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紛争鉱物とは?世界の現状や問題、解決に向けた取り組みも

私たちの生活必需品となっているスマートフォンには、金やタンタル、タングステンなど、たくさんの金属が使われています。

それらの金属の一部はアフリカ中央部のコンゴ民主共和国やその周辺地域で採掘され、武装勢力や独裁政権の資金源となってきました。紛争鉱物は本来であれば地域住民の利益となる貴重な資源です。しかし、武装勢力による支配で住民の生活が破壊され、人権が踏みにじられています。

今回は、紛争鉱物とは何なのか、紛争鉱物が引き起こす問題と過去の歴史、紛争鉱物問題解決に向けた取り組みやSDGsとの関わりについて解説します。

紛争鉱物とは

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紛争鉱物とは、紛争地域で採掘されて武装勢力の資金源となっている鉱産資源のことです。*1)コンゴ民主共和国やその周辺地域は今でも紛争が絶えない地域ですが、希少鉱物の産地でもあります。武装勢力がこれらの鉱産資源を売却して戦闘継続の資金源としています。

紛争鉱物は、紛争に関与する資源であることから、コンフリクトメタルとも呼ばれます。2010年、米国金融規制改革法(ドット・フランク法)が制定され、コンゴ民主共和国および周辺9か国から採掘される特定の鉱物が紛争鉱物に指定されました。

ドット・フランク法の罰則は設けられていないものの、企業が

  • 紛争鉱物の購入で武装勢力に資金が流入していないか
  • 深刻な人権侵害に手を貸していないか

を確認するもので、企業が紛争鉱物を購入するのを間接的に妨げています。*2)

紛争鉱物一覧

ドット・フランク法で指定された紛争鉱物は以下のとおりです。

  • 錫(スズ)
  • タンタル
  • タングステン

これらの鉱物の用途は後ほど説明しますが、いずれの金属も希少であるため、武装勢力の資金源として重要な役割を持っています。4つの金属の頭文字から「3TG」と呼ばれることもあります。

主に中央アフリカ地域で産出される

紛争鉱物はコンゴ民主共和国を中心に、南スーダン、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジ、タンザニア、ザンビア、アンゴラ、コンゴ共和国、中央アフリカ共和国などで産出されます。この地域は豊富な鉱産資源に恵まれており、例えばコンゴには金、ダイヤモンド、ウラン、石油、タンタル、コバルト鉱石など多数の貴重な資源が眠っています。

そして、これらの国々に共通していることは、長年にわたって内戦が続いていることです。数十万人単位の虐殺が起きたルワンダや独立後も紛争が続く南スーダン、世界最貧国の一つに数えられる中央アフリカ共和国など、どの国も政情不安が続いています。

紛争鉱物は何に使われているか?

紛争鉱物がどれだけ採掘されようとも、価値がなければ取引されません。また、どこにでもある資源であれば、わざわざ、紛争地域から購入する必要もありません。紛争鉱物が世界経済の中でどのように使われているのか、用途に注目してみましょう。

金は宝飾品として取引される貴金属です。

【金の用途別需要:世界】

出典:田中貴金属*3)

金自体の価値が非常に高いため、投資対象として高値で取引されます。他にも、

  • 貨幣
  • 工芸品の原料
  • 歯科治療や万年筆のペン先、電子工業の原料

などに使用されています。*4)

日本国内に限れば、宝飾品や投資対象よりもエレクトロニクスの原材料として用いられています。

【金の用途別需要:日本】

出典:田中貴金属*3)

高い価値を持つ金属であるだけに、買い手に不足することはありません。まして、昨今のように金価格が高騰していることを考えると、武装勢力の有力な資金源となってもおかしくありません。

スズ

スズは耐食性に優れた金属です。空気中で色が変わらず美しさを保つことができるため、鉄や銅などの表面をメッキする素材として利用されてきました。鉄板の表面にメッキを施したトタンは、私たちにとっても身近なスズ製品です。*5)

鉛と組み合わせて使用されるハンダや、銅とスズの合金である青銅の原料としても用いられます。主要産地は中国や東南アジアですが、アフリカ中央部でも産出します。

タンタル

タンタルも耐食性に優れた金属です。いわゆるレアメタルの一つで、重要な資源となっています。*6)タンタルの用途は多岐にわたり、主な用途としては、

  • デジカメのレンズ(光学レンズ)
  • スマートフォンやタブレットに内蔵されるSAWフィルターの原料
  • 自動車エンジンの加工に使用される超硬工具の原料
  • コンデンサの原料
  • 半導体の原料

などが挙げられます。

主な産地はブラジルやオーストラリア、コンゴ民主共和国です。

タングステン

タングステンは銀灰色の非常に重いレアメタルです。融点が3,653℃という超高温の金属で、炭素などと組み合わせるとさらに硬さを増します。*7)タングステンの用途は以下の通りです。

  • 自動車の切削工具・研磨工具自動車の切削工具・研磨工
  • 電極材料
  • マグネトロン部品
  • CTスキャン用コリメーター
  • 半導体製造機械の部品

タングステンの主要産地は中国やロシア、カナダですが、コンゴ民主共和国やルワンダでも産出します。

紛争鉱物によって起きる問題

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では、紛争鉱物は地域にどのような問題を引き起こすのでしょうか。一言でいえば、紛争の長期化と地域住民の生活破壊です。紛争鉱物の採掘権を巡って複数の勢力が戦いを繰り返せば、地域住民の生命や財産、尊厳が脅かされてしまいます。

詳しく見ていきましょう。

紛争の長期化

紛争鉱物が資金源となることで、武装勢力の軍事力が強まり、紛争が長期化してしまいます。

3TGはいずれも希少価値が高い金属であり、その気になれば買い手を探すのに苦労しません。紛争鉱物の売却で得た資金を使って新たな武器を購入し、戦闘継続能力を維持します。そして、軍事力を強めた武装勢力は地域を軍事的に支配し、あたかも独立国であるかのように実効支配を固めてしまいます。そうなると、長期間にわたる戦闘が可能となり、紛争が長期化してしまうのです。

地域経済の破壊

地域経済の破壊も深刻です。武装勢力が地域を徘徊し、労働力として現地の住民を強制的に働かせたり、組織的な性暴力や人身売買などが横行したりするようになれば、地域経済は立ち行かなくなります。

農業ができず、生活を維持する手段を失った住民は強制ではなくても、武装勢力が支配する鉱山で低賃金労働に従事するようになります。こうした作業に従事する人々は、満足な装備もないまま作業を行うため、常に自分の命を危険にさらしながら労働するしかありません。

また、15歳未満の子どもたちが鉱山で働く児童労働の問題も指摘されています。紛争鉱物が価値あるものだからこそ、地域の人々を不幸にしているという現実があるのです。

紛争鉱物の歴史と現状

紛争鉱物の歴史はコンゴや周辺地域の動乱の歴史と深くかかわっています。ここでは、紛争鉱物を巡る歴史的経緯とコンゴ内戦の現状について解説します。

紛争鉱物の歴史年表

19世紀~20世紀前半ヨーロッパ諸国がアフリカ諸国を植民地として支配
1960年コンゴ民主共和国を含む多数の国が独立(アフリカの年)
1960~65年コンゴ動乱
1965年モブツ将軍のクーデタ
1991~2002年シエラレオネ内戦
1996~97年第一次コンゴ戦争
1998~2003年第二次コンゴ戦争

アフリカの紛争の原因の一つに、ヨーロッパによる植民地支配があります。民族分布などを一切考慮せず、ヨーロッパ列強の都合によって国境線が引かれた結果、1つの国の中に複数の文化を持った民族が共存するようになりました。

これにより文化的な違いが対立の火種となって、多数の紛争を引き起こしています。そのため、せっかく植民地から独立できても、内戦や周辺諸国との戦争が引き起こされがちなのです。

紛争鉱物が問題視されるきっかけとなった「紛争ダイヤモンド」

紛争ダイヤモンドとは、紛争地域で不法に採掘されたダイヤモンドのことです。*8)紛争ダイヤモンドにスポットが当たるきっかけとなったのはシエラレオネ内戦でした。シエラレオネはアフリカ大陸西部にある国で、北海道と同じ大きさの国です。

シエラレオネでは、1991年から隣国のリベリアを巻き込んで激しい内戦が展開されました。内戦中、反政府勢力はシエラレオネで採掘されるダイヤモンドを売却し、資金源としていました。資金を得た反政府勢力は長期にわたって抵抗したため、紛争は10年以上続きました。*9)

2007年に公開された「ブラッド・ダイヤモンド」は、シエラレオネ内戦とダイヤモンドの関連を克明に描いた映画で、紛争鉱物に人々が目を向けるきっかけとなった作品です。*9)

現在も深刻なコンゴ戦争

シエラレオネ内戦と並行して行われていたのがコンゴ戦争です。

1885年、コンゴはベルギー王レオポルド2世の私有地となり、ベルギーの植民地となりました。1960年に独立すると、鉱物資源の収益分配をめぐる深刻な争いが発生しました。そして1960年7月、コンゴ各地で待遇改善を求める兵士の反乱がおきると、東部のカタンガ州が混乱に乗じて分離独立を宣言し、内戦状態に陥りました。

内戦終結後には、モブツ将軍による独裁政治が行われます。しかし1994年、隣国ルワンダで発生したジェノサイドがきっかけとなり、周辺国を巻き込んだ第一次コンゴ戦争が勃発し、モブツ政権が崩壊しました。

1998年にはモブツの後に政権の座に就いたカビラ大統領への反乱がおこり、再び戦争状態となります(第二次コンゴ戦争)。これに対してカビラ大統領は、ジンバブエ、ナミビア、スーダン、チャド、アンゴラなどの支援を受け、反政府勢力を攻撃します。

こうした混乱の最中、中央政府の統制が及ばない東部では反政府勢力が鉱山地域を支配し、紛争鉱物を売却して得た資金などをもとに政府への抵抗を続けています。*10)

紛争鉱物問題の解決に向けた取り組み

紛争鉱物が、武装勢力を資金面から支え、紛争を長期化させていることがわかりました。ここからは、紛争鉱物問題解決のための世界と日本の取り組みについてまとめます。

世界

2010年、アメリカはドッド・フランク法を制定しました。この法律では、米国の上場企業は自社の商品に紛争鉱物が使用されているか否か、調達先の精錬施設まで調査し、米国証券取引委員会に報告しなければならなくなりました。(2018年以降は任意)*11)このとき、報告の対象とされたのが3TGです。

この法律に基づき、アメリカの上場企業はサプライチェーンをさかのぼった調査を実施しています。*12)2021年からEUでも紛争鉱物に関する規制を実施しているため、アメリカや日本と取引がある日本企業も、紛争鉱物について調べなければならなくなりました。*11)

日本

日本では、ドッド・フランク法のようなサプライチェーンをさかのぼった調査はありません。しかし、アメリカ向け、またはEU向けの商品の場合は、紛争鉱物を使用していない照明を求められる可能性があるため、自主的に紛争鉱物の使用を控えています。

紛争鉱物問題の解決に向けて私たちができること

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紛争鉱物の存在が地域紛争を長引かせ、住民の生命財産や人権を脅かしていることがわかりました。私たちがこの問題でできることは何なのでしょうか。

コンフリクトフリーの商品を購入する

残念ながら、私たちが紛争を直接止めることは困難です。しかし、紛争鉱物を購入しないという形で間接的に紛争問題解決に貢献できます。

各企業は、コンゴ民主共和国やその周辺地域で採掘された紛争鉱物を購入していない証明としてコンフリクトフリーの商品を販売しています。

企業によっては自社の取り組みを一般に公表しています。たとえば、半導体大手のインテルでは、紛争鉱物に指定された金属を精錬する21か国、85社を訪問し、該当地域の紛争鉱物を取り扱わないよう指導しています。

消費者である私たちがコンフリクトフリーを表明している商品を優先して購入することで紛争問題解決に貢献できます。

紛争鉱物とSDGs

紛争鉱物の存在が紛争そのものを長引かせていることや、それによって地域住民の生活が脅かされ、人権侵害が起きていることなどについて解説してきました。ここからは、SDGs目標16との関わりを中心に解説します。

目標16「平和と公正をすべての人に」との関わり

SDGs目標16は世界中の全ての人に平和と公正をもたらすことを目指しています。

【SDGs目標16の概要】

日本のメディアではパレスチナ問題やウクライナ戦争などについてしばしば報道されます。しかし、アフリカ中央部で起きている紛争についてしっかり報道しているケースは非常にまれです。

1960年以降、コンゴや周辺地域では紛争が当たり前となっており、紛争鉱物は武装勢力の有力な資金源となってきました。日本を含む先進国が、自国の利益を優先して紛争鉱物を購入してしまうと、それだけ紛争を長引かせてしまいます。

SDGs16の達成に近づくためには、紛争鉱物のあり方に対して国同士が話し合うことはもちろん、私たち個人ができることを少しずつ進めていく必要があるでしょう。

まとめ

日本に住む人にとって、アフリカの紛争や貧困は話題になりにくいのが実情です。距離が遠く、アフリカに関する知識が乏しい状態で関心を持つのは難しいことかもしれません。

しかし、1990年代以降に進んだグローバル化は、日本と他の国々との距離を確実に近づけました。世界各国と貿易する中で、紛争鉱物は私たちの生活の中に、いつのまにか入り込んでいるかもしれません。

そのすべてを除去するのは困難ですが、コンフリクトフリーの商品を選択することで、紛争鉱物から距離を置くことができます。資金が少なくなれば、武装勢力も和平に応じる可能性があり、紛争の平和解決の道が開かれます。

参考
*1)デジタル大辞泉「紛争鉱物(フンソウコウブツ)とは?
*2)日本大百科全書「紛争鉱物(フンソウコウブツ)とは?
*3)田中貴金属「〔解説〕貴金属のリサイクルプロセス
*4)日本大百科全書「金(元素)(きん)とは?
*5)日本大百科全書「スズ(すず)とは?
*6)新金属協会「タンタルは私たちの身近な製品の機能、性能 向上を支えています
*7)アライドマテリアル「タングステンの特長
*8)デジタル大辞泉「紛争ダイヤモンド(フンソウダイヤモンド)とは?
*9)外務省「シエラレオネ共和国話題集
*10)朝日新聞デジタル「紛争鉱物とは 背景と現状、問題点、解決のための取り組みを紹介
*11)日経ESG「紛争鉱物
*12)GAO「GAO-21-531, CONFLICT MINERALS: 2020 Company SEC Filings on Mineral Sources Were Similar to Those from Prior Years
*13)Intel「コンフリクト・フリー(紛争鉱物不使用)を実現するサプライチェーンの構築に向けたインテルの取り組み
*14)スペースシップアース「https://spaceshipearth.jp/sdgs16/