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野生動物に欠かせない樹洞(じゅどう)とは?生息地を守るためにオーストラリアが行う保全活動

野生動物に欠かせない樹洞(じゅどう)とは?生息地を守るためにオーストラリアが行う保全活動

みなさんは、樹洞という言葉を聞いたことはありますか?

自然の力で形成された木の穴のことを指し、オーストラリアでは300種類もの多種多様な野生動物たちが樹洞を住みかとしています。

しかし、森林伐採や大規模森林火災などの影響を受けて、国内の樹洞の数は減少しているのが実情です。

野生動物の住みかが消失することでエコシステムにも変化を及ぼす可能性があるため、オーストラリアでは樹洞を増やすためのさまざまな取り組みを行っています。

この記事では、樹洞の基本情報、樹洞で暮らす野生動物の詳細、オーストラリアが直面する危機、樹洞を守るためのエコ活動の詳細を解説していくので、自然界における樹洞の役割や現状の深刻性について理解を深めていきましょう。

樹洞とは?

樹洞とは?
出典:SpaceshipEarth

樹洞(じゅどう)とは、木に形成される空洞や穴のことです。

樹齢100~150年以上の木々にのみ見られ、大きなものでは完成するまでに200年もの長い年月がかかります。

オーストラリアでは特にユーカリの木に樹洞が多く、形状は丸、三角、ひし形などがあります。

大きさや深さも木によって違い、樹洞が作られる場所についても木の高い位置から低い箇所までさまざまです。

熟成した木は、土壌の栄養素を吸収し尽くして枯れていくケースが多くなっています。

しかし、真菌などが木の中に侵入することで部分的に表面が脆くなり、脆くなった箇所はシロアリの侵入経路となります。

シロアリが増加することで少しずつ樹洞が形成され、最終的に大きな空洞が完成するのです。

尚、風や雷雨なども木を脆くする原因となっており、長期的に厳しい環境下で生息することで樹洞が作られていくと言われています。

樹洞を住みかとする野生動物たち

樹洞を住みかとする野生動物たち
出典:SpaceshipEarth

オーストラリアでは、多くの在来種が樹洞を住みかにしています

その数は実に300種類ともされており、カワセミ、オウム、フクロウを含む17%の鳥類、フクロモモンガ、ポッサム、コウモリなどの42%の哺乳類、カエル、トカゲ、蛇といった28%の爬虫類にとって樹洞は欠かせない存在です。

生息しやすい樹洞は、野生動物の種類や成長具合によって異なります。

小型の爬虫類や哺乳類は数センチ程度の樹洞でも問題なく生息できる一方、大型の鳥類になると30cmほどの樹洞が必要です。

野生動物たちは常に自身に合う樹洞を選んで使っており、住みかとしていた木が伐採や火災などで消失した場合は再度条件とマッチする樹洞を探します。

樹洞は1頭につき1つでは足りない!

ドキュメンタリー番組やアニメなどで、木の穴から動物が顔を出す姿を見たことがある方もいるのではないでしょうか?

生涯にわたって同じ穴を住みかにしているというイメージを抱かれやすい樹洞ですが、実は野生動物1頭に必要な樹洞は1つではありません。

樹洞を生息地とする野生動物は、季節、成長具合、ライフサイクルに合わせて樹洞を移動していきます。

決してランダムに樹洞を選ぶということはなく、入り口のサイズ、形状、深さ、断熱性などを基準にベストな樹洞を探します。

樹洞を使う全ての野生動物が一生涯に複数の樹洞を必要とするので、自然界にできるだけ多くの樹洞を確保することが上手く住み分けを行うための必須条件となっているのです。

オーストラリアが直面する樹洞の消失

オーストラリアが直面する樹洞の消失
出典:SpaceshipEarth

野生動物にとって必要不可欠な樹洞ですが、森林伐採などの影響で数が大幅に減少しています

さらに、2019年から約半年間にかけて続いた大規模森林火災も、樹洞の消失に拍車をかけました。

ひとつの樹洞が完成するまでに100~150年もの期間を要することから、オーストラリアでは樹洞の供給が間に合わないという状況に直面しています。

樹洞が足りなくなると、野生動物たちは住処を失います

住みかを確保できないせいで繁殖に悪影響を及ぼす可能性も高く、野生動物の個体数減少にも繋がりかねません。

野生動物の数が減る=エコシステムの崩壊を意味するため、オーストラリアの自然環境に大きな変化が起こるのではないかと懸念されています。

また、樹洞の供給が間に合わなくなることで、地面に降りてしまう野生動物も出てきます

地面に降りると犬、猫、キツネなどに襲われるリスクが高くなるため、命を落とす個体の数も増えているのです。

さらに、住宅街近辺で生息している野生動物に至っては、民家のバルコニーや屋外に設置されているペット用の小屋やキャットタワーなどのポケットに入るケースも見られます。

ペットと遭遇することで野生動物が噛まれたり引っかかれたりすることも多く、対策を取らなければ野生動物の数がどんどん減ってしまう恐れがあります。

樹洞が必要な野生動物たちのために行う保全活動

樹洞が必要な野生動物たちのために行う保全活動
出典:SpaceshipEarth

樹洞を守ることは、野生動物の命やエコシステムを維持することにも繋がります

しかし、樹洞の形成には100年以上もかかることから、オーストラリアでは森林を育成しながら代用品で樹洞をまかなう対策を取っています。

ここでは、オーストラリアが実際に行う4つのエコ活動について見ていきましょう。

巣箱の設置

巣箱の設置
出典:SpaceshipEarth

オーストラリアの野生動物保護団体やケアラーは、野生動物が多く生息するエリアに鳥の巣箱を置いています。

鳥の巣箱も樹洞と同じような作りになっており、試験的に巣箱を木に設置したところ、多くの野生動物たちが樹洞の代わりに使用する姿が見られました

自然に樹洞が作られるまでには長期間かかることから、樹洞の数が増えるまでの代用品として役立てられています。

ただし、巣箱を設置する場合、綿密な計画を立てて適切な箇所に巣箱を置くことが必要不可欠です。

既製品の鳥の巣箱は、穴のサイズのバリエーションが少ない傾向にあります。

小鳥が出入りする程度の大きさとなっているケースが多く、小さな動物や大きな鳥類にとってはベストな樹洞の代用品とは言えません。

実際、大規模森林火災の後にニューサウスウェールズ州で300個の巣箱が設置されたものの、計画性に欠けたことでほぼ全ての巣箱の利用率がゼロという記録を残しています。

そのため、野生動物保護団体やケアラーは、巣箱を導入する際に前もって十分な調査と計画を立てるように心掛けています。

道具を使って樹洞を彫る

野生動物が安心して暮らすためには、安定した場所にさまざま種類の樹洞を作らなければなりません。

しかし、既製品の鳥の巣箱には、小さな樹洞に対応できない、断熱性に欠ける、巣箱が劣化する、雨風で地面に落ちる可能性があるといったデメリットがあり、あくまで応急処置として利用されています。

そこで、より持続的かつ根本的に樹洞不足の問題を解決すべく、環境保護団体は木に直接穴を彫るといった取り組みを行っています。

チェンソーのほか、ドリルや彫刻刀のような部品が付いた専用の器具も開発されており、高い位置にもロープを使って穴を手作りしているのが特徴です。

1時間程度で手軽に樹洞を形成できるようになったことから、長期的な解決策として国内の至るエリアで樹洞が彫られています

伐採する木の選択

伐採する木の選択
出典:SpaceshipEarth

木材の供給で木を伐採する必要がある場合、専門家の立ち合いの下で切る木が選定されます。

樹洞が完成している木はもちろん、近い将来に樹洞を形成する可能性が高い木は、できるだけ残さなければなりません。

そこで、完全に枯れてしまっている木や腐敗している木を選んで伐採することで、野生動物にとっての悪影響を最小限に抑えながら人間の活動を継続することに繋がっています

植林活動

樹洞の数を増やすべく、オーストラリア国内では積極的な植林活動が実施されています。

植林されるのは野生動物の生息数が多いエリアで、湖、ダム、川といった水から近い場所が選ばれるのが一般的です。

また、自然発芽を促進する方法などについても研究を行い、新しい苗木は研究結果を活かしながら植林されています。

必要に応じて雑草の防除なども取り入れ、極力早い段階で木々が育つように工夫を凝らしています

まとめ

樹洞に暮らす生き物
出典:SpaceshipEarth

1つの樹洞ができるまでには、100年以上の年月がかかります

樹洞は多くの野生動物が使い分けながら生息しているため、オーストラリアでは代用品の導入や森林保護といったさまざまエコ活動を行っています。

「樹洞っていう言葉自体これまで聞いたことがなかった」「木の穴が減ることがエコシステムにも影響するなんて知らなかった」という方も、まずは樹洞の役割を知ることからはじめてみましょう。

今はまだ巣箱や道具で彫った人工的な樹洞が溢れていますが、いつの日か自然の樹洞で暮らせる野生動物が増えるといいですね。