#インタビュー

株式会社CACTUS TOKYO|サボテンレザーで環境とものづくりの課題解決を目指すCACTUS TOKYOの魅力とは?

株式会社CACTUS TOKYO

株式会社CACTUS TOKYO 熊谷渓司さん インタビュー

熊谷渓司

1994年、北海道出身。2017年に一橋大学を卒業後、大手機械メーカーにて5年間経営企画を担当。大企業というしがらみの多い立場での環境問題の解決に向けた取り組み方に限界を感じ、並行してNPOでのボランティア活動や個人での情報発信といったアクションに取り組み始める。そんな中、サボテンレザーとの出会いをきっかけに、正論を伝えるだけではない、生活者のライフスタイルに寄り添う形での課題策の提案に可能性を感じる。2021年にサボテン由来のレザーを用いたファッションブランド「CACTUS TOKYO(https://cactus-tokyo.com)」を立ち上げ、2022年に独立。「環境や社会に対して良い選択を行う人が、最高の気分になれるようなブランド体験」をテーマに新しいサステナブルラグジュアリーブランドを目指している。

introduction

サボテン由来の素材を使った革製品を展開する株式会社CACTUS TOKYO。サボテンレザーは、本革と変わらないほど高品質なレザーとして注目を集めています。サステナブルに直結するだけではなく、職人を取り巻く社会問題の解決など、ブランドが誕生するまでには、様々な物語が込められていました。環境問題の解決に真剣に向き合う、代表・熊谷渓司さんに、ブランド立ち上げへの想いを伺いました。

人と自然が相互に良い影響を与えることができるのがサボテンレザー

–初めに、「CACTUS TOKYO」の概要とサボテンレザーの特徴についてお話いただけますか?

熊谷さん:

私たちは、「環境や社会に対して良い選択を行う人が、最高の気分になれるようなブランド」をテーマに、サボテンレザーを使ったウォレットやポーチ、ミニトートバッグなどを販売しています。

特にウォレットは、収納力とコンパクトさを追求した三つ折り財布、ミニマルを追求したコンパクトウォレット、定番で収納力のあるロングウォレットの3種類を展開しており、人気の製品です。

掌に収まってしまう小さな財布にも、サボテンという自然の恵みや、生産工程で関わる職人さんの想いが込められています。

–サボテンレザーにはどのような特徴があるのですか?

熊谷さん:

サボテンレザーの特徴は大きく2点あります。

まず、品質の高さですね。本革を愛用していた私から見ても、サボテンレザーは素晴らしい品質だと思います。この背景には、サボテンレザーのメーカーの創業者たちが車やファッション産業出身であることがあるかもしれません。元々のプロダクトに、高品質なレザーを使っているというバックグラウンドがありました。そこから、ユーザー目線でも魅力的なものづくりがされていると感じます。

次に、サボテンの育成方法が環境に負荷をかけないことです。

サボテンは乾燥した地域で育てることができます。雨水だけでしっかり育ち、肥料も必要ありません。さらに、サボテンを植えることで、地域の土壌を改善し、樹木の育ちにくい乾燥地帯では難しい植林やCO2の回収などの効果も期待できます。

サボテンレザーを使うことで、まさに人と自然がうまく相互に良い影響を与え合ってファッションを生み出すことができるのです。

素材は、メキシコで栽培されているサボテンを使ったレザーを使用しています。原料であるサボテンが、一番無理なく育って、なおかつ自然に影響を与えられるのはメキシコです。日本でも同じ種類のサボテンを栽培されている農家さんがいらっしゃいます。しかし、日本では高価なサボテンを食用に使用する場合が多いんです。そのため、サボテンレザーに適したサボテンを栽培するのは難しいという側面もあります。

収穫量や安定性などを考えても、メキシコの方が適しているということになります。

雪解けの山で見たペットボトルがきっかけだった

–なぜサボテンレザーを使ってブランドを立ち上げようと思ったんですか?

熊谷さん:

学生の頃、環境問題について考える機会が増えたことに端を発しますね。

一番最初のふとした違和感は、山に落ちているペットボトルやビニール袋でした。

私は北海道の札幌出身なのですが、両親がアウトドア好きで、私自身も小学2年生から大学4年までアウトドアスポーツをしており、毎年1年間のうち約100日は山の中で過ごしていました。

学生時代はスキー部だったんですけども、雪山って冬は雪が真っ白なのでとても綺麗なんですよ。

しかし、雪が溶けて夏になって山を登ったりすると、空のペットボトルやビニール袋が落ちているんですね。「これを見てほっといたら、この後自分が死んだ後も残るんだろうな」とチクリと違和感を持ち始めたのです。

また、学生時代のうどん屋さんでのアルバイトでの経験も大きいですね。

実家がラーメン屋なので、食に対してはなんとなく自分なりに思いを持っていたんですけど、最後の時間帯にシフトに入ると、余ってしまったうどんなどを全部まとめてバーっと捨てなければなりませんでした。余っていても、アルバイトは食べてはいけないルールがあったんです。

なんでこういうことが起こるのかと、ぼんやりと学生時代から環境問題や食について考えるようになりましたね。

問題意識がさらに明確になったのは、就職活動の時です。当時の私は、父親が中国籍で、母親が日本籍である背景から、外交に興味を持ち、外務省に入りたいと思っていました。国家公務員試験の勉強もしましたし、実際に官僚の方に話を聞きに行くこともしました。

その中で経済産業省と環境省とも話す機会があり、各省の政策や官庁の話を聞いていくと、私が山で見たプラスチックのゴミや飲食店でのフードロスの問題などは、自分たちがGDPを何とか増やそうとしたことで生み出している負の側面、つまり経済発展の裏側にある問題が全部繋がってるんだと直感したんです。

この経験が環境問題を意識した一番の根っこになっていますね。

その後、国家公務員ではなく新卒で産業機械メーカーに入社しましたが、会社でも環境問題に携わっていました。ただ、自分でももっと具体的に動きたいという思いがあったんです。そこで、仕事が終わった後や休日もNPOやNGOでボランティアベースの活動を始めました。

例えば、タンザニアのキリマンジャロの森林保全活動です。森林保全活動をすると、地域住民の生活とバランスを保てなくなるという難しい問題と向き合っている、たまたまご縁があった団体と一緒に動いていました。

日本国内でも、放置された森林を手入れして保全していく活動や、神奈川の有機農場で畑作業をさせてもらうなど、多岐に渡って参加していました。

しかし、これらの活動には限界を感じ、自分で環境問題についてブログで情報発信を始め、海外のリサーチも行うようになりました。英語で検索すると、ヨーロッパなどの新しい事例が出てくるんですよ。そのおかげで、3、4年前に植物由来のレザーが市場に出始めたときに、キャッチアップすることができました。

私自身、普段からレザー製品を使っていたので、単純に品質について気になったので、いくつかの植物由来のレザーを取り寄せてみました。その中でサボテンレザーの見た目や手触りが最高だと感じ、これを使ったブランドを立ち上げることにしました。

2021年にクラウドファンディングで第一弾のプロダクトをスタートして、その後自社のオンラインストアメインで販売しています。

国内の職人なくして高品質な革製品はできない

–日本で導入するに当たり難しかったことや課題はありましたか?

熊谷さん:

難しいというか、丁寧にやらなければならないと思ったことが2つあります。

1点目は、工房との最初の工程のすり合わせですね。

現在、仕入れたサボテンレザーを国内の工房さんにお願いして製品を作ってもらっています。初めて依頼した際に、工房さんにあるのは本革向けの設備なので、サボテンを含んだレザーを使うと、機械の組み合わせや材料の貼り付けの問題が出てきたんです。製品品質を安定させるのに苦労しましたし、解消に向けたすり合わせは丁寧に行いました。

もう1つは、お客様とのファクトベースの会話の重要性ですね。一言で「これはサステナブルなアイテムです。」と伝えても、何がいいかわからないじゃないですか。ファクトベースで話し合わないとぼんやりしてしまうし、誤解を招くシーンも多いんです。そのため、できるだけバックデータがあるものから定量的な情報を出して、会話の中でわかりやすく伝えるようにしていますね。

–実際に購入されたお客様の層や反応はいかがですか?

熊谷さん:

購入される方の年齢層は幅広く、25歳半ばから40代の女性が多いですね。男性は3割くらいでしょうか。

素材やものづくりのクオリティの高さが伝わるようなデザインをコンセプトにしているため、洗練された雰囲気を気に入ってくださる方が多い印象です。

また、サボテンやレザー自体の触り心地が柔らかくて気持ちいいという声も寄せられています。大袈裟かもしれませんが「一目見たらしっかり作られていることが分かる」ので、他の製品を横に並べて「高品質でオーラがある」と言ってくれた方もいました。

しかし、こんなお言葉をいただけるのは工房の職人さんがいてこそです。工房さんがなければ我々のビジネスも成り立ちませんから。ただ、工房さんの賃金や後継に関する労働環境の現状はあまり知られていません。

一番長くお付き合いしている蔵前の工房さんとの何気ないコミュニケーションの中で、「先週知り合いの工房が廃業したよ」という会話が出てくるんですね。

そこから業界の難しい現状が伝わってきました。

自分でも調べてみると、1980年代から産業が右肩下がりで衰退していることが、あらゆる数字を見ても明らかでした。ちなみにアパレル業界の国内生産率は3%以下と非常に少ないんです。

実際に他の工房さんを訪問してみても、あと5年以内に廃業することを決めている職人さんなどもいらっしゃって。そういう現状を知って、痛切な思いを感じました。

細かいところまでこだわってものを作り出すことに価値を感じていたので、これが国内でできなくなると、製品を販売する自分たちだけでなく、お客様、職人さんといった、業界全体が困ってしまいます。

そこで、職人さんを取り巻く社会問題への取り組みもブランドの中に位置付けることにしました。

まだローンチして2年ほどなので、目にみえる変化はまだあまり感じていませんが、やってみてすごくよかったなと思えることがありました。

以前、工房さんのものづくりをしている現場をお借りし、私たちのお客様をお呼びして工房見学ツアーをさせてもらったことがあります。職人さんにも同伴してもらって、工程をお客様に見てもらいました。

その際、職人の方は「直接お客様の声を聞けてとてもよかった」「今後もこういうことができたら楽しいね」と明るい顔で反応してくれたんです。私たちが間に入ることで工房にとっても良いことができるんじゃないかなと感じています。

環境問題の解決のためには誰でも気軽に参加できることが必要

–続いては、製品のPR方法について教えてください。

熊谷さん:

基本的にSNSを活用しています。ただ、私たちが発信したものよりも、お客様が実際に購入して発信した投稿から反響が広がっている実感がありますね。

また、有楽町マルイの「エシカルな暮らし」さんが、昨年の1月頃から当社の製品を常設で導入してくださっているため、そこから知っていただいた方も多いですね。

今後も、特設エリアでのポップアップを増やしていこうと思っていますが、リソース的な面で多くのエリアに出店することはできないという現状があるため、オンラインでの販売も大きな割合を占めます。そこでオンラインで購入された場合、返品は30日間できるようにしています。あまりにもイメージと違っていれば、無理して持っていただくのもお互いに辛いので。

さらに掘り下げますと、私たちが取り組んでいる環境問題は、社会全体の問題だと考えています。一部の人が自己犠牲でやるのではなく、地域にとらわれず、解決に参加したいと思う方々が気軽に参加できることが理想だと思っていて。

そのために、例えば東京から距離が離れているから配送料が高くなるというのは自分の中で必然性がないので、日本全国一律無料にしています。

また、配送日の指定は受け付けていません。正直なところ、厳密に決めた日に届かないと困るような財布やカバンを使うべきではないと思います。

財布やバッグのようなレザー製品は長持ちするので、こういう選択肢があってもいいのかなと思っています。

–今後の展望について教えてください。

熊谷さん:

まず出店の機会があればどんどん行い、様々なエリアの百貨店さんで、お客様に製品を届ける機会を作りたいと思っています。

また、今年に入って、新しいデザイナーを正式に迎え、ブランド内部のクリエーションを刷新しているところです。そのアウトプットとして第1弾のプロダクトのローンチが今年の6月に決定しています。

環境問題の解決に貢献できるようなアクションがブランドの根幹にありますが、とはいえ、選んでくれたお客様を最高の気分にできるかどうかは、やっぱり私たちのものづくりのクオリティやデザインにかかっているので、今年はそこの部分が大きく進展がありそうです。

–これからの製品発表が楽しみです。貴重なお話をありがとうございました。