株式会社DG TAKANO 高野雅彰代表取締役 インタビュー
高野 雅彰
DG TAKANO代表取締役。1978年大阪府東大阪市生まれ。神戸大学経済学部を卒業後、IT企業に就職し3年で独立。高い節水率と洗浄力を兼ね備えた節水ノズル「Bubble90」を開発し、2009年「”超”モノづくり部品大賞」でグランプリ受賞。2010年に社会課題や環境問題等を解決するデザイン会社 「DG TAKANO」を設立。2022年「サウジ・日本ビジョン2030ビジネスフォーラム」に日本代表企業として招待され、世界の水不足の解決に取り組んでいる。2023年に、洗剤を使用せず、水ですすぐだけで汚れや細菌を落とす食器meliordesign(メリオールデザイン)を開発し、日経クロストレンド「マーケター・オブ・ザ・イヤー2023」優秀賞、2023年度省エネ大賞〈製品・ビジネス部門〉「審査委員特別賞」を受賞。経済産業省J-Startup企業、日経ビジネス『世界を動かす日本人50』、ForbesJAPAN「ChatGPT後の日本の勝ち方10」等に選出されている。https://dgtakano.co.jp/
introduction
超節水ノズルに特殊加工の皿を合わせれば、節水率は最大99%に!
とはいえ、DG TAKANOは節水専門のベンチャー企業ではありません。世界の社会課題の解決策の一つとして、まずは節水製品に取り組んだのです。課題の解決につながる閃きを製品化していくのが「デザイン会社」。同社のモノづくりは、日本の「先に技術あり」を覆し、「こういうものを作りたい」から始まります。
今回は、世界が注目するDG TAKANOの高野代表取締役に、「人と地球が共存共栄する世界」への想いとビジネスを語っていただきました。
地球環境を守り、人も幸せにするプロダクトを目指す
-まずは、御社の事業内容の概略をご紹介ください。
高野さん:
DG TAKANOは、社会課題の解決とサスティナブルな社会を実現するデザイン会社です。「技術と革新で人と地球の共奏を実現する」をビジョンに掲げ、日々の生活や地球環境をより良くするために、デザイン思考で製品やサービス開発に取り組んでいます。
これまで人類は、自分たちが便利で豊かになるために、地球環境を破壊し続けました。このままでは地球がもたない、と言われています。SDGsの「持続可能な社会を作る」というコンセプトに同意しますが、一度便利な状態を味わった人間が原始時代のような生活には戻れませんよね。そのためメーカー側が、人間がより便利に豊かになりつつも、かつ地球環境負荷を減らせるプロダクトをどんどん生み出さねばならないと考えています。
その中で弊社は2009年に、「水不足」の課題を解決する目的で、まずは超節水ノズルBubble90という製品を作りました。これを蛇口の先端に取り付けていただくと、水の使用量を90%ほど節水できます。通常は、水量が減るとそのぶん勢いが弱まり洗浄に時間がかかることがありますが、Bubble90は洗浄力も強いため、汚れの落ちも早く、真の節水になります。
Bubble90はBtoBの製品で、飲食業界やスーパーといった業務用なので、一般のご家庭では使用いただけませんでした。(2024年1月より、一般家庭用のBubble90内蔵型蛇口も予約販売を開始)
しかし、一般の方々にも節水とコストや家事の削減ができる製品を使っていただきたい、と考えていたんです。そこで「洗われる側の食器」に着目し、ナノテクノロジーを用いて、水でサッとすすぐだけで洗剤も使わずに汚れや細菌まで落とせる「メリオールデザイン」ブランドの皿を開発しました。現在、BtoC商品として自社サイトで販売しています。
「メリオール」は、ラテン語「メリオリズム」由来の言葉です。「メリオリズム」とは「世界は自分たちの力で変えていける」という哲学のような考え方です。弊社のコンセプトにとても合っていますし、ユーザーの方々にも、製品を使用することで世界を良くできる、と思いながら使っていただきたいなと。そんな願いを「メリオールデザイン」という名に込めました。
弊社製品については、のちほど詳しくお話しますね。
課題の解決策を考えるのが「デザイン思考」
‐DG TAKANOの「DG」は何を意味しているのでしょう?
高野さん:
2008年に創業した会社名「デザイナーズギルド」から来ています。自分の人生、未来、社会をデザインする目標を持った人たちが、「デザイン思考」で解決策を導き出し、ピラミッド組織ではなくギルドのような協力体となる組織を目指しました。ただ、当時は賛同してくれる人々がいなかったんです。ならば、まず自分が成功して説得力を得ようと考え、一年でBubble90を完成させ、2010年にDG TAKANOを設立しました。
-「デザイン思考」について詳しく教えてください。
高野さん:
「デザイン」といえば、今なお、多くの人が「きれいなデザインだね」などと、見た目のフォルムやWEBデザインをイメージします。でも、本当は日本語でもデザインは「設計」です。課題の解決策を考えるのがデザイン。それを日本人は理解していません。
たとえば椅子がなかった時代、地べたに座るか立つかの二択しかない時に、過去のどこかで誰かが「こういう形で木を切れば、そこに長時間楽に座れるぞ」と、木を切る技術を用いて「椅子」を発明したはずなんです。自分たちの身の回りにあるすべては、テーブルもお皿も、すべて過去の「デザイナー」の発明品です。課題の解決策を考える。それをデザイン思考と呼びます。
‐その「デザイン思考」によって、Bubble90を思いつかれたのですね。きっかけは何だったのでしょう?
高野さん:
一人で起業した時、世の中にないもの、世界中で売れるものを作ろうと思いました。みんなが困っていることを解決出来たら、自然に利益につながります。事業は社会貢献と事業拡大の両立が大事と考え、そんなビジネスモデルをデザインしました。
世界は何に困っているのか?と見ていったとき、水不足に行き当たりました。日本はもともと水不足の認識が薄いんですが、世界全体では深刻な問題です。世界的な水資源不足は、2030年までに必要量の40%に達するという統計もあり、やがて日本も他人事ではなくなるでしょう。例えば、ヨルダンでは一週間に一度しか水が蛇口から出ませんし、インドの首都ニューデリーでさえ、朝夕の二回のみです。カリフォルニアも毎年水不足で、洗車の曜日が決められたり、芝生への水まきが禁止されたりしています。
その一方で、節水事業に関わる大手企業がなく、中小企業の既存の節水製品はレベルが高くないことにも気づきました。それであれば節水の分野で世界一になれると考え、開発に着手したんです。
経済産業省のバックアップでサウジアラビアへ
‐ここからはBubble90についてより詳しく伺います。開発プロセス、性能、その後の展開などをご紹介ください。
高野さん:
僕の実家は東大阪の町工場で、父親は、精密に金属を削れる機械を使って世界トップレベルのガスの部品を作っています。同じ機械でヨーロッパでは人工関節を作っていますし、ミサイルの部品も作れます。僕はその機械で社会課題を解決するBubble90を作ったわけです。
構造の原理は、通常の水流を、ノズルによって<小さな「水の玉」が勢いよく断続的に打ち出されるマシンガンのような水流(脈動流)>に変えるというものです。この脈動流を無電力で起こせるため、節水に他のエネルギーを使う必要がありません。従来の必要以上に流れた水をなくし、洗浄力を高めることで、節水率90%という驚異的なレベルに到達できました。一年で製品化に成功し、2009年に「”超”モノづくり部品大賞」で、名だたる企業をおさえてグランプリを受賞。「社員が社長一人の設立一年目の会社」が初めての製品でいきなり日本一になった、と注目されました。
ところが、当時の日本は節水より節電の時代で、当初は全く買ってもらえずに苦しみました。SDGsが普及し始めても、環境のために買います、という会社はほぼゼロでした。環境に対して若者たちの感心は高まっていますが、企業は口先だけのSDGsが多いのだなとさえ感じました。
そんななかBubble90をどんどん普及させて地球環境負荷を減らしたいし、日本で実績を作らなければ海外に持っていけないと思っていました。だから、まずは「コスト削減」をうたい、「これだけコストが下がって利益が出ます」と営業しました。
なかでも水をたくさん使い、トップとも会いやすい業界は?と考え、レストランが浮かびました。営業先をレストランに絞り、「まずは一店舗、無償でテストさせてください。二か月後の水道代を見て、良ければ買ってください」と多店舗展開のオーナー様などを訪ね歩きました。結果、二か月後に水道代は激減し、これはすごい、と全店舗導入になったり口コミが広がったりで、2014年には一気に売り上げ増となりました。現在では、全国の大手レストランチェーンの80%、スーパーの50%がBubble90を導入しています。それらの一年間の節水総量は、大阪市民1か月分の水道使用量に匹敵します。
-もともとの目標である「世界の市場」ではどのような状況ですか?
高野さん:
今は国のバックアップのもと、サウジアラビアで具体的な話が進んでいます。経済産業省の支援を受け、2022年12月に、大臣と共に初めてサウジアラビアを訪問し、同国の大臣に直接説明ができました。以来、この一年に5回ほど訪れ、様々な場所でテストさせてもらっています。ちなみに最初に選んだ場所はモスクです。イスラム教徒は1日に5回の礼拝で、手、顔、頭、足を水で洗い浄めてから祈ります。しかも、世界中からイスラム教徒が集まる国なので、祈りに使う水量は莫大です。モスクの水の削減テストで、Bubble90は節水に成功しました。評判は大変よく、商談が進んでいます。
「デザイン思考」では、節水ノズルの相方は節水の皿
‐次に、メリオールデザインの食器について教えてください。節水ノズルから皿という振り幅の大きさに驚きました。
高野さん:
これも、「デザイン思考」ならではの発想です。普通であればノズルの次は節水シャワー、節水トイレと続きますが、それは技術視点です。でも、アップルやテスラなどのデザイン会社は、やりたいことに向けて必要な技術を集めます。スタート地点が違います。誰もがパソコンを使えれば、と思った時、日本のメーカーは世界最小・最軽量のノートパソコンを作りましたが、アップルはiPhoneを作りました。どちらが勝ったかは明らかで、これがデザイン力の違いです。あるものを大きくしたり小さくしたりするのは技術力。日本は特に小さくするのが得意で、技術力は優れていますが、上流デザイナーが圧倒的に不足しています。
洗う側の節水ノズルの次に節水を考えたとき、「洗われる側の皿」に着眼するのが「デザイン思考」です。ナノテクノロジーで皿に加工を施すのですが、皿の表面にナノレベルの「芝生」をはやすイメージがわかりやすいと思います。お皿と汚れの間に水が入り込み、汚れを浮かびあがらせることができ、洗剤も使わずに汚れも細菌もスルッと落ちる、そんなイメージです。機能性を追求した独自の形状により自然乾燥時間も、通常陶器皿の3分の1に短縮されました。オーブンなどの直の高温は不可ですが、レンジには対応しています。また、たとえ「芝生」が傷んでも何度でも新品の状態に戻せる技術を確立させております。
また、弊社の食器は節水に貢献するのみならず、洗剤を使いませんから汚染も削減しますし手も荒れません。加えて、ユーザー様の時間の節約にもなります。ある統計では、食器洗いにストレスを感じる人は79%に上りますし、毎日20分洗ったとすると、年間で10日間に匹敵します。その時間を好きなことに使っていただきたいですね。
メリオールデザインは2023年に初めて発売しましたが、あっという間に初回在庫分が完売しました。ただ、ちょっと高めの価格になってしまいましたがユーザー様の評判は上々なのです。しかし一部利用者様には少々重い、という意見もありました。2024年新モデルの予約注文が1月1日からスタートしましたが、価格も下げ、軽量化にも成功しています。今後、形状を増やし、色物も増やしていく予定です。
また日本は陶器の国ですが、全国31か所のご当地焼きが危機の状態にあるそうです。今後、窯元さんとどんどんコラボできれば、地方創生と伝統工芸の復活も同時にかなうと考えています。
-「デザイナーズギルド」の名からスタートした御社は、現在どのような人材を採用していますか?
高野さん:
募集しても一人も来てくれなかったものが、2015年には「働きたいベンチャー企業の人気ランキング1位」となり、採用倍率も300倍を越えて年々更新しています。弊社が求める人材は、何かを成し遂げたいという情熱がみなぎった、世界に新しい価値を生み出せる創造の力が溢れる人たちです。実は、そのような人材を採用してきた結果、現在社員の2~3割が外国人となっています。
今、エンジニア分野で世界で最も優秀な学生を有しているのはインド工科大学だと言われています。12月に2週間だけ、大学側が学生との面接を許可し、参加企業に初日のDAY1からDAY14までを振り分けます。DAY1に選出されるのは、GAFAなどの大手や学生に人気のある企業です。2019年の初めてのトライはDAY7で、それでもすごい好条件ではあるのですが、欲しかった人材はすでに残っていませんでした。次の年は前年の僕のスピーチを学生たちが覚えていてくれて、会社の実績の評価も上がり、なんとDAY1で面接ができました。それ以来、毎年DAY1に選ばれ、GAFAやマイクロソフトなどと学生の争奪戦をやっています。結果、東大阪に、世界トップレベルの外国人たちが集っているんです。
–「既成概念を越える発想」ができる「ギルド」が生まれつつあるのですね。
はい。例えば、ロケットを一回で使い捨てるのはもったいないから、着陸できて使い回しできるロケット作ったらええやんか、それならコストを押さえて民間事業でも成り立つよね、と考えるのが上流のデザイン。新しいことをする時は、まわりから「馬鹿だな」と言われ、成功した時だけ「天才だ!」になるんですけどね。僕もずっと馬鹿にされてきましたよ。
日本には、世界トップレベルのいろいろな技術がある。それなのに、上流のデザイナーがいないのはめちゃくちゃもったいないです。デザイナーを育て、数多く輩出することは日本の課題だと思っています。
-今後の展望をお聞かせください。
高野さん:
やはり、世界での事業拡大ですね。世界中で水が不足していますから。まずはサウジアラビアでの事業を成功させ、そこから中東、アフリカ、オーストラリア、アメリカ、中国などへ横展開していきたいと思っています。
-小さなことも大きなことも「デザイン思考」で取り組めば、人類の可能性は無限大ですね!今日はありがとうございました。
株式会社DG TAKANO公式サイト:https://dgtakano.co.jp/
meliordesign公式サイト:https://meliordesign.com
MELIORDESIGN公式ショップサイト:https://meliordesign.com/collections/all