近年、LGBTQのような性的マイノリティの人たちに関する差別や人権について、社会で大きな話題となっている中、より多様な意味合いかつ誰にでも関係のある概念として、SOGIという言葉が使われ始めています。
この記事では、SOGIとは何か?に始まり、なぜわたしたちに関係があるのかや、SOGIについて企業を中心に出来る取り組み例などを紹介します。
SOGIとは
SOGI(ソジ、ソギ)とは、英語でSexual Orientation and Gender Identityを略した言葉です。
日本語にすると「性的志向と性自認」となり、
- <性的志向>
誰を好きになるか/ならないか
誰と性的関係を持ちたいか/持ちたくないか - <性自認>
本人が自覚している性
といった定義が含まれます。
近年、国際社会ではSOGIに加え、Expression and Sex Characteristics (性的表現と性的性格)を含めたSOGIESCという呼称もあり、性にまつわる多様なあり方を肯定する言葉として広まっています。
次では、SOGIについて語られる際、よく間違われる・混同しやすい言葉を比較しながら、SOGIの定義をさらに明確にしておきましょう。
LGBTQとの違い
LGBTQとは、社会においてマジョリティ(多数派)ではない性自認・性的志向を持つ人たちの総称です。
そのほかにもさまざまな性自認・性志向をあらわす言葉もあるため、近年はより多様な表現としてLGBTQ+や、性的な興味・関係を持たないアセクシャル/アロマンティック、性志向などとは別に外的な身体の特徴を持つインターセックスを含めたLGBTQIAといった呼び方も生まれました。
一方、SOGIはどんな性的志向・性自認も含まれる言葉です。ただし文脈としては、LGBTQの人たちにまつわる話題の中で用いられることが多くあるのも事実です。
アライとの違い
アライ(Ally)とは、LGBTQなど性的マイノリティの人たちを支持・支援する人たちを指します。
正しくはストレートアライ(Straight Ally)といい、英語で「同盟、連合」などの意味を持つAllianceに由来しています。
繰り返しになりますが、SOGIはあくまでも自身の性的志向・性自認を表す言葉であり、立場や支援の有無にかかわらず、誰もが持っている概念といえます。
SOGIが注目されるようになった背景
ここで、SOGIがなぜ注目されるようになったのか、社会の背景を簡単にチェックしてみましょう。
2000年代になってから特に注目されるように
SOGIという概念について、世界で注目を浴びるようになったのは2000年代に入ってからです。
2008年、国連にて66の国と地域が、SOGIへの暴力や差別による人権侵害を憂慮する旨を宣言しました。
これを受けて、2011年6月には、南アフリカが国連人権高等弁務官事務所に対し「性的指向と性自認(SOGI)に基づく、個人への差別的な法律や慣行、暴力行為」を文書化するように要請し、12月には国連が初めて同テーマでの報告書を発表しました。
こうした流れを後押ししたのは、やはり性的マイノリティの人々の力が大きく関わっています。
1984年には、アメリカ・ニューヨークにある国連の建物前で、1,000人を超える当事者たちがパレードを行い、特に移民のLGBTに対する差別や暴行の終わりや、ホモセクシャル(同性愛)=病気という認識を改めるよう要求しました。
19990年には「ホモセクシャルは精神疾患ではない」と明言
その後も国連の各集会で、当事者団体の代表団たちが積極的にデータや情報を提供し続け、1990年5月、WHO(世界保健機関)によって、「ホモセクシャルは精神疾患ではない」と明確に宣言されました。トランスジェンダーに関しても、2019年には正式に精神疾患のリストから除外されています。
性的マイノリティの人々や、彼らを支援するアライたちの活動は世界中で多くの人々に可視化されるようになり、近年ではホモセクシャルトランスジェンダーだけに留まらない、あらゆる性のあり方が存在することが広まっています。
こうした流れから、誰もが性的志向・性自認を持っており、その種類は多様であることを示す「SOGI」という言葉が用いられ、注目されるようになったのです。
SOGIハラとは
ここからは、SOGIハラについて掘り下げて見ていきましょう。
SOGIハラとは、個人のSOGIに対し、身体的・精神的・社会的な差別や暴力を受けること、またそれらの悲惨なハラスメント・出来事そのものを指す言葉です。
性的な嫌がらせや暴行を受けるセクシャルハラスメントを含めた概念ともいえ、性的志向・性自認に関してさまざまな嫌がらせや差別が今も起こっています。
SOGIハラの具体例について、次で詳しく見ていきましょう。
SOGIハラの具体例
SOGIハラには、以下のような例が当てはまります。
- 差別的な呼び方や言動、嘲笑:本人がいるかもしれない環境で「同性愛は気持ち悪い」と悪口を言うなどの差別的な発言を行うこと
- いじめや無視・暴力:性的マイノリティであることを理由に、本人に対して差別を行うこと
- 本人が望まない性別を強要する:当事者に対し、学校や職場での規則に従わせること(本人が望まない服装・髪型を強制される、身体的な性のみに即したルールを強制する、など)
- 所属組織側による不当な対応:解雇・移動・入学拒否・転校など、SOGIを理由に本人が望まない対応を強制される
- 誰かのSOGIについて許可なく公表すること(アウティング):信頼できると思いSOGIについてカミングアウトした相手が、本人の許可なく周りに話してしまう
もしあなたがSOGIについて社会的なマジョリティだとしても、プライベートな事情について周りから差別発言をされることや、不当な対応を取られることを想像してみて下さい。
どの事例をとっても、決して許されるものではありません。
たとえ理由が「相手のためだと思って」「好意から」だとしても、まずは本人の立場になって一度考え直してみて下さい。ちょっとした言動が、相手を傷つけることになるかもしれないのです。
しかし、LGBTQをはじめとした性的マイノリティの人たちの中には、こうしたSOGIハラを受けているケースが少なくありません。
とりわけ、学校や職場といった集団生活の中では、マジョリティを想定したルール・規則しかない場合もあり、SOGIハラによって苦しめられる人がいます。
そこで次では、企業にフォーカスして「SOGIハラについてどのような対策をとればよいか」について、一緒に見ていきましょう。
企業はSOGIハラに対してどのような対策をとれば良いのか
SOGIハラに関連する対策の指針として、日本経済団体連合会は、平成29年に「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」を発表しました。
また、日本労働組合総連合会(連合)も同年、「性的指向及び性自認(SOGI)に関する差別禁止に向けた取り組みガイドライン」を発表しており、それぞれSOGIハラへの対策として実践できる提案を挙げています。
この2つのガイドラインを受け、厚労省が「企業がどのような姿勢・対策を取ればよいのか」について整理しており、以下でその一部をご紹介します。
対策例①差別を禁止する社内規定
まずは会社のルールとして、性的志向・性自認に関する差別の禁止を明記することが大切です。
その際、賃金などの不釣り合いな利益に関することだけではなく、差別的な言動や嫌がらせなどのハラスメントも禁止することを明記するのがよいでしょう。
あわせて、SOGIに悩む当事者が快適に働けるよう、服装や髪形の規定を変更する、書類の性別欄をなくすなどの見直しも求められます。
また、カミングアウトを行っていない当事者や、憶測による差別をしないように規定を設け、基本的に「誰に対しても差別・ハラスメントをしない」という前提が社内に周知されるようにするのがポイントです。
福利厚生や管理内容の見直しも
既存の社内規定やルールには、家族やパートナーに関する事項が含まれていることでしょう。
そうした場合には、異性パートナーだけを想定したものから、同性パートナーにまで範囲を広げて適用されるルールに変更し、誰にでも適用しやすい環境を整えましょう。
対策例②社員の理解増進に向けた教育・啓発
企業の中には、そもそもSOGIについて理解が深まっていない人もおり、無知ゆえに良心のつもりでSOGIハラを行ってしまう場合もあります。
そのようなトラブルを起こさないために、また社内の規定を守ってもらうという意味でも、社員に向けた教育や啓発セミナー・キャンペーンを打ち出すことは有効です。
具体的には、当事者団体を招いて講演をしてもらう、SOGIハラの実例や適切な対応方法の伝授など、さまざまな方法が考えられます。
企業に所属する社員を対象に、SOGIについての理解を深めてもらい、誰もが働きやすい環境づくりを整えることは、企業の努めともいえます。
こうしたSOGIハラの対策が多くの企業に広まることで、より公正で開かれた社会に貢献できるでしょう。
また、このような動きは、すでに国内をはじめ世界でも広まっており、SOGIに関する動きが活発に行われています。
次に、世界と日本の主要機関が、SOGIに関してどのような動きを見せているのかを見ていきましょう。
世界のSOGIに関する動き
ここでは国連を中心に、世界の動きを確認します。
2016年以降、動きが活発になる
国連の動きを見ると、2016年に、性的指向と性自認に基づく暴力と差別に対処するための特別な権限を持つ人権の専門家機関を創設しています。
このSOGIに関する専門家機関は、2019年に職責の更新が決議され、174の国と地域、1,312の市民社会団体によって支持されました。
2020年に開かれた第45期人権理事会では、世界36カ国が集まり、「緊急の課題として、インターセックスの成人と子どもの自律性、健康に対する権利、身体的・精神的完全性を保護し、彼らが暴力や有害な慣行から解放されて生活できるようにする」ことをすべての国に求めました。
性的志向・性自認にとどまらず、染色体やホルモンの欠陥などによって外的・内的な身体特徴をもつ、インターセックスの人たちを含む人権の認識を高めるという意味で、画期的な動きだといえます。
EUの動き
またヨーロッパでは2014年、SOGIESCに関するEUの組織が発足しました。
欧州各国でSOGIハラに苦しむ人々を助けるべく、同性婚やヘイトクライムを取り締まるといった、SOGIに関するさまざまな法律や仕組みの改善や、技術・専門知識の提供を通じた啓発などを行っています。
日本のSOGIに関する動き
では、日本におけるSOGIの動きはどうでしょうか。
厚労省が中心となって周知を行う
厚労省は、これまでも人の外見や思想で選別せず、本人の適正と能力で判定することを記した「公正な採用選考」を事業者に向けて啓発・周知を行ってきました。
事業者に向けたウェブページ「企業における人権問題への取組み」では、労働分野における主な人権問題の中で「募集・採用又は採用後の労務管理における、人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病、性的指向・性自認(LGBT等の性的マイノリティ)などによる差別的扱い」と記載され、SOGIに関わる差別を行わないように周知しています。
その中で2020年には、職場におけるハラスメント防止対策が強化され、関連パンフレットの中で「パワーハラスメントに該当すると考えられる例」として、「人格を否定するような言動を行う(相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含む)」を挙げています。
このように、日本でもSOGIハラに関して政府が対策を講じるようになり、SOGIによって差別されない社会への第一歩が踏み出されたといえます。
SOGIとSDGs
最後に、SOGIとSDGsの関連について確認しておきましょう。
国連で2015年に採択されたSDGs(持続可能な開発目標)は、同じく国連で長年議論されてきたSOGIと深いかかわりを持っています。
中でも関連性が深いのは、目標10「人や国の不平等をなくそう」です。
目標10「人や国の不平等をなくそう」との関わり
目標10は、貧富の差、性別や人種、伝統的慣習による偏見や差別をなくし、平等な社会の実現を目指しています。
世界では、年齢や国籍だけでなく、SOGIによってもさまざまな差別が起きており、特に性的マイノリティ―の人たち、何らかの原因によって人と違う外見を持つ人たちは、教育・福祉・就職など日常のあらゆる機会を奪われているのです。
こうしたSOGIによる差別をなくすには、わたしたちひとりひとりがSOGIについての理解を深め、日常に活かすこと、政府や自治体・企業などの大きな組織に向かい、仕組みやルールを変えるよう声をあげることです。
SOGIも、その人のアイデンティティのひとつです。あらゆる面での不平等をなくし、公正で日開けた社会を実現するためにも、SOGIについて知っておきたいですね。
まとめ
今回はSOGI(ソジ・ソギ、Sexual Orientation and Gender Identity)について、注目されるようになった背景や、企業にフォーカスした対策例などをご紹介しました。
SOGIについてモヤモヤを抱える人は、周囲と違うことをカミングアウト出来ずにいる人やそうでない人も含め、目に見えていなくても意外と身近にいるものです。
また性的志向・性自認は誰もがもつアイデンティティのひとつであり、決して差別されるものではありません。この記事を通してSOGIへの理解を深め、日常・社会生活の中に活かしていってください。
<参考リスト>
Ⅱ.職場と性的指向・性自認をめぐる現状 – 厚生労働省
Sexual orientation and gender identity – Homepage – Sexual Orientation and Gender Identity
アライ[ALLY] | 一般社団法人 日本LGBT協会
LGBTI | Ten years since the first SOGI resolution, LGBTI history continues to be made at the United Nations | ISHR
なくそう!SOGIハラ
事業主の皆様へ 企業における人権問題への取組み | 厚生労働省
職場における・パワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です︕|厚生労働省 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)