#インタビュー

イノチオグループ|SDGs志向の技術開発で未来につながる農業を目指したい

イノチオホールディングス SDGs推進本部長 石黒さん インタビュー

石黒 康平

イノチオホールディングス㈱ 取締役、SDGs推進本部長、最高健康責任者、

イノチオ精興園㈱ 代表取締役社長、イノチオ・フジプランツ㈱ 代表取締役社長。

愛知県田原市生まれ。2007年、オランダ・ワーゲニンゲン大学院修了。オランダにて先端施設園芸を学ぶ中、オランダから日本への施設園芸技術の輸出を開始。先端施設園芸の商品・技術・情報普及に努める。現在はキク・バラ・カーネーション等の育種開発、および種苗の生産・販売事業責任者を務め、オランダのグループ会社とともにSDGs志向の品種開発と花きの新たな需要創造に注力している。

introduction

2019年12月に創業110周年を迎えた農業総合支援企業・イノチオグループ。社是「(生きとし生けるものすべての)いのちに感謝し、いのちを育む」に表されるように、世のため人のために尽くすという、利他の精神に基づいて事業を拡大してきました。

天候に左右される農業は、環境との調和がとりわけ重要です。イノチオグループは、農業技術や栽培方法、品種開発など、多岐に渡る分野でSDGsを推進しています。今回は、SDGs推進本部長の石黒康平さんに話を伺いました。

SDGs志向でグローバル展開

–早速ですが、イノチオグループの事業内容について教えてください。

石黒さん:

弊社は「農業はいのちを育て、いのちを支える大切な仕事」という認識のもと、環境保全型農業を目指しています。

ビニルハウスなどの農業用施設や栽培機器、農薬や肥料、バイオスティミュラントなどの農業資材や、ドローンをはじめとするスマート農業の普及と実施に力をいれたり、GABAトマトやキクやバラ、カーネーションなど国内外に誇る付加価値ある作物を開発・生産したりなど、事業内容は多岐に渡っています。

自社ミニトマト農場

また、弊社は海外のグループ企業でも事業を行っています。

–どこの国で事業展開しているんですか?

石黒さん:

オランダのフロリテック社とラオスのInochio K.P Lao社を拠点としています。オランダでは世界市場に向けて、マム(菊)やセロシアの育種開発や苗の販売を行っています。オランダは農業先進国であり、ハイテク農業の導入も古くから進んでいるため、現地企業と提携し、大規模施設の輸入および建設も行っています。

ラオスでは、気候に合わせた農業生産を行い、現地での雇用創出や農業技術の向上にも貢献しています。

オランダでの花き品種開発
ラオスでのバタフライピー生産

–海外で事業を行う際に、苦労することはありますか?

石黒さん:

当然、世界各国で気候が違うので、日本の品種をそのまま輸出しても海外ではうまく栽培できないことが少なくありません。そこで弊社は、現地の気候や栽培方法に合う品種を自社や現地パートナーと共に開発しています。

–品種改良を通じて環境との調和を図っているんですね。

バイオスティミュラントでストレスに強い作物を

–最近は日本でも毎年猛暑ですよね。温暖化による気候変動が懸念されていますが、イノチオではどのような対策をしていますか?

石黒さん:

農業は天候との戦いです。特に近年は、毎年のように豪雨災害が起こるなど環境の変化が大きいので、私たちはそれに対処していかなくてはなりません。その対策として、弊社では、施設や資材などの他に、バイオスティミュラントの普及や開発をしています。

–バイオスティミュラントとはどのようなものでしょうか?

石黒さん:

簡単に言うと、作物にバイオスティミュラントを与えることで、植物そのものを活性化し、気候の変化や病気に強くすることです。

例えば猛暑では、厳しい日差しで作物の葉や果実が焼けてしまい、収穫できなくなってしまいます。また、大雨が降った際、作物が流されなかったとしても、畑に水が溜まると根が傷んで枯れてしまいます。

バイオスティミュラントは、それらのストレスに強い作物に育てるための技術です。

農薬や肥料とは違う作用を持つ、人間のサプリメントのようなイメージですね。バイオスティミュラントで作物が本来持つ生命力を引き出すのです。

–バイオスティミュラントの成分はどのようなものなのでしょうか?

石黒さん:

主に海藻や植物の抽出物、ミネラル、アミノ酸などです。作物にとって必須の栄養素ではないのですが、細胞を強くしたり、抵抗力を高めたりします。

また、バイオスティミュラントは、環境負荷の軽減につながると思っています。この技術で環境負荷にも強い作物が育てば、環境に負荷のある農薬を減らせる可能性もありますからね。

地域から得た未利用資源を活用

–かつては農薬による環境汚染も指摘されましたが、イノチオでは、農薬や肥料の使用についてどのような点でSDGsに配慮していますか?

石黒さん:

何よりも大切なのは、肥料や農薬、燃料などを必要以上に無駄遣いしないことですね。農薬も肥料も、使い方によっては作物や環境、人に影響を与えてしまうものです。

そのため、その時の作物の状態を観察しながら、最適な農薬を見極め、適切な回数、タイミングで散布することが重要です。弊社では、土壌の健康診断である土壌分析や病気の特定のための病害虫診断を独自のサービスとして提供しています。

–ベースとなる栽培環境を整えることで、農薬や肥料を無駄遣いしないように効果的に使用できるのですね。

石黒さん:

環境との調和を無視して、農薬や肥料をたくさん使うことは避けたいですからね。私たちは、化学肥料のみに頼るのではなく、たい肥や有機肥料などの有機物も取り入れています。

–有機物にもこだわりはありますか?

石黒さん:

地域の食品工場や畜産業から出た副産物や、海産業から出る抽出物など、これまで廃棄されていたものを肥料として活用しています。有機物を利用しながら土壌や微生物のバランスを整え、より健康な土壌を維持できるように心がけています。

環境や周辺の産業も含めた資源やエネルギーの循環に配慮しながら、品質の高い農産物を追求し、消費者のニーズに応えていく。これこそが、今後の農業に求められているスタンスだと考えています。

ドローン技術で農業の労力軽減

–ところで、農業従事者の減少や高齢化が問題になっていますよね。やはり、若者の参入は少ないのでしょうか?

石黒さん:

そうですね。農林水産省のデータでは、平成27年の農業従事者が175.7万人でしたが、年々減少し、令和3年度は130万人です。そして、農業従事者の平均年齢は67歳前後で推移しています。このまま手を打たなければ、従事者数は今後も減っていくと思います。

–農業は重労働というイメージがあり、なかなか新規に参入しにくい業界だと思います。イノチオはいくつもの農業技術を有していますが、この問題についてはどのように貢献されていますか?

石黒さん:

弊社は農業用ドローンを取り扱っています。ドローンを使って空中から農薬や肥料を散布すれば、1haの散布作業を約10分で終えることができるのです。

–人手がかからず短時間で作業できるんですね。農業用ドローンが普及すれば、農作業も楽になりますね。

石黒さん:

ただ、ドローンを運転するためには訓練が必要です。そこで弊社は、愛知県と山形県にドローン教習所を開設し、ドローン技術者の育成にも力を注いでいます。

野菜の付加価値をつくる

–他にもイノチオグループでは、自社農場を保有されていますよね。ここでは、どのような作物を栽培しているのでしょうか?

石黒さん:

最近、注目を集めているのが「GABAトマト」です。名前の通りGABAというアミノ酸の一種が多く含まれています。GABAは、ストレスをやわらげたり、血圧を下げたりする効果が期待されています。

また、自社農場では、GAP※という国際認証を取得しています。

GABAトマトは、GABAが豊富であるという点が評価され、生鮮ミニトマトとしては日本で初めて機能性表示食品※に指定された商品です。

GAP

Good Agricultural Practiceの頭文字で、日本では「農業生産工程管理」や「適正農業規範」と呼ばれています。GAPは、食品安全・労働安全・環境保全の三本柱で構成され、経営改善の基礎である「5Sの実践」と、農業生産現場で「PDCAサイクル」を回し、継続した改善活動を行う取り組みです。

機能性表示食品

事業者の責任において、特定の保健の目的が期待できる(健康の維持及び増進に役立つ)という、科学的根拠に基づいた食品の機能性を表示することができる食品です。

–ミニトマトにストレスを緩和する効果が期待できるなんて、驚きです!

石黒さん:

GABAトマトの商品化には、SDGs志向を取り入れ、包装資材にもこだわりました。パッケージには植物性由来の生分解性プラスチックを用い、出荷用の段ボールにはFSC認証のものを使っています。

GABAトマト
FSC認証段ボール

–栄養面やパッケージ、発送時の梱包資材に至るまで、すべてにこだわっているんですね。

石黒さん:

これまでのように、物をつくって市場に出せば売れるという時代ではなくなってきました。環境保全への取り組みと並行して、付加価値のある商品を消費者に届けることが求められていると感じます。

–イノチオでは様々な先端技術で農業の可能性を広げているんですね。本日は、貴重なお話をありがとうございました!

関連リンク

イノチオグループHP:https://inochio.co.jp/