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児童虐待とは?種類と事件が起こる理由と現状・虐待を防止するためにできること

児童虐待とは?種類別事例や現状、解決に向けた取り組み、私たちにできること

昨今、児童虐待の痛ましいニュースが後を絶ちません。統計的に見ても児童虐待件数は右肩上がりとなっています。(統計の数値も氷山の一角であり、実際の件数はこれより多いともいわれています。)

児童虐待の背景には家族間の問題だけでなく、社会的な要因も複雑に絡み合っています。本記事では、児童虐待の具体事例とともに、なぜ児童虐待が起きるのか、虐待が子どもに与える影響、児童虐待の防止に向けた取り組みまで解説していきます。

目次

児童虐待とは

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虐待とは、繰り返しまたは習慣的に暴力をふるったり、必要以上に冷たい態度で接することを指します。

肉体的な暴力をはじめ言葉の暴力、いやがらせ、無視などの行為が該当します。

虐待する対象によって様々な言い方があり、本記事で取り上げる「児童虐待」の他にも、配偶者虐待(DV)、高齢者虐待、障害者虐待、動物虐待など、力や立場による上下関係が背景にあります。

まずは児童虐待とはどのように定義されているのか見ていきましょう!

児童虐待は英語で「child abuse」で、ab(逸脱して)とuse(使う)の二語を合わせたもので、直訳すると「子どもの正しい扱い方から逸脱している」になります。

「児童虐待の防止等に関する法律」によると、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)に対し虐待行為をすることで認定されます。

近年では、広義の意味で”マルトリートメント(不適切養育)”という言葉を用いることもあります。「子どものこころと身体の健全な成長・発達を阻む養育をすべて含んだ呼称」であり、ニュースになるような重大なケースではなくても、行為そのものが不適切であればマルトリートメントといえます。

※本記事では、表記を”児童虐待”に統一しています。

虐待としつけの違い

虐待について考える際、しつけとの違いについても理解しておく必要があります。

虐待事件のニュースが報じられると、多くの親が「最初はしつけのつもりだったが徐々にエスカレートして虐待に発展した」と口にしています。しかし、この二者には決定的な違いがあり、しつけの延長線上に虐待はありません!

しつけとは、

「子どもの人格や才能などを伸ばし、社会において自律した生活を送れるようにすることなどの目的から、子どもをサポートして社会性を育む行為」

引用:厚生労働省

といわれています。

つまり、親のいうことをよく聞く従順な子にすることが「しつけ」ではなく、子どもが社会性を身につけることが「しつけ」といえます。子どもが言うことを聞かないから殴ったというのは虐待となり得るのです。

児童虐待の種類と分類

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続いては、児童虐待の種類と具体的な事例をみていきましょう!

児童虐待は、以下の4つに分類されています。

  1. 身体的虐待
    児童の身体に外傷を生じ、又は生じる恐れのある暴行を加えること
  2. 性的虐待
    児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をすること
  3. ネグレクト
    児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること
  4. 心理的虐待
    児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと
引用:児童虐待の防止等に関する法律の第二条「児童虐待の定義」

ここから、それぞれの虐待の内容と具体事例を確認していきましょう。

児童虐待①:身体的虐待

身体的虐待は、「外傷に残るもの」と「生命の危機につながるもの」に分けられます。具体的には、

  • 外傷に残るもの:打撲傷、アザ、骨折、頭部外傷、刺し傷、ヤケドなど
  • 生命の危機につながるもの:首を絞める、布団蒸し、逆さ吊り、溺れさせる、何かしらの毒物を飲ませる、食事を与えない、ベランダなど戸外に締め出す、部屋に監禁する

などです。次に、身体的虐待の事例を見ていきましょう。

※本記事で掲載する具体事例は、すべてオレンジリボン運動を参考にしています。

身体的虐待の事例

Aさんは、物心がついた頃から高校生まで父親から虐待を受けていました。

  • 髪をつかまれ部屋中を引きずり回される
  • お風呂でバスタブに逆さ吊りにされ、湯船に顔を沈められる

など、ひどい暴力を受けてきました。これにより顔面が腫れ上がり、身体中がアザだらけになりながら学校に通っていました。しかし、母親や教師、友人などの周囲の人は誰も気に留めてくれなかったそうです。

児童虐待②:性的虐待

性的虐待は、近親者による性的暴行、レイプ、性的いたずらという強制的な性的干渉をはじめ、性器や性交、性的な動画・テレビを見せられる、お風呂を覗かれる、デリケートゾーン(水着で隠れる場所)を触られるなども含みます。近年では、児童ポルノなどの「商業的性的搾取(commercial sexual exploitation of children」も問題になっています。

性的虐待の加害者は、60%が家族、16%が家族と家族以外の両方とされています。

家族の内訳は、

  • 実父…52%
  • 兄…20%
  • 親の兄弟…8%、
  • 義父…5%

となっています。

家族以外というのは、教育関係者、児童福祉関係者など専門職に就く人や、スポーツや学習塾などの指導者が多く挙げられます。子どもと密接な関わりを持ち、かつ主従関係という力関係を盾にして、弱い立場の人間を性的に従属させるという構図が読み取れます。

性的虐待の事例

幼い頃に両親が離婚し、母親に引き取られたBさん。母親の再婚相手はBさんに厳しく、最初は冷たい態度でした。小学校6年生頃から義父からの性的虐待がはじまりました。Bさんがお風呂に入っていると義父が突然入ってきて、風呂場で体を触る、性的暴行をするなど危害を加えました。Bさんは義父に嫌われたくない一心で我慢し続けたと言います。

児童虐待③:ネグレクト

ネグレクト(養育の放棄)とは、子どもの身体面、医療面、教育面、情緒面で必要不可欠なものを与えないことを指します。

衣食住や清潔さに問題があること、栄養不足や栄養不良、車内に放置、同居人の虐待行為を黙認するなど、成長するために欠かせない世話をしないのがネグレクトにあたります。

ネグレクトの事例

Cさんは子どもを二人出産しましたが、どうしても上の子を可愛がることができませんでした。下の子と同じように優しくしてあげることが出来ず、そばに来られるのすら嫌悪感を抱いてしまいます。上の子に対して愛情を持てないことに対して、なぜそうなるのか、どうすればいいのか全くわからないのです。

児童虐待④:心理的虐待

心理的虐待は、上記①~③のどれにも該当せず、児童に極端な心的外傷を与えるものを言います。何を言われても拒否、否定、無視、万引きを強要するなど間違った社会認識を植え付けたり、兄弟だけを待遇よくしたりするなど、言葉やふるまいを通じて心にダメージを負わせます。

心理的虐待の事例

3歳の娘を育てるDさん。おとなしく、あまり親の手を煩わせるタイプではない娘に、冷たく当たってしまいます。「お前なんか生まなければよかった」「死んでしまえ」とひどい言葉を浴びせてしまうのです。それはそのまま、Dさんが幼い頃に母親に言われ続けてきたことでした。子どもの成長に幼い頃の自分を思い出すと、自分が言われてきたことをそのまま言い放ってしまうのです。

児童虐待が子どもに与える影響

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虐待を受けた子どもは、その後の人生でさまざまな社会適応の困難や人間関係の不和、精神的な問題を抱えてしまいやすくなります。

虐待による心理的ダメージ①愛着障害

虐待を受けた子どもにもっともよく見られる障害で、発達段階において必要な世話や愛情をかけてもらわなかったために起こります。愛着障害には、

  • 周囲の人に異常に警戒的になる抑制型
  • 初対面の人でも過剰になれなれしく振る舞う脱抑制型

の2種類があります。

大人になっても恋人や配偶者、自分の子どもに対してどう愛すればいいかわからないなど、人間関係の構築に苦労することがあります。

虐待による心理的ダメージ②自虐行為

自虐行為は、リストカットや自殺未遂、多量服薬、売春など自分を傷つける行為を日常的に繰り返してしまいます。「自分は生きていても意味がない」と自尊感情が圧倒的に低い一方、他人の注意を引き付けることで「自分のことを見てほしい」という存在意義の確認が、子どもを自傷行為に走らせているのです。

虐待による心理的ダメージ③高い攻撃性とコントロールの不能

自分の周りはすべて敵だと思い込み、感情のままに殴る蹴るなどしているうちに自身を制御できなくなります。

虐待による心理的ダメージ④未来への希望が持てない

虐待されてきた自分は立ち直ることはできないと考え、将来に対して希望を持つことができません。仕事をする、結婚するなど、他の人が当たり前に出来ていることも、自分には出来ないのだと将来像を描くことができないのです。

虐待による心理的ダメージ⑤精神疾患

うつ病の発症により、無気力、不眠、食欲不振などに陥ります。また、多くの子どもがPTSD※を抱え、その後も長い間悩み、苦しみ続けます。

PTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)

死の危険に直面した後、その体験の記憶が自分の意志とは関係なくフラッシュバックのように思い出されたり、悪夢に見たりすることが続き、不安や緊張が高まる、辛さのあまり現実感がなくなるなどの状態に陥ります。

参考:厚生労働省

児童虐待と非行の関係

虐待を受けた経験と少年非行には関係性があると言われています。

法務省が2001年に行った調査によると、少年院に在籍する非行少年のうち虐待やいじめなどの加害された経験がないのは全体のわずか4.1%程度という結果が出ました。

また、内閣府は虐待が非行に至るプロセスを下記のように示しており、虐待と非行の関係を認めています。

全ての非行少年と虐待に強い関わりがあるわけではありません。

しかし、加害者になってしまう人を減らすためにも児童虐待は解決しなければいけません。

児童虐待の日本の現状

ここからは、児童虐待の現状を最新データ(令和3年度版)から見ていきましょう。

児童虐待は年々増加している

児童虐待の相談件数は年々増えており、直近の相談件数は207,659件で過去最多を更新しました。

児童虐待の内訳は、1位が心理的虐待、2位が身体的虐待、3位がネグレクト、4位が性的虐待となっています。

虐待が起こる原因には、ミクロの視点では個人の問題、マクロの視点では社会の問題といったスケールの異なる背景があります。順を追って詳しく見ていきましょう。

増加する児童虐待の個人的背景・課題

まずは、個人的背景から児童虐待が増加する理由を考えていきます。

個人の問題①:家族の背景

個人の問題の1つ目として挙げられるのが、家族の背景です。

夫婦関係の破綻

離婚によるワーキングプアや夫婦間暴力などで家庭崩壊の状態にあり、子どものケアができない。

転居・転職

社会的・経済的に不安で子育てする余裕がない。

社会的孤立

周りに知人や友人がおらず、子育てで頼ったりアドバイスを得たりすることができない。孤独感にさいなまれ、虐待に向かってしまう。

個人の問題②:子ども側の背景

個人の問題の2つ目が子ども側の背景です。

子育てに対して、親が大変だと感じてしまう子ども

未熟児、ADHD、発達障害などを生まれつき持っており、健常な子どもに比べて子育てするのが困難であること。

偶然や望まれない妊娠で生まれてきた子

強制的な性交による妊娠や、まだ働きたかった母親が妊娠したためにやむをえず家庭に入ることになった場合、母親のストレスが子どもに向かいやすい。

個人の問題③:親の背景

3つ目には親の背景が挙げられます。

親自身が精神疾患を抱えている

親自身が発達障害などを抱えていたり精神状態が悪かったりすると、子どもに適切な世話をすることができない。

親自身も虐待児である

親自身も幼少期から虐待を受けており、心理的ダメージから虐待を繰り返してしまう。このことを「虐待の連鎖」といい、自分が受けてきた虐待をわが子にも同様に振る舞うケースは全体の3~4割にものぼる。

他の子と比較してしまう

他の子と比べて成長が遅い、上手に出来ないなどで親が焦り、虐待に走ってしまう。

増加する児童虐待の社会的背景・課題

続いては、児童虐待が増加する原因を社会的背景から探っていきましょう。児童虐待は、一般的には親の問題と片付けられがちですが、実は社会的な背景も大きく関係しているのです。

社会の問題①:核家族の増加

かつて子どもは、親だけでなくたくさんの大人の手によって育てられてきました。現代の子どもを親だけで育てるという育児の仕方は、人類史上はじめての試みともいわれるほどです。「ワンオペ育児」という言葉にも形容されるように、母親が育児はもちろん家事も切り盛りし、さらにはワーキングマザーも増えています。もちろん育児や家事に積極的な父親もたくさんいますが、周りに頼れず、孤独を深める「孤育て」が急増しているのも事実です。

社会の問題②:地域コミュニティの消失

かつて地域コミュニティが盛んだった頃は、子どもが生まれれば隣近所が世話を焼く、面倒を見てくれるなどの風習がありました。都市部においても、「遠くの親戚より近くの他人」という言葉に象徴されるように、みんなで子育てをするというコミュニティが根付いていたのです。

しかし近年では、このような地域コミュニティが、

  • 働く世代が昼間不在
  • 地域活動に消極的

などの理由から希薄化しています。さらに、若年世代の子育てに関する情報収集もSNSがメインとなり、年長者からの口出しを「余計なお世話」だと捉える親もいます。世代間での子育てギャップによって、年配者から若い人への遠慮が生まれることもあるでしょう。

また、地域コミュニティがある頃は、親と子の距離が適度に取られていました。

しかし最近では、

  • 公共交通機関でベビーカーの使用をとがめられる
  • 「子どもの声がうるさい」と公園遊びを禁止にされる

など、「子どもを受け入れられていないと思ってしまうような風潮」や、「子どもが万が一何かの事件に巻き込まれたらという不安」を親が抱いています。これにより家にこもりがちになり、親子間の距離が近くなりすぎることにつながっています。

虐待してしまう親の5つの特徴

虐待をする親というのは、上記の個人的な背景からみても、決して特殊な家庭環境であることだけが原因ではありません。虐待に走ってしまう親には、次の5つの特徴がみられます。

虐待してしまう親の特徴①:過干渉(子育てに情熱を傾けすぎる)

向上心が高く、子育てに積極的な半面、過剰に子どもに干渉してしまいます。自分の考えや価値観が正しいと思い込み、それを子どもに押し付け、自主性や自我の発達を疎外することにより親子間が不和になり、虐待に発展します。

虐待してしまう親の特徴②:無知(子育ての方法を知らない)

例えば「乳幼児揺さぶられ症候群」※のように、はたから見ればすぐに危険とわかることも、よく知らずにしていた行為が虐待につながってしまうケースもあります。

乳幼児揺さぶられ症候群

乳児の頭部が激しく前後に揺れたり回転したりすることで、脳挫傷や硬膜下血腫などを引き起こし脳に損傷を与えること

参考:子ども虐待への挑戦ー医療、福祉、心理、司法の連携を目指して 坂井 聖二 (著), 西澤 哲 (著, 編集), 子どもの虐待防止センター (監修)

虐待してしまう親の特徴③:無関心(子どもに無関心で子育てを放棄)

子どもを産んでも母親としての自覚が芽生えず、子育てしないことに関して罪悪感を感じない親というのも残念ながら少数存在します。ネグレクト(育児放棄)につながりやすい親のケースです。

虐待してしまう親の特徴④:孤独、孤立(子育ての方法は知っているが、実行するのが不安)

SNSの発展により、子育ての情報は誰もが気軽に収集できるようになりました。一方で、その膨大な情報を前に何が正しいのか整理できず、さらにそれを周囲に相談することもできないことから孤独に悩む親が増えています。

虐待してしまう親の特徴⑤:貧困(精神的・経済的余裕がない)

例えばシングルマザーなどのひとり親が子どもを育てる場合、経済的な貧困に陥りやすく教育格差も生じます。経済的・精神的に余裕がなくなると、その焦りやストレスの矛先が子どもに向かってしまうのです。

児童虐待を解決するための取り組み

ここまで見てきたように、複雑な要因が絡み合い増え続ける児童虐待ですが、国も防止に向けた取り組みを強化しています。

こども家庭庁の創設

国は児童虐待防止の司令塔として、2023年4月にこども家庭庁を創設します。常にこどもの最善の利益を第⼀に考え、こどもに関する取り組み・政策を日本社会の中心とする「こどもまんなか社会」の実現のため、こどもの健やかな成長を社会全体で後押しする取り組みを進めます。

※こども家庭庁は2022年9月、行政文書などではひらがな表記の「こども」を使うようにと各省庁に呼びかけました。担当者は、ひらがな表記にすることで「幅広くこどもを定義することで、支援からこぼれないようにするとの狙いを込めた」と説明しています。

本記事では一般では馴染みのある「子ども」という表記を使用していますが、この章のみ「こども」表記となっています。

児童虐待防止の啓発活動

厚生労働省は、毎年11月を「児童虐待防止月間」と定めており、さまざまな啓発活動を展開し、一人ひとりの理解を深め主体的な関わりを持てるよう促しています。

児童虐待防止の取り組み①:児童虐待の発生予防

産前産後の不安定な時期に必要な支えや支援を届けるため、相談しやすい体制の整備や地域の子育て支援サービスの充実を図っています。

児童虐待防止の取り組み②:児童虐待発生時の迅速・的確な対応

虐待児や支援を必要とする家庭を早期に発見し、適切に保護するため地方自治体での要保護児童対策地域協議会の設置促進と、活動内容の充実に向けた支援を進めています。

児童虐待防止の取り組み③:虐待を受けた子どもの自立支援

虐待児の自立に向け、親子関係の再構築支援をはじめ里親や特別養子縁組制度の啓発など、「社会全体で子どもを育む」を理念とした社会的養護の制度推進をしています。

児童虐待をみつけたらどうすればいい?

ここまで児童虐待の現状や背景を確認してきましたが、実際に自分が「あの子は虐待を受けているかもしれない」という場面に出くわしたらどうすればいいでしょうか?

法律上は、通報に関して以下のように定義しています!

児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。

引用:児童虐待防止法第6条

このように、通報は義務であることが明記されています。

児童虐待をみつけたらまずは通報する

児童虐待においては、子どもの安全確保が最優先されます。抱え込まず、知らんぷりせず、以下のポイントを参考にしてみてください。

児童相談所虐待対応ダイヤル(0120-189-783)に電話

自動的に住んでいる地域の児童相談所につながります。

そして、「家の近所に、激しい物音や子どもが泣き叫んでいる家があり、虐待ではないのかと思って電話しました」など、虐待なのか分からないが電話した、というスタンスでOK。自分の名前や住所を明かす必要はありません

以降は、相手から詳細を尋ねられるので具体的に答えていきます。安心していただきたいのは、「通報者の個人情報は守られる」という点です。

通報者のことが、虐待をしているかもしれない家庭に明かされることはありません。

あとで何か面倒なことに巻き込まれるのでは?間違っていたら?と躊躇してしまう方もいるかもしれません。しかし、虐待を受けた子どもが自ら助けを求めることは少なく、虐待の発見はほとんどが第三者の力によるものというのが現実です。躊躇わずに電話してみてくださいね。

虐待発見のポイント

虐待を発見するポイントを以下のとおりまとめました。専門家だけでなく私たち個人にも参考になる内容なので、ぜひ目を通してみてください。

  • 保護者の訴えと臨床所見が矛盾する
  • 事故・外傷を短期間で繰り返す
  • 保護者に対して子どもが極端におびえている、避けている
  • 子どもが他人に対して異常によそよそしい、逆にベタベタしすぎる(愛着障害)
  • 激しい過食、異食(土、紙、粘土、毛、ホコリ、氷など)
  • 身体の発達が極端に遅い
  • 外見が不潔
  • 親が情報を提供するのに抵抗する(質問に対して応えない、説明を拒否するなど)
  • 話の内容が保護者間で食い違っている
  • 保護者の態度が子どもに発生している問題の深刻さや症状の重さと合っていない
  • 医療機関の受診が遅い

虐待してしまうかもしれないと感じたら

これまでみてきたように、虐待は一部を除いて、特殊な環境や人が引き起こすものではありません。ささいなきっかけから、ストレスのはけ口として誰もが子どもを虐待してしまう可能性を持っているのです。不安な方は、以下のチェックリストをもとに、自分の状態を客観的に見つめてみてください。

虐待予防のチェックリスト

  • 嫌なことがあると暴力をふるいたくなる
  • 自分の子どもがどうしても好きになれないときがある
  • 思わずカッとして自分の子どもを叩いたことがある
  • この子がいなければいいのに、と思ったことがある
  • 頻繁に夫婦喧嘩する
  • この半年で年収が大きく減った
  • 必ずしも子どもが欲しくて産んだわけではない
  • 無性にイライラするときがある
  • 将来に漠然と不安がある
  • 子どもの面倒を見るのが面倒くさい
  • 体罰を肯定している
  • 体調が悪い
  • 子どもが自分の理想とズレていて嫌だ
  • 最近眠れない
  • 酒癖が悪い
  • 実家とうまくいっていない
  • 過去に虐待されていた
  • いつも寂しい気持ちがある
  • 子育てをきちんとできているか不安
  • 愛があればどんな人でも変わってもらえると信じている

自分を追い込まないために

みなさんは「子ども支援」「子育て支援」の違いは何だと思いますか?

例えば、「子どもが使うバッグやエプロンは親が手作りしてください」「毎週月曜日はお母さんの愛情がたくさん詰まったお弁当を持たせてください」というのは典型的な「子ども支援」にあたります。子どもは喜ぶものの、働く親にとっては負荷が高い、親のやるべきことが増えるというのが「子ども支援」です。

一方で、親のやるべきことが減ることこそが「子育て支援」であり、日常生活に時間的にも余裕が生まれることで、子育てに向けるエネルギーを蓄えることができます。

「やるべきこと」を少しでも手放すこと、あるいは思い切って休むことも精神的なゆとりにつながります。

まとめ:児童虐待の早期発見と予防のために

痛ましい児童虐待は、ニュースの向こう側で起きていることではなく、自分の近隣あるいは子育てしている自分自身も引き起こしかねない身近なものです。

大切なのは、親だけでなくみんなで子どもを育てていくという寛容な社会・環境を整えること、「もしかしたら」をそのままにせず勇気をもって通報すること、子育てに悩む親も「周りを頼る」という一歩を踏み出すことです。

<参考資料>
令和3年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数(速報値) 厚生労働省
子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について
児童虐待死亡事例の検証と今後の虐待防止対策について
児童虐待の定義と現状
こども政策の新たな推進体制に関する基本⽅針のポイント
「児童虐待防止対策の抜本的強化について」
児童虐待防止対策の抜本的強化について(ポイント)

<参考文献>
「生存者」と呼ばれる子どもたち 児童虐待を生き抜いて 宮田 雄吾 
人はなぜ、愛するわが子を虐待するのか〜児童虐待が繰り返される本当の原因を探る 大岡啓二
子ども虐待への挑戦ー医療、福祉、心理、司法の連携を目指して 坂井 聖二 (著), 西澤 哲 (著, 編集), 子どもの虐待防止センター (監修)
殺さないで 児童虐待という犯罪 毎日新聞児童虐待取材班

この記事の監修者
阪口 竜也 監修者:フロムファーイースト株式会社 代表取締役 / 一般社団法人beyond SDGs japan代表理事
ナチュラルコスメブランド「みんなでみらいを」を運営。2009年 Entrepreneur of the year 2009のセミファイナリスト受賞。2014年よりカンボジアで持続型の植林「森の叡智プロジェクト」を開始。2015年パリ開催のCOP21で日本政府が森の叡智プロジェクトを発表。2017年には、日本ではじめて開催された『第一回SDGsビジネスアワード』で大賞を受賞した。著書に、「世界は自分一人から変えられる」(2017年 大和書房)