオマス活用推進基本計画は、バイオマス・ニッポン総合戦略での成果と課題を踏まえ、バイオマスの活用推進の基本となる事項を定めた施策です。
そのため、バイオマス・ニッポン総合戦略では「地域(バイオマスタウンなど)」というひとくくりで言及されていたのに対し、基本計画では「地方公共団体」や「民間団体」など、それぞれの関係者について、より具体的に言及されています。
また、2010年度のバイオマス活用基本計画では、2020年までに国が達成すべき目標についても示されています。
【2011年】電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法
2011年8月26日に「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」が成立しました。
この法律によって太陽光発電やバイオマス発電などの再生可能エネルギー源を電気会社が一定の価格で買い取ることを国が保証しました。
この制度のことを一般的にFIT制度(固定価格買取制度)と言います。
この法律が成立したことにより、バイオマス発電の導入は加速しました。
令和4年3月末には、全国でおよそ4,700000kWの電力がバイオマス発電によって賄われました。
【2012年】バイオマス事業化戦略
バイオマス事業化戦略では、2010年に策定されたバイオマス活用推進基本計画にて設定された目標を実現するために、「技術開発」や「海外」など様々な視点で重要となる戦略が示されています。
例えば、「入口戦略」では、バイオマス資源の調達方法について重要となる要点を示しています。
また、「個別重点戦略」では、次世代技術による新たなバイオマス燃料の必要性が取り上げらました。
これまでの2つの施策では「バイオマスを利用する体制構築」や「バイオマス自体を事業・産業として成り立つのか」などが注目されてきたことと比べると、より実践的な部分を取り上げた内容と言えるでしょう。
【2016年】バイオマス活用推進基本計画
2016年度に改定されたバイオマス活用推進基本計画では、2012年度に策定された基本計画の達成状況やそこから見えてきた課題を踏まえつつ、今後取り組むべき施策の基本的な方向性を示し、さらには2025年に達成すべき目標が定められています。
他にも、藻類バイオマスをはじめとする次世代バイオマスに関する見出しがあることも特徴です。
バイオマス事業化戦略の時から次世代のバイオマス燃料(生物由来燃料)に関して言及されていたものの、見出しとして大きく取り上げられることはありませんでした。
このことからも、既存のバイオマス燃料のデメリットを解決するため、新たなバイオマス燃料開発の必要性が見て取れます。
バイオマス発電に関する企業・自治体の取り組み事例
次は、日本各地で行われているバイオマス発電に関する取り組みについて紹介していきます。
まずは、地方自治体にて積極的にバイオマス発電を取り組んでいる事例を紹介していきます。
【自治体でバイオマス発電】岡山県 真庭バイオマス発電所
真庭市は、岡山県北部で鳥取県との県境に位置しています。周囲は1,000メートル級の山々に囲まれた中国山地の最深部です。
広い市域のほとんどが森林で占めており、古くから製材業によって地域経済を支えてきました。
そのような真庭市は、2006年に日本政府のバイオマスタウンの指定を受けたことをきっかけに、バイオマスの利活用が促進されてきました。
真庭市では、2015年より真庭バイオマス発電所が稼働し始め、現在では一般家庭約2万2,000世帯分に相当する電力を発電しています。
こうしたバイオマス発電事業が実現できた背景には、豊かな山林資源を有効活用し、安価かつ安定してバイオマス燃料を供給できていることが挙げられます。
事業としてバイオマス発電を行っていくうえで、バイオマス燃料を安定供給できる体制がいかに大切であるかが分かる事例と言えるでしょう。
【関連記事】【SDGs未来都市】岡山県真庭市|再生可能エネルギー・木質バイオマスとは?SDGsとの繋がりも
【次世代バイオマス燃料の開発】伊藤忠商事
日本の大手総合商社である伊藤忠商事は、藻類バイオマスの研究開発を行う株式会社ユーグレナとともに、バイオ燃料用・飼料用ユーグレナの屋外培養実証プラントの建設に取り組んでいます。
このプロジェクトは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の公募研究に採択されています。
新たな次世代バイオマス燃料の研究開発は、政府の施策でも必要性が示されているため、伊藤忠商事のような大手企業が取り組むのは、日本にとっても非常に望ましいといえるでしょう。
【竹を用いたバイオマス発電】日立製作所
日本の大手電機メーカーである日立製作所は、竹を木材と同様にバイオマス燃料に使用できる技術を開発しました。
従来、竹は燃焼によって不純物を発生することから、燃焼利用するための燃料には向いていないとされてきました。
一方、日本では手入れのされていない山地にて竹の増殖が問題視されています。竹は成長力が強いため、あっという間に山を竹林に変化させ、樹木の健全な成長を阻害しているのです。
竹を用いたバイオマス燃料の開発は、これらの問題を同時に解決できることから非常に有益な技術進歩といえるでしょう。
また、竹は日本にて容易に入手できるため、コスト削減が進み実用化されるようになれば、日本のバイオマス燃料の安定供給にも寄与すると考えられます。
【世界最大規模のバイオマス発電設備の計画】イーレックス株式会社
再生可能エネルギーを利用した発電事業を行っているイーレックス株式会社は、ENEOS株式会社とともに、世界最大級のバイオマス発電所の事業化を開始し、2026年の運転開始を目指しています。
これに伴い、使用する燃料も従来のコストのかかる木質系バイオマス燃料だけでなく、安価なバイオマス燃料として注目されているソルガムを使用する方針を示しています。
イーレックスはベトナムとフィリピンにて、品種改良したソルガムの大量栽培を計画しており、燃料の調達コストはこれまでの3~4割安くなるとのことです。
こうした大規模なバイオマス発電事業は、大手企業の技術や資金力がなければ、実現だけでなく挑戦もできないため、これからも注目すべき計画と言えるでしょう。
世界のバイオマス発電普及率と現状
世界でのバイオマス発電の普及状況についても見ていきましょう。
「Statistical Review of World Energy 2021 | 70th edition」によると、世界の総電源容量は約26,000TW(1TW=1,000,000,000kW=10億kW)で、この内、再生可能エネルギーを利用した電源容量は約3,100TWです。(7)
また、ieaの「Bioenergy Power Generation」によると、2020年度のバイオマス発電の電源容量は約710TWでした。
現状、世界のバイオマス発電の割合は約3%程度にとどまっています。
世界のバイオマス発電に関する取り組み事例
続いて、世界各地で行われているバイオマス発電に関する取り組みを見ていきましょう!
【カカオを利用したバイオマス発電】コートジボワール
コートジボワールはカカオの生産が盛んで、その生産量は世界一です。
そのコートジボワールでは、ココアの生産廃棄物をバイオマス燃料として利用する世界初の試みを行っています。
カカオを原料としたココアの製造には大量の廃棄物が発生し、その量は2,600万トンにも上るとのことです。
このバイオマス発電所の計画が順調に進めば、25万トン相当の二酸化炭素排出を削減できると予測されています。
※二酸化炭素1トンは、杉の木約71本が1年間で吸収できる量に相当する
【世界最大のBECCSプロジェクト】イギリス
イギリスでは、再生可能エネルギーを利用した事業を行うDraxによって、世界最大級のBECCS(バイオマスエネルギーCO₂回収貯留)プロジェクトが進められています。
イギリスは、日本と同じようにバイオマス燃料を輸入に頼っているという問題を抱えており、この背景には国土の10%程度しか森林がないことが挙げられます。
こうした状況に対してDraxは、食用作物に適さない土地でバイオマス燃料用の作物を栽培することで、バイオマス燃料の国内確保に努めています。
また、エネルギー設備の開発にあたって必要になる鉄鋼や断熱材などの建設資材や電機などの内、約80%を国内から調達することで、雇用の創出も生み出しています。
このバイオマス発電事業がうまく進めば、年間800万トンの二酸化炭素排出を削減できると予測されています。
【バイオマス関連技術は世界有数】オーストリア
オーストリアは、日本と同じように豊富な森林資源に恵まれた国です。
もともと再生可能エネルギーを利用した発電事業が盛んで、2030年には電力構成の100%を再生可能エネルギーに引き上げる目標が立てられています!
一方で、内訳で見ると水力発電の割合が最も多く、バイオマス発電の割合は少ないことが特徴です。
しかし、近年では小規模なバイオマス発電が普及し始めており、今ではバイオマス関連技術は世界でも有数です。
日本と似た地形でありながらバイオマス発電が盛り上がっている理由として、バイオマス燃料の物流が優れているという点が挙げられます。
例えば、日本では輸入された丸太を前処理するために製材所まで運ぶケースが多く見受けられます。これに対してオーストリアでは、森林で木材を採取した後、そのまま森の中でチップ化などの前処理を施します。
また、チップ輸送に関しても、オーストリアは近い距離に発電所を設けることで、最適な導線を確保しています。
こうしたことからも、燃料の調達・発電所への供給などの物流を整えることが、バイオマス発電の運営に重要な要点であることがうかがえます。
【再生可能エネルギー利用先進国】デンマーク
デンマーク政府は、電力部門と輸送部門にてバイオマスの活用を積極的に進めています。
国営電力会社DONG Energyは、2023年1月1日までに石炭を用いた火力発電を停止する方針を決定しました。
方針の理由は「持続可能なエネルギー社会を推進するため」とのことです。
こうした努力によりデンマークの二酸化炭素排出量は、2006年から2016年の10年間で約2,500万トン減少し、そのうちDONG Energyの削減分が約50%程度を占めています。
経済的な理由ではなく、環境への負担を理由に再生可能エネルギー利活用への動きを強めるのは、政府が決定権を持つ会社ならではの強みと言えるでしょう!
バイオマス発電とSDGsとの関係
最後に、バイオマス発電とSDGsとの関係について紹介していきます。
そもそもSDGs(Sustainable Development Goals )とは、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。
環境問題や人権問題などの解決に向けて具体的な目標が定められており、国際連合に加盟する国の全会一致で採択されました。
現在、世界中で地球温暖化などの環境問題が注目されており、これらは二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスが原因とされています。
バイオマス発電などの再生可能エネルギーを利用した発電設備は、化石燃料を使用した火力発電に比べて二酸化炭素排出量が少ないため、SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」の達成に大きく関係するといえるでしょう。
まとめ
地球温暖化をはじめとする環境問題への対策のため、化石燃料を利用した発電方法から再生可能エネルギーの発電方法への移行が望まれています。
バイオマス発電も再生可能エネルギー発電として大きな可能性を秘めている一方で、まだまだ解決しなければならない課題も少なくありません。
今後バイオマス発電が普及していくには、技術開発や関係者のシステム構築などによって残っている課題を解決していく必要があるでしょう。
<参考文献>
1.一般社団法人日本木質バイオマスエネルギー協会 バイオマスの近代型利用に向け動き始めた世界の状況
2.バイオマス白書2020
3.経済産業省 資源エネルギー庁 固定価格買取制度 情報公開用ウェブサイト
4.自然エネルギー財団 資源別統計
5.自然エネルギー財団 統計 エネルギー全般
6.一般社団法人 日本有機資源協会 一般社団法人木質バイオマスエネルギー協会 国産バイオマス発電の導入見通し
7.bp Statistical Review of World Energy 2021 | 70th edition, iea Bioenergy Power Generation