#インタビュー

NPO法人チャイボラ|「子どもたちの一人ひとりが大切に育てられる世の中」を目指して、社会的養護施設の人材確保と定着を推進

NPO法人チャイボラ

NPO法人チャイボラ 牛堂望美さん インタビュー

牛堂望美

子ども支援NGOや企業CSRにて、主に子ども支援に10年以上従事。現在はチャイボラにて人材確保・チャボナビ等の責任者を担当。 「子どもが温かい環境で育つことができる社会」を目指していたところチャイボラに出会い参画。

introduction

身体的・心理的虐待や育児放棄、貧困…様々な理由から親と離れて社会的養護施設で暮らす子どもたちがいます。職員一人で20名の子どもたちのケアをする施設もあるなど、職員の人材不足は深刻な課題となっています。同時に、施設で働くことは、子どもたちの人生に寄り添える喜びを与えてくれる仕事でもあります。

今回は、同NPOの牛堂理事に、子どもと職員双方の幸せに繋がる「人材不足解消」のための事業について伺いました。

「必要なのはモノより人」の言葉に受けた衝撃

-まずは、事業の概要をご紹介ください。

牛堂さん

私たちは、日本で唯一、社会的養護施設の人材の確保と定着をサポートするNPO団体です。

「社会的養護施設」とは、「何らかの理由によって親と暮らすことができない子どもたちが暮らす施設」で、「児童養護施設」「児童心理治療施設」「児童自立支援施設」「母子生活支援施設」「自立援助ホーム」「乳児院」の6つに分けられます。

数として最も多いのが児童養護施設です。児童心理治療施設はより心理的なケアが必要な児童が入所します。児童自立支援施設は、犯罪や不良行為をしてしまったり恐れのある児童などが入所します。母子生活支援施設は、母子が一緒に入所できる施設です。DVや貧困、若くして出産し自分だけでは養育が困難などの状況にある母子が寮費を払って生活します。

自立援助ホームは、社会的養護の最終砦とも言われる存在で、15才以上の若者を対象とし、義務教育を修了するなどし、かつ自立が困難な方のためのものです。寮費を払い、ここから学校や職場に通い、自立を目指します。乳児の養育は乳児院が行います。

ファミリーホーム、里親も社会的養護に入りますが、チャイボラが主に対象としているのは「施設」です。福祉型・医療型の障害児入所施設は、子どもが入所するという意味で近いため、対象としています。

-ビジョン、ミッションはどのようなものでしょうか?

牛堂さん:

ミッションは「子どもたちの一人ひとりが大切に育てられる世の中を目指す」であり、その中で、①施設で働く人を増やす ②職員が働きやすい環境を追及する ③施設や支援者と、支援を必要としている人をつなぐ、などの活動を行っています。

-チャイボラが設立されたきっかけや、どのようなスタートだったかを教えてください。

牛堂さん:

現・代表理事の大山遥が設立者です。ベネッセコーポレーションという教育教材の会社で働いていた大山は、入れ替え廃棄となる教材の寄付を思い立ち、児童養護施設で働いている知人に連絡をしました。そこで聞いたのは、施設職員の人材不足の現状と「施設に必要なのは、モノではなく人」という言葉でした。学校を卒業して間もないその二十代の女性は、当時一人で8人ほどの子どもの面倒を見ていたそうです。大変な状況にある子どもたちの安全な生活をサポートするだけで、精一杯だったんです。「教材が送られてきたって、どうにもできないよ?」という言葉には説得力がありました。

教材の寄付を喜んでもらえると思っていた大山は、過酷な現状を知って衝撃を受け、「私が行くから待っていて!」と宣言しました。その1週間後にはベネッセに退職届を出し、児童養護施設で働くために保育士の専門学校の夜間部に入学、昼間は施設でアルバイトという生活をスタートさせました。

専門学校では、保育園で働くために学ぶ人が多い反面、社会的養護の授業もあり、その職員となることに興味をもつ学生もかなりいたそうです。ところが、最終的に社会的養護施設を志望先としたのは大山一人でした。なぜ施設への就職に至らないのかを調べるために、150人くらいにインタビューしたところ、「施設の情報発信に行きつかない」ことが大きな理由のひとつだとわかりました。ならばそこをやっていこう!と思い立ったわけです。

最初からいきなり「就職のため」の活動から始めると学生にとってもハードルが高くなってしまうので、まずは「遊びサークル」というかたちで始めました。つまり、定期的に児童養護施設の子どもたちと学生が遊ぶ活動を通して、施設と学生の関係性を築いていきました。そのうえで、施設に「施設説明会を開きませんか?」と促したところ受け入れていただけて、学生側の集客にも成功しました。それが始まりであり、現在の原型です。

2018年にNPO法人チャイボラを設立、2019年に社会的養護総合情報サイト チャボナビをオープンしました。多くの施設との連携も広がり、大学・専門・短大への出張事業や施設見学会のサポート、SNSによる情報発信なども拡大していきました。

人手不足でありながら、採用の自己発信が難しい現状とは?

-子どもたちの施設入所において、何が最も多い要因なのでしょうか?また、親から離れて暮らす子どもたちは、職員の方々をどんな存在として求めますか?

牛堂さん:

最も多い背景は、親からの虐待です。身体的、心理的虐待に加えて、ネグレクトといわれる育児放棄や性的虐待も虐待に分類されています。貧困による原因もありますが、その両方が重なっているケースも多いんです。

子どもによって状況は様々なため一概には言えませんが、虐待や親と離れるなどの経験をかさねて、「大人に見捨てられる」ことを恐れているため、いつも自分の味方でいてくれる、何があってもそばにいてくれる、そんな存在を求めていて、その対象が施設職員となる子どもは多くいるかと思います。

-職員さんと子どもが一対一であればそれは可能かもしれませんが、実際ではどのような現場が多いのでしょうか?

牛堂さん:

状況は施設によって異なりますが、中には一人の職員で20人の子どもをケアする現状もあります。たとえ一人で一人の子どもをみる場合でも「ワンオペは厳しい」と言われている社会です。虐待を受けた子どもたちへの専門的な心のケアや、親や児童相談所との調整、事務仕事などもありますから、施設職員さんからは「一人ひとりに十分なことをしてあげられない、してあげたいことができない」という声をお聞きします。

また、退所後にいろいろなかたちで卒園生へのアフターケアを重視する施設もあります。
このような様々な役割が求められ多忙さが増す中で、職員があまりにも多忙になると、燃え尽きて(バーンアウト)離職してしまうなど、思いがあっても続けられない事態に至ることもあるんです。

-職員さんの離職以外に、施設が人材不足になる原因があれば教えてください。

牛堂さん:

一般的に企業が人を採用する時は、広報担当や採用担当がいて、広報して企業説明会を行うというプロセスがイメージできるかと思います。現在、社会的養護施設には行政から措置費としてお金はでますが、広報費という枠はありません。そのため、措置費の中からは広報担当をつけたり広告に出す費用は捻出できません。目の前の子どもたちのケアをしながらその合間に採用活動もする、という難しい状況です。

チャイボラが活動を始めた6年前には、職員を採用するために、人を集めて説明会をするという慣習がありませんでした。子どもたちを守るために、人を大勢集めることを避けたい背景もあったかと思います。構造的に、お金の問題、採用への発信をしづらい慣習的な問題、ノウハウの不足、などがあり、採用は、縁故、専門学校の施設実習生などに頼るところも多く、全体として人材不足に陥っている傾向があります。

「職員を採用したい施設」と「職員になりたい人」を繋ぐ

-そのような状況へのサポートとしての「チャイボラ」ですね。事業について詳しくご紹介いただけますか。

牛堂さん:

基幹事業は、社会的養護総合情報サイトとしての「チャボナビ」の運営です。様々な施設情報や社会的養護に関する幅広い情報もとりまとめて発信し、各施設のPR、行事や職員の様子、見学会、採用試験、募集要綱などを広く紹介しています。求人情報が見られるだけなら一般的なものですが、私たちのサイトでは施設見学会を調べやすく、申込みやすく工夫しています。しっかりと施設を見学して、社会的養護を理解したり、自分に合う施設を見つけることで、就職後の早期離職の防止にもつながります。施設の魅力を発信するために、チャイボラにて職員さんたちへのインタビューなども行い、その動画もアップしています。

会員登録をしていただくことで、施設職員の方々と直接やりとりをしたり、施設が開催するイベントなどへの参加申し込みができます。基本的に施設見学会は施設の主催ですが、チャイボラとコラボする場合は、チャイボラが全面的にサポートし、企画やチラシ制作なども行います。

また「施設見学会」「採用活動」をより効果的に実施してもらうために、採用活動についての勉強会を開いています。SNSでの発信の仕方、施設見学会の資料の作り方など様々な観点からサポートしています。

チャボナビは、最初はクラウドファンディングによる資金で構築し、当初はボランタリーで活動していることが多かったのですが、徐々に寄付をいただけるようになりました。マンスリーサポーターという定期的寄付は、計画的に事業を進めるにあたり、大きな助けとなっています。令和4年度からは、こども家庭庁(当時は厚生労働省)から「社会的養護魅力発信等事業」に採択され、補助金が出ています。これはチャイボラが国に施設の人材確保の課題と重要性を訴え、働きかけた結果です。

さらに、施設に就職した後の内定辞退や早期離職を防ぐための、施設横断の研修プログラムチャボゼミも実施しています。その他、職員向け研修会や各種イベントを通して、社会的養護施設の職員をつなぎ、交流や情報交換の場を作っています。

子どもの人生に寄り添い、関わることのできる喜び

-これまでのご活動を通じて、どのような成果を感じられますか?

牛堂さん:

施設から、「とても良い方を採用できた」という喜びの声をいただくことが多いですね。施設が大事にしていることや、社会的養護を理解してくれる人がエントリーをしてくれてありがたい、と言ってくださいます。これは、チャボナビを通じて、十分に社会的養護の意義や施設について学んでから応募する方々が増えた成果とも言えるかと思います。

また、求職者からも、「チャボナビは便利で助かった」「インスタ発信を見て就活のモチベーションになった」「オンラインでの施設見学会で様々なことが知れた」などの声をいただいています。社会的養護の就活情報はほとんどなかった中で迷いながらやってきたのでとても助かっている、と言っていただくことが多いです。

施設と人が繋がるプラットフォームや文化を作れたように思います。そのことが、子どもたちのより良い環境につながっているという実感があります。

また、社会的養護で働くことの素晴らしい点も発信できていていると感じます。人材不足という側面からだけだと、過酷な職場ではないか、というイメージだけが伝わりがちですが、施設で働くことには、大きな魅力があるんです。子どもたちにとっての生活の場ですから、毎日「おかえり」「ただいま」と時間を共にします。学校や保育園にいる期間だけでなく、その子が幼い頃から自立していく時までのかなりの長い年月を一緒に過ごします。

一人ひとりの子どもの人生に寄りそう、人生に関わる、という側面からは、親の代わりではなくとも、一番身近な養育者、おとなでいれます。それが、社会的養護施設の職員として働く大きな喜び、魅力だと感じます。子どもたちが自立したあと、例えば結婚とか親になるなどの人生の転機に報告しに来てくれたり、子ども時代に反抗していた子が、あとから感謝を示してくれていい関係になれる時があったりなど、長く共に過ごすからこその良さは、ほかの仕事ではなかなか得難いものです、サイトの様々な発信から、そのようなことも感じ取っていただければ嬉しいです。

-人材不足が解消されれば、さらに子どもたちと向き合って過ごす時間が増えますね。最後に今後の展望をお聞かせください。

牛堂さん:

日本の社会的養護施設は約1300ありますが、チャボナビへの登録数は400件ほどです。まだチャボナビを知らない施設さん、施設への就活の情報収集に苦労している求職者さん、そして社会的養護の仕事について知らない人々がいますので、今後はさらにチャボナビなどの発信を強化し、人と施設を繋げて人材不足の解消を目指します。

また、これまでも人材定着のための活動を行ってきましたが、まだまだ出来ることはたくさんあります。職員の方々がやりがいを持って長く働き、子どもたちを大切に育てられる環境を作ることができるように尽力していきたいと思います。

-施設への支援が子どもへの支援に繋がることを実感しました。今日はありがとうございました。

関連リンク

チャイボラ公式HP: https://chaibora.org/

チャボナビ公式HP:https://chabonavi.jp/

チャイボラ寄付サイト:https://chaibora.org/donation/