海外では身近な制度である「里親」ですが、日本ではなかなか認知や活用が進んでいません。しかし、日本政府は子育てにおける家庭養育の重要性を明確化し、里親制度の拡大や充実を進めています。
本記事では、里親の現状や歴史をおさえながら、日本の里親制度や問題点を確認していきます。さらに、海外の里親事情や、SDGsとの関連性も解説していきます。
目次
里親とは
里親とは、何らかの事情で実親と離れ離れになってしまった子どもに対して、血縁に関わらず預かり、その家庭内で育てる人のことを指します。
昨今では犬や猫などの動物をはじめ、棚田や森などにも広く使われるようになりましたが、もともとは人の子どもを対象に使われていた言葉です。
里親として、親に代わって子どもを育てることを里親養育といいます!
要保護児童とは
里親に対して、昭和20年代までは、子どもの方は「里子」と呼ばれていましたが、現在では法律上「要保護児童」の名称に統一されています。
2020年時点で、全国の要保護児童数は4万2,000人に上ります。
【保護の発生理由】
要保護となる原因で一番多いのが児童虐待で、次いで家庭の養育環境です。家庭の養育環境は、実親の精神疾患による育児困難が挙げられます。
【里親委託児童数の推移】
要保護児童の里親委託数は、2000年代から増え続けています。この背景として、国が里親養育を推進してきたことが挙げられます。
まずは里親制度の歴史を振り返りながら、国の里親への方針も合わせて確認していきましょう。
日本の里親制度の歴史
日本では戦後、僧侶や地域の名士などが里親になるケースが大半を占め、それらは
- 農家の働き手
- 養子縁組※
- 慈善活動の一つ
として、個人同士で口約束する私的契約がほとんどでした。
この時、親や家を失くした子どもを保護するために各地で施設が作られますが、これが昨今の児童養護施設の前身です。戦災孤児はこのような施設に入ることが多かったため、その流れを汲んで、日本では身寄りのない子どもは施設に行くことが一般的でした。
形が変わった最初のきっかけは、次の法律ができたことによります。
里親制度の歴史①:児童福祉法の制定により里親制度が誕生
1947年に児童福祉法が制定されたことで里親制度が誕生し、里親養育が「私的なものから公的措置」へと位置づけが変わりました。
その後、1987年に特別養子縁組の制度が創設されましたが、里親に関する大幅な制度改革は2000年代までありませんでした。
里親制度の歴史②:里親制度の改正により、専門的技術が求められるように
2002年の法改正により、里親の種類がいくつかに区分されるようになり、「専門里親(後ほど詳しく説明します。)」が創設されました。
この時期は、施設での集団生活に不適応を起こす要保護児童が増えてきたことに伴い、里親に対してより専門性・職業化が求められるようになったのです。同時期に、ファミリーホーム※制度も導入されました。
これ以降、何度かの法改正を重ねながら里親制度は改革されていきました。2011年に厚生労働省が発表した「里親委託ガイドライン」では、「社会的養護の代替的養護は家庭的養護が望ましく、里親委託を優先して検討するべきである」と明記され、施設よりも里親への委託を優先するべきとの方針が示されました。
里親制度の歴史③:児童福祉法の改正により、家庭養育がさらに重要視される
2016年に改正された児童福祉法で、要保護児童に対しては、家庭と同様の養育環境で継続的に養育することとされ、「できる限り良好な家庭環境において養育されるよう、必要な措置を講じなければならない」と、家庭養護を強く推進する考えが明記がされました。この他にも里親の普及啓発をはじめ、マッチングや養育計画の明文化など、ますます里親支援が拡充されるとともに、施設養育から家庭養育へとはっきりとした方針の転換が図られました。
ここまで里親の歴史を整理してきました。この内容を押さえた上で、里親の種類と具体的な条件について確認していきましょう。
里親の種類となるための条件
里親は、大きく4つの種類に分けられていますが、25歳以上であれば、未婚の男性、女性、共働き夫婦であってもなることができます。(同居家族など、協力してくれる人がいることが必要です。)
里親になる要件として、すべてにおいて共通して求められるのは以下の3つです!
- こどもの養育について理解と熱意、愛情を有していること
- 経済的に困っていないこと
- 欠格事由に該当しないこと
この場合の欠格事由とは、里親を希望する人が成年被後見人※でないことや児童買春・児童ポルノ禁止法に違反していないことなどです。
※成年被後見人とは…認知症などの理由で著しく正常な判断力を欠いていると家庭裁判所に認められ、成年後見人によるサポートを受けている人のこと
里親の種類①:養育里親
養育里親とは、18歳未満の要保護児童を、養子縁組を目的とせずに、一定期間預かって養育する里親のことです。
里親登録のうち80%以上が養育里親で、「里親」の一般的なイメージと最も近いのが養育里親といえるでしょう。数週間や1年以内の短期委託から、長い場合は成人になるまで委託が続くこともあります。
養育里親になる条件
- 都道府県ごとの養育里親研修を修了していること(5年ごとの更新が必要)。
- 養育里親名簿に登録がされてあること。
里親の種類②:専門里親
要保護児童の中でも、
- 虐待を受けてきた
- 非行等の恐れがある
- 身体障害や知的障害を抱えている
など、専門的な支援が必要な子どもを養育するのが専門里親の役割です。専門里親の登録は、里親登録の割合のうち、わずか5%ほどです。
専門里親になる条件
- 3年以上の里親経験があること。
- 専門里親研修を修了していること(2年ごとの更新が必要)。
- 子どもの養育に専念できる環境があること(子どもの特性ゆえに求められるレベルが高いため、仕事している場合は認定が難しくなることも)。
里親の種類③:養子縁組里親
「実親がいない」「実親が親権を放棄する意思が明確」といった場合に、将来の養子縁組を前提として子どもを預かるのが養子縁組里親です。
養子縁組里親になる条件
- 養子縁組里親研修を修了していること。
- 養子縁組里親の年齢は、子どもが成人したときに65歳以下であることが望ましいとされます。
養子縁組里親と養子縁組制度の違い
養子縁組里親は児童福祉法に、特別養子縁組制度は民法に規定されており、制度が異なります。養子縁組を希望する夫婦は、民間団体を通じて子どもの斡旋を受ける場合もあり、全てが養子縁組里親とは限りません。
【里親・特別養子縁組・普通養子縁組の違い】
里親 | 特別養子縁組 | 普通養子縁組 | |
戸籍の表記 | ー | 長男(長女) | 養子(養女) |
親権 | 生みの親 | 育ての親 | 育ての親 |
子どもの年齢 | 0歳~18歳 | 原則15歳未満 | 制限なし、養親の方が年上であること |
育てる親の要件 | 養育里親として登録されていること | 原則25歳以上の夫婦 | 20歳以上 |
縁組の成立 | ー | 家庭裁判所の審判による | 育てる親と子どもの親権者との合意による |
関係の解消(離縁) | 児童相談所による | 原則として認められない | 認められる |
その他 | 養子となる子どもを6か月以上監護していること |
先述したように、養子縁組をすると、法的な親子関係を結ぶ点が里親との大きな違いです。里親の場合は、重大な決定をする場合、基本的に生みの親の承諾が必要です。たとえば、子どもにコロナワクチンの接種をするかどうかも、生みの親の同意を得るように努めなければいけません。
特別養子縁組における子どもの年齢上限が、原則15歳未満となったのは2020年の法改正によるものです。それまで原則6歳であったのを大幅に引き上げ、家庭裁判所での手続きも合理化するなど、養親の負担軽減を図りました。
養子縁組制度を利用しやすいものに変えることも、子どもには施設養育ではなく、家庭養育を提供することを重視した国の方針によるものです。
里親の種類④:親族里親
実親が死亡、行方不明、拘禁などで子どもを養育することができなくなった場合、3親等以内の扶養義務のある親族(祖父母や兄弟など)が養育することを親族里親といいます。子どもの精神的負担を考慮し、養育里親よりも優先されることが多いといわれています。
親族里親になる条件
・要保護児童の扶養義務者およびその配偶者である親族であること。
里親の種類⑤:週末里親・季節里親・ふれあい里親
週末里親・季節里親・ふれあい里親は、上記4つの法律上で規定された里親と異なり、行政や児童養護施設が、子どもたちに家庭生活を体験してもらうなどの目的で、一般市民に向けて広く協力を求める養育体験型の事業のひとつです。
たとえば週末だけ子どもを迎える週末里親や、夏休みなどの長期休暇に、施設から帰省先がない子どもを受け入れる季節里親など、短期的な委託が特徴です。
仕組みや呼び方も地域によってさまざまで、一時的に子どもを預かるボランティアとしての側面が強いといえます。
親族里親になる条件
・各自治体によって運用が異なる
里親に関する制度や取り組み
ここからは、里親になるための研修や里親手当とともに、具体的な制度と自治体の取り組みを確認していきましょう。
里親に関する制度:養育里親研修
養育里親を希望する場合、養育里親研修を修了するのが条件の一つです。①基礎研修と②認定前研修に分かれており、座学2日+実習2日ほど設けられています。
【研修内容の例】
研修の主体は都道府県やNPO法人など様々なため、実施機関によって研修内容は少しずつ異なります。基礎研修では、
- 里親制度の意義や役割を知る
- 要保護児童の現状、特性を学ぶ
- 施設を見学する
以上を通して、知識を増やすとともに里親になる決意を固めます。その後、養育に必要な技術を身に着ける実践的な内容がメインの「認定前研修」を受講します。
すべての過程を修了すると、修了証が交付され、里親登録をすることができます。
養子縁組里親研修は、上記の内容に加えて縁組制度や子どもに真実を伝える「真実告知」、児童相談所の支援などを重点的に学びます。
専門里親研修は、3か月以上かけて児童福祉や臨床心理など専門的なことをスクーリングで学びます。さらに、宿泊研修を含む7日間の養育実習が必要です。
里親に関する自治体の取り組み:愛知県の場合
愛知県では、新生児を病院から直接里親宅へ委託する「特別養子縁組を前提とした新生児の里親委託」を30年ほど続けています。育児が不安な女性に安心して出産してもらうとともに、里親側も生まれたばかりの赤ちゃんを預かることで、自然な親子関係につなげられる利点があります。
里親に関する手当
続いては、里親に関する手当を見ていきましょう。
子どもを育てるために里親へ支給される手当等のことを「措置費」と呼びます。
措置費の中でも「里親手当」は、子ども一人あたり毎月9万円、2人目以降も同額が支給されます。(専門里親の場合は子ども一人あたり毎月14万1,000円)これは、里親に対する労働報酬ではなく、子どもの養育に最低基準を維持するために必要な費用として扱われています。里親手当は養子縁組里親と親族里親には支給されません。
この他にも、
- 一般生活費(月額5万1,610円、すべての里親に支給)
- 期末一時扶助費(年1回5,450円)
- 入学支度金(小学校で5万600円、中学校で5万7,400円)
- 学校給食費の実費分
- 通学定期代の実費分
- 医療費免除
など多くの経済的支援があります。
日本の里親の現状
このように、里親に関する様々な取り組みや支援が進められていますが、日本における受け入れの現状はどのようになっているのでしょうか。
ここ10年で1.8倍に増加も積極的活用とは言えない
【里親等委託率の推移】
表から分かるように、ほとんどの要保護児童は児童養護施設での集団生活を送っています。里親への委託数は約10年で1.8倍と、少しずつ伸びてきていますが、活用されてるとは言い難いのが現状です。
【2019年度の里親登録数】
2019年時点の里親認定および登録数は、100~199件が37.5%と最も高く、次いで50〜99件(26.6%)で、平均すると177.9 件です。 要保護児童数に対して、里親の登録数は圧倒的に少なくなっています。
里親の課題や問題点
とはいえ、国が家庭養育優先の姿勢を打ち出していることからも、今後も里親委託は増え続けていくことが予想されます。しかし、現時点では普及率は微増しているものの、なかなか里親の認知や活用が進んでいるとはいえない状況です。主な理由として、以下の4つが挙げられます。
課題や問題点①:多様化する要保護児童
先述したように、保護される児童の多くが虐待によるものです。児童虐待やネグレクトによって、幼い頃から心身にダメージを負った子どもは、人付き合いに困難を生じるケースが多い傾向があります。
さらに近年、知的障害や発達障害などを抱える子どもが増えています。養育に困難を伴う子どもを預かることに躊躇する里親も多いといわれています。
課題や問題点②:児童相談所の負担過多
現在、日本では児童相談所が地域の子どもの問題を全般的に担当しています。年々増加する虐待問題に対応することも大きな重責であり、里親とのコーディネートや委託後のフォローアップのすべての面において、丁寧なケアをするところまで手が回らないのが現状です。そのため、里親登録をしてもなかなか委託につながらない、というケースも多々あります。
課題や問題点③:里親の認知度が低い
児童相談所は、SNSを活用した広報やオンラインイベントなど、さまざまな取り組みでPRしていますが、なかなか認知度は向上していません。海外では、広告を出すことや啓発団体による普及啓発が活発ですが、日本では官民一体となった積極的な広報活動がされていないため、里親に対して「一部の人だけが利用するもの」という根強いイメージが残っているのです。
課題や問題点⑤:里親支援が手薄
里親になるまでは、面談や研修を通して手厚い支援が受けられるものの、委託後の里親支援が手薄であることが指摘されています。
委託後に子どもとの関係に悩んだり、里親同士での情報交換ができなかったりと、不安を強めてしまい委託が続けられなくなってしまうこともあります。
海外の里親事情
【各国の里親委託率】
では、海外の里親事情はどのようになっているのでしょうか。
海外の里親委託率は高い水準であり、里親の存在が身近なものです。ここでは、委託率の高い海外の里親事情を簡単にご紹介します。
【アメリカ】
アメリカでは年間12万組の養子縁組が取り交わされており、要保護児童の7割以上が新たな家庭を得ています。すでに里親や養子縁組という選択肢は当たり前となっており、その子どもが特別視されることはありません。
広く制度が浸透している理由の一つに、「オープンアダプション」の仕組みも大きいといわれています。これは、実親と養親が情報共有する制度で、
- 子どもがどのような里親に引き取られたのか
- どのような生活をしているのか
を実親は知ることができます。その安心感から、施設よりも里親や養子に出すという選択をする人が多いようです。
【フランス】
フランスのパリには、半里親=パランパラミル(Parrains par Mille)という活動があります。日本における週末里親に近い存在で、一般家庭の中でも放置傾向にある子どもを週末に里親の自宅に招き、時間をともにするという支援です。子どもは、他人の家庭で気遣われ、配慮される経験を通して、生きる意欲を高められることが明らかになっています。実親の方も、子どもと離れることでリフレッシュすることができるという利点もあります。
里親とSDGsの関係
最後に、里親とSDGsの関係を確認していきましょう!
里親は目標10「人や国の不平等をなくそう」に関係
里親制度の普及は、SDGs10のゴール「人や国の不平等をなくそう」に関連します。
要保護児童は、人格や性格を形成する大切な時期に、親との愛着関係が形成できず、心を満たすことができていません。
そのような子どもたちのニーズを受け入れるための多様な里親の整備や、里親の普及率を挙げることは、社会的に不利な立場に置かれた人を守り、目には見えない格差の解消につながります。
子どもが安心して育つことができる里親制度という養育環境の提供は、子どもの貧困などの不平等をなくす取り組みでもあるのです。
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まとめ:里親のさらなる普及啓発と理解促進を
日本では高くない里親普及率ですが、支援の手を待つ子どもは年々増え続けています。
里親という選択肢が子どもたちを助ける一つの手段として機能するよう、より一層の制度整備や里親数を確保することが急がれます。
そして、里親関係の親子が特別なものではなく当たり前の存在として、私たちも理解を深めていく必要があります。
参考文献
〈ハイブリッドな親子〉の社会学: 血縁・家族へのこだわりを解きほぐす 野辺 陽子ほか
里親になりませんか 子どもを救う制度と周辺知識 吉田 菜穂子
子どものための里親委託・養子縁組の支援 宮島 清
参考資料:
里親制度(資料集)
社会的養育の推進に向けて
里親の種類と要件
里親研修カリキュラム(例) 厚生労働省
民法等の一部を改正する法律の概要(法務省民事局)
乳幼児の里親委託推進等に関する調査研究報告書
専門里親研修制度の運営について