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農業法人株式会社D&Tファーム|特殊技術を使った苗づくりで、日本と世界の農業を元気に!

農業法人株式会社D&T 田中さんインタビュー

田中哲也(たなか てつや)
2015年創業、岡山県岡山市のアグリバイオテックベンチャーD&Tファーム。コア技術である凍結解凍覚醒法により、北緯30度が北限だったバナナ栽培の日本国内での無農薬栽培を実現。遺伝子組み換えや放射線・化学薬剤を用いず安心安全なのが特徴。自社生産の皮まで食べられる「もんげーバナナ」は新規性を持って受け入れられている。D&Tファームが成功している果実の生産販売をモデルケースとし、苗販売先への栽培指導やノウハウ提供も行う事で、主ビジネスである苗販売の需要も拡大。さらに、現在はコーヒー苗やカカオ苗の供給も開始。CNNやNational Geographiccなど世界的メディアでも注目をされているほか、外務省の広報サイトWebJapanにて、日本の革新技術として世界へ紹介されている。

introduction

岡山県岡山市の農業法人株式会社D&Tファームでは、「凍結解凍覚醒法」という技術を用いた苗の販売と、バナナやカカオ作物の栽培・収穫を行っています。今回、南国のイメージが強い作物を国内で生産する事業を通し、食糧問題や農業の雇用創出に奮闘する代表取締役・田中さんにお話を伺いました。

独自の技術で、南国生まれの苗を栽培!

– はじめに、事業内容を教えてください。

田中さん:農業法人株式会社D&Tファームでは、「凍結解凍覚醒法」という独自の技術を用いて、耐寒性品種の栽培を行っています。具体的には、本来日本では育たないようなバナナやコーヒー・パパイヤといった、温かい気候の下で採れる作物を、国内で栽培・収穫するものです。

当社では、この「凍結解凍覚醒法」を用いて苗を栽培して全国各地の農園へ販売したり、自社でバナナを中心とした作物を生産・販売したりして、地域性のある農業を提案しています。

「凍結解凍覚醒法」についてもう少し詳しく話すと、植物の種をマイナス60度の環境で冷却します。バナナのように種がない植物の場合は、根と茎の間にある成長細胞を取り出せばOKです。わかりやすく例えるなら、この工程により、植物に一度氷河期の状態を体験してもらうのです。そこで生き残った植物は、過度なストレスから解放されると非常に早く育ち、ほとんど気候を選ばなくなります。このように「凍結解凍覚醒法」によって、通常のやり方では実現できない南国植物の栽培を国内で可能にしているのです。

この技術を確立したのは、わたしの叔父にあたる田中節三です。国産でおいしいパパイヤやバナナが食べたい!という想いから、趣味で栽培法の実験を始めました。その後、時間とお金・労力をかけて出来上がったのが、「凍結解凍覚醒法」です。私たちはこの技術を引き継ぎ、2017年からバナナを中心とした苗・収穫物の出荷を開始しています。

「凍結解凍覚醒法」は、地産地消や食糧問題を実現するカギ

– 現在はどのような作物の苗を育てていますか?

田中さん:南国で育つ作物の中でも、日本人が現代の暮らしにおいて、特に輸入・消費しているものにフォーカスしており、バナナを中心に、コーヒーやカカオといった作物を育てています。特にバナナは旬がないため、年間を通して栽培しています。

というのも、令和元年における日本のバナナ輸入量は110万トン※を超えています。

(参考:財務省貿易統計)

日本で南国の作物を栽培することは、このような輸入に頼らない状況を実現でき、食糧自給率の改善につながるのではないかと考えています。また、苗の成長スピードが早まることで、同じ耕作面積でも1.5倍、2倍と生産量を増やせる可能性を持つ「凍結解凍覚醒法」を使えば、農業従事者の人口が減少する課題にも向き合えます。その結果、SDGs目標2「飢餓をゼロに」にも掲げられている食糧問題の解決に、ゆくゆくは貢献できるのではないかと思っています。

加えて食糧の輸入には、輸送時に二酸化炭素の排出やエネルギーコストがかかることも懸念点といえるでしょう。我々の取り組みにより、輸入の際の二酸化炭素排出量の減少はもちろんのこと、栽培期間中に農薬・肥料を使用しないため、日本国内の水や土壌の保全にも貢献できると考えています。

最近日本では、沿岸での漁獲量の減少が問題になっていますが、その原因のひとつが農業で使用される除草剤だと言われています。栽培地の土壌から、雨水などにより海まで運ばれていき、生態系を支える海藻が枯れてしまうのです。すると海に住むプランクトンや小魚、ひいてはその連鎖で魚介類も減ってしまう。その事実を知っている以上、種にストレスをかけて薬を使わずに済む「凍結解凍覚醒法」の栽培を全国各地へ広げたいのです。

世界が抱える課題にも立ち向かう

さらに、今まで日本が輸入してきた作物の国内生産化だけでなく、「凍結解凍覚醒法」の技術を世界へ広げることも可能だと思っています。特に近年の情勢の変化によって肥料価格が高騰し、穀物を中心とした作物の栽培量が減少しています。他にも、アメリカのカリフォルニア州は世界的な穀物の産地として有名ですが、近年は気候変動の影響で深刻な水不足に陥り、栽培が困難な状況です。こうした状況が重なり、作物の栽培自体を止めてしまう大規模農家さんも出ているほどです。

食糧不足が叫ばれる中、当社の技術を活用することで、同じ面積とエネルギーコストでより多い収量が見込める農業のあり方を提案したいですね。

日本の農業を元気にして、農家の雇用創出を目指す

– D&Tでは、農家所得の向上・雇用創出へのアプローチも掲げられています

田中さん:日本の農業人口は、近年減少傾向にあります。その上、就農者の平均年齢は令和3年時点で67.9歳と、本来ならば仕事を引退しているはずの人たちが農業を支えているのが現状です。一方で、実は就農を希望する人は多い。しかし、収入面に不安があるため人を雇えない点が課題としてあります。

そこで当社では国内生産を実践し、作物に付加価値をつけることで、農業が仕事として成り立つような仕組みを提案しています。バナナやコーヒーといった作物をブランド化し、儲かる農業を確立することで、所得の向上と新たな雇用創出を促せるのでは、ということです。

ブランド化できる理由として、「凍結解凍覚醒法」を用いた作物の栽培は、農薬や肥料の使用量が海外より少なくて済むことが挙げられます。海外の温暖な気候では、その地に住む害虫駆除のために強い農薬・害虫駆除の薬を使いますが、日本には天敵がほとんどいないため、農薬散布の必要がありません。無農薬に近い環境で栽培・収穫が可能なので、安全性の高い作物としても付加価値を高められます。「国産かつオーガニックな作物」であれば、十分にブランドとして成り立つのではないでしょうか。

全国各地に広がる、国産バナナの輪

– 実践例があれば、ぜひ教えてください。

当社では、岡山県産バナナとして「もんげーバナナ」を栽培・収穫しています。通常、輸入のバナナは強い農薬がかかっている上、輸送に時間がかかる関係で、十分に熟さないまま収穫されています。日本で食べられているバナナはほとんどが熟しておらず、ほんとうに美味しい果物とはいえません。対して、国内でバナナを栽培・収穫できるということは、極限まで木の上で熟させ、おいしいバナナを食べられるのです。

また、もんげーバナナ以外にも、ご当地バナナを全国各地でつくっていただきたいという想いから、これまでさまざまな農家さんの元へ苗を届けてきました。たとえば岐阜県の「ハレノヒハレバナナ」や新潟県「越後ばなーな」などです。

新潟県の「越後ばなーな」は柏崎で栽培していて、岡山県よりもはるかに寒い環境ですが、当社が推奨しているビニールハウス栽培を採用すれば、気候条件の違いはさほど問題ありません。冬の間は、ビニールハウス内の温度を一定に保つためのエネルギーとして、焼却施設の排熱を利用しています。このように我々が提案する手法は、周りの企業や自治体と連携しながら上手にエネルギーを活用できるなど、まだまだ伸び白のある分野だと思っています。そのため、既存の農家さんだけでなく、新規就農をしたい方にとっても耐寒性の作物はひとつの選択肢になるはずです。

とはいえ、私たちは苗を販売する際、最低3カ月の研修制度を設けています。最初のハードルを高くして、それでも意欲のある方にだけ購入してもらう仕組みです。その際、農薬・肥料のポリシーも共有しているため、上手に栽培できている農家さんの作るバナナは、消費者からの反応も良いと聞いています。

– 素晴らしい取り組みですね。そのようにして育てられた国産バナナの味も気になるところです。

もちろん私たちは、味がおいしいと思って販売しています(笑)。もんげーバナナは販売開始から5年が経ちますが、半分がリピーター、半分が新規購入者です。

バナナを樹の上で極限まで熟させるため皮が薄く、丸ごと食べられるのが特徴です。シャキシャキ感と若干の苦みを感じられる点は、レタスに似ているでしょうか。個体によってはまったく苦味がなく、バナナの皮によく見られるような筋っぽさも感じません。通常のバナナに比べてアミノ酸やビタミン類が豊富であるという検査結果も出ています。皮ごと食べると食物繊維・ポリフェノールにトリプトファンといった成分を摂取できるのも魅力的ですよね。

販売先は地域によって異なりますが、もんげーバナナは岡山県内の直売所でのみ販売中です。1本600円と、決して安くはない値段かもしれませんが、例えば苺なら1粒1,000円といった商品もあるので、バナナも同様に国産ブランドとして幅が広がっていけばいいなと願っています。

農業を通して、消費者に「食べること」を考えるきっかけづくりを

– 最後に、読者に向けたメッセージをお願いします。

日本は世界中から食材を輸入していて、いつでも好きなものを選べる恵まれた環境です。その中で、生産や輸入が与える環境負荷のことを考える人は少ないと思います。今、当たり前に食べている食材が、どこで・どのように作られているのか?について、少しでも考える機会を作っていただきたいですね。

日本では、農業=儲からない仕事という現状がありますが、それは消費者意識の高さゆえ、形・状態のきれいな作物しか売れないから、という理由もあるのです。状態の悪いものは廃棄されてしまいますが、その分フードロスも出ますし、農家さんの労力やお金も無駄になってしまいます。スーパーに行けば美しい野菜や果物が並んでいますが、それは世界的に見ても珍しいことなのです。消費者の意識が変われば、フードロスも農家の雇用もよい方向へ進み、農業が元気になります。

私たちの活動を通して、食べることの大切さに目を向けてくれたらうれしいです。

– 本日は貴重なお話をありがとうございました!

取材:大越
執筆:のり

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